お兄様と夜の蝶?・3
…いったい僕はどこに連れてこられたんだろう…
飲んだことのない燻した薫りの強い酒を渡され、ちびちび舐めていたらなんだかさっきのでかい美人に隣に座られた上にいろいろ触られ、なんかいろいろ訊かれては答え、あまつさえ「イェルクちゃん、かわいいっ」などといわれてめちゃくちゃ際どい唇の端っこあたりにちゅーされた。
うん、この人男だ。
めちゃくちゃ美人だけど男だ。
めちゃくちゃ美人だけどすごいガタイだ。
うん、わかってるよ、そういう世界もあるんだろ。
僕は大人だからね、そんなことは解っているさ。
「エミ、そのくらいにしとけ、イェルクの目が死んでいる」
口だけ助け舟の師匠の目が笑っている。
「スヴェンたら、なんでもっと早く連れてきてくれなかったの?こんなかわいい子独り占めしてたなんて狡いわよ」
「こいつを可愛がってんのは俺だけじゃない。
いろんな奴にほうぼう連れ回されてるよ」
イェルクが舐めるだけの酒を水のようにあおって、師匠はグラスを掲げてウェイターを呼んだ。
まだ飲むんだ。
帰りたい。
「師匠、一応おれら勤務中すよね。
戻った方がいいすよね、いや戻るべきですよね?」
「これも勤務の一貫だ。
警らが立ち寄る店だと思われればここらの治安も良くなる」
「いやそれぜったいこじ付けですよね?そもこの店一般の人入れませんよね?」
「まあいいじゃねぇか、夜は長い」
ウェイターからおかわりと割材を受け取り、「ほら、これで割れ、飲みやすくなる」とイェルクの杯へと注ぐ。
やけくそでイェルクはそれをあおった。
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いいですか、ぼくはですねぇ けいらなんですよ
にあわないですか うっさいんですよ ぼくは りっぱなけいらですよ
なんでなったかとかきくんですか ほほーう、ききますか きくもなみだかたるもなみだですよ
え、なんですかそれ おいしそうください
なんですか えっけいらになったりゆう
それきくんですか きくもなみだかたるもなみだですよ
ちょうかっこいいんですよ けいらちょうかっこいいんですよ
そうですよそれがりゆうですよ
どこがとかいうな かっこいいにりゆうはないですよ どこがとかいうな
きしさまとくらべるとかちゃんちゃらおかしいですね
きしさまは きしさまですよ
けいらは けいらですよ
え、なんでぼくがきぞくいだってしってんですか あ いいましたか そうですか
なんで きぞくいがけいらなっちゃいけないんですか いいじゃないですかけいら
きぞくいはきしさまになんなきゃいけないなんてほーりつはありませんよ
あっ そちらのおにーさんきぞくいのきしさま? どーもこんにちは!おつかれさまです!
いいですか、そもそもぼくはですねぇ…




