イケメンは正義
カミーナの雑さが際立ちます
いやー、久しぶりに見た気がするけど、一週間程度か。
「センパーイ!会いたかったですー!」
「あら、あの時のイケメンじゃない。」
「あれ?この人誰っすか?この人もドワーフですよね?俺のこと知ってる?」
黙ってればイケメンだが、喋ると結構軽い。
何でも、近くの町まで護衛がてらに馬車に乗せてもらっていたらしい。
今は、馬車の荷台に全員乗せてもらっている。
「あ、初めまして。マリの母親がわりのカミーナと言います。よろしくお願いしますね。確か、アリシアさんの息子でしたっけ。」
「あ、どうも、俺は大森レオ。本名としてはレオンハルトと言います。うちのかーちゃんのこと知ってるんですね。母親がわりって?どーゆーこと?」
状況が分かっていない後輩のために、現状をかいつまんで説明する。
私が元々は異世界出身のドワーフであること、
カミーナは母親ではなく世話係の神官である事、
魔王か勇者の器だったのだけれど、暗殺されることを恐れて異世界に逃がした事。
なんども召喚に失敗してどうしたもんかと思っていたら、なんか勝手に帰ってきてしまった事。
「魔王の器だったとか、凄いねー先輩。魔王か勇者の器だとか言われてても、大抵勇者なのに。」
そりゃまぁ、その他大勢の勇者と違って、魔王は欠番がないと産まれないらしいからね。
「そうなのよー。おそらく勇者の器だろうから、とりあえず異世界に逃がして、ある程度で呼び戻せば、万事うまくいくと思ったのに。魔王ですって、魔王!おかーちゃん、びっくりですわ。」
何だそれ。
「でも、それなら魔力も強大ですし、魔王に収まれば何の心配もないのでは?」
「それがね、お兄さん。魔王の魔力って、血を浴びると奪えるじゃありませんか」
「え?だって先輩、女性でしょ?」
「は?」
「経験済みの女性は、大丈夫、、、え?うそ?ほんと?」
絶対こいつを殺す、、、。
同情している、魔術師の男も、目を見開いて、こっちをみている。この野郎、マジ!?みたいなその顔やめろ。
「でもあんた、ドワーフの女性は身持ちが固いとかどうとか言ってたじゃない。」
「いや、だから、てっきり転移者だと思ってたから。故郷に旦那も子供も残して来てると、、、。既婚のドワーフの浮気は死罪とか聞いたことあるし、、、。まさか、32歳で、そんな、、、」
プルプルと肩を震わせているカミーナに全力でツッコミを入れる。ほんと失礼なカーチャンだ。
「ところで、お兄さん。うちの子どう?」
「ああああ、やめてぇぇえ!」
笑いながら、後輩に対しても交渉を始めるカーチャン。
やめてくれ。知り合いにそんなこと頼むとかまじで死ねる。
「先輩、可愛いですし、俺としては全然構わないんすけど、多分無理ですよ?」
「お兄さんも、転移してるわけでしょ?能力値的には強いんじゃないの?」
「待ってください、カミーナさん。」
苦笑しながら、後輩は言った。
「もしかして、器が負けを認めた相手と交わったとき、体に力が染み入って、血を浴びてもその力を奪えなくなる、っていうのを、勘違いしてません?」
「え?この子より、強い人に初めてをもらって貰えばいいんでしょ?」
「そう言えば、ドワーフ族には、あまり英雄や魔王が産まれないんですね。そのせいで、言い伝えも曖昧のまま伝わったのでしょうか。」
ちょっと待て。そんな曖昧情報のまま、私の貞操が奪われようとしてたの?無駄に終わる可能性まであったってこと?
流石にそれは凹むなんてもんじゃないよ!?
「ちょっと、かーちゃん!適当なのにもほどがあるじゃん!」
「そうなの、、、?」
「負けを認めた相手、と言うのがアバウトすぎて分かりづらいんですよね。要は、簡単に言えば、惚れたら負け、ってやつです。」
惚れたら負け?つまり、それは、えーっと、、、
「先輩が、本当に好きになった相手なら、別に先輩より弱くても大丈夫ですよ。」
「じゃあ、悩まなくてよかったじゃない。ほら、早く誰かイケメンに惚れなさいよ」
「カミーナさん、急かしちゃダメですよ。負けを認めるほど惚れた相手に捧げるのが重要なのであって、惚れてない相手に捧げてしまったら、魔力のバランスが崩れてやり直しは効きませんよ?」
「、、、。てへっ」
暴力はいけない、と思いながらも、何度この義母を全力で張り倒したいとおもったことだろう。
要は、ドワーフ族の拙い知識のまま、異世界へ放り出し、連れ戻せずに四苦八苦し、最後は適当な情報のまま私のの貞操まで、、、。
てへ、で済む問題か!
「ま、まぁ、でも、惚れた相手がいればそれでいいのよね。あなたはそれでも姫なんだから、いくらでも相手は探せるわ。とにかくドワーフの国へ帰りましょう。」
前提条件が、悉く翻ってたり、何だか納得いかない感じではあるが、とりあえずは帰るしかないのか。
「ちなみに、先輩」
頭をぽりぽりかきながら、後輩が言う。
「俺、エルフの里目指してたんだけど、なんかすごい遠いらしくて疲れたからさ、とりあえずドワーフの国についていってもいい?」
「それは別に構わないけど。アリシアさんと連絡取ったりできてるの?」
「それが、なんか通信がおかしくて、こっちに来てから一度も連絡取れてないんだよねぇ。」
「あの変な声のせいなのかな?」
「変な声?」
あ、カミーナにはいってなかったんだっけ?
「なんか、向こうで変なのに襲われたとき、私の器だとか何だとか。そんな声が聞こえてね。」
「私の器?なんだろう?」
3人で考え込みながら、とりあえず一番近い街へと馬車は進んでいった。
危うく無駄に、初めてを散らすとこでした。