居眠り姫と王女様・1
第二部ここからはじまります!
どうぞ宜しくお願い致します!!!
ジークヴァルトは静まり返った執務室でひとり、オイルランプの火が消えるのを眺めていた。
一日が終わるとき、こうしてなにもかもを締め出してこの灯りを眺めるようになったのはいつの頃からだっただろう。
唯一ともいえたこの自分ではない自分に帰れる時間を、ジークヴァルトは心のどこかで拠り所としていて、それに気付いた侍従たちは皆、まるでそれは存在しない時であるかのように見過ごしてくれていた。
甘えの許されない自分のささやかな甘え。
そう思ってふと笑いたくなるが、これが世の中では甘えに分類されることなのかはよくわからない。
この時間に昔を思い起こすようになったのもいつだったか。
老いてきたのだろうと自分でも思う。
何かをひどく間違えてしまったようにも、真っ直ぐに何かを選び取れてきたようにも思えた。
きっと、それが本当に明らかになるのは自分が死んでからなのだろう。
この緑の大地に生まれ、このトラウムヴェルトと呼ばれる国のために生きてきた。
後悔ではない。
けれど何か言いようのないものが、ちろちろと終わりかけの灯のように心によぎっては消えた。
この国を愛している。
それはこの国に自分が在るからではなくて、ジークヴァルトがジークヴァルトとして在るからだ。
確信を持ってそのことを誇れた。
それなのに。
幼少からこの国に仕えるために命を捧げる教育を受け、父王亡き後は当然のごとくその後を継いだ。
疑問にも思わないし、至極当然のことと受け入れてもいる。
だから、これはただの感傷なのだ。
何を成しても。
何を解しても。
ジークヴァルトはただ、自分ひとりが立つこの場所を、ひどく寒いと感じるのだ。
まるでわかっていたかのように、落ちた灯りの後に扉がノックされた。
「陛下…もう日付も変わります」
扉越しの声はそれでもはっきりとしていて、ふと、自分の侍従がすべてを見透かしているのではないかとジークヴァルトは思う。
「わかった…今行く」
しばらくぶりに出した声はしゃがれていて、だからこそジークヴァルトは現実へと引き戻された。
見透かされていたとしても構わないと思った。
それは王としての矜持を捨てるのではなくて、ただ、ひとりくらいはそんな奴がいてもいい、と思えたからだった。
席を立つと、ジークヴァルトは王の顔で扉を出た。
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「ほんっと勘弁してくださいよ!」
でかい図体で涙目になりながらザシャはヨーゼフへと喚いた。
「もう日付変わりましたよ?!俺がんばったでしょ?もう今日はやめましょう!!」
「ふざけるな!この程度のことができず何が頑張っただ、話にならん!」
ヨーゼフはかなり本気で青筋を立てていた。
夕餐後しばらくして客人たちは各々自宅へと帰り、ヴィンツェンツは泊まることになった。
ユリアンが「あんたどうせ宮廷戻るんでしょう、泊まりなさい」と引き留めたのだ。
ヴィンツェンツは目を丸くしてユリアンを見た。
応接室でザシャのマナー特訓と称した見世物をシャファト家一同とひとりは面白そうに眺めていたが、まず眠気を訴えたルドヴィカが脱落し、それに乗じてイェルクが「僕あした早いんで」と抜け、ものすごく興味津々に見ていたヴィンツェンツも「あんた明日仕事どんだけあると思ってんですか、寝ますよ」とユリアンに連れられて出ていった。
「姿勢と歩き方から指導せねばならぬとは、お前はいったい今までシャファト家で何を学んできた?!」
「えーと…いろいろ…えーと…」
「すぐに言えぬ時点で底が見えたわ!これは滞在を延ばしてでも教育せねばならんな。
しばらくは敷地内から出られぬと思え!」
「勘弁してください!ほんと勘弁してください!」
「その口の利き方もだ!お前は本当に直さないですむところはあるのか?!」
そもそも俺を王宮に行かせようとすんのが間違いだって!!!
しかし火のついてしまったヨーゼフにそれを言うのは正しく油を注ぐ行為だろう。
ザシャは本気で泣きかけながら、叱咤され何度目かわからない「紳士的歩き方」の型をとって部屋を練り歩いた。
「違う!さっき言ったことをもう忘れたのか!」
シャファト家の母屋の一角で、その怒声は明け方まで続いた。
国名決定アンケートありがとうございました!!!
お陰様でどうやって書き出そうか、と思っていた第二部を始められました(ノ∀`)タハー
国名は「トラウムヴェルト」、大陸名をいただいた「グルーンエルデ(緑の大地)」として舵を切らせていただきました!
いただいたアンケ結果は今後も少しずつ使って参ります
アンケートに答えてくださった皆さま本当に感謝です!
どうぞトラウムヴェルトを宜しくお願い致します(*- -)(*_ _)ペコリ




