異世界チートの恐ろしさを知る
なんか、某ゲーム会社から怒られそうなものが出来てしまった。
うろ覚えなおかげで、ギリギリ著作権には引っかからないだろう、多分。
「とりあえずそれは置いといて、もう一回やろうね。何でそんな物が出てきたんだろう。」
気を取り直したカミーナが、改めて指導を開始する。
真っ赤なチューリップもどきは、とりあえず、可愛いので、何かの時のために荷物のところに置いておいた。
「何故だかわからないけど、錬金術が発動したみたい。」
「なるほど。炎を発生させるための魔力を、錬成に使ってしまったのね。しかしひどい造形。小学生の粘土細工みたいだったわよ。相変わらず、センスないわね。」
くすくす笑いながら、私の手のひらを上に向け、トントンと指でつついて、魔力の集中を促す。
今度こそ、雑念を混ぜないように気を使いながら、目を閉じて火をイメージする。
えーっと、そう、数日前に見たニュースの、山火事の映像。
不謹慎と言われればそうだが、いきなり火をイメージしろと言われても、ガスコンロか、ニュースで見る火事の映像くらいしか、正直わからない。
「手のひらに、魔力を集めて、火を灯し、魔力と混ぜ合わせ、形をイメージして、まとめ上げて、投げる!」
カミーナの言葉を聞き、手のひらに魔力を集める。
そもそもどのくらい集まってるのかはわからないが、何となく手のひらが暖かい気がする。
「え、あれ?」
カミーナが、何となく間抜けな声を上げている気がするが、集中が切れると嫌なので、気にしない。
魔力の集まりが悪いのだろうか。初心者なので大目に見ていただきたい。
「炎よ」
「ちょ、ま、え??」
『...発動』
魔力を集めた。何となく体がだるくなるくらい集めた。そこに火をつけるイメージ。呪文は覚えてないので適当である。
カミーナがうるさい。
「我が前にその力を示せ」
『....発動』
「ええええ??なに??」
目を開けたくなるが、我慢する。
かーちゃんの事だ、だーまされたー!とか言って、失敗する私を見て笑うくらいやってのける。
その手には乗らんぞ。
そして、魔力と混ぜる。ぐるぐる回る感じをイメージして、火の玉ができていることを祈る。
それを、ギッュッとまとめ上げる感じで、、、よし!なんか手の平が暖かい。じんわりではなく、火に当たっているような暖かさだ。
これは来たんじゃない?
「おおおお!!すごーい!できたよ、かーちゃん!」
ゆっくり目を開けると、その手のひらには、ボーリングの玉くらいの火の玉があった。
まとめ上げるあたりを失敗してるのだろう。カミーナのものより大きめで、燃え方が不安定な感じである。
だからカミーナは、慌ててたのかな。もうちょっと大きかったら火傷しそうだもんな。
「じゃあ、投げるよー!」
この距離に火の玉があって暖かいとはいえ、熱くないのは、やっぱり、剣と魔法の国の不思議理論なんだろうなぁ。
火の玉の燃える、、ゴオオオオという音でかき消され、カミーナの声は届かないが、なんか必死でジェスチャーをしている。
パタパタと両手を大きく振り、頭の前で手をクロスしてバツマーク。壁を指さして何かを叫んでいるが、聞こえない。なんなんだよ、もー。
とりあえずいつまでこの玉を持ってていいのかわからないので、壁に向かってぶん投げた。
『....発動』
「ふぁいやーぼーるっ!」
恥ずかしいので、ちょっと控えめに火球アピールもしておいた、が。
「ちょ、ちょっとおおおおおっ!」
横からスライムが飛んできて、私が投げた火球をパックリ飲み込んでその瞬間に消えた。
「へ?な、なんだったの、、、?」
カミーナを振り返ると、ワナワナと震えて拳を握りしめる姿が見える。
「あんたね、誰が全力魔力で世界を破滅させろって言ったのよ。」
「破滅?」
「もー!危なかっタよー!」
地面から、ポッコリとスライムが出てくる。さっき一匹消えたけど、そういえばこいつは分身体なだけでいくらでも代わりはいるんだっけか。
「完全に僕が内部から崩壊するどころか、ここら一帯が更地になるレベルダヨ。」
「火球って、魔力を込めまくるとあんなことになる?いや、おかしいわよね。想定が足りてなかったわ。ごめんね、スライムちゃん。」
「カミーナ様が、この子、魔王だから、一応警戒しておいてって言ってなかっタら、危なかっタよ。」
「火球って、そんな危ないの?」
「普通ね、雪合戦しようって言ったら、手元の雪を軽く丸めて投げるでしょ?ガッチガチに氷レベルで固めた雪を、プロ野球の選手が全力で投げてくるとかいう想定はないわけよ。」
つまり、私が、加減を失敗して、全力でやりすぎたってことなのかな?
そんなこと言われても、初めてやることに加減とか言われたってさ。
「貴女が魔王の器を持った上で、異世界を往復して、魔王にクラスチェンジしてる事を忘れていたわ。てへ。」
「てへ、じゃなイよー!西の荒野が、更地になっただけじゃなくて、高熱に晒されたせいで一帯がヤバい感じになってルンだからねー!」
「まさか、火球で、そんなことできると思わないし!ていうか出来ないし!」
なんかよくわからないけど、西の荒野が大変なことになったということと、火球が無茶苦茶だったって事は分かった。
「最初から、火球に魔力を込めすぎると大変だって言ってくれれば、もう少し慎重にやったのに。」
「込めすぎるっていうのがそもそもおかしいのよ。確かに、さっきの雪玉で例えるなら、魔力の量で硬さを上げ、魔術の能力で投げる速度を上げて、そういう形で威力を上げる程度のことはできてもおかしくはないのよ。でもね、それだとしても所詮は雪玉なのよ。いくら硬くしても雪玉。高速で投げても人としての限界はあるでしょ?」
まぁ、そりゃ、いくらものすごく走るのが早い人が居たとしても、100メートルを5秒で走れるわけはない。
幅跳びで遠くまで飛べるとしても、20メートルも30メートルも飛べるわけはない。
「その限界をぶっ壊していたわけ。雪合戦に手榴弾や拳銃持ち込んで暴れるようなもんよ。さっきのは火球とは言えないわ。」
カミーナは、深々とため息をついた。
「で、でも、こうやって強い魔法が使えるなら、私の安全は保障されたもんじゃないの!?」
慌てて言い繕うが、彼女は呆れた顔で、
「貴女は、痴漢に会うたびに、核レベルの威力のある爆弾ぶん投げる?」
「あー、、、いや、まぁ、そうですよねー、、、。」
強くならないと、とは思ったが、これではネズミ一匹に地球破壊爆弾を投げる猫型のロボットと同レベルである。
莫大な魔力と力があっても、うまく使えないのなら、全く意味がない。
スキルがあまり役に立たなかったと知った時よりも、なんだかがっかり感がすごかった。
「因みに、炎ってどんなものイメージした?」
「山火事。」
「あんたバカでしょ。」
「そうだよー。スキルまで使って魔法増幅してタし!ボクが死んだらどうするんダよー」
「へ?」
カミーナが、スライムを見て、そのあと私に怪訝そうに目を向けた。
「、、、スキル使ったの?」
「スキル?、、、あ!そう言えば、なんか集中してたからあんまり聞いてなかったけど。なんか発動って聞こえたような気もする。」
「成功率操作、錬金術、ラストアタック補正辺りが同時に発動した可能性もないとは言えないわね。」
呆れ切った様子のカミーナと、ご立腹のスライム。
そんなこと言ったって、勝手に発動すると思ってなかったし。
「しばらく、練習しながら、一度ドワーフ村に帰りましょう。」
強ければいいってものでもないらしい。
異世界って難しい。