居眠り姫と法規の司・1
すみません、誤タップの上あせって削除しちゃいました( ;∀;)
びびる、めっちゃびびるこれ
メール投稿でよかった!!!
「わざわざ君に渡したのになぜ捺さなかった?!」
「必要がないから」
二度目の任官に関する同じ書類を持って現れたキラキラムキムキ師団長に詰め寄られて、ヴィンツェンツは即答した。
「彼は第二師団に必要だ、だから推挙している。
いーからとにかく捺せ!!」
「やだねー」
ヴィンツェンツは当てつけのように目の前で実に適当にぽんぽん国璽を捺した。
エドゥアルトはさっとそこに書類を差し入れた。
ヴィンツェンツは停止した。
「「………」」
「わかったわかった、出しといてやるよ、よこせ」
「お し て か ら だ せ よ !!!」
やたらいい発声でエドゥアルトはにじり寄って叫んだ。
「…なんなんだよおまえはいったい」
「君がいったいなんなんだよ!!」
だん、と机に拳を入れ、エドゥアルトは言った。
「書類に不備はないだろう!なにが不満だ?!」
「あー、なんかそういうとこ」
平坦な声でヴィンツェンツは答えた。
「おれの秘書官の身内に関する書類、当人に秘密で通そうとするとことか?あと捺して当然ていう感じ?いろいろ気に食わんからおれは捺さねえ」
「それ君の私情じゃないか!それに国璽尚書は君だ、君に渡すのがすじだろう」
「だからそういうとこだって」
あからさまに嫌な顔をしてヴィンツェンツは言った。
「わざわざユリアンがいない時来やがって。
あいつが普段おれの代行なの知ってんだろ。
しかもちゃんとおれの手元に国璽ある時狙ってくるとかプロの犯行じゃねえか」
「君の手元以外にあっちゃならんだろうが、国璽!」
「あーあーきこえない」
ヴィンツェンツはスタンプラリーを再開した。
「あーおれめっちゃ忙しい、ちょう忙しい。
他に用事ないならさよなら師団長さん!」
黙りこくったエドゥアルトは、固く唇を引き結んだ後、「また来る」と言って身を翻した。
「こなくていーよー」とヴィンツェンツはそこらへんにあった紙をひらひらさせて見送った。
「うあーあ」
ため息としてははっきりとしたものを吐いて、ヴィンツェンツは独り言ちた。
「なんでそんなに執着すんのかねえ?ユリアンの息子に」
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エドゥアルトはふざけた国璽預かりの男の部屋から出、自分の執務室へと戻った。
道すがら幾人かの文官とすれ違ったが、全員エドゥアルトを避けて歩いたところを見るとなにやら酷い顔をしているのだろう。
イェルクを第二師団に引き抜きたいのには理由があるが、それを口にすることはできなかった。
急いだのは今日に間に合わせたかったからでもあり、あてが外れてしまったのでそれは諦めるしかない。
正直、自分がここまで拘るとも最初は思わず、頭のどこかで冷静に自分を嗤う目があった。
ヴィンツェンツに言った言葉が自分に帰る。
ただの私情でしかない。
****
ヴィンツェンツは実に適当に事務仕事を終えると、国璽を布に包み、鍵のかかる引き出しへとしまった。
明日にはユリアンもトビアスも戻ってくるので、ふたりに回す仕事を作らなければならない。
彼は国璽を預かる者として、司法の徒でもあった。
王宮内の人事も最終的には彼による任官が必要で、エドゥアルトはそのために推挙文に国璽を欲した。
そうすればその推挙は決定事項として動かしようのないものとなったであろう。
また、彼の使命は王宮のみではない。
彼は未処理の嘆願書や申請書の山へ行くと、一見であるものはゴミ箱へ丸めて、あるものは足下へと落として行った。
明朝またなぜ散らかす、と怒られるだろう。
こうして内外から俎上に載せられた書類を振り分けるのも彼の仕事だった。
むしろ、これがヴィンツェンツの本領でもあった。
捨てられた訴状はユリアンやトビアスが目にすることも触れることもない。
それでいい、構わない。
すべての嘆願が誠意に基づくものではない。
すべての請願が善意に因るものでもない。
そうしたものの中でも採り上げるに値しないもの…もっと踏み込めば、最終的に害をもたらすであろうものを、ヴィンツェンツは即座に見抜いて処理した。
ユリアンたちが関わるのは、綺麗なものでいい。
明日までに足の踏み場をなくしておこう。
ユリアンの怒鳴り声とトビアスの慌てふためく姿を想像して、ヴィンツェンツは少し笑った。




