なんか見覚えがある
まだ、異世界に来て数日しか経っていません。
それから2人で、あーでもないこーでもない、と魔法の実験を重ねた。
魔力を込めすぎたり、膨大すぎる情景をイメージし過ぎないように。
どうやら、私が、山火事をイメージしたせいで、それを再現できるように最大まで強化した火球を、成功率操作がありえない可能性を全て引っ張り出し、錬金術を駆使して強化し、ラストアタック補正を用いて何倍にも跳ね上げた結果、西の荒野にものすごいトドメの一撃を与えることになったらしい。
再現しろと言われても困るほどによくわからない。
そんなわけで、カミーナが見本を見せる、それを真似すると言ったものすごく単純な練習方法に変えた。
再現したいイメージがカミーナの術なので、結果もそこに収束する。
そのおかげで、初心者レベルの魔法が使えるようになった。
痴漢くらいなら撃退できる!
「無敵感すごい!」
カミーナのマネなので、世間一般的なサイズの火球より、僅かに強いらしいが、まぁ問題ない。
他に、氷球、閃光球なども使えた。
それより上位の魔法は、何が起きるかわからないので、保留である。
「小学生レベルの魔法でそんな無敵感出されるのも困るけどね。」
「手から火の玉出るとか、地球人からしたらものすごい事なのに。」
いくら私とともに数年間地球にいたとはいえ、やはり彼女も剣と魔法の世界の住人である。
魔法が使えることが普通で、使えることによる万能感とかはないのだろう。
「因みに、ずっと疑問だったんだけど、こっちの世界って異世界人いっぱい居るんでしょ?」
「いっぱいとは言わないけど、まぁ、そこそこ居るわね。」
「その人達は、死んだり元の世界に飛ばされたりしないの?因果律?みたいななんかそれで。」
ああ、それね。と、カミーナは荷物を背負いながら答える。
「この世界は、異変を受け入れる世界なの。異常も全て正常なわけ。だから、異世界人が来ようが、突然変異ですごいことが起きようが、全てはあり得る事なのよ。」
なるほど。
異世界人も含めて、この世界の仕組みに組み込んでしまうのか。
向こうの常識が通用しないって言うのは、そう言う事なのね。
「さ、そろそろ行きましょう。スライムのレンタル、追加料金取られちゃう。」
「まぁ、流石に3日も借りてればねぇ。」
なんだかんだ、私が魔法を加減して使えるようになるまで、3日かかったのだ。
「ホント、もう勘弁してほしイね!」
犠牲になったスライム(分身体)は、58体。
西の荒野は、更地になり、灼熱の炎が吹き荒れ、突如全てが凍りつき、竜巻や嵐が吹き荒れたかと思えば、物凄い雷が落ちて地面が割れ、再び炎が吹き荒れ、なんか大変なことになっているらしい。
「ここまで分身体を犠牲にしたのは初めてダヨ!」
スライムくんは、御立腹の様子です。本当にすみません、、、。
しかし、本当に便利なスライムである。威力を殺しきれない場合は魔法ごと転移して人的被害のなさそうな場所に行き、そこで力つきるらしい。
そして西の荒野が地獄絵図になったのだとか。
「あははは、ごめんね、またそのうちよろしく!」
「出来れば、ご遠慮したイね!」
そんなこんなで、出るときは、隅っこのドアから出られるらしい。
ドアを開けると、そこには初めに入った狭い地下室があった。相変わらずその辺にはスライムがポヨポヨ跳ねている。
そのうちの一つがこっちに寄ってきて、
「ご利用ありがとうございまシた、バイバイ!」
「ああ、あなたがそうなのね。ごめんね、見分けつかなくて。」
「全然顔が違うデしょ!1番のイケメン!」
「オスなの?」
「どっちでもなイよ。人格の元になったのがオトコなダけ。」
ぽよん、と、胸を張った?ような気もするが、とりあえずわらび餅が揺れてるだけなのでよく分からない。
「お世話になりました。バイバイ」
スライムに手を振ると、向こうもプルプル揺れて答える。
特に感情はなかったが、3日も一緒にいるとなんとなく愛着がわくな。
可愛く見えてきた。
「さ、とりあえず最低限、自分の身は守れそうだし、ドワーフの村に帰りましょう。」
「村にはさ、私の両親がいるってことだよね?」
元来た通路を戻りながら、ギルドの一階へ行く。
地下が訓練スペース、一階が受付、事務所なんかは二階にあるらしい。
「居るわよ。王様と、王妃様。2人とも健在よ。」
「え?王様って体調崩してたんじゃないの?」
「ああ、、、あれね、、、」
カミーナは、私から目を逸らし、大きなため息をつきながら、受付で手続きを済まして、そのまま外へ出る。
「王様は、体調を崩してる、と言うか、精神的なものというか、まぁ、病名を聞けばわかると思うけど」
「なによ。」
あまりにも言いにくそうなカミーナに、少しイラっとするが、何となくわかった気がする。
娘可愛さに、禁忌とも言える術を使い、国で1、2を争う魔術師を護衛につけ、娘を逃がそうとした王なのだ。
要は、親バカである。
「娘に会いたい病。所謂、仮病、よ。」
「ですよね。」
本当に、この世界の人はぶっ飛んでるな。
「そんなわけで、国政に問題が出始めてるから、なるべく急ぎましょう。」
「そんなんで、大丈夫なのか、ドワーフ王国。」
「辛うじてね」
なんでも、魔術を使って定期連絡は取っていたものの、やはり我慢の限界が来たらしい。
こちらの世界の方が進みが遅いとはいえ、10年以上娘に会ってないのだ。辛い気持ちは分からなくもない。何だかんだ、私を守るためにやった事なのだから。
「貴女も、世界の補正が働いて若返ったとはいえ、何でかな?本当は後10歳くらい若返りそうなものなのだけど。」
私をまじまじと見るカミーナは、私のお母さんと言うよりは姉といったほうがよさそうな見た目にまで若返っている。先日は36歳と表示されていたが、見た目的には30歳行くか行かないか位である。
「貴女は、20歳くらいに見えるわね。」
「32歳から20歳になったのなら、相当いい方だけど。」
喜んでいいのか何なのか分からないが、まぁいいか。
そんなわけで、私たちはドワーフの村に向かうことにした。ここから歩いて3日ほどのところにあるらしく、まともな交通手段はない。
馬車などを借りるには手持ちが心もとないので、野宿も視野に入れて徒歩での移動である。
しばらく街道を進むと、何やら森の奥がザワザワしていた。何か嫌な気配を感じる。
カミーナは、警戒しながら私の前に立ち、ゆっくりと進む。
「魔物の気配ね。後、人がいる気がする。」
確かに、何をいってるかは分からないが、人の声が聞こえるのは間違いなかった。
馬の鳴き声も聞こえるので、馬車が魔物に襲われた、とかなのだろうか。
よくあるパターンだな。
「中にお姫様が乗っていたりして、助けたらご褒美くれたりして。」
「むしろあんたがお姫様だからね?」
「あ、そうだった。」
カミーナから、雑に扱われているせいで忘れがちだから、私もれっきとしたお姫様らしい。
「助けに行きたいところなんだけど、姫様を護衛してる立場である以上、下手に危険に首を突っ込むのもどうかと思うのよね。」
悩むカミーナに、
「いいよ、私も自分の身くらいは守れそうだし、困ってる人を置いていくのもなんか後味悪いじゃん?」
「それもそうね。じゃあ、無理はしないで、危なければ自分だけを守って逃げるのよ。私はそう簡単に死なないから、危なく見えても、助けたりしなくていいからね。」
二人で頷き会うと、声の方に向かって駆け出した。
「焼き尽くせ!火球」
狼のような魔物の群れだった。
群れ、といっても10頭ほどで、既に数体は死体になっている。
今のカミーナの一撃で、更に二体が動かなくった。
「大丈夫ですか!?」
馬車が一台、御者が1人、あとは散らばる積荷と護衛らしき男が2人。1人は、そこそこ戦ったのだろう、所々血が滲み、息も荒い。
少し後ろで、もう1人が防御の魔法だろうか?手を前に出しながら何かを唱えており、うっすらと光る壁が御者と馬車と、その男を包んでいた。
前で戦っていた男が、苦痛の表情を緩めてこちらを向く。
期待薄だったが、援護が来たことで、安心したのだろう。
「すまない!手を貸していただきたい!」
「とりあえずは無事そうね!あなたは下がりなさい。もう大丈夫よ。」
そういって、有無を言わさずに男を馬車のあたりまで下がらせると、カミーナはニヤリとして魔物に向き直った。
狼のような獣だが、かなり大きい。小型の馬くらいはありそうだ。
新たな敵に、警戒を強め低く唸る。正直怖い。
こそっと馬車の方に近寄りながら様子を見る。かーちゃんが笑ってるのだから、おそらくは余裕なのだろう。
「私を見て逃げない勇気は、褒めてあげます。でも、判断力は低いようですね。」
片手を前に付け出し、呪文を唱える。
それと同時に先頭の一匹がカミーナに飛びかかる、が。
「氷球!」
手から放たれた数発の氷の球に触れた狼が、あっさりと凍りつく。
たまたま木に阻まれて難を逃れた3体ほどは、そのまま慌てて森へと引き返していった。
こうやってみると、かーちゃん強いなー。
「ありがとうございました、助かりました!」
「動かないで、治すから。治癒。」
白い光に包まれると、男の傷は綺麗に消えた。
ほっと息を吐く男に、カミーナはニコニコと笑いかける。
「間に合ってよかった。じゃ、私達はこれで。」
「あ、せめて何かお礼を!」
正直カミーナは、転んだ人に手を貸した程度の感覚なのだろうが、向こうからすれば命の恩人である。
さっさとその場を離れようとしたカミーナを呼び止め、御者の方へと駆け寄った。
馬車を守っていた障壁が、すっと消えると同時に、なんか聞いたことのある声がした。
「あれ?」
「え?」
見たことのある長身、見たことある整った顔、聞いたことのあるイケメンボイス、尖った耳と綺麗な茶髪。
「あー!先輩だー!」
見覚えのある後輩が、私に向かって手を振っていた。
適度に馴染んでる後輩がいました。
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