邂逅と後悔・4
先日3本目のレビューをいただきました!本当に感謝です!
訂正)
邂逅と後悔・3 にある
宮中伯会議
を
宮廷会議
に変更します。
今後もそちらに統一します。
こちらでのお知らせで失礼します。
馬車内を汚してしまったことを御者に詫びて、リヒャルトはクリストフと共にエドゥアルトの元へと重い足を運んだ。
先に着替えることをクリストフは促したが、寮の自室に戻るのが億劫で、かつ更衣室に行き誰かにこの姿を見咎められるのも嫌で、首を振ると、クリストフはそれ以上何も言わなかった。
出迎えたカミルは驚いた表情をしたが、すぐに二人を中に通す。
リヒャルトはクリストフに続いて入室すると戸口傍に立って控えた。
エドゥアルトはリヒャルトの姿を見るとカミルのように目を張り、何かを感じ取ったように椅子を勧めはしなかった。
「彼から報告してもらいたいと思います」
クリストフも席には着かずにそう述べ、リヒャルトの顔を見て先を促す。
言うべき言葉を探したがよくわからなくて、リヒャルトはただあったことだけを口にした。
「イェルクと話しました。
私の状況を。
とても驚いていて、返答はもらいませんでした。
けれど伝えてきました。
私は騎士になりたいと」
自分でも脈絡のない話し方だな、と思う。
けれど伝えるべきことはそれだけで、実際に得られた結果などなにもなくて、そう言うことしかできなかった。
「…わかったよ、ありがとう」
エドゥアルトはそう述べて、「早く着替えに戻るといい」と気遣いを示した。
「これより君の身柄は私が預かる。
君の寄親のゲゼルとは話がついている。
特別今の住まいを変える必要はないとのことだが、一応こちらでも君のための部屋は用意しているからどちらでも良いようにしてくれ。
もし御母堂を王都へ呼び寄せるつもりなら、手ごろな家を借りることもできる。
手配に関しては任せてくれて構わない。
任官についてはまた追って報せる。
それまではいつも通りにしていて欲しい」
「…フェルディナント様が、私の庇護者ではなくなる、のですか?」
ショックを隠せずにリヒャルトは呟いた。
まさかそんなことになるなんて考えもしなかった。
呆然としたリヒャルトに、エドゥアルトは頷いた。
「そうなる。
君を任官するのは、彼の階級では無理だ。
多少の無理を通すには、私くらいの立場でなければね」
どことなく自嘲じみた声色でエドゥアルトが言い、それに対してリヒャルトは被せるように訊ねた。
「母を…呼び寄せるというのは…」
「近くにいたほうが何かと君も安心だろう。
きっと今も心細い思いをされているのだろうしね。
水入らずで過ごせる環境があるならそれに越したことはない」
「それに、私はまだイェルクから返事をもらえていません」
「聞いたよ」
「任官はイェルクが騎士になることを了承することが条件でしょう」
「まぁ、そうなんだが」
少し視線を外してから、もう一度リヒャルトの目を見返してエドゥアルトは告げる。
「言ったはずだよ、私は君の推挙に関する約束を反故にする気はない。
君が結果としてイェルク君を説得できたとしてもできなかったとしても、私は君を推すつもりだった。
ただイェルク君がいないと色々通しづらい細かなことがあるだけだ。
それに、私は彼が君と共に騎士になることを願っているからね。
イェルク君を騎士に任ずる手続きの最中に君を知ったのだし。
なので…今後イェルク君がどんな結論を出すとしても、君への推挙は変わらない」
リヒャルトは言葉を失った。
何か言おうと口を開閉して、天井を仰ぎ見てから息を呑んで涙を堪えた。
「…どうして、それをもっと早く言ってくださらなかったのですか?」
イェルクに無理強いしたいわけでも、心配を掛けたいわけでもなかった。
「…その方が、君が頑張って説得してくれると思って。
申し訳ない、今少し、後悔している」
そうだ、後悔してくれ。
リヒャルトはまた口を開いた。
けれどやはり声にならなかった。
けれどエドゥアルトには通じたようだった。
何度も口にしたのは「ありがとう」という言葉だった。




