真相究明の前に
朝だ。
ああ、ちゃんと家にいる。
昨日はどうやって帰ったのかすら覚えてない。
とにかく、仕事に行かないと。
全部夢だったのかと思うほど、自分の中で全てがフワフワしている。
「ステータス」
つぶやくと、自分の前にはドワーフと書かれたパネルが見える。
後輩のいたずらにしては、流石に、手が混みすぎていて、もう、なんか疑う気が失せている。
なんか数字っぽいのや、他になんか色々書いてあるがイマイチ分からない。
なんか特殊スキルとかあるのかと期待した部分はあるが、やはり後輩が言う様に、何も無さそうだ。
「まぁいいや、とりあえず仕事に行こう。」
社畜なので、いくら、自分がドワーフだとはいえ、仕事には行かねばならないのです。
、、、はっ。
危ない。
自分がドワーフであることを受け入れてしまうとこだった。
人間じゃないと言われて、思い当たる特殊能力といえば、夜目がきく、というくらい。
普通の人は、目が慣れてやっと見える程度の暗闇でも、結構はっきり見えていることがあった。
ただ単に目がいいのかと思ってたけど、ドワーフって地下に町がどうのって、そういえばアリシアさんが言ってたもんね。
などと、なんだかもう、自分が何なのか分からなくなり始めたあたりで、考えるのをやめて、スーツに着替えた。
いつもより少し早く起きたことだし、今日は社食で朝食でも食べよう。
モーニングセットは、280円と言う低価格で、しっかりとした量があり、独身者に大人気なのだ。
私もその独身者の1人ですけどね!
家を出て、バス停に着いた。
こんなにも町はいつも通りなのに、なんだか違和感がある気がするのはなぜだろう。
意識しすぎなのか、それとも、何か良くない事でも有るのか。
昨日も感じた悪寒が、背中に走る。
辺りを見回すが、特に何もない。
と、道路の向かい側を、幼稚園にでも向かうのだろうか、制服を着た小さな女の子が、母親と手を繋いで歩いているのが目についた。
可愛いなぁ。
私もいつか、母親になれるのだろうか。
そもそも、人間じゃない可能性があるのに大丈夫なのか??
「あ、ばしゅだー」
バスを見た瞬間、女児は嬉しそうにこちらへ向かって駆け出す。
え??
今、お母さんと手を繋いで、、、
母親の方に目をやると、母親は、なぜか首元を押さえたまま蹲っている。しかし、目は見開いたまま、必死に口をパクパクさせて、娘いを止めようとしているのだろうが、その声も、届かない。
そしてその光景に、誰1人として気づいていないのだ。
「危ない!!!」
おなじみの場面かもしれない。
このまま道路に飛び出し、車に轢かれ、ドワーフとして異世界に転生、か。
あー、あるわ。
それ、すっごいあるわ。
だがしかし、子供に向かって飛び出したはいいものの、間に合うかギリギリである。
子供も私も死ぬ未来がちらっと浮かんだその時。
「キミ、見えてるね。やっと見つけた。あいつらを見張ってて正解だったわ。」
再び、ゾクッとする。
聞いたことのない声。
ひどく冷たく、それでいて楽しそうな声。
その声が聞こえたのとほぼ同時。
道路に飛び出し、跳ねられたのは、その声の主でもなければ、私でもなかった。
「いってえぇええっ!死ぬかと思った!!!!」
子供を抱えたまま、トラックに跳ね飛ばされ、歩道でもんどり打って叫んでたのは
「大森くん!!!」
どれだけ頑丈なんだ、後輩。
人間離れしすぎだろ。
あ、エルフだっけ?
ああ、そういえばアリシアさんがいってたっけ。
裏切らない限り、死なないと。
「いやぁ、当たりどころが良かったな。奇跡ってあるんですねー。」
普通は、当たりどころもクソもなく、完全に死んでるタイミングだけどね。
「強運だなーにーちゃん。」
「いやー!すごいね!良かったねー!」
びっくりしすぎてフリーズしてる子供を撫でながら、周りの人は後輩に惜しみない賞賛の言葉をおくる。
「そうだ、その子のお母さんが!!」
慌てて振り返ると、ぐったりと意識を失っている母親を抱きかかえているアリシアさんの姿が見えた。
「よか、、、った、、、。」
その場にへたり込んだ私に、アリシアさんが小さく呟いた。
車がうるさく行き交う、道路の向こう側から。
「あなた、何者なの?」
聞こえるはずのない声量の声が届いた。
私が一番知りたいです。




