お兄様と夜の蝶?・2
扉を開けたら、そこは異世界だった。
なんてことはなく、灯りのない長い廊下が続いていた。
きょろきょろと中を伺いながら踏み入ると、「ほら、さっさと進め」と師匠に背中を押され、そのままイェルクは歩みをすすめた。
ずっと押されているのでいくつかの扉は通り過ぎたが、「ほいここ」と肩を叩かれた。
夜目が利いていてもわからない。
「どこっすか?」
何もない廊下の壁を、師匠が3回ノックした。
するとノックが返ってきてイェルクは控え目に言ってもかなりびびった。
さらに2回ノックする。
「ランプ消せ」
言われてイェルクは何故かあわてて消した。
何かが動く気配がして、空気の流れが変わる。
「ほら、入るぞ」
真っ暗でどこに入ったのかも分からなかったが、程なく目の前で緞帳のようなものが開かれ、飛び込んできた光にイェルクは目をしぱしぱさせた。
静寂から突然賑やかな音楽の中に放り込まれ、イェルクは状況が飲み込めずおどおどする。
目が馴れるとそこはどこかの高級酒場のようで、赤と金を基調とした調度品で調えられ、ガヤガヤと多くの人が会話し楽しんでいる。
幾人かがイェルクを振り返って見、そして何事もなくまた会話へと戻った。
「こっちこい」
立ち竦んでいるイェルクの腕を取り、師匠は楽団とは反対側の一段高くなった場所へと連行する。
これまでスヴェン師匠が連れてきてくれた場末感溢れる酒場とはあきらかに違って、イェルクはとにかくおどおどしかできなかった。
「いらっしゃい、スヴェン。
と、あら、かわいい子」
招き入れてくれた声はハスキーな低音だった。
声の主を見ると、イェルクは硬直した。
めちゃくちゃゴージャスな美人。
で、めちゃくちゃでかかった。




