居眠り姫と王女様・4
参照)シャファト家と在りし日の想い出・6
午後を少し回った頃、郵便配達員が運んできた一抱えの荷物を見て、シャファト家の侍女は目を丸くした。
受け取りの署名を求められて訝し気に中身は何なのか、と訊ねた侍女に、郵便配達員は「ドレスとのことです」と答えた。
その答えに、侍女はさらに目を見開いて戦慄いた。
そして署名もせずに身を翻すと、行儀も何もなく階段を駆け上がり、叫んで走った。
「お、おじょうさまーーー!!!届きました、『通信販売』です!!!ほんとに届きましたーーー!!!」
残された配達員は呆気にとられた。
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「え、わ、わたくしが署名をするの?!」
玄関先まで急いでやってきたルドヴィカに、集まった家僕たちがどうぞどうぞと道を開け、やや疲れた顔の配達員が配達伝票を差し出してきた。
「ええ、受け取ってくださるならどなたでも」
「まあ、まあ、どうしましょう。
ラーラ、ペンを、ペンをちょうだい!」
多少動揺しながらルドヴィカはペンを受け取ると、ダ・コスタ商会の会頭にしたためる手紙と同じくらい丁寧に署名した。
荷物はヨーゼフからここぞとばかりに逃げてきたザシャが受け取り、ルドヴィカは配達員に心付けをするよう控えていたリーナスに命じた。
配達員は満面の笑顔で帰って行った。
「ルイーゼ、なにが届いたんだ?」
「『通信販売』ですわ、おじい様!」
階上から声をかけたヨーゼフに、ルドヴィカは得意顔で答えた。
「よく分からんが…それは家人総出で受け取るくらいのものなのか」
「ええ、ええ!はやく皆で中を確認しましょう!」
いそいそと階段を上がり、「皆いっしょに入れるお部屋は応接室かしら…」とルドヴィカは言った。
別に皆で見なくてもいいのに、とザシャは苦笑しながら後に続いた。
「…あ、開けますわよ?」
ヨーゼフとザシャやラーラの他に、職務を放ってきた家僕20名強に囲まれ、ルドヴィカは自分の肩幅より大きい包みに向かった。
シャファト家って平和だよなー、とザシャはしみじみ思った。
はさみでしばらく格闘した後、しおしおとルドヴィカがザシャにはさみを差し出してきた。
「はいよー」と受け取り、さくさくと開封していく。
出てきたのは丁寧に折りたたまれた薄紫のシフォンドレスだった。
「すてきー…」広げられたドレスに侍女の一人がため息と共に言った。
その声に弾かれたようにルドヴィカも「ええ、ええ、本当に素敵!」と言った。
「ザシャ、持ち上げて!」
胸の部分がドレープになっており、肩で蝶結びになり袖部分として流されている。
ウエストの切り替え部分で絞られた布は背後へと回され、それによって着たときにスカート後方部分に緩やかなプリーツが生じる仕組みだった。
全体的におとなし目な、すっきりとしたドレスだった。
なにこれすてき、雑誌の挿絵より俄然すてき。
「…お嬢様にはなんかまだ早くねぇ?」
ザシャは鼻頭にしわを寄せて言った。
「そんなことありません!」
むきになってルドヴィカは言った。
「なんかさー、これはもうちょい大人になってからだって」
「そんなことありませんっ、着られますっ」
「着れても似合うかどうかは別でしょー」
「ばかっ、ザシャのばかっ」
ルドヴィカはザシャをエイリークでぽんぽん殴った。
「サイズは…確かに大きいですね」
衣裳部屋担当侍女、アデーレが呟いた。
「お嬢様」アデーレは決然とした瞳でルドヴィカに向き直った。
「私、創作意欲が湧いて参りました。
こちらのドレス…私にお預け願えませんか?」
ルドヴィカは職務熱心な侍女の燃える心を読み取り、すぐさま頷いた。
「ええ、アデーレ。
すべてあなたに任せるわ」
アデーレ無双




