お兄様と王宮の騎士様・1
ねえ あなた
わたしを愛してくれていた?
一度も振り返らなかったから
わたしは少し
悲しかったの
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ユリアンは浅い眠りから醒め、幾度目かの夢に静かに深い息を吐いた。
ここ一ヶ月ばかり使っているベットはすでに身体に馴染んで、家に帰る理由をまたひとつ失くしてしまう。
仕事が忙しいのは事実だし、帰る間もないほどなのも事実だった。
でも気持ちさえあれば帰るだろうに、と自分でも可笑しく思って笑ってしまう。
まだ縹色の空が広がる窓の外はただ静かで、ユリアンのさざめく心を鎮めてくれる。
去年の今頃もこうしていた。
明けの光が差し始めて、ユリアンは瞼をもう一度閉じて瞑目した。
オティーリエ。
愛していたよ。
――愛しているよ。
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夜勤明け休日のイェルクは、父に会いに行った。
朝廷宿舎にいる間に捕まえなければまともに話もできないであろうから、朝も早くから仕事が終わってそのままで来た。
なかなかの孝行息子だと自分で思う。
手みやげは妹が書いた妹による妹の童話で、お宅の娘さんこんなん書いてますよ、どうすんすか、あんた父親なんだからどうにかしてください、と丸投…訊いてくるつもりだ。
何回か来たことはあるが無事迷った。
(なんだと…4つ目の柱を左に曲がれない、だと…?)
きっとこれは僕を惑わすために妖術が使われているに違いない。
左の壁は実は存在しないんだ、ヨアヒムが詰め所に置いてった大衆小説に書いてあった。
念入りに壁を調べていると肩に手を置かれイェルクはびびった、かなりびびった。
「なにしているんだ?…イェルク、だろ?」
少し高い位置からかけられた声に振り向くと、なんかキラキラした感じの騎士様がいた。
うん、キラキラ。
「はじめまして?」
「いや初めましてじゃないし。
いや、憶えてないのかよ、つれないな」
「えーっとどちら様?この壁作った妖術師さんでしたら、俺ここ通りたいんで開けてほしいんですけど」
「…君はしらふでもつっこみ所が多いな、まずここは通れん。
どこに行くつもりだ?」
「朝廷の廷臣用宿舎です」
「真逆だろう、この路をこのまま行くと王宮に着く」
「まじっすか、教えてくれてありがとうございます、妖術師さん!」
「だからなんだそれは」
「妖術師さんさようなら!」
礼儀正しく挨拶してイェルクは去った。
騎士服を着た妖術師さんは感動したように言葉を失っていた。
うーんと、さっさと父さん捕まえなければ。
すみません、逃げられない現実と向き合い中で投稿滞っていました…
読みに来てくださっていた方、感謝&ごめんなさい
今日こそは勝てる…たぶん




