居眠り姫と王女様・16
更新が不定期になってしまい申し訳ありません。
読みに来てくださっている方に本当に感謝しています。
先日二本目のレビューをいただきました。
後書きにて報告させていただきます。
「――なにを言っているのかわからないよ」
乾いた声を霧雨は潤してはくれない。
「僕が騎士に任官される条件が、イェルク…君なんだ」
静かすぎる雨音だけが、沈黙をつないだ。
イェルクもリヒャルトも、互いに瞬きを忘れてただ向き合った。
「――なにを言っているのか、わからないよ」
無くした表情のままイェルクがもう一度呟くと、リヒャルトは言葉を選ぶように一度口を開き、また閉じた。
用意してきた言葉など、何一つ役に立たない。
「僕は…今年中に任官を受けなければならないんだ」
どこか言い訳染みた声色になったことをリヒャルトは自覚した。
「何故?」
イェルクの静かな問いかけに、彼は覚悟を決めた。
「…うちが――ドレヴァンツが、年明けに…爵位返上することになった」
「えっ?!」
目に見えて驚いてイェルクが反応した。
すぐさま真剣な声と眼差しで問う。
「どういうこと、リヒャルト」
リヒャルトは奥歯を噛んだ。
涙が出そうだったから。
無二の親友をこうした形で心配させることしかできないこと、――そしてその心配すら自分のために利用しようとしていること。
――ああ、ドレヴァンツは、どれだけシャファト家に迷惑をかけるのだろうな。
自分は同じ轍を踏まないと、幼い頃から思ってきたのに。
結局、自分の中にも甘えがあるのだ。
「リヒャルト、答えて」
イェルクはリヒャルトの両の肩をつかんで、真剣な表情でリヒャルトの目を見た。
逸らしたい瞳は逸らせなかった。
深い蒼の瞳に縫い付けられて、逸らせなかった。
「父が…仕官先で、公金を横領したと罪に問われた。
かなり、長い期間…兄も加担していて」
はっ、と、イェルクが息を呑んだ。
リヒャルトは唇を震わせて言葉を押し出そうと試みた。
けれどそれは形を取らなくて、ぐう、と喉が鳴った。
動揺した様子でイェルクはあちらこちらに視線をやったが、助けを求めるようなそれは雨の中でただ彼ら二人だけだということを知らしめただけだった。
リヒャルトはいくらか浅い息をして、ざわつく心を宥めた。
「やっと落ち着いたと思っていたのにね。
地方領だし、王都にさえいなければそれなりに慎ましく生活すると思っていた。
甘かったね、人間なんて、そうそう変わらないのに」
いっそ明るくすらあるその声はイェルクの心を締め付けて、肩にあった手を背に回してイェルクはリヒャルトを抱きしめた。
言葉にならなかった。
言葉にならなかった。
「なんで…」
やっとのことでイェルクが出した声はかすれていて、次がれた言葉にリヒャルトは静かに泣いてイェルクの肩に顔を埋めた。
「…なんで、リヒャルトばっかり…」
ざわざわと胸がさざめく。
こんなに優しい友人を持ってリヒャルトは幸せだったが、イェルクにとってもそうではないことを残念に思った。
本当に、残念だった。
「イェルク…イェルク」
懇願の声でリヒャルトは言った。
「僕は、騎士になりたいんだ」
また涙がイェルクの肩を濡らした。
「…知ってる」
「ずっと、小さい頃から、騎士になりたかったんだ」
「うん、知ってるよ」
「これが、最初で最後のチャンスなんだ」
「…なにが?」
「イェルクと一緒なら、任官してもらえる」
沈黙は雨を白く見せた。
リヒャルトは身体を離してその場に跪いた。
縋りついてイェルクを見上げる。
動揺してイェルクはリヒャルトに手を伸ばし、リヒャルトはその腕をとった。
「お願いだ、イェルク。
僕を騎士にしてほしい。
まだドレヴァンツがドレヴァンツであるうちに。
お願いだ、イェルク――」
他の言葉は互いになにもなくて、時を止めたように二人はじっと見つめ合った。
イェルクが見下ろした飴色の瞳は、ただイェルクだけを映して濡れていた。
雨は止まない。
読んでくださりありがとうございます。
更新できていないにもかかわらず、たくさんの方にご訪問いただいていました。
またありがたいことに二度目のレビューをいただきまして、さらに多くの方に来ていただけたこと、本当に感謝しております。
レビューのタブからご覧いただけますので、よろしければ前回のものと併せてぜひご覧ください。
そして、感想欄にて「いねむりひめとおにいさま」に関する小話もいただきました。
とてもうれしい経験をさせていただき感謝します。
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スピンオフ作品の下にリンクを貼らせていただきます。
いつも本当にありがとうございます。
他に言葉がみつかりません。
ぜひまたいらしてください。
お待ちしております。




