居眠り姫と法規の司・2
本気で一晩中母に対する愛を語られて、ユリアンはげっそりした。
うん、拷問。
イェルクも最初は面白がって聞いていたのに、途中で「僕あした早いんで」とかいって逃げた。
親不孝者め、ここは付き合えよ!!!
しんどい。
自分の両親の愛の歴史とか裏歴史とかなんかそんなの聞くの。
わりと知りたくなかったあーだこーだもあって、ごめん母さん聞いちゃったよとか天井見上げて思ったり、これは速やかに酒に流そうとグラスを干したりした。
うん、そりゃもうとんでもない大恋愛だったんだね!
うん、おなかいっぱいありがとう!!
二人みたいな夫婦になりたいとか思ってたいつかの自分殴りたいよ!!!
世の中には腹割って話していいことと悪いこととがあるとユリアン(42)は学んだ。
朝食の席ではルイーゼが「おじい様とお父様はずっとお話されてましたの?どんなお話でしたの?」と可愛く訊くもんだから、気取った表情で「うーん、ルイーゼにはまだ早いなぁ」とか宣いやがられた父ヨーゼフ(67)。
一生早いよ、聞かせんなよウチの娘に。
いろんな意味でふらふらして出仕したら、ぐーたら上司が秘書室のユリアンの席で寝てた。
なんでだよ。
トビアスは「ああどうしよう、シャファト君、前代未聞に散らかってる」と地層ができて300年くらい遡れそうな尚書室の扉開いて前代未聞な規模でオロオロするし、ああもうなんなの、おはよう!今日という一日!
さて、お仕事しますか。
「ヴィン、起きなさい、なんでわたしの席で寝てんですかあんた!そしてあの部屋はなんなんです、なにしてたんですかあんたは!!!」
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ディーデリヒは困った。
その困りようと言えばおそらく現在警ら隊全部隊の管轄区域内筆頭ではないかと思えた。
目の前の椅子に座るのは王宮からの使いの騎士である。
「今日はよい天気になりましたね」
最近ずっと晴れてたじゃん、めっちゃ白々しいんだけどそのさわやか笑顔。
そう思うのに「ええ、本当に」とか笑顔を返す辺りでもうディーデリヒの負けである。
「お願いしていた件はどうなりましたか?」
おおっと直球だー、これは速いぞ、ディーデリヒ選手打ち取れるか?!
「ははは、とりあえず茶でも淹れましょう」見送りだ―!
歓待してどうすんだよ、早くお引き取り願わなきゃならんだろ、淹れんなよ茶、と心のディーデリヒはつっこみまくっている。
砂時計できっかり二分蒸らして出した茶は平民警らにしてはよくやったでしょ?誰か褒めて、お願いだから。
「で、どうなりましたか。
イェルク・フォン・シャファト君の処遇は」
ああもう泣きそう。
こええええええええええ。
騎士様怖えよ!
なんでエッケハルト隊長が応対しないんだよ!俺副長なんだけど?!
これなんて答えればいいん?誰か教えて?
「ええ、まぁ。
先日、本人と話す機会がありましてね」
正直に話すなよ俺の口。
「その際には、異動する意志はないと。
そう申しておりましたね」
うん、俺もうよくやった、すごい、あんたが大将!
「――それを説得するのが、貴方たちの仕事では?」
―― こええええええええええ!!!
たのむだれかたすけてくれえええええええ!!!
しかしディーデリヒを助けに来る人間はいなかった。
彼は頑張った。
よって話の流れでイェルク本人と使いの騎士が話す場を設けることになったことについては、誰も彼を責めることはできないことだった。
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ユーリアは朝一番にビンデバルト編集長…アロイスのところへと向かった。
変わらずに奴は仕事していた。
その姿に宣言した。
「――あたし、もう、振り返らないから」
うんもすんも言わなかった。
「ぜったいに、あたしの名で立ってやる。
だから――ありがとう」
ユーリアはそう告げた後、残り香すらなく立ち去った。
綺麗な晴れた空だった。
アロイスは少し、微笑んだ。
「法規の司」1で前書き後書きなんかたくさん書いたんですけど、
飛ばしちゃった勢いですみません、思い出せなくて再現できません…
とりあえず覚えてるのが、50話目は「想い出」の最後のやつです、間違えました!!!てことです、失礼しましたm(_ _;)m




