強制送還の予感
なんか説明だらけ。
もう少し簡潔にしたい、、、。
まさか、魔法?が使えてしまうとは思わなかった。
そんな事をしてしまったら、自分がこの世界の一般人だと主張できなくなる。
後輩に、魔法見せてやるとか言われてひょいひょい付いてきてしまったが、まさか自分が使うほうだとは思わなかった。
「ところで先輩、ステータスは置いといて、魔法見にきたんでしょー?どういうのを見たら信じてくれますかね?」
こんなもんを見た後では、魔法がどうだとか否定できるわけがない。
「置いとかないで。これ、どうしたら良いのよ。」
本当なら、どんな魔法を見ても手品で済ませる自信があったが、自分が魔法使ってしまったからには、、、ん?
「ああ、これもあなたたちの手品?なんか、仮想現実みたいな、何かそういうやつか。最近は、キーボードとかも机に映し出して使うとかいうもんね。」
危うく騙されるところだった。
「先輩、現実逃避してます?」
「いやいや、いくら私を騙したいからって、手が混み過ぎでしょう。」
「うーん、困ったわね。ここまで頑固だと、魔法を使って見せたところで、手品だとか言われてしまいそうねぇ。」
アリシアさんは、首を傾げて少し考える様子を見せた。
「そもそも、何で私をドワーフにしたいんですか?」
この親子は、わたしをファンタジー仲間にして、何がしたいんだろう。
「えっと、もし、転移者なのだとすれば、死ぬから。」
「は?」
本題を聞いて、さっさとここを去ろうとした私に対して、後輩は何とも物騒な事を言ってのけた。
「だいたい2年くらいでこの世の自浄作用が働いて転移者は死ぬんだ。普通はね。」
「私、32歳ですけど。」
言うと、
「そうなんだよねー」
後輩は、首をかしげる。
「死なない方法は、あるにはあるんだけど。」
先輩が、それをやってるとは思えなくて、と、後輩はまじまじと私を見る。
「いくつかあるんだけど、一番一般的なのは、こっちの世界の生き物になりすますこと。ふりをするって言うか、強制的にこの、ステータスを書き換える。ある意味偽造パスポートで入国するようなもんだね。」
そんなことできるんかい。
「でもまぁ、できる人とできない人がいて、できる人が限られてるから。」
先輩は、少なくともステータスにドワーフって書いてある以上、その方法じゃないのは間違い無い。と、親子で頷きあう。
「後は、力でねじ伏せる方法。自浄作用って言っても、自然現象と言うよりは、世界の力が働いてるって事だから、それ以上の力でねじ伏せる事ができる。」
「それ以上の力っていうと?」
胡散臭いとはいえ、命に関わるのならば、一応聞いておいても良いかな、と思い、もう少し話を聞く事にしたが、
よく考えたら、お馴染みの詐欺の手口な気もする。
「自浄作用と、同じ系統の力で、運命を上書きするって事。ただ、ここが問題でね。簡単なようで、難しいのよ。」
アリシアさんが、私の前に手をかざしてみせる。
同時に、小さな火の玉がふわふわと浮かぶ。
おおお、これが例の魔法か。
あ、いやいや、これは手品、手品。
「全力出してこの程度なの。向こうとこちらでは、力の種類が違ってね。
向こうの世界は魔力で満ちてて、それを取り込んで魔法を使うのだけど、こちらにはほとんど魔力がないの。
こちらでは、気力とか、神通力とか呼ばれる力を扱えないとダメなのよ。」
手を振ると火の玉はふっと消え、わずかに焦げ臭い匂いが、鼻をかすめる。
「体のつくりがそもそも違って、私たちは魔力は取り込めても、気力は取り込めない。だから、いくらあっちですごい魔法使いでも、こっちの世界ではほとんど何もできないわ。」
ふむ。電気自動車と、ガソリン車の違いみたいなもんか。
いくら凄い電気自動車でも、そもそもの電気がないと何もできないもんね。
「他にもいくつかあるけど、普通にできる事じゃないし。後、可能性があるとするなら、貴女がハーフとか、クオーターとか先祖返り的な隔世遺伝でドワーフである事、なんだけど、、、。」
あんたたち、さっきからまじまじ見過ぎ。
「ないな」
「無いわね。」
おい。
「勿論、ハーフだからって、大丈夫、ってわけじゃないんだけど、大雑把にいえば、半分はコチラの力で守られるわけだから、死ぬ確率も半分みたいな感じね。」
何それ。
そんな雑な感じなの??
「まぁ、それだったら簡単よね。うちの親に聞けば良いんだから。」
簡単に真実に辿り着けそうなので、この話はもうこの辺でいいだろう。
嘘にせよ、本当にせよ、うちの親に聞けば、何かしらは分かりそうだ。
「まぁ、そうね」
「ちなみに、アリシアさんは自浄作用で死なないんですか?」
後輩がハーフなのはわかるとして、アリシアさんは純血だと後輩は言ってたはず。
「私は、管理者、というか、ちょっと特殊なのよ。」
アリシアさんがいうには、全ての世界には創造神がいて、魔王や神、天使、悪魔なんかが世界を治めているんだとか。
実在するのか、、、神、、、。
近年、他世界からの召喚で、こちらの世界の人間が連れ去られる状況が爆発的に増え、こっちの創造神が激怒しているのだそう。
まさか、、、近年の異世界物語ブームって、、、。
いや、まさかね。
「そりゃ、自分の世界の民をサクサク連れ去られたら、怒るわな。」
後輩は、苦笑する。
しかしながら、召喚する人たちをその都度処分しても、また新たに召喚する人が現れ、キリがないのだと。
それに、他の世界の創造神も、自分の世界の民を処分するのは気が重い。
しかも、この世界の民は、たまに悪魔召喚なんかはするが、他の世界の人間を召喚するなんてことは、そうそうない。
つまりは、一方的に連れ去られる訳だ。
なので、この世界の創造神は他の世界の創造神に、自分の世界の不始末は、自分の世界の人にやらせろと、言ったわけである。
「それで、来たのが私。多分、他の世界からも数人来てるはずよ。」
役目を持ってこっちに来ているので、創造神の力で守られており、死ぬことはないんだそう。
そして、その仕事を補佐するためにいるのが後輩であり、この世界の創造神を裏切らない様に用意されている人質でもあるんだとか。
「私が裏切ると、この子、死んじゃうのよ。」
困った様な顔をしつつも、あんまり困っていなさそうなアリシアさん。
「逆に言えば、裏切らなければ、安全は保証されてるわけだしね。」
強制的に子供を作らされたのかと聞けば、勝手にこっちで恋愛して子供作ったそうだ。
使命を帯びて来てる割には、なんか自由な人だなぁ。
「因みになんですけど、異世界からこっちに来ると、なんか特殊な能力とか得られたりするんですか?」
これこれ。
私も異世界から来たなら、ステータス見るだけじゃなくて、もっといろいろできたら、信じるのに。
と、思ったが。
「残念ながら、異世界からここに来るときは、逆に能力が奪われるのよね」
という、心底がっかりな答え。
そして、この世界の人間が狙われる理由がそこにあるんだとか。
「この世界の人間は、何にも染まってない、力ある器なのよ。
私たちの世界から、コチラへ来ると、この世界の理りに従って、みんな能力を奪われてしまうの。
ある意味順応してるわけね。
逆に、他の世界からこの世界の人を呼ぶと、
移動の際に、向こうの世界に順応するために周りにある魔力や能力を必要以上に取り込んでしまうの。
だからこそ、兵器として他の世界で重宝されてしまうのよね。」
おかげで最近、あちこちの異世界でパワーバランスが崩れて大変なことになってるとか。
「なんか、突拍子がなさ過ぎて訳がわからないけど、私の出生次第では、死んでしまうかもしれないから気をつけろって事ね?」
そうね、とアリシアさんが苦笑すると、
「私たちの元いた世界も、こんな事が続けばどうなるか分からないですからね。私は、この世界に来てしまった同胞を保護したり、逆に召喚されそうな人間を探して阻止したりする役目を担っているの。上手くいけば、その召喚式を利用して、こっちへ飛ばされてしまった異世界人を元の世界に返す事だって出来るのだから。」
なんか、大変なことやってるなぁ。
「そもそも世界の歪は、未熟な召喚式のせいで、出来てしまうものですからね。召喚が増えれば増えるほど、関係ない異世界の住人もこちらへ来てしまうというカオスな状況になってしまいます。
そして、創造神たちは、それを良しとしていません。
あまりに酷くなると、それぞれの世界を全て一から作り直すことも考えなければならない、と言っていました。
それはとても困ります。」
だから、私が頑張らないと。そう言って笑う。
「もしあなたが元の世界に帰りたいなら、いつでも言ってくださいね。」
とは、言われても、私まだ異世界人の自覚ないんだけどなぁ。
「俺は、気力の器が大きい人を探す力があります。」
と、後輩も話を挟む。
「異世界へ連れ去られるのは、そういう人が多いですからね。後はその人の周りを警戒していれば、そのうち次元の歪が現れます。その魔法をこちらから少し弄って、先輩を放り込めば、召喚自体は不発に終わり、先輩は向こうの世界に帰れる訳です!」
ほう。
なるほど、それは効率的だ。
「しかしね、後輩くん。私は、この世界に生まれ育っているから、別に異世界へ行きたい訳じゃないのだよ。」
キッパリというと、何故か親子は少し残念そうな顔をしていた。
まぁ、異世界がらみで困った事があれば、こいつらに言えば良さそうだし。
私は普通の生活に戻って良さそうだ。
「まぁ、先輩が帰りたくないなら、無理強いできる話ではありませんし、この世界の創造神から言われているのはあくまでこの世界の住人の保護であって、向こうの世界の住人を返すことではありませんからね。
今日は無理言って、来てもらってありがとうございました。」
後輩とアリシアさんも、とりあえずは私をドワーフにしたり、異世界に送るのは一旦諦めたようだ。
「いえいえ。本当かどうかは置いといて、私を心配してやってくれたことなのであれば、謝られる事でもないし。」
一応、なんかあったときはお願いしますね、と付け加えて、後輩の家を後にした。
謎のステータス画面は、消去、と唱えたら消えたし問題ない。
さて、まずは、、、。
と、携帯を取り出して、母の携帯へ電話をかける。
そもそも、私が純血のドワーフなら、母たちが知らない訳がないだろう。
「あ、もしもし、お母さん?久しぶりー!」
電話口にいたのは、いつもと変わらない、懐かしい母。
でも待てよ?
いきなり娘が、私ってお母さんの子じゃなくてドワーフだったの?とか聞いたら、びっくりするとかそういうレベルでは済まないだろ。
娘の頭がおかしくなったかと疑ってしまう。
世間話をしながら、どう聞けば自然に異世界話ができるのかと考えた末に、1つ思いついた。
「そうそう。あのね。この間後輩の家に行ったときに、美味しいお茶を貰って。」
知らない、と言われると思った。
何それ、最近流行ってるの?とか言われるはずだった。
「ノーショ産のラザクってお茶らしいんだけど、お母さん、知ってる?」
電話越しに、空気が凍ったのが分かった。
今まで楽しそうにしゃべっていた母が、ピタリと喋るのをやめた。
同時に私は全身にゾワっと悪寒が走り、手が震える。
まさか、そんな、、、?
なんだかんだ、後輩の冗談だろうという気持ちが強かったが、一気に全ての話が現実味を帯びてくる。
しばらくの沈黙の後、母は、
震える声で、
『今度の休みでいいから、帰っておいで。』
とだけ言うと、電話を切ってしまった。
私は、母にリダイアルする勇気もなく、ただその場に立ち尽くしたのだった。
次回くらいで異世界行けるといいな、、、




