そのスペルダスト 『ニュートライズド』 6
エスメラ鉱山701階層。かつては鉄鉱石という下級中の下級鉱石素材があふれるほど取れると言うだけの場所だったこのエリア。
だが今はそんな共通認識は取っ払われた。スペルダスト「ニュートライズド」の収集が出来る数少ないダンジョンエリアとなっているからだ。
上位ギルドのPCらは此処へと足を運び未使用のニュートライズドを採取し、ポーチがいっぱいになるまで書き込めば脱出する。入手できたニュートライズドを、中位ギルドからエンジョイ勢を多く抱えるニュービー中心のギルドへと配る。ギルドの資産のためという名目はあるが、どれも無理な値段でたたき売りすることはない。
早く進むのなら一人で、遠くに進むならみんなでという言葉があるよう、皆ニュートライズドを使った新たなる対戦環境の研究をし、意見交換をしたいのだ。
事前事業やイメージアップ。そんな副産物まであり、ニュートライズドの需要はここ数週間落ちることはないだろう。
「フン……こんなインスタントなんかにそんな価値が……」
かくいうリザ=グランツも水晶が至る所から突き出る洞窟内、エスメラ鉱山746階層に居た。上位の階層ということもあり、ザコ敵の質も上がっていて鍛え上げられたPCデータを持たないと行きて帰ることすら出来ない一帯だ。
「最も、コレがあるから俺にも及びの声が掛かると言うのは皮肉だな」
手に握るのはこれまでのリザの記憶にない光を放つ水晶。
この推奨型のアイテムを消費することで、自分のスペルプールに新たに『ニュートライズド』が追加されるのだ。
手に握る透明の輝石を眺めてリザは漏らす。後ろでピッケルを振るい、壁をガリガリ削るPCらに視線を移す。
弱小ギルド……というよりかは、弱小になってしまったギルドのPC達。
ギルド同士の格付けを行うのは主にアリーナでの団体戦で決まると言われている。先鋒、中堅、大将と3人で参加し、相手のギルドの中で抜擢されたトップ3が同じように先鋒、中堅、大将と区分され参加する。対戦するまではスペルの構成や装備、パラメーターの微調整は対戦相手からして、まず確認することが出来ない。
しかし、この弱小ギルドはスパイを相手ギルドに飛ばし情報を確認しようとていたのだ。結果としては負け、その卑劣な行いに支持を失う追い打ちを受け、ギルドは分解した。
ギルドの分解と共に、信用を失った彼らに力を貸す者は少ない。力の無い彼らが、敵エネミーの戦闘力が高くなってくるエスメラ鉱山の701以上の階層に行こうとも思えば、リザの様な高ステータスPCの力を借りることは必然だった。
契約内容は簡単。この弱小ギルドの数人がエスメラ鉱山の攻略に向かうため、リザ=グランツは対エネミー用の武装で彼らをサポートし、一定量のニュートライズドの採取を無事に完遂させることだった。
「終わりましたよリザさん。ありがとうです」
「フン……まあこの程度、リザ=グランツからしては容易いことだ。約束の金額を受け取ろう」
「……まだ、そんなもの支払われるとでも思っているんですか?」
「何!?」
ビースト型、ドレイク型の二人の男性PCが透明の空間を周囲に展開した。その二人の手に握られているのは透明の水晶──
「──貴様ら!?」
「でかい顔しやがってムカついていたんだよなー俺ら。でも、アンタはこの前のアリーナで弱いことがわかった。高いパラメーターを鎧の様に纏って自分を保っていることがやっとな、弱い人間」
「チィ!」
宝剣グランヴェイルを抜こうとするが、リザの腕には鉛を何十倍も重くしたような不動感が伝わる。
「PvP用の装備でなく、対エネミー用の掃討武装……今のアンタじゃ俺らには勝てねぇぜ?」
「端から俺を潰すため、武装を整えていたのか!?」
「そのとおりだよタコォ!」
ドレイク族に分類されるPCが、竜の爪を思わせる腕でリザに襲いかかる。続いて襲いかかるビースト。巨獣が如く隆起した筋肉で斧を握り、リザの胴部を捉えた。
一瞬。ことは終了した。
胴部を境目に両断されたリザのPC。ライフ情報を伝える横長のバーは黒く変色し、僅かに残っていた赤いランプも、ビーストPCの振るうトドメの一撃で消失した。
粒子となって一帯を去るリザ。
「帰ろうぜ」
「だな。甘いぜアイツ」
「笑いもんだ」
どうでもいいメモ
スペルダストにはインスタントと呼ばれる区分がある。使えば消費し、即座に対応のスペルを習得するものと、消費をせずアイテムとして使うことで特定のスペル効果を発揮するものの2つ。前者はインスタントと呼ばれ、後者はまた別の名称を用いられる。
この、ニュートライズドは使用することで自分のスペルプールの中に「ニュートライズド」が登録され、以降装備選択、スペル選択の際に出し入れできるタイプでインスタントと呼ばれている。