居眠り姫と王女様・8
更新できてなくてすみません!!!
「…あの金髪の騎士とは…前から知り合いだったのか?」
なんと切り出していいかわからずスヴェンはとりあえずイェルクにそう訊ねた。
あからさまに嫌そうに顔をしかめて、「会ったんですか?」とイェルクは言った。
「父さんに届け物をしたときに王宮で出くわしました。
それくらいで、別に前から付き合いがあったとか、顔見知りだったとかじゃありません」
すこし弁解めいた口調でイェルクは言った。
スヴェンは首を振って批難したわけではないことを示し、ややためらい気味に口を開いた。
「…お前の、どちらかの親の、知り合い、ということは?」
イェルクはその質問にくびを傾げたが、「さあ?」と答えた。
「わからないですね。
父さんは朝廷務めなんで会ったことあるのかもしれないですけど。
でも元々知り合いだったら、この話が来た時点でおれにそう言ってくれると思うんで、違うと思います」
「じゃあ…母親は?」
「それこそわかんないです、もう死んじゃってるんで。
母さんの実家のつながりとか言われてもわかりません。
もう20年以上前の話ですよ、そうなると」
逡巡してから、イェルクは続けた。
「取り潰しになっていますので、母の実家は」
スヴェンは目を見開いた。
平民のスヴェンには遠い話だが、貴族の世界ではそういうことがあるのだと話では知っている。
理由はもちろん訊ねなかった。
よい意味での取り潰しなどあるわけがない。
「どちらにしても、僕には関係のない話です」
すっと、素に戻った顔でイェルクは言った。
いつもは垣間見せることのない品位のような空気をそこに感じ、スヴェンはこの話を続けるのはやめた。
警らのイェルクは、警らのイェルクだから。
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皆で応接室でわいわいしていると、なんと、王宮からの早馬で密勅がヨーゼフへと届いたと従僕のひとりが慌てて部屋に入ってきた。
すぐに玄関先で勅使を迎え、書状を受け取りその場ですぐに開封すると、ヨーゼフは大きく舌打ちした。
「あの親馬鹿が。
こんなことに勅使を出すな」
その足で玄関を出ると、ヨーゼフは領地から連れてきた自分の御者を呼んで馬車を準備させた。
勅使は一礼をすると先に王宮へと向かった。
「お仕事ですの?おじい様」
慌てて見送りに出てきたルドヴィカが声をかけると、複雑そうな苦い顔でヨーゼフは答えた。
「メヒティルデ殿下が、わたしが殿上しないことに泣いておいでとのことだ。
ちょっと行ってくる」
ヨーゼフが乗り込むと、馬車はすぐに出発した。
ザシャはお姫様ありがとう、と王宮の方向に向かって祈った。
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最近力を入れている新規事業を任せている人間からの報告を聞きながら、イグナーツはまとめられたその書類を繰っていた。
「初動としては悪くない滑り出しです。
雑誌広告が効いているのでしょう」
まだ厚くはない顧客リストだが、いずれはこの部屋に収まりきらないほどのリストになるとイグナーツは確信している。
載せられている名前や住所は様々だ。
男も女も偏りなく、また比較的裕福ではない地域から富裕層の住む地域までと、ばらばらだった。
これこそが、この事業の需要の大きさと、重要性を示すものだった。
「このまま進めてくれ」
「はい」と男は一礼して部屋を出た。
イグナーツはもう一度顧客リストに目を落とし、優良顧客として最後にまとめられた部分をいくらか流し見た。
ふと、ひとつの名に目が止まる。
「…こんな所にいたかね、お嬢さん」
忙しさの中の一杯の茶のようだ。
その名は張り詰めたイグナーツの頬を緩ませた。
どうしているのだろうか。
イグナーツはペンをとり、いくらかの指示を書くと、使者にそれを届けさせた。




