シャファト家と在りし日の想い出・11
筆が乗りすぎて本日3本目の投稿です
「もうすぐお館様が戻られますので、お昼もご一緒されますよ」とリーナスに言われ、ルドヴィカは浮き立った。
ということは今日は三食共父と一緒ということだ。
こんなこと長期休みの時ぐらいだ。
お仕事はまだまだ大変そうだったけれども、リーナスが帰ってくると言うのであれば帰ってくるのだ、間違いない。
「どうしてリーナスはお父様のことがわかるの」と訊いたことがあるのだが、「神のお告げです」と彼は答えた。
うん、それならわかって当然だ。
ほどなく本当に父が帰ってきて、例のように玄関でうろうろしていたルドヴィカはエイリークと一緒に父に跳びついた。
「お帰りなさいませお父様!」
「ああ、ただいま、みんなもただいま」
ルドヴィカと出迎えた従僕たちにそう言いながらなぜか父はリーナスを熱い目で見つめた。
「用意はできておりますが、先にお食事になさいますか」
「そうだね、君との話は長くなりそうだから、報告は後で聴くよ」
…なにか大変なことがあったのだろうか?
「ルイーゼ、これは使えるかい?」
小さな包みを受け取り、ルドヴィカは「開けていいですか?」と確認して開封した。
「リボン!リボン!」
嬉しくて「ありがとうございますお父様!」と笑うと、父もにへらっとした。
「ラーラ、ラーラ、結んで!」
見えないところのちょうちょ結びは難しいのだ。
「ドレスに合わせて紺色のにしましょう」と、ラーラはポニーテールの根元に結んでくれた。
「明日は黄色のにするわ!」
「そうですね、後でアデーレに合うドレスを選ばせましょう」
「…ルイーゼはそんなにリボンが好きだったの?」
訊ねてきた父にルドヴィカは答えた。
「お父様がくださったリボンだから嬉しいのですわ!」
父がまたにへらっとした。
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朝まで飲んで昼まで寝たエーミールは、閉めなかったカーテンに少しの後悔をしながら高い日の光に目を眇めた。
眠気は残ってはいるが体はもう目覚めている。
起き上がって風呂に向かい、冷たいシャワーを浴びる。
エーミールは割に高給取りなので、こんな最新設備が整ったアパルトメントに住めている。
ここは昨年できたばかりの場所だが、建てると客の一人から聞いてすぐに契約した。
今の仕事は頼まれてしているものだが、こうしていろいろ欲しいものが手に入るという意味では、彼の性に合っていた。
久しぶりに飲みすぎたので、酒の匂いを流す。
風呂よりもシャワーが好きなのは、こうして水が流れていくのを眺めていられるからだと思う。
いろいろな忘れたいことを運んで、流し去ってくれるかもしれないという願望だ。
今の生活は嫌いではない。
最初あの店には、用心棒として雇われるという話だった。
だが、エーミールは良くも悪くも目立つ容姿をしている。
数日店の中に立っただけで、用心棒だというのに客がついた。
勿体ないからという理由でウェイターとなり、間もなく始まった女性客の付きまといを回避するためにやけくそで道化となった。
それがまさか受けるとは思わず、長年膝を痛めていた前任の店長から託される形で現在がある。
昔の自分に見せてやりたい、今の自分を。
少し笑ってエーミールは排水溝に吸い込まれていく水を眺めた。
きっと二三日は寝込むだろう。
潔癖だったあの頃の自分は。
水を止めて風呂を出た。
シャワーノズルからいくらかの雫が滴って落ちた。
タオルを頭にかけて床に水が落ちることも構わず、日の差し込む窓へと近づいた。
この部屋はどの周囲のどの建物よりも高い。
窓を開いて街を見下ろした。
――きっとこれは感傷で。
かつて彼が愛して守っていた街を、今日は少し歩いてみようと思った。
筆が乗るってこういうことなんですね…
そろそろうざいと思うのでこの後書いたのは明日の朝にでも予約投稿にします
いつも読みに来てくださってありがとうございます!




