零日目 一つの時代の終わり
一旦昨日投稿させて頂きましたが、こちら側の不手際により規約違反との運営様よりご指摘があったため、改善とガイドラインに沿った投稿プロセスを経て改めて皆様のお目に触れることになりました。
ご迷惑をおかけ致しまして、大変申し訳ございません。
今後このような事が起きない様再発防止に努めさせて頂きます。
※修正前に『プロローグ含めた八日分、八話で構成します』と書きましたが、あまりに長文となるため『午前と午後』で分割させていただきます。その為八話構成から十五話構成と変更させていただきます。大変申し訳ありません。
追記:2017.3.27
腕の中の彼女は、ピクリとも動かない。
呼吸をしている事を示す胸の上下運動も無ければ、心音も無かった。
『博麗の巫女が死んだ』。
彼女の亡骸を抱く八雲紫は、盟友の死が何処かまだか信じられずに居た。
つい一昨日、博麗神社で酒を飲み交わしたばかりだった。
あまり口を開けることが少ない彼女ではあるが、紫の話を黙って聴きそして深く頷いてくれた。心から話して楽しいと思える数少ない友人だった。
立場上敵を作りやすい紫の深き理解者であり、そして心から親友と言える、そんな仲だった。
幻想郷の管理者とその守護者。その域を超えた二人の仲だった。
なのに、
『博麗の巫女が妖怪と相討ちとなり殉職しました』
今日の明け方、式神である八雲藍から無表情で、淡々とそう告げられた時、紫の思考が強制的にシャットダウンした。
『妖怪と相討ちとなり殉職しました』
『妖怪と相討ちとなり殉職』
『妖怪と相討ちとなり』
『妖怪と相討ち』
そのたった一つの事柄を理解するのに、紫は長い時間を要した。
そして頭が真っ白のまま、博麗神社に来て、彼女の遺体を見てもまだ理解出来ずにいた。
『紫の考える幻想郷、私も見てみたいな』
まだ彼女が存命した頃、二人で晩酌を交わした時にポツリとこぼした言葉。
『貴女ならその幻想郷が作れるわよ。その気持ちが折れないのなら』
紫が度重なる博麗神社の妖怪襲撃に頭を悩ましていた時、彼女が掛けてくれた励ましの言葉。
『大好きよ、紫』
感情をあまり表に出さない彼女が、たった一回だけ紫に口にした言葉。
一つ一つの言葉が、紫の頭の中に、その時の彼女の声と共に浮かんでは消えていった。
そして、最後に浮かんだ言葉は、
『次の代の巫女を育てるのが私の役目でしょ? 楽しみだなぁ』
白い光を放つ月を見ながら嬉しそうに、そしてどこか悲しそうに言った彼女。
最期の晩酌となった一昨日の夜。
彼女が口にした最期の言葉だった。
紫が思い描き、彼女も見たいと言っていた『人間と妖怪が共に支え合い暮らす幻想郷』を見ることも無く。
そして、彼女が楽しみと言っていた修行の日々を迎えることも無く。
彼女は逝った。
しかし、不思議と紫は涙が出ることは無かった。
心の中にあるのは、彼女が死んだことを受け入れられない自分。
他に何も無い。
ただそれだけだった。
後ろにいるはずの藍も無言のままだった。
神社に聞こえるのは、ただ地面を叩きつける非情な雨の音だけ。
どれだけ時が経っただろうか。
「…藍」
紫は機械的に一言発した。
「次の巫女、探すわよ」
「御意」
式神はただそう答えるだけだった。