居眠り姫と王子様・4
おひさしぶりです
前代未聞の7700文字という長さになってしまいました……
どうしても同じ話にいれたかったもので、すみません……
エルヴィンは恐らく当たっている嫌な予感から、朝食は摂らずにまっすぐに職場の自分の部屋へと向かった。
それによって何を回避できたかはわからないが、とりあえず穏便な午前中であったことは良いことだ。
先輩医師から「昨日はどうだったよ?」とあまり興味もなさそうに訊かれたので、「普通です」と答えた。
「普通ってなんだよ……楽しかったとか、なんかヘマこいたとか、そんなんあるだろ」
「だから、普通です。
普通に連れ立って歩いて、普通に買い物をして、普通に食事をし、普通に送りました。
それだけです」
「おっまえ、つれないなあ……おまえのためにあんなに可愛く着飾ってきてくれた女性に対して、それはないだろう」
「わたしは最初から断っているので。
昨日は押し切られて仕方がなく行ったまでです」
「そのわりには随分めかしこんでたじゃないか……」
「そりゃそうですよ、名目上はデートでしたからね。
相手に恥をかかせるわけにも行かない」
「ふーん。
じゃあこれっきりなわけだ?」
その言葉にエルヴィンは押し黙った。
「え、なにその反応」
「…………」
結局詰め寄られてエルヴィンは白状した。
今月いっぱいの週末は、すべてデートするという約束をしてしまったことを。
****
「師匠、遅いっすよー」
スヴェンが警ら隊2班地区に着いたのはイェルクに遅れること10分程してからだった。
体力には自信があっても、俊敏さにおいてはどうしたって若い者には負ける。
その上イェルクは警ら隊合同の演習でも良い成績を修めて表彰されたくらいの脚力なのだ。
着いていけるわけがない。
涼しい笑顔で「行きましょー」というイェルクに着いて歩く。
息を整えるのにいくらか時間がかかった。
それにしても警ら服を着て全力疾走をすると、緊急事態だと思うのか通行人が積極的に道を譲ってくれるものなのだ、と初めて知った。
外見に特徴のないごく一般的な食堂に着いて、イェルクが中に入る。
看板の名前は「赤鍋亭」。
スヴェンも続いた。
「あら、見かけない警らのにーさんたちだね、何班さ?」
メニューを持ってきた女将が訊ねる。
「7班ですよ!」
イェルクが機嫌よく答えると、女将は目を丸くした。
「あら、随分遠いじゃないの。
こんなところまでこそ泥でも追っかけて来たのかい?」
「このお店の評判を聞いて来ました! ニクラスさんっていう7班の警らなんですが」
「二クラスのにーさん、職場でもうちの営業してくれてるのかい! こりゃあ今晩来たら一杯ごちそうしなきゃねえ。
あんたたちはまだ飲めないんだろ、コーヒーでよければおごるよ」
「ありがとうございます!」
嬉しそうにメニューをめくって見せて来るイェルクに「師匠、なに食べますか?」と訊かれ、「あー、胃にもたれないやつ」と答える。
「ニクラス師匠によると、この店煮込み系が美味いって話ですよ。
うーんと、じゃあ、おれ大根と牛角煮の定食で!」
「はいよー、大きいにーさんは?」
「あー、魚か野菜系の煮込みはある?」
「あるよ、どっちがいい?」
「じゃあ魚で」
「煮魚定食ね。
はいコーヒー、ちょっとまっててね」
嬉しそうににこにこしているイェルクに対し、どう切り出したもんか、と思う。
明らかに消沈していたランドルフ隊長の様子から、なんの話をしたのかはわかる。
そしてそれが良くない報せなのだとも。
結局言葉など選べなくて、まっすぐにスヴェンはイェルクを見た。
「一昨日……隊長と部屋で話してただろ。
なに、話してたんだ?」
コーヒーを口に運ぶイェルクは、その質問を予期していたのか特に表情を替えずにスヴェンを見た。
「進退について話してました、おれの」
隠すことなく告げたその瞳は常のイェルクのように澄んでいて、スヴェンは自分が悪いことをしているような気分に陥った。
けれどさらに訊ねた。
「なんて言ったんだ、おまえは」
口を開いてなにかを言いかけて、イェルクはまた口を閉じた。
もう一度開いた唇ははっきりとした声で「時間をください、と」と述べた。
それはスヴェンにとって、そしておそらくランドルフにとっても心を乱す言葉だった。
イェルクは「行かない」と言ってくれると、そうはっきりと述べてくれると期待していたから。
「そうか」
思った以上に沈んだ声が出た。
それはイェルクにも伝わったことだろう。
少しの沈黙を破るように女将が両手に定食の盆を携えて「おまちどう!」と持ってきた。
「しけた顔してんね、二人とも! うちのご飯食べたらもうそんな顔させないよ!」
空気を読んでか読まないでか、そう言って出された膳はどちらも良い香りが立ち昇っていて、きっとその言葉通りになるに違いなかった。
『……うまっ』
口をつけた二人は同じ感想を漏らして、「まじうめえな」「ほんと、これはうまい」と、夢中で平らげながら笑った。
****
二階の応接間にアロイスを案内し、ルドヴィカはそこに運び込んだ件のドレスを、意気揚々と見せびらかした。
「こちらです、ご覧くださいましビンデバルト様! 素晴らしいと思われません?」
胴像に着せられたドレスの隣には手を入れた本人である侍女アデーレが控えていて、「衣装部屋担当、アデーレでございます」とアロイスに深々と礼を取った。
「これは……」
部屋の入口でコートと山高帽をラーラに預けたアロイスは、丸眼鏡の中の鋭い眼差しにさらに力を込めて足早にドレスに近付いた。
アデーレは数歩後ろに下がって控える。
上から下までじっくりと眺めた後、「なるほど……」と呟く。
ルドヴィカはわくわくといった表情でクッションのメリッサを抱きしめ、アデーレは緊張の面持ちで直立し、ザシャは入り口から中を覗いて俺居なくてもいいわな、と思いながらも入室して控え、ラーラは茶を淹れるタイミングを真顔で見計らっていた。
「これは……どの程度の時間をかけて手を加えられましたか?」
鋭い視線はアデーレに向けられ、その問いに「4日ほど」とアデーレは答えた。
「……素晴らしいですね。
これを、4日で」
屈んでドレス裾を手にとってじっと見つめていたアロイスは、アデーレへと視線を向けて「どの程度の技術を持つ者でしたら、同じように加工ができるでしょうか」と訊ねた。
「はい、わたくしは職業訓練校にて被服に関わる訓練を4年受けています。
また、こちらの御家に御奉公に上がりましてからは3年目でございます。
同様の経験を持つ者であれば、このくらいの加工は難しくはないかと」
「逆に言うと、そのくらいの技術がなければ難しいということでしょうか?」
「4日では無理かと存じます……しかしいずれも縫製の基礎技術を持つ方であれば、時間をかければ形にはできるのではないでしょうか」
「なるほど……」
アロイスは立ち上がり、ルドヴィカに向き直った。
「本日はお願いがあって参りました、ルドヴィカ嬢。
こちらのドレスに関することです」
ルドヴィカは目を見張って「まあ、なんでしょうか、どうぞおかけくださいまし」と長椅子を勧めた。
アロイスが座ると同時にすっと茶を差し出すラーラに、ザシャはあんたほんとすげえよ、と思った。
「『通信販売』をご利用いただいたと伺ったときから、お願いに上がろうと思っていました。
現在『通信販売』は販路拡大のための営業活動に力を入れています。
雑誌広告はその一環です。
しかし、大衆雑誌を読む層というのはとても限られていて、現在売れ筋商品にも偏りがあります。
この度ご購入いただいたドレスは、一般市民層だけではなく、ルドヴィカ嬢、あなたのような貴族位の方々にも販路を延ばしたいと考えている商品です。
それだけの品質は確保している製品ですから。
しかし何分新しい商売形態ですので、保守的な貴族位の皆さまにはなかなか浸透して行かない。
お願いしたかったのは、ルドヴィカ嬢、あなたにぜひこの『通信販売』のドレスを着ていただき、宣伝をしていただけないか、ということです」
前屈みになりながらアロイスは熱い口調で告げた。
その言葉にルドヴィカはエイリークをぎゅっと抱きしめて目を瞬いた。
「せんでん……ですか? わたくしが? ええ?」
「はい、そうです。
有り体に言えば広告塔です。
貴族界の中であなたが先陣を切って『通信販売』を用いたのです、あなたが相応しい。
出かける際にこのドレスを身に着け、誰かに問われれば『通信販売で購入した』と述べるだけです。
それほど難しいことではないでしょう」
「むっ……難しいですわっ!」
おろおろとしながらルドヴィカは反論した。
「わ、わたくし、まだお披露目を終えていませんし、それに、社交からも遠ざかっております。
む、むり! 無理ですわっ!」
「え、いいじゃん、やれば? お嬢様」
ザシャがあっけらかんと言った。
「どうせ王宮行くようになるんだしさー、訊かれたら答えるだけでしょ? いいじゃん、やったらいいよ。
社交とか難しいこと考えなくていいって、好きなドレス着るだけだろ」
「でもっ、でもっ、ドレスもこうして手を加えて、別物にしてしまいましたし!」
「その点を加味してのお願いです」
アロイスがルドヴィカの言葉に被せるように言った。
「『通信販売』で取り扱い中の商品は、もちろんそれ単体でも着ていただけますが、もともと他の装飾品によって見栄えをさせることを想定したものでした。
ですのでドレスの基本形であり、どちらかというと飾り気を削いだものです。
それによって量産体勢が敷けるという利点もあります。
今回このように手を加えていただけたことで、もう一つの可能性が拓けました。
加工することを前提として売り出す、という方向性です。
むしろその方が貴族位の方々には良いかもしれない。
こうして腕のいい仕立師を抱えているということを、他家に示すことができますからね。
もしかしたら、いやしなくとも、これはひとつの流行を産むものとなり得ます。
わたしはその瞬間に立ち会いたいのです、どうか、ルドヴィカ嬢、受けてはいただけませんか」
『いねむりひめ』の打ち合わせの時もそうだったけれど、随分とお仕事に関して前のめりな方なのね、と気圧されながらルドヴィカは思った。
言っていることはわかる。
ただ誰かに訊ねられたら、「『通信販売』で購入しましたの」と言えばよいだけだ。
それでもこれまでそうした世間話をするような交友を意図的に避けてきたルドヴィカにとって、とても挑戦となることには違いない。
問われれば『通信販売』とはなにかを説明する必要もあるだろうし、そもそもドレスの良し悪しを話題にするような友人もいないのだ。
これから王宮に度々赴くことにはなる。
しかしそれは相手がメヒティルデ殿下おひとりだという安心感もあり、これまで忌避感はそれほどなかった。
けれど考えてみれば、他の誰とも会わないなんてことはあり得ない。
よって、どのドレスを着ていようが、「まあ、素敵なドレスをお召しですのね、どちらの仕立師に作らせましたの?」などという世間話は生じ得るのだ。
今更ながらそんなことに気づいてルドヴィカは青くなった。
なにせ、ルドヴィカは『居眠り姫』なのだ。
「お嬢様さあ、そんなに深刻に考える必要ないから。
いろいろ不安に思うんだろうってのはわかるけど。
俺さあ、これめっちゃいい機会だと思うんだよね。
ドレスの話なんてさ、女性にとっちゃ天気の話みたいなもんだろ。
そこからさ、始めればいいんじゃねえかな、お嬢様」
ザシャがゆったりとした声色で言った。
「この前の王宮でのお嬢様かっこよかったぞ? 俺とミヒャルケさん先導してさ。
ああやって俺たちのことかばって、胸張ってやれたじゃん。
やればできるんだって、お嬢様」
「あのときは……」反論しようとルドヴィカはザシャを見た。
「ザシャとユーリア様は、勝手がわからないでしょう。
わたくしは、シャファトの娘ですもの。
ふたりを守るのはわたくしの務めです」
ザシャは笑った。
「かっけーなあ、お嬢様」
ザシャは控えていた壁際から「失礼しますよっと」と、アロイスとルドヴィカが対峙する長座卓脇の、一人がけ椅子に座った。
「あんなあ、お嬢様、俺たち嬉しいんだ。
お嬢様がさ、『いねむりひめ』書いて、出版するって言い出したこと。
それに、王女様んとこ、行くって決めたこと。
それってさ、今までじゃありえなかったことだってわかる? お嬢様、すっげーいい顔してるよ。
俺とか、ラーラとか、アデーレとか、イェルクとか、そういう家の中の奴らじゃなくてさ。
こうやってビンデバルトさんと会って話して、ミヒャルケさんといろいろ相談して。
……それ以前にダ・コスタに乗り込んで。
俺さあ、嬉しい。
お嬢様の気持ちが外に向いた。
俺はこの4年間、お嬢様に仕えてきたから、それがすごいことだってわかってる。
だから、ビンデバルトさんのお願いを、はいはいって受けるのも難しいんだろうなってのもわかる。
だからさ、できるところからでいいじゃん。
俺もさ、がんばるから。
……お作法特訓」
最後の言葉だけ遠い目になった。
「……不安なのです」
ルドヴィカはエイリークに視線を落として呟いた。
「わかるよ」
ザシャも呟いた。
「……急いで、ということではないのです。
あなたの気持ちを無視してまでお願いする気はありません、ルドヴィカ嬢。
しかし、わたしは『いねむりひめ』を書かれた、あなたにだからお願いしました。
お返事はぜひご家族の皆さまと相談の上でお願いできますか」
綺麗な所作で茶を飲むと、アロイスは「そろそろお暇しましょう」と述べて席を立った。
「お時間をいただきありがとうございました。
宣伝の件は別として、アデーレ嬢には技術指導をお願いできないかとも考えました。
この件はこちらで煮詰めてから、あらためてご提案に伺いたいと思うのですがいかがでしょうか」
「まあ、まあ! アデーレが先生になるのですか? それはすばらしいわ!」
「今思いついた話ですので、こちらもどのような形でできるか現実的な路線を考えてみたいと思います。
ぜひまたご連絡させてください」
「もちろんですとも! ねえ、アデーレ!」
「ええええええ?」
主のしんみりとした話に聞き入っていたと思ったら自分に水が向けられて、アデーレは軽くのけぞった。
ルドヴィカはその反応に笑う。
ザシャとラーラはビンデバルトの気遣いに軽く会釈した。
****
「ルイーゼのことをお話ししましょう」
メヒティルデの部屋を訪れて、クッションを抱いたまま卓に着こうとして失敗したメヒティルデを椅子に座らせて、ヨーゼフも席に着いた。
侍女のナディヤ夫人が淹れた茶の香りを楽しみ、口に含んでからヨーゼフが言うと、メヒティルデは「はい!」と良い返事をした。
良い機会なのでナディヤ夫人にも席に着いてもらう。
「ルイーゼの病気がわかったのは5年前です。
まだ、殿下が赤ちゃんだった頃ですよ。
突然眠ってしまうようになってしまった、それも、日に何度も。
それまでも、疲れたと言うことはたくさんあったのです。
その度に休んでいたので、それが病気だと最初は気づかなかった。
……それに、母親が亡くなって、時間もそれほど経っていませんでしたので、わたしも含めて周りの者はすべて、ルイーゼがそうして床に着くことについて、悲しくは思いましたが、不思議には思いませんでした。
きっと、心がとても悲しんでいるのだろうと」
「……おたあさまが、しんでしまったのですか?」
「そうです、殿下がちょうどお生まれになられた頃です」
メヒティルデは衝撃を受けた表情でクッションを抱きしめた。
「わたしたちは1年の間悼みました。
そしてその後、多くの方々から励ましをいただいた。
とても感謝しています。
王妃様からもたくさんの慰めをいただきました。
ルイーゼの母親は、王妃様のとても親しい友人だったのですよ。
それで、たびたび臥せっているルイーゼのことも、とても心配してくださった。
それで、体調が良いときにはいつでも来るように、と、茶会のお誘いをいつでもくださっていた。
殿下、ちょうどあなたの友人や、いずれあなたに仕える年の近い従者を選ばなければならなかった。
なのでそのためのもの、という理由で、ルイーゼと同年代の子を招いてね。
少しでも気が晴れるようにとしてくださったのです。
とてもありがたいことでした」
「おたあさまはやさしいのです!」
「その通りです。
わたしたちも、良かれと思ってルイーゼを茶会に行かせていました。
他家からも多くの招待をいただいていましたしね。
けれどそれがいけなかった。
わたしたちは、ルイーゼが病気だと、考えていなかったのです。
なので、あの子がどれだけ苦しい眠気と闘っているか知らなかった。
ルイーゼはね、とてもがんばりやなのです。
それにわたしたちに心配をかけたくもなかったのでしょう。
笑顔を作って多くの茶会に出かけて行っていました。
そして、限界が来て、茶会中に眠り込んでしまったことが何度もあった。
そこまで行かなくとも、たびたび体調がすぐれないと早めに帰ってしまっては、誰もがおもしろく感じないでしょう。
そこで、ルイーゼについてしまったあだ名が、『居眠り姫』だった」
「いねむりひめ……」
呟くメヒティルデの腕に抱かれたクッションを見て、ヨーゼフはもう一度茶を口にした。
「クッションはね、ルイーゼにとって、鎧なのです。
わかりますか、鎧は騎士が身に着けているものです」
「わかります! おうきゅうのそとにでないように、みはっているきしがきているのです!」
「そうです。
騎士はどうして鎧を着ていると思いますか?」
「きっと、つよくなるからです!」
「そうです、着ることによって、強くなって、どんな強い敵が来ても、殿下を守ることができるように着ているのです」
「すごいですね!」
「そうですね、彼らはすごい。
では殿下、ルイーゼはクッションを鎧にして、誰を守っていると思いますか?」
「ヨーゼフですか?」
「ははは、そうだと嬉しいですね。
……ルイーゼは、自分を守っているのです」
メヒティルデの目がいっぱいに見開かれた。
「誰からも傷つけられないように。
眠り込んでしまうときに、自分自身を守れるように。
それに常に持ち歩いていれば、他の人と違う状況だと気づいてもらえる。
あのクッションは、ルイーゼ自身を守っている鎧なのです」
ヨーゼフは自分が不甲斐なくて少しだけ口元に笑みを浮かべた。
クッションを持ち歩かなければ不安に陥るくらい、ルドヴィカを追い詰めてしまったのは自分たちだ。
なので、悲しく思いながらもそれを是認していた。
「殿下、少しだけ考えてください。
ルイーゼは、最初からクッションを持ちたくて持ったと思いますか?」
「……わからないです」
「そうですね、わたしもわからない。
けれど、ルイーゼがクッションを持つようになったのは、とても悲しいことがあったからだ、というのは、わかりましたか?」
「……わかります」
「では、殿下。
ルイーゼは、殿下がクッションを持つことを、嬉しいと思うでしょうか?」
「…………」
しばしの無言の後、メヒティルデは椅子をひとりで滑り降りた。
クッションを抱えて隣の部屋へ走って行った彼女は、戻って来たときには何も持っておらず、もう一度椅子によじ登って席に着いてから言った。
「ナディヤ、おかしをたべましょう!」
ヨーゼフとナディヤは、共に微笑んだ。




