ある意味初体験
流行りの異世界モノに乗ってみました。
そして、二話目にしてやっと主人公と後輩くんの名前が出てきました。
「初めまして、中村絵里といいます。宜しくお願い致します。」
次の休みのこと。
何度も、当日仮病ですっぽかしてやろうかとも思ったが、毎日毎日すごく嬉しそうにしている後輩を見ていると、一回くらい付き合ってやるか、と言う諦めの気持ちが湧いてきた。
そもそも、これをすっぽかせば、また何度でも付きまとわれるんだろうし。
それは勘弁してほしい。
「初めまして、エリー。私は、レオの母で、アリシアといいます。大森アリシア。宜しくね。」
後輩、レオって名前だったのか。初めて知ったぞ。
なるほど、道ですれ違ったら、ほぼ間違いなく振り返る自信があるほど、彼女は美しかった。
透き通るような肌に、長い手足、女性としてはなかなかの長身で、まっすぐこちらを見るその目は、後輩のものよりさらに赤い。
後輩の言うハーフっていうのは、そういう事なんだなと少し納得した。
おそらく、名前からしても外国の人なのだろう、美しいブロンズのロングヘアーが、風になびいて、、、風?
窓は締め切ってあるし、エアコンも設置されているようには見えない部屋で、彼女の髪は風になびいていた。
「先輩、飲み物何がいいですか?」
私が怪訝な顔をしながら、風の発生源を探しているのを、もてなし不足と感じたらしい後輩が、慌ててお茶を淹れにキッチンへと向かった。
「何でもいいです。というか、お構いなく。」
なびき方を見ながら、おそらくこっちだろうと思う方向にあるのは、いくつかの観葉植物。
あまり詳しくはないので種類まではわからないが、観葉植物の置いてある台のあたりから風が吹いているように見える。
「ドワーフさんなら、アレがいいんじゃないかしら。ノーショ産のラザク。」
おい。何だその謎の飲み物。
私に一体何を飲まそうとしている。
と言うか、母親まで一緒になって、私をドワーフ呼ばわりとは、、、後輩の謎思考は母譲りだったのか。
見た目だけなら良かったが、不思議ちゃん属性まで遺伝してしまったのだな。やはり、少し哀れなやつ。
「あーね。了解。」
そこ、了解するな。どうせなら普通のコーヒーとか出せ。
「それにしても、驚きました。こちらの世界で、ドワーフさんに会えるだなんて。」
アリシアさんは、私を、まじまじと見ながら、不思議そうに呟いた。
「ドワーフ族は基本的には、魔術を阻む結果に覆われた、地下に街を構えていますし、ドワーフ製の抗魔装備を身につけていることが多いので、そう簡単には転移とかしないんですけどね。」
どうやら、私の服をチェックしているようだ。息子が連れてきた女のファッションチェックか?
上下ともにウニクロですけど何か?
「ふむ。何処にも魔力を感じませんね。」
そりゃな、ウニクロで、魔力のこもった服売ってないだろうからな。
「はい、先輩。ラザクだよー。」
見た目は、ただのハーブティだった。何か、グロテスクなものが出てくるのかと思って心配していたが、私が知らないだけで、流行りのハーブティなのかな。
「俺たちエルフは、魔力抵抗があるとはいえ、子供やハーフなんかが、たまに次元の隙間に落ちたりする事があるんだけど、ドワーフはそうそう聞かないね。」
もう、自分はエルフ前提で話進め始めやがった。ちょっと綺麗な顔してるからって、何言っても許させる訳じゃないぞ?
「母さんみたいに、研究目的でこっちに来てる人も居なくはないけど、基本的には一度こっちへ来たら、帰れないからね。」
漫画のような話を適当に聞き流しながら、出されたお茶に手をつける。思った以上に不思議な味だった。
一口目は甘く、それでいて鼻に抜ける香りは爽やかで、何だか懐かしい、何だか母を思い出すような香りだった。
飲んだ事がないはずなのに。
「美味しい、、、」
思わずつぶやくと、
「そうでしょう。ドワーフの日常的な飲み物ですからね。日本人が緑茶を好むようなものです。」
、、、どこまでいっても私をドワーフにしたいらしいな、この親子。
「いや、そもそもね、私は日本生まれの日本育ちですし、大森くんが私をドワーフだと思い込んでるようですけど、正直意味がわからないんですよ。」
真っ向から否定してみるが、
「またまたー。先輩が人間な訳ないじゃないですか。」
どついたろか、こいつ。失礼極まりないな。
「確かに、チビでドワーフとかからかわれてもおかしくない容姿してますけど、そこまで言われるほど、人間離れしてるとも思ってないんですけど、、、」
「いや、見た目じゃなくて。」
じゃあ何だよ。
「種族のとこに、ドワーフって書いてあるし。」
何処だよそれ。
「ただ、ハーフやクォーターでも表記は強く出てる方が表示されるんで、例えば隔世遺伝とかかなとも思ったんですが。」
「ちょ、ちょっと待って。さっきからわけわかんない。表示されてるって何。種族って何よ。」
え?
と、2人は顔を見合わせる。
これじゃあ、まるで、変なことを言ってるのが、私の方みたいじゃない。
「俺たちは、魔法で相手の簡易ステータスは見れるんですが、もしかして先輩、自分のステータス見たことないんですか?」
この世界の人間で、自分のステータスを文字表記で見れる人なんていねぇよ。
それじゃあまるっきり、ゲームの世界じゃないか。
「本当に、知らないで生きてきてるんですね。驚きました。それでは、私たちの言動は、相当失礼に当たったことでしょう。お許しください。」
急に態度を改めたアリシアは、改めて私に向き直ると、
「てっきり、私も息子も、貴方がドワーフであることを隠して生きていると思っていたの。だから、異世界から来た仲間がいることを教えてあげて、守ってあげないとと、、、早とちりをしてしまったのよ。」
後輩は、気まずそうに頭をぽりぽり掻いている。
リアルにこんなポーズするやつ初めて見た。
まぁ、だいたい後輩たちが言いたいことはわかった。
私が、ドワーフであることを隠して生きている可哀想な転移者で、この世界で不安で大変だろうから、守ってあげようと思ったと。
だから、新人で配属された後輩くんは、当初からずっと私に構い続けてたのね。
言いたいことはわかったが、私は人間だと言っているのに。
ステータスって何だよ。
あれか?ゲームでステータスボタンを押したら、自分のステータスが表示されるやつか?
「ステータス、の意味もわかりませんしね。アレですか?何かこう、イメージしながらステータス!と唱えると、自分の、、、」
『ステータスを起動します』
、、、なんか起動した。
自分の眼の前に、透明なモニターでもあるかのように、変な文字が出てきた。
手で触ってみるが、触れず。
思いっきり顔をしかめながら、後輩たちと謎のモニターを交互に見る。
どうやら、後輩たちには、これ自体は見えていないらしい。
だが、私の様子からして、ステータスの魔法が起動したことを理解したのだろう。
「この世界の人間には、そんなことできないからね?」
ボソッと言った後輩の言葉に、
「分かってるわーーー!!!」
絶叫で答えたのだった。
なかなか異世界に行きません。
いつになったら行くんでしょう。




