居眠り姫と法規の司・4
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蒼白な顔で廊下を駆けていったイェルクの姿を目端に捉え、何かがあったことを察してスヴェンはイェルクが走ってきた方向を見やった。
仄暗い微笑を口元に張り付けたテオが立っていた。
テオは顔を上げて驚いた表情のスヴェンと目が合うと、いつものように明るい笑顔を浮かべた。
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叩き起こしたぐーたら上司はぐーたらの本領を発揮した。
まったく動かない。
むしろユリアンの席についたまままた寝に戻る。
「朝から手を焼かすんじゃないですよ!」
ブランケットをはぎ取ると頭をめぐらせてこちらを見た。
「ユリアン」
「なんですか」
「ユリアン」
「だからなんですか!」
「おれおまえの息子になる」
「断る!!!」
「ふたりはほんとに仲良しだねぇ」とトビアスが言った。
ないわー。
「なに寝惚けてんですか。
…いいですよ、部屋片付くまで、寝てなさい」
もう一度頭からブランケットを掛けてやった。
「さて…いつもながら。
やりますか、トビアス」
「頑張らなきゃねぇ、これは」
歴戦の地質調査員の気迫をまとい、ユリアンとトビアスは請願書地層の解析へと乗り込んでいった。
その姿はさながら死地に赴くがごとくであったという。
結局歩けるくらいまでに尚書室が回復したのは、昼を大きく回ったあたりだった。
「ヴィン、とりあえず貴方の席は掘り返しましたよ、戻りなさい。
――ヴィン?」
すっかり寝入っているのか何も言わないヴィンツェンツに、ユリアンはブランケットをはがした。
いなかった。
「ヴィン~~~!!!あんたって人は!!!」
今度は珍獣ハンターに転職して捜索である。
「…その前にお昼にしない?」というトビアスの疲れた声に、「そだね」とユリアンは応じた。
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人間てほんとに思いがけないことがあると本当に頬が引き攣るんだねー、知らなかったー、わたし医師なのにー。
エルヴィンは少し気が遠くなりかけながら現実逃避気味にそんなことを考えた。
エルヴィンの研究室の内窓には先輩医師始め研究仲間が多数かたずを呑んで張り付き、状況を見守っている。
いずれ全員一服盛る、これ決定。
今エルヴィンの前には、エルヴィンの机の引き出しに入っている銀板写真からそのまま出てきたような女性が立っていた。
――本人来ちゃった。
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エドゥアルトは使いにやった後輩の騎士にねぎらいをやり、イェルクとの話し合いに向かわせる人間を選出した。
彼の存在を知ったのはたまたまだった。
なんて幸先のいいことだろうと笑みが深くなった。
そして自分が手段を選ばなくなってきていることに嗤った。
呼ばれて執務室へとやってきた生真面目そうな飴色の瞳の少年に、エドゥアルトは「はじめまして」と自分から挨拶をした。
従騎士の リヒャルト・ ドレヴァンツ。
男爵家の次男であり、生まれてからの数年を母と共にシャファト家で生活している。
イェルクの乳兄弟だった。
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ヴィンツェンツは王宮を出て、綺麗な晴天の下、一路シャファト家へとてくてく歩いて行った。




