愛ちゃん!?
家の最寄り駅から一本。
電車賃片道780円で、マイホーパーク前駅に到着する。
なかなかに高い。
でも、私の家は貧乏だけど、友人付き合いには絶対にケチをするなと母から強く言い聞かせられている。
あまり何も言わない母が、数少ない私に言うことが3つ。
一つ、人に迷惑をかけるな。
一つ、友人付き合いでケチをするな。
一つ、感情的になるな。理性的に。
まあ、正直母が言うなと言いたいけれど。
でも、失敗してきたからこそ改めて思い感じたことなのだろう。
だから私もそれを守ろうと努力している。努力は。
改札を出て正面に、『マイホーパークへようこそ』という看板と花飾りが大きくあって、その前はマイホーパークに行く人達の集合場所となっている。
その例にもれず、愛ちゃんと北田くんが待っていた。
「おはよう」
「おはよー」
「おっはー!」
愛ちゃん、北田くんの順で返してくれる。
愛ちゃんは、際どいミニスカートに黒タイツ。友人だからわかるけど、おめかししてる。
北田くんは、ちょっと背伸びしたような革のジャケットに、少しだらしなく破れたジーパン。似合っているけれど、こういうワイルド(?)な格好をするのは少し意外だった。男子的には標準的な格好なのかな?
「お志津、お兄さんは?」
「え、まだ来てないの?」
「一緒に来てないの?」
「来ないよ……」
私にとっては当たり前だけど、二人は少し解せなかったらしい。
まあ理解してもらおうとは思わないけど。
しかしあいつ、まさか来ないつもりじゃなかろうか。私的にはそれでもいいんだけど。でも約束した手前、愛ちゃんに申し訳が立たない。
「やあ」
と、兄の声がして、三人で振り返る。
このコンマ数秒の間に、私は「本当にお願いだからまともな服装をしていてください神様先一ヶ月時給が30円下がってもいいから」と考えていたのは言うまでもない。
「えーっと、おはよう」
兄はぽりぽりと頬を掻く。
彼の服装は、グレーのパーカーに、こっちもダメージジーンズ。全体的に明るめのトーンにしてくれていることにホッと胸をなでおろすが、まさかのダメージジーンズが被っていることと、黒系から脱しきれていないことに痛々しさを感じ得ない。
しかも歳下の北田くんと同じセンス。
「変かな?」
「全然ですよ! お兄さん今日は来てくださってありがとうございます!」
愛ちゃんがフォローする。その瞳はどこか輝いているように見えて。
私は嫌な予感が当たったかと、愛ちゃん腕を引っ張り寄せる。
「ねえ愛ちゃん」
「どうしたの?」
「もしかしてだけど。本当にありえないとは思うんだけどね。気分を害したら申し訳ないんだけど」
「なになに、お志津。めっちゃ保険かけるじゃん」
「いや。かのキリストが改宗して全信徒をユダヤ教に売りつけるくらいありえないことだと思うんだけど」
「うんうん。お志津のたとえがクレバー過ぎて馬鹿な私にはわかんないけど、なに?」
「もしかして、あいつのこと好きじゃないよね?」
あ、女の顔になった。
この子、女の顔したよ。
きゅんって。
可愛過ぎて惚れそうになったよ。
「ちょっと、嘘でしょ!?」
「いや、ほら、まだわかんないよ……今日は本当にこないだのお礼がしたくって」
「うげー」
「そ、そんなリアクションないじゃん!」
「ありえない。ほんとありえないって。愛ちゃん。親友でもそれは認められない」
「そんなこと、言わなくても……」
頬を赤らめ、アヒル口で愛ちゃんはすね顔を見せる。
あ、可愛い。また女の顔をしてる。
マジのやつじゃん。
これマジのやつじゃん。
「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
人生で一番と言ってもいいくらいの、深い溜息が出る。
受け入れたくはないが、愛ちゃんの顔的にマジのやつで、否定するのも憚られる。
親友の恋路を邪魔するようなことはしたくない。
「いや、ほら、ほんと今日はさ、単純に遊びたいってだけだから! ね?」
「まあ、元からそのつもりだけど……」
「ほら、お志津もさ、自分のこと、考えてみてもいいんじゃない?」
愛ちゃんがウィンクする。
そして顎でシャクった先にいたのは、打ち解けたように会話する兄と北田くん。
自分のこと? 兄のお世話とこれからの扱いについてってこと?
……言われなくても考えてるよ。
答えはないけど。