自己紹介。~ストーカー撃退戦を添えて~
奈都恭悟
性別:男
年齢:17
職業:学生(高校生)
身長:172cm
好き:横文字の食べ物、読書、ガレットとの冗談。
髪は短い茶髪(地毛)、筋肉はそれほどではないが腹筋はうっすら割れてる、目付きが悪め。見た目はヤンキーっぽいが、雨の日に捨て犬とか助けちゃう奴。笑った顔はガレット曰く「漫画だったら周囲に花を描かれるくらいにはキラキラしてる」。
ガレット(G_2726-4385)
ボディ:男性型
身長:159cm
好き:恭悟、機械いじり、冗談。
眉毛に乗るくらいの長さ白い髪、縁なし眼鏡(つるは銀色)、ひょろい。恭悟曰く「インドアガリ勉学級委員(白)」
「なぁ、ガレット。ちょっと聞いてくれよ」
「どうした?家業の陶芸家を継ぐのが嫌で高校進学とともに飛び出すように実家を出てたものの、両親から押し付けられるように生活支援用アンドロイドであるところの僕、型式番号D_2726-4385と契約させれ、嫌々ながらもガレット・デ・ロアから取って“ガレット”という名前をつけ、家においてから早一年半の奈都恭悟君」
「……え、なに今の説明口調?今の誰に対しての説明だったんだ?」
「気にするな、一度やってみたかったんだ。こういうノリ。で、どうしたんだ?またジャイアンに虐められたのか」
「俺はのび太くんじゃねぇ!」
「いや、スマン。よし、今度はふざけない。で、なんだ?」
「あぁ、大変なんだよ」
「大変?なにがだ?」
「俺、告白された……」
「……ほお」
このように利用者奈都恭悟から「今日はあった大変なこと」を聞くのが、僕ことAND-roid G_2726-4385の役目である。
もちろんこれだけのためのアンドロイドではないぞ?
家庭で作る料理ならほぼ完璧に作ることができるし、掃除も洗濯も熟練の主婦以上、プロが提供するサービスと遜色ないレベルでこなせる。
たた、十万馬力とかは出ないし、挨拶と同時に“んちゃ砲”が出たりもしない。……このネタが分からない人はご両親に聞いてくれ。
僕にできることは前述の「家事」と、あとは利用者様の「健康管理」(「今日あった大変なこと」もその一環。メンタルケアのつもりだ)、あとは恭悟が外出してるときの「防犯」だな。
僕らが住む部屋の2階にいるAND-roidは皮膚の接触によって様々な健康診断を同時に行えるというが、僕にはその機能はついてない。(その機能はAND-roidのL型限定のものだったはずだ)
僕の専門分野はもうちょっと別のところにある。まぁ、それは別の機会に。
ともかく、僕の場合 利用者が思春期真っ只中だからメンタルケアに重点をおいていて、今は食事と平行してそれを行っている最中だ。
「告白か、とうとう恭悟にも彼女ができたのか。青春っぽいイベントが起きたんだな。それならそうと言ってくれたら赤飯を炊いたのに」
「まだ彼女はできてないよ。「返事は一週間後でいいかな。ちゃんと考えたいから」って言ったし。あと、お前のその『おめでたいことがあったら取り敢えず赤飯』みたいな、微妙に現代的にズレた知識はなんなんだろうな……」
「なんだ、そうなのか。『おめでたい時には赤飯』って分かりやすいだろうが。クリスマスのケーキみたいに」
恭悟の顔が少し曇る。
「……いや、それがあんまりめでたくないっぽいんだわ」
なるほど、「告白されたぜ、イエーイ!」という話かと思ったが「告白されたよ、どうしよう」という話なのか。
「なんだ、苦手な相手からの告白だったのか?」
「いや、そうじゃないんだ。なんというか、その告白してきた子がちょっとストーカーっぽいんだよ」
「ストーカー」という言葉を聞き、僕の頭の奥の方で警告音が鳴る。人間で言うところの“本能”からの警告だ。
利用者である恭悟に危機が迫っている。
真面目モードに入らなくてはいかないようだ。
「ストーカーっぽいって、何か実害が出たのか?」
「害ってほどじゃないんだけど、なんかここ最近急激にその子と出会う回数が増えたんだよ。行く先々にいるって感じかな」
「ふむ、そうなった原因に心当たりは?」
「えーと、多分1ヶ月前とかにナンパされてた女の子を逃がしてやったことがあるから、その子かも。そのときは顔とかよく見てなかったし」
「ストーカーに気がついたのはいつだ?」
「確信したのは今日告白されたとき。なんとなくつけられてる気がしてたのは2、3週間前くらいかな。」
なぜその時に教えなかったと小言を挟みたくなるが、「ストーキングされてるみたい」なんて自意識過剰みたいで言えないもんな。
しかし、ストーカーか。
期間は3週間、恭悟の言う通りナンパから助けた子だったとして、最長1ヶ月か。
恭悟が気づいたタイミングとは少しズレたのは、大方ストーキング開始から一週間でより恭悟に惹かれ、ストーキングの頻度が増えたからだろう。
恭悟に目をつけるあたり、男を見る目は確かな子のようだが、ストーキングはいただけない。
さて、僕は恭悟を守るためにどう動くべきだ?
相手をストーカーだと仮定する。
学生レベルでありそうなのは?
→現実をねじ曲げ、妄想を元にストーキングしてくるタイプでは?
→ならばその子の前で幻滅させるような言動をとらせる。
→却下。恭悟の立場を悪くする危険性のあるものは回避。
→一番分かりやすい案は?
→彼女を直接叩く【警告:専守防衛を厳守してください】
チッ……。真っ先に最短手段をとれないのが人工物の嫌なところだな。
僕らがAND-roidは“基本的に”こちらから人間に危害を加えてはならない。
友として恭悟のためにできることは……。
「えーと、ガレット?」
「……あぁ、スマン。考え事してた」
「謝んなくていいよ、どうせ俺のことだろ?」
「確かにその通りなんだが、それを言われると無性にムカつくな。よし、決めた。恭悟にはこの件に関して危険な目に合ってもらおう」
もちろんこれは冗談。
実際恭悟を囮にできたら楽にはなるんだが...。
「いいよ」
え?
今なんて?
「いいよ」って言ったか?
自分が危険な目にあってもいいと?
「いいよ、俺がちょっと危険なことすりゃなんとかなるんだろ?」
「いや、でもだな……」
「もとよりこっちは自分に好意を寄せてくれる女の子のことを『なんとかしてくれ』って友達に話してるような奴だろ?だから、俺がどうなろうがどうでもいいから、お前の思うベストアンサーを教えてくれよ」
「……どうでもいいとか、言わないでくれ。恭悟は僕にとってのすべてなんだからさ」
「なんだよ、ガレットらしくないな。またいつもの冗談か?」
「冗談じゃなくて、本心だよ」
AND-roidが利用者に向ける愛を甘く見てもらっちゃ困る。
ぽっと出の女に僕の恭悟を取られてたまるかよ。
「まぁ、お前がその気なら僕のプランにのってもらおうか。一応言っておくが、このプランは恭悟が危険な目に合う可能性がある。いいな?」
「もちろん。お前の考えるプランならどんなものでものってやるよ。任せるぜ、相棒?」
恭悟が僕に笑いかける。
あぁ、僕に向けるにはもったいないくらいの笑顔だ。
さてはストーカー子ちゃんにもこの笑顔を向けたな?そうだとしたら、ストーカー子ちゃんがストーカー子ちゃんになるのも分からんでもないか。
「よし、じゃあ恭悟にこれを渡しておこう」
「これは?見た目は防犯ブザーみたいだけど」
「ああ、防犯ブザーだ」
「小学生か!……お前な、高校生の男子に防犯ブザーを渡してどうする気だよ」
「まぁ、そうだな。恭悟は防犯ブザー鳴らされる側だもんな……」
「ちょっと待て、俺がなにをするっていうんだ」
「いやだって恭悟はわりと目付きが悪い方だし、声も低いし、子ども相手だったら挨拶しただけで鳴らされるだろ?」
「てめぇ、人が地味に気にしてるところを……。よし、分かった。これからお前の股の間についてるものを蹴り潰す」
「おいやめろ」
いかんな、恭悟と話してるとついついふざけてしまう。
……ちなみに、僕はアンドロイドだから人間の性器を模したものはついてない。だからここまでのやり取りはただのふざけあいであり、若き男子同士のそういう描写が好きな紳士淑女の皆様の期待には応えられないことを、ここで謝っておく。
「まぁ、どうせ危なくなったときにこれを押せばなんとかなるゆだろ?」
「あぁ、大体そんな感じだ。ちなみに、普通の防犯ブザーは鳴らしたまま相手に投げつけると効果的なんだが、そいつは自分で持ったまま逃げてくれ」
「了解。んで、どういう作戦でいくんだ?」
「あぁ、まずは告白の返事をする一週間後を目標としてだな……」
僕の作戦をかいつまんで説明すると、まず、相手の出方を見るために返事までの一週間は他の女子に今の1.5倍ほど優しく接したり手伝いをしたりする。返事当日になったら普通に「好きな子がいるから」とかなんとか言って振る。以上。
この二段階の作戦のどこかでストーカー子ちゃんが諦めてくれれば平和的に解決できるし、そうでない場合でストーカー子ちゃんが嫉妬などで恭悟に攻撃を仕掛けるようなことがあれば、防犯ブザーを鳴らしてもらい、それから発信されている位置情報のデータをもとに僕が駆け付けて鎮圧する。
穴だらけの作戦だが、細かいところは恭悟の判断と食事中のメンタルケアの時間での情報をみて考えることにした。
そして一週間後。
物事は、まぁ予想通りにすすんだ。
恭悟は同じクラスの女子生徒に普段以上に優しく接し、途中から女子生徒だけってもの周囲から怪しまれるからと教師や男子生徒にも優しくした。
その結果、ストーカー子ちゃんが恭悟をストーキングする時間と頻度は増え、副次的に周囲の恭悟に対する好感度も上がっていった。(実は後者こそがこの作戦の裏テーマだったりする。)
そして今日がストーカー子ちゃんへの返事の日。
放課後に返事をして、その結果によって作戦の最終段階が決まるわけだ。
無事に終われば万事解決だが、多分そうはいかないだろう。
まぁ、なにかあればこの防犯ブザーでなんとかなるし、大丈夫か。
……この防犯ブザー?
なんでこれがここにある?
→予備を用意してあっただけでは?
→否。予備なんて用意してない
→恭悟がどこからか入手してきた?
→これも否。そもそもこれは僕のハンドメイドだ。
↓
可能性があるとしたら、恭悟が忘れた場合……。
と、その時外からドタドタと足音が聞こえてきた。この足音は恭悟だろう。
鍵を挿し込み回す音。ロックが外れる。
ドアを開け、入ってくる恭悟。
顔は真っ青。走ってきたのか肩で息をしている。
「来たか」「来た」と無言でアイコンタクト。
続けて「来い」「まかせた」と伝えあう。
恭悟は内側から鍵をかけ、普段はつけてないドアチェーンまでつけて僕の方まで来て、ドアの方を向く僕の後ろに隠れた。
そのままどちらも一言も発さずドアを睨みながら数分がたった。
何も起こらないじゃないかと一息つく。
その瞬間、カツカツとこのマンションの住人以外の足音が聞こえてきた。
僕らの部屋の前で足音が止まる。
ピンポーンとドアチャイムが間抜けな音を鳴らす。
後ろの恭悟は首を振っている。
なんだこの嫌な予感は。僕らは息を殺してただじっとしている。
ガチャガチャとドアノブを揺らす音。ドアは開かない。
今度はカチャカチャという針金のようなものを穴に指す音。そしてそのあとにカチャリと言う軽い音が続いた。
頭の奥で【玄関の解錠を確認。データにない人物です】という声が聞こえる。
ガッという音は勢いよくドアを開けたせいで、ドアチェーンが張った音だろう。
だが、これもガキンという音と共に無効果されたようだ。
【ドアチェーンが破壊されたと判断。警戒レベルを1から3に移行】
我が家の玄関が防犯設備としての役割を失った初めての瞬間だった。
「きょーごせんぱーい?どこですかー?」
聞いたことのない声だったが、後ろの恭悟の顔に「あいつだ」と書いてあった。
僕は「寝室に逃げとけ」と黙ってハンドサインを送る。少し前に冗談として作っておいたハンドサインだが、まさかこんなところで役に立つなんて思わなかった。
「戦場で最後まで戦うことを誓い合う熱い男の友情ごっこ」とかしとくものだな。
「せんぱーい、いるんでしょ?せんぱいの靴が玄関にあるの見ましたよー?あ、そうだ聞いてくださいよ、さっき私、せんぱいにとてもよく似た人から『好きな人がいるから君の好意には答えられない』なんて言われたんですよ。笑っちゃいますよね、私が告白したのはせんぱいなのに」
やはり、自分の都合のいいように事実をねじ曲げる妄想タイプのストーカーだったようだ。この手の人間にはまともに言葉は通じんぞ……。
僕はストーカー子の前に躍り出た。
「だから、その先輩に振られたんだろ?君は」
「……?あなただーれ?ここはきょーごせんぱいの家だよね?」
「僕の名前はガレット。奈都恭悟の親友兼同居人だ。恭悟なら今僕のベッドで寝てるところだよ」
「……あなたが誰とかどうでもいいんだけどね。きょーごせんぱいいるんだよね?会いに行くけどいいよね?答えとか聞かないけど」
まるで会話にならんな。まともな精神状態とはとても思えん。
今のやり取りで分かったのは、彼女が恭悟以外視界に入ってないということと、彼女が某ヒーローが好きってことくらいじゃないか。泣けるで……。
現状、こちらからはなにも手が出せない。
なんせ僕らはAND-roidは「専守防衛」。人間を攻撃するときは相手から先に攻撃されからでないといけない。
「利用者の留守中に不審者が侵入した場合は撃退できる」というルールもあるが、今回は利用者である恭悟は家のなかにいる。
まったく、面倒なシステム組みやがって。
相手の戦闘能力は?
→見たところ普通の女子高生。眼鏡におさげと文学少女的な見た目。虫くらいは殺せそうだがネズミとかは無理そうな見た目だ。
相手の武装は?
→だらりと下げた右手に鉈をもっている。恐らくドアチェーンを破壊したのはこれだろう。
こちらの装備は?
→現在の警戒レベルは3。こちらからの攻撃は不可。
取るべき行動は?
→挑発によって攻撃を誘い、警戒レベルが上がったところで即座に迎撃。
よし、ちょっとおちょくってやろう。
「ここを通りたければ僕を……うわっ!?」
ストーカー子が僕の台詞をぶった斬ると同時に顔面もぶった斬ろうとしてきた。
体をひねるようにして、鉈を重り、腕を紐とした振り子の要領で下から上へ振るわれた鉈は見事に僕の顔を掠めた。
【相手の攻撃を確認。警戒レベルを3から4に移行。スタンガンの使用を許可します。】
よし、やっときたか。
ストーカー子は鉈の重みでよろけている。
チャーンス。
僕は右手の握り拳で鉈を殴り飛ばし、左手でストーカー子の首を軽く握り、そのまま手のひらから電流を流し込んだ。
対不審者用武装“とても硬い右手”と“ビリビリする左手”。
名前はダサイがこれが僕のようなAND-roid G型にのみ付属する武装。スタンガンの方は、人が死ぬほどではないが市販のものより少しばかり強力な代物だ。もちろん電撃を受けた側の皮膚にはそれなりの跡が残るが、僕の利用者をビビらせた罰として甘んじてもらおう。
「おーい、恭悟。終わったぞー」
「……えーと、もう大丈夫なのか?あの、ストーカーは……って、なにこれ伸びてるの?」
「あぁ、ちょっとAND-roidとしての能力を行使させてもらった」
「はぁ、なるほど?まぁ、なんにせよ助かったよ。あとは警察でも呼べばいいのか?」
「あぁ、そうだ。……と言ってやりたいのは山々なんだがな。ちょっと今の状況を客観的に述べてみてくれ」
「……マンションの一室に、男子高校生とアンドロイドが、後輩の女の子を気絶させてる」
「……Exactly」
その後、僕らは普通に警察を家に呼び、予想通りの反応をされ、予想通り応援を呼ばれ、予想通りの誤解を受けたが、AND-roidは自ら先手を打って攻撃できないことと、鉈にストーカー子の指紋がついてたこと、さらに恭悟のクラスメイト数人によるストーキングの目撃情報などによって無事に加害者認定は避けられたようだ。
つくづく恭悟に周囲に優しくしてもらう作戦をとってよかったと思う。
と、いうわけで青春の一ページにしては刺激的な、僕と恭悟の絆を少しだけ強めた事件は幕を閉じた。
まぁ、この先もいくつか事件に巻き込まれたりしたりしなかったりなわけだが、またよかったら覗きに来てくれたまえ。