ブラック企業も真っ青
久しぶりの更新です。
なんか、後輩はへんなクラスらしい。
主人としたものの魔力を一部行使できる、まるでコバンザメのようだ。
いや、虎の威を借る狐というか。
「先輩のそばにいれば、他の魔王にちょっかいかけない限り無敵っぽいじゃ無いっすか!?場合によっては、他の魔王に乗り換えればいいわけだし。」
「おい、あっさり裏切る宣言するなよ。」
「うーん、最強にはなれないけど、最強の側に居座る能力って感じ?面白いわねぇ。」
なんだか楽しそうだが、私としては困った状況だ。
眷属とかいらんし、そもそも同僚が側にいて、エルフとか言ってて、私は魔王で眷属がいて、とか。
中二病も真っ青。
さらには、母親は有名な魔術師で、血の繋がりのない世話係、今まで母だと思ってた相手、赤の他人ですよ。
正直、帰りたい。
あ、いや、私ドワーフなんだから、こっちが故郷か。
でもさ、物心ついた時から日本にいて、日本で生きてるんだから、日本人だろ、もう。
「でさ、私は結局こっちの世界で何をすればいいわけ?」
「本当は、普通に王女として生活して欲しかったんだけど、クラスが魔王だし、魔王城で勇者を迎え撃つ生活を強いられるわね。」
「なんでそうなるんだよ。王女の方が良いよ。魔王退職とかできないの?」
処女をどうのとかいう話ではなくなってしまっている。
結果、私を倒そうが倒すまいが、関係ない路線。
魔王とか、この世界の常識を知らないとはいえ、名前だけで、もう倒して良い相手じゃないっすか。
ゲームなら、説明書なくてもみんなそっちに向かうよね。
「簡単にいうと、昼夜問わず押し入ってくる勇者を名乗る人物を全力で撃退するお仕事です。」
「なにそれ。そんなお仕事全力でお断りしたいんだけど?」
「でもなぁ。魔王になってしまったからには、早い段階で魔王城に行かないと、世界のバランスが崩れて色々大変なことになってしまうけど。」
「10年以上いなかったんだから、今更あと数十年いなくても平気でしょ?」
「いやいやいや、空席のせいで色々問題がね?」
「後釜争いとか、勢力図がーとかそういうのでしょ?」
人間やら魔族やらの権力戦争とか、マジ勘弁なんだけど。
ただでさえ、平和主義の日本人なんだから、ほのぼの過ごしたいよ。
建国シュミレーション的なやつね。
「魔王が魔力を安定供給しないと、自然界の食物連鎖ピラミッドも崩れて色々絶滅したり、世界のバランスが崩れて最悪はこの世界の崩壊まであるのよ。」
「魔王、めっちゃ重要やな!思った以上やったわ!」
はっ。住んだこともない関西弁が出てしまうほどのツッコミどころだった。
そんな重要な魔王を倒すとか、勇者って極悪人かよ。
「魔王は、存在が重要だからね。でも、悪い魔王だと厄介だから、倒して次の魔王に期待する感じ。」
「異世界って雑ね。」
「日本の政治のトップだってそんなもんじゃない。いることが重要で、誰がなっても大差ないような。」
「身もふたもない。」
母親と話してたら、なんか異世界というものが分からなくなってきた。
ブラック企業も真っ青な魔王システム。
「魔王を倒すと、勇者には魔王討伐ボーナスが付くからね。勇者は悪い魔王でなくても殺しに来るけど。」
「勇者って、そんな感じでいいのかよ。」
「まぁ、勇者が強くなるってことは、人間たちにとってもいい事だから、いいんじゃない、多分。」
「そこに、魔王の人権は?」
「無いわね。死んでもかわりがいるから……ってやつですよ。」
「今まで倒したゲームの魔王と語り合いたい気分だわ。」
頭を抱えていると、呑気な後輩は空気を読まずに言う。
「しかし、あれっすね。先輩は処女で魔力が安定してないから、勇者以外に倒されてもボーナス付与しちゃうって事ですよね。」
「うっ。純潔守ってこの言われよう。」
「魔王に生まれついちゃったのが運の尽きねー。」
カミーナはのほほんと笑っているが、笑い事じゃないぞ。
くそ、ドワーフ族全部巻き込んで大騒ぎ起こしてやろうかな……。
「異世界に行くと、自浄作用で死ぬし、ここに居ても、誰かに襲われて死ぬ。悪役令嬢並みの八方塞がりね。」
「はい?悪役?」
私がぼそりと呟くと、後輩が首をかしげるが、気にしない。
全く、世の魔王ってやつは可哀想だわ。転生して魔王になるとか、どんな罰ゲームなんだよ。
よくもまぁ、そこから街を作ったり、世界を統一したり、色々できるよな。
あ、私は転生するまでもなく、生まれついてのドワーフで魔王か。
「さて、清算してくるわねー。」
ダラダラと話しながらギルドに戻ると、ゴブリンの耳の詰まった気味の悪い袋を持ってカミーナは受付に向かった。
ああいうのを持ち歩くのがデフォルトの世界ってマジで気持ち悪い。
どうにかして、現代日本に帰りたい。
「全く、わたしだけクソみたいな転移ボーナスだし。ん?転移。転移だからダメなのか。」
「あ、先輩が変なこと考えてる。」
考え込むわたしを横目に、後輩は面白そうに目を細めた。
イケメンて、何しててもイケメンだな。
ムカつくわ。
「この体のまま移動するから、自浄作用とかが関わってくるわけで。
死んで地球に生まれ変われば、それで良くない!?」
「死ぬ勇気があればそれでも構わないですけどね、ただ、この世界のドワーフが1人死んだとこで、地球に生まれ変われるなんて、微粒子レベルの可能性しかないっすよ?」
「そこを転生ボーナスとかなんかそういうので!」
「そんなご都合主義は、多分通用しないと思うけどなぁ。」
「なんで小説とかでは簡単に行くことが、わたしの場合は上手くいかないのよー!ドラマの続きとか、漫画の続きがきになるー!」
わたしは、頭を抱えて蹲った。
「多分、アレですよ。先輩に主人公属性が足りてないんですよ。」
「は?」
後輩は、クソ真面目な顔をしながら、主人公属性とか言いだした。
こいつも病気か?
「小説や漫画でご都合主義が適応されるのは主人公だけじゃないっすか。
もしここが小説の世界なら、主人公は別に居て、先輩はそれに倒される役、みたいな?」
あー……。
なるほど。それ、絶望しかないな。
まぁ、よく考えたら、普通に生きていたつもりがいきなりドワーフとか言われて異世界に来たわけだし。
主人公っぽくないよな。
32歳OLだし。ドワーフだし。普通はもっと若いJKとかが選ばれるだろ。種族もエルフとかドラゴンとかな!
「換金できたわよー。路銀も溜まったし、転移施設使ってさっさとドワーフ村に行こ!」
「転移施設?」
「ああ、特定の村や町にしかない施設なんだけど、登録された町に転移できる優れもの!問題は、使うのに馬鹿みたいに高いお金を払わないといけないって言うのと、自前の魔力を使って起動しないといけない、って事?」
カミーナは、換金したお金の入った袋をジャラジャラと揺らす。
「金策にも悩む魔王って……。」
そんなことを思いながら、私達はその施設とやらへ向かった。
なんと、そこは、さっきクラスチェンジした教会。
どうやら地下にその施設があるらしい。
「よろしくお願いします。」
カミーナがお金を渡すと、シスターはにっこりと笑った。
重要な収入源なんだろう。
案内された先には、一部屋を埋め尽くすような大きな魔法陣があった。
天井までびっしりと呪文や模様が書き込まれている。
「では、どうぞ。」
「ありがとう。」
シスターが部屋から出て行くと、カミーナはパタパタと服を整え始めた。
「さ、あなたたちも。」
そう言って、わたしの髪を少しだけ整えると、満足そうに頷いた。
「いくわよー!転移選択、ドワーフ村!」
体から、魔力が少し抜けたようなふわふわした感覚の後、私達は光に包まれた。
「帰ってきたぞー!」
カミーナが嬉しそうに叫んだが、そこは、先ほどとよく似た地下っぽい魔法陣だらけの部屋だった。
もっとこう、王宮にドーン!みたいなの無いわけ?
ステキな王子様が!みたいなのとか。
「この、常に実感にかける感じが、なんともいえないわね。」
「所詮はモブですから。」
「モブ言うなよ。悲しくなるわ。」
そんなわけで、私達は当初の目的通りついにドワーフの村に辿り着いたのだった。
長かったけど、なんとかドワーフ村につきました。
相変わらずこっちはゆっくり更新ですので、生暖かい目で見守っていただけたら、と思います。
いつも有難うございます。