結局私は何なんだ
なんか、誰かに狙われ始めました。
危なかった。
もう少しで、死んで異世界に転生する物語を作るところだった。
しかしながら、何だ今のは。
母親が見えない何かに捕まり、その隙に道路に飛び出す子供。
それを助けるために飛び出す私。
そして車が来て、はねられる。
どう考えても、作られたストーリーである。
とっさのことすぎて、飛び出してしまった私もアレだが、目の前で死ぬかもしれない子供は、例え全く面識の無い子供でも見捨てることはできないものだ。
後輩である、大森くんが居てくれたから、子供は助かったが、一体何だったのだろうか。
子供と、母親は、救急車で運ばれていき、取り敢えず落ち着いたので、私は会社へと向かう。
「先輩、今日は休んだ方がいいんじゃないですか?」
大森くんは、私の少し後ろをついてくる。
「何で私が狙われてる前提なの?実際死にかけたのはあのお母さんと子どもでしょう?」
「そりゃそうですけどね。」
よくわからない状況で会社を休むことはできない。
現代日本人なら、どう考えてもそうだろう。
やはり後輩くんは、少しずれた感覚を持ってるようだ。
それとも、私が社畜として染まりすぎてるのか?
「そもそも、私が狙われるとか、意味わかんない。今まで平穏無事に生きてきたのに?」
「それが、よくわからないんですけど、さっき、ファンタジーの世界の匂いがしたんですよね。」
世界の匂いとかあるのかよ。何だよそれ。
「誰かが強引に、世界を繋げていました。
生きたまま転移させるよりは、転生の方がリスクも少ないので、実はそっちの方が人気あるんですけど、邪魔もしやすいんですよね。さっきも、母さんが強引につなぎ目を閉じたのでそれ以上の干渉はなかったようですが、あの流れだと、狙われていたのは先輩か、あの子供かのどちらかでしょう。」
あの時聞こえた声か。
確かに、見つけたって言ってたもんなぁ。
「私はたまたま気づいただけだから、あの子じゃないの?」
実際、死にかけたのは子供の方である。私は、飛び出さなければ別に危険もなかったわけだし。
「でも、気づいたし、飛び出したでしょう?」
と、後輩。
いや、まぁ、確かに。
「それが、運命で、因果。
狙いは、先輩か、子供か、それとも両方か。ちょっと嫌な予感がするので、見張らせてくださいね。子供の方は、母が見張るそうなので大丈夫でしょう。」
うーん、すごく嫌だけど、死ぬよりはマシか。
「守ってくれるのはありがたいんだけど、みんなに疑われたくないし、あんまり、近づきすぎないでね。」
そう言って、自分のデスクに着く。
「いっそ、付き合ってることにしちゃえば、堂々と見張れるんですけどね。」
バカなことを言う後輩を鼻で笑い、仕事を始めた。
そして、もうすぐ昼休みになる、という頃。
今日は何を食べようか。
日替わりランチはヒレカツなので、カロリー的に今日はパスして、チャーハンか、それとも丼モノにするか。
「久しぶりにラーメンも捨てがたい。」
「先輩、心の声が漏れてます。因みに、カロリー気にしてるなら、ラーメンもなかなかのもんですよ。」
かなり小声だったのに、さすがエルフの地獄耳。
「うるさいな、、、」
ニヤニヤしてるであろう後輩の方を向くと、
「どうしたの?」
眉をひそめて、あらぬ方向を見ている。
『やっと見つけた。私の器。』
声が響くと同時に、世界が白黒になる。
なにこれ!?
「先輩、こっち!」
腕を掴まれ、引き倒される。
と、今までいた場所が気持ちの悪い、カラフルな炎のようなものにのみ込まれる。
「まずい、まずい!俺じゃ守れない!相手が悪い!」
後輩の悲痛な叫び。
「なんでなんで!?先輩は違う!この世界の生き物じゃないから、器にはならない!」
私もパニックだが、後輩はさらにひどい。
逆に私が冷静になりそうなほどに取り乱している。
「時間を止められるのは、向こうの世界でも、数えられるほどしかいないだろ!」
流石に、取り乱しながらも、何かしらの呪文のようなものを唱えながら、私を抱きおこす。
こういう場面でなければ、赤面するところだが、正直イケメンを楽しむ余裕などない。
『邪魔をするな、世界樹の民』
「五月蝿い!こっちの世界に干渉するな!」
『違うな。その器は私のものだ。元から、こちらの世界のものだ』
「ダークブラインド!」
後輩の周りから、黒い靄が広がる。
同時に、抱きかかえられ、元はオフィスだった場所から出ようとする、が。
見えない壁があり、それは叶わない。
『甘いわ。器は返して貰うぞ』
「がはっ!!!」
見えない力で後輩が吹き飛ばされ、見えない壁に叩きつけられる。
正直、見えないものだらけで何が起きてるのかわからないが、どうやら私を異世界に連れ帰りたい何者かがいるらしい。
と、
「く、くるし、、、」
虹色の炎の中から現れた、冷たい大きな手で首を掴まれ、そのまま引きずり込まれる。
これ、あれか。
このまま死んで転生するのか?
それとも、異世界に転移するのか?
意識が遠のく中、何か他人事のように冷静な部分がある。
「センパーイ!!!!」
後輩の声も、遠くなる。
いや、追ってきてる?
だめだ、もう目が見えない。
「真里!!!!だめー!!!!!」
左手に、暖かさを感じながら、意識を失った。
後輩と2人で異世界とか、ちょっとラブコメ路線かなとか考えたが、この声、違うな。
ものすごく聞き覚えがあるけど、まさか、こんなところで聞くような声じゃないはずなんだけど。
ついに異世界に旅立ちましたが、同行者がなんかおかしいです。




