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兄が異世界救って帰ってきたらしい  作者: 色川玉彩
第二章
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ガラパろ?

 授業が終わり、解放された生徒たちが一斉に校門を目指す。

 私もその例にもれず、昇降口に向かって歩いていた。


「はー疲れた」


 隣を歩く愛ちゃんが愚痴(ぐち)る。毎日のことだ。

 それに私が付き合う。毎日のことだ。


「英語とかほんと意味わかんない。日本語でおk」

「日本語だけじゃ立ち行かなくなってるからしょうがないわよ」

「なんで? もっかい鎖国してガラパゴスで生きてこ? ね? ガラパろ?」

「それじゃあ世界に取り残されるじゃない」

「取り残されるって考えがそもそも間違いなのよ。同じベクトルで進む必要なくない? ナンバーワンよりオンリーワンでしょ?」

「それって都合のいい考え。頑張ることができない人が、オンリーワンって言葉に逃げてるだけじゃない?」

「し、辛辣(しんらつ)!?」


 愛ちゃんは表情豊かである。暗い気持ちも楽しませてくれるから好きだ。

 まあ根っこがネット住民みたいなところがあるのが玉に(きず)だけど。


「オンリーワンって別に変わらなくていいって意味じゃないからね」

「やめてよ。逃げ道を塞がないで」

「ごめん。そんなつもりはないけど……」

「お志津って、ネガティブ思考の人にとって天敵だよね」

「ええ……私そんなに嫌な奴かな」

「嫌じゃない! 好き!」


 と、腰に巻きつかれる。

 そしてさりげなく胸を触ってくる。


「こら」

「いいじゃん。減るもんじゃあるめえし」

「おっさんか。愛ちゃんってもしかして、異世界から来たおっさんが生まれ変わった姿じゃない?」

「ぎくっ」


 愛ちゃんのリアクションに笑みがこぼれる。

 何を言っても楽しく返してくれる。


「嶺、お疲れ!」


 後ろから駆け足で私たちを抜いた人物が、そう叫んだ。

 抜き去りつつこちらを振り返り笑顔を向けたのは、北田くんだ。彼はすれ違う人それぞれにお別れを言いながら、颯爽(さっそう)と廊下の向こうに消えて行った。


「忙しいね、北田くんも」

「毎日バイトだからね~」

「何のバイトだっけ」

「たしか郵便の仕分けと和食レストランのウェイターと深夜のコンビニしてたかな」

「すごっ」


 3つも掛け持ちとか、私には絶対無理だ。男子だから体力があるのだろう、羨ましい。


「北田くんちも、母子家庭だっけ?」

「う~ん。複雑なんだよね。今一緒に住んでるのは両親じゃなくて、親戚の家に居候してる感じ」

「あ、そうなんだ」

「そ。両親が離婚関係で揉めちゃって。そんで北田も精神病んじゃって、両親が離婚問題落ち着くまで一時避難で親戚の家に居候させてる感じなの。ただ本人的には申し訳なさでいっぱいらしくて、親戚の家に生活費を入れてるみたい」

「えらい……」


 兄とは大違いだ。

 爪の垢を煎じてなんとやらだ。


「同じ人間でもどうしてこう違って生まれてくるのでしょうか」

「なに、お志津、哲学?」

「うん。愚痴」

「お兄さん、そんなに悪くなかったけどなー」

「えっ」


 ドン引き、というのが顔に出てたと思う。


「昔の色白でがりがりのいかにもって感じを想像してたけど、体格も良かったし、顔も健康的だったじゃん。服装はあれだけど、そこまで毛嫌いする感じじゃないくない?」

「ええ……」

「まあ急に戻って来て、好き放題されるのが気にくわないのはわかる」

「むう」


 たしかにその偏見が入っていないわけではない。7年間の恨みつらみが存分に含まれている。しかも血の繋がった兄妹なんだから、客観的には見れないのもある。


「愛ちゃん嫌い」

「なっ!? そんなこと言わないで!? 別れたくない!」

「ふんだ」


 茶番劇をしながら廊下を進む。


「お願いー! 見捨てないでー!」

「愛ちゃんが悪い」

「ワダジの5年間返じでよォォォ!!」

「迫真の演技過ぎて怖いからやめよ」

「じゃあ許してくれる?」

「許すも何も、冗談だから」

「じゃあ仲直りにプリン行こ。今日バイト休みでしょ?」

「なんで知ってるの……」

「ふふふ」

「事案発生だ」


 お巡りさんこの人です。


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