居眠り姫と夢見る絵描き・1
「お前の絵が選ばれた。
フォン・シャファト家へ行って打合せしてくるように」
仕事の手を止めることなくこちらを見もせず言ってきた傍若無人な幼馴染の言葉に、あたしは「は?」と返した。
突然呼びつけてきて、しかもめちゃくちゃ久しぶりに会うのに、なんなのそれ。
まあこいつのこの性質は小さいころからで、今さら変わるなんてことはあり得ないけど。
「なによ、意味わかんないわ。
ちゃんと説明しなさいよアロイス」
「大人向け童話を出版する企画がある、お前の絵が作家に選ばれた。
よって先方に出向き打合せをしてこい」
「はぁあ?」
こいつはいつでも言葉が足りない。
無駄を排除しまくってるから。
それはこいつの仕事にはおあつらえ向きの性質なんだろうけど、人付き合いには向いていない。
目つきの悪さと相まって、本当に性格悪く感じる。
「うーんと、まず大人向け童話ってなにか訊きたいんだけど」
「その名の通りだ、大人が読む童話だ」
「で、あたしの絵が選ばれたって、なんで?」
「作家に幾人かの挿絵描きの絵を見せた。
その中からお前の絵が選ばれた」
「はーん?」
こいつなに人の絵勝手に営業してくれてんの。
嬉しいんだけど。
「そりゃ光栄だわ。
で、作家先生て誰なの」
「ルドヴィカ・フォン・シャファト嬢だ」
「うっわお貴族様だ」
ちょー苦手なんだよ、上流の人たち。
なに、お貴族のお嬢様の気まぐれお遊びに付き合えってこと?
さいあくー、やだそれー。
「ルドヴィカ嬢は一般の令嬢とは違う。
お前でも大丈夫だ」
うーん、こっちを見もしないで顔色読んだ発言するね?
なにがどう大丈夫なのかの説明が足りないよアロイス君。
「それって断っちゃいけないのかなー」
「断りたいならそれで構わん。
これが作品だ、読んでみろ」
やっぱりこっちを見ずに仕事したまま差し出された原稿を、しぶしぶ受け取ってあたしは目を落とした。
「……」
…ちょっと言葉にならなくて、唇を引き結んだままあたしはアロイスを見た。
ちょっと涙目になってたかもしんない。
「明後日の夕刻だ」
こうなるのわかってて、あんたはあたしを呼んだんでしょ。
ほんと、あんた性格悪いよ。
最高に。




