お兄様と王宮の騎士様・2
「えーっと、シャファト君、ご子息が迷子で保護された。
君に会いたいそうだ」
朝食を終えて食堂の席を立ったら、とても困惑顔の同僚が近付いてきてそっと告げた。
まって、なにやってんのウチの息子。
とりあえず同僚について急いで部屋を出る。
いる、息子いる。
しかも警ら服。
なんでちょっと泣きそうになってんの、てゆーかなんでお前が迷子になってんの。
「シャファト君、午前の朝議はいいから、とりあえずなんか食べさせてあげて」
なんか幼い子を保護した感じで同僚が告げた。
いやそこまで幼くないけどね!ウチの息子わたしよりでかくなったからね!お気遣いありがとう!
「いったいなにをしているんだイェルク…」
「妖術にかけられました…」
うん、ウチの息子ながらわからない。
もう一度食堂に入って席に戻る。
食器は誰かが下げてくれたらしい。
「なに食べる?」と訊いたら「カツ丼」と答えたがなんだそれは。
とりあえず適当に見繕ってくれと給仕に頼んだ。
「王宮の警備を見直すべきです、たちの悪い妖術師が紛れ込んでいます。
騎士の真似事をして惑わす悪漢です、お陰で迷いました!」
「うん、夜勤明けだな?それで寝惚けているな?そういうことだな?」
「現実問題です!なんかキラキラしてました!」
どん、とテーブルに拳を落として息子は言った。
どうしよう、こいつ18なんだよ、しかも皆さんの安全を守る警らだよ、ご迷惑しかお掛けしていない気がするよ、もう父さんお前のこと心配!
「で、なんで迷ってたんだ、王宮で?」
「だから妖術にかかったんです!」
「うんそれはいーから、なんできたの、ここに」
「そうですよ、僕は用事があってきたんですよ!」
なんで怒ってんの息子。
「これですよ!」
息子はごそごそと肩下げ鞄から筆記帳を取り出した。
「あとでじっくり読んでくださいよ!そして思い知るがいい!」
「なんだそれは…」
「ちなみにザシャから近況報告の手紙預かったんで挟んであります」
「そうか」
体調を崩しがちな娘については適宜報告を上げるように伝えている。
読んだからといって何ができるわけでもないのだが。
なんだかよくわからないモノが給仕に運ばれてきて息子の前に置かれた。
なんだそれは。
嬉しそうに食べ始めたのでなんなのか訊いてみたら「カツ丼」と言われた。
だからなんだそれは。
珈琲を飲みながら筆記帳をぱらぱらとめくる。
娘の字だ。
しかも大文字だけで書かれている。
なんでだ。
「あー、ここで読むのやめといた方がいいです。
父さんたぶん泣きます」
「なぜ」
「内容が内容なんで。
ところで父さん」
『カツ丼』をすごい勢いで平らげた後、息子は改まって言った。
「今年は帰ってきてくださいよ、母さんの日」
息がつまった。
「一ヶ月前からここに詰めてれば確かに回避しやすいですよね。
でもどうせ泣くなら家でルイーゼと一緒に泣いてやってくださいよ。
父親でしょ」
――こうやって、時々鋭いことを言う。
「しっかりしてるけど、ルイーゼにはまだ親が必要です。
僕にもザシャにも代わりはできない。
貴方しかいないんですよ、父さん」
立ち上がって「ごちそうさまでした」と息子は言った。
「じゃ、僕帰ります。
お仕事の邪魔してすみませんでした。
その筆記帳は父さんからルイーゼに返してあげてください」
「――ああ」
去っていった息子の背中を直視できずに、ただ手元の珈琲と筆記帳を見つめた。




