居眠り姫と王女様・3
ルドヴィカが朝の支度を終えて食事室に赴くと、昨夜同様ザシャが席に着いていて、入ってきたルドヴィカへ助命嘆願の視線を向けてきた。
ザシャの向かい側にはヨーゼフが席に着いており、後ろにはリーナスが居て、実践マナーレッスンが続いているのが見て取れた。
「まぁ、おじい様、ザシャの特訓はいつまでなさいますの?」
「少なくとも今月いっぱいは必要だろうな。
お前に恥をかかせるわけにはいかないよ、ルイーゼ」
「ザシャはわたくしの恥なんかじゃありません。
ザシャが大変なら、わたくしも殿下の御前に上がるのはきっと大変です。
お断りすることはできませんの?」
「なんだって?」
ヨーゼフが慌てた。
「お前が大変なことなどないよ、ルイーゼ。
お前はどこに出しても恥ずかしくない淑女だからね。
ザシャが大変なのは仕方がない、シャファト家の傍流とはいえ貴族教育を受ける家格ではないのだからね。
ただシャファト家に仕えている以上、最低限の行儀作法を身に着けておかなければ、結果的に恥をかくのもザシャなのだよ。
これはザシャ自身のためを思っての教育なんだ、ルイーゼが殿上することをためらうことはないんだよ」
「でも、行きたくないのにザシャを連れて行くのはかわいそうです…」
「…では、他の者を付けるか?」
「わたくしの従者はザシャですわ。
わたくしが眠り込んだときに対処できるのもザシャです。
ですので、代わりの者はおりません」
ザシャは感動した。
お嬢様いつでも寝てくれ、と思った。
「…では、リーナスも共に付けるか」
視線が一斉にリーナスに集まった。
「おはよう、なんの話だい?」
寝惚けた様子のヴィンツェンツを引っ張って伴い、ユリアンが現れた。
ヴィンツェンツが着ているのはユリアンの幅タイと袖なしベストだった。
「ザシャだけでは不安なので、ルイーゼにリーナスを付けるか、という話をしていたのだ」
ユリアンはふにゃふにゃしたヴィンツェンツを席に着かせながら目を丸くした。
「そりゃいい。
久しぶりの古巣じゃないか、リーナス。
行ってきなよ、息抜きに」
今度はルドヴィカが目を丸くした。
「古巣ですの?リーナスは王宮にいましたの?」
「そうだよ、わたしが襲爵するときに、父さんがシャファト家へ引き抜いたんだ。
もう20年になるかなぁ、リーナス?」
「はい、ちょうど今年で20年目です」
「継承の祝いだ、と連れてこられたのが家令で、びっくりしたよね、あの時は」
ユリアンが席に着きつつ苦笑した。
「間違いないだろう」
「ええ、最高の祝いでしたね」
「おわよ~ん」と言いながらイェルクがふらふらと現れて席に着いた。
ザシャはヨーゼフに俺より孫息子の教育先に、どうぞ、と思った。
「頼めるか、リーナス?」
「お役に立てますなら」
「ザシャもその方がいいだろう?」
「もちろんすよ!!!リーナスさんがいてくれるなら大丈夫です!!!お願いします、お願いします!!!」
「それでお前への教育が終わるわけではないぞ?」
「…」
ザシャは沈んだ。
「なんのはなしー?」
「ルイーゼが殿上するのに、ザシャとリーナスを付けるか、と言っていたんだ」
「うーん、過保護だけどいいんじゃなーい。
親馬鹿じじ馬鹿が宮廷にバレて」
「たぶんもうバレているから問題ない」
ユリアンは居直った。
「でもルイーゼ、ザシャやリーナスだけでなく、君の気持ちもちゃんと教えてくれ。
本当に行くかい?メヒティルデ殿下のところへ」
改めてユリアンが問うと、ルドヴィカは少し目を落として言った。
「自信はありません…でも、ふたりが着いてきてくれるなら、がんばれますわ」
ユリアンは目を細めて「よかった」と言った。
ヨーゼフも微笑んだ。
ヴィンツェンツが大きなあくびをした。
リーナス無双が書きたい…でも本筋から大幅にずれるし…(苦悩)
てゆーかリーナス行くこときいてないんですけどなんでこうなったんですか?




