そのスペルダスト 『ニュートライズド』 3
学生寮でボトルの中身を喉に流し込む。シナプス連動の電極を首筋と蟀谷に装着し、目を瞑ればそこは紗宮アキツの世界だった。
「フゥー……行くぜェ!!」
ホログラムの中に展開される美麗な世界。西洋の商業区といったところか、煉瓦敷の足場を馬車が通り抜ける音や喧騒。武具を携えた人々もその往来を行き来していた。
これも皆、生きた人間。そう、今、紗宮アキツが黄金の長髪を、夕暮れに染まる熱風でかき乱す逞しい男──リザ=グランツというPCを操作している様に人なのだ。
「帝王ッ!」
「帝王だッ!」
「帝王リザ=グランツだ!」
「帝王ッ! 帝王ッ!! 帝王ッ!!!」
あふれる歓声。その黄金の旋風を纏う、男性ヒューマノイド型のPCの名を誰もが反芻した。
素通りするものは、街の演出のために設定されたNPC。或いは、リザ=グランツそのものを拒否する生きた視線か。
(気に入らんか……この俺を……学校で言っていた連中も、結局は此処で結果も出せず爪を噛んでくすぶっている連中に過ぎんッ!)
そうヴァーチャルの世界で、紗宮アキツの──リザの肚の中が渦巻く。自己正当化とも言えるが、同時に事実でもあった。誰もが主人公であると自覚したいのは万人共通。しかし、生きた人間同士の世界では、常に己が中心に立つ訳ではない。能力あるものが讃えられ、吐いて捨てる程居る模造は忘却の彼方へと──
「フゥん……貴様ら、今日もこのリザ=グランツに挑みかかる、勇気ある愚者は……現れたのか?」
低く言い放ったその言葉に反応する群衆。
「はい! 第七アリーナに居る、フェアリーの女型プレイヤーがリザを潰すだの言って場を占領していました!」
「占領?」
「通達でも来てるのではないでしょうか」
「ん? ああ。そうだな。確認はまだだったが──消し飛ばす他ないようだなァ!!」
その背中は迷いが無かった。腰に携えた激レア武器と、誰にも負けない圧倒的なステータス。純粋たる力こそが彼が彼として存在する所以なのだから──