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そのスペルダスト 『ニュートライズド』 13

古城ダンジョン最下層、ライフをデッドラインにまで下げられ壁に打ち付けられるヒューマンPCがそこに居た。


 「どうしたリザ? まだ剣が身体に馴染まんのか?」


 靭やかな刀剣の鍔を地面に突き立て重々しく腰を上げる隻眼の男リザ=グランツ。長い金髪は砂埃を纏い、ザラリと流れ落ちている。


 「そういうお前は、ニュートライズドにかなり順応しているな」


 リザそう言ってが投げかける相手はアルカ=D=ケーニッヒ。その手に握るの以前と変わらない鉄血の宝刀。


 「無強化の餓血剣ブラッドマンティス……以前おれが使っていた物と重量、リーチ、内蔵スペルタイプも変わらないものだ。過剰強化してしまったら確かに打点は伸びるが重量が嵩む。ニュートライズド下ではそれを扱う筋力の確保はできない。だから強化前の我が愛剣を調達したのだよ」

 「要はレギュレーションに合わせてダウングレードしたと……」


 逆手持ちにして胸の前で水平に刀剣を掲げるアルカ。鈍く光る赤い光沢。以前までは強化に強化を重ねた武器には特有の輝きを持っており、共同ミッションでダンジョンに潜る時にはそのオーラある武器を持っていなければ部屋から蹴り出されるのが常だった。

 そのオーラの無い武器、地雷と呼ばれるプレイヤーが持つべき武器であるそれが、この環境下において一つの答えとなっているというのがリザには感慨深いものだった。


 「固定概念を捨てるべきか……」

 「リザ、やはり頭の片隅にあの宝剣がちらつくか?」

 「まあな」

 

 問いかけるアルカを尻目にリザは手に握る銀色の刀剣を眺める。


 「”閃空刀イズナラク”か。確かに以前お前の使っていたグランヴェイルと同じ光・空属性の武器だが、重量やリーチ、その他諸々は全く違う。もっと他に良い武器、或いは俺みたいに無強化のグランヴェイルを使う手だってあったはずだが……」


 靭やかな刀身を持つイズナラク。ニュートライズド下の転生無しステータスでも十二分に振るうことが可能な一刀だ。

しかし、設計がまるで違った。グランヴェイルは重量を代償に、と単純な物理的破壊力、それに加え強力な属性ダメージで押しつぶす設計だった。

対してこの閃空刀イズナラク。比較的軽量で、その分全体的な水準はグランヴェイルとはるかに下回る。重量に対するコストパフォーマンスは良いものの、この武器一本で戦うとなれば火力増強にもう一声上げたくなる性能をしているのだ。


 「なんていうか、対応が大切だなって」

 「対応?」


 アルカは小首を傾げて内唇を軽く噛んだ。


 「以前までの俺は、”押し付けて勝つ”をしていた。相手に対応を迫って、そしてそれができなければ自分の勝利、できれば自分の負け。そういうやり方だ。ニュートライズドの環境が来て思う所があってな。このレギュレーションでは押し付けて潰す特化型は不利だと思う」

 「不利?」

 「トーナメント形式だったり、バトルロワイヤル形式の予選だったり、他人の戦法、戦闘スタイルの確認を取る場所は幾らでもある。一つの武器に頼り切っていたら、分かるやつにはそこを突かれるし、それをメタった構成のスペルデックや装備を組まれる。転生0回で使える武器とスペルの質……それで出来る特化型じゃ、弱点なんて幾らでも浮き出て来る。じゃんけんでグーしか出せません、そう言ってるようなもんだ。これは以前のニュートライズド環境以前でもそうで、手の内を知らしめているのに俺が勝てた理由……それはステータスによる押し付けに対する策が、俺のような廃プレイ以外なかったからだった。」

 「……」


 血のように赤い刀剣を粒子状に分解してポーチにしまうアルカ。直毛の銀髪に指を書き入れ蟀谷に指を添える。思考を巡らせる時の姿勢だ。


 「それとどう重量の関係が?」

 「メタった構成のスペルデックや装備を組まれる、そういう部分だな」

 

 リザは軽くイズナラクを振るった。ジェット機の翼が空を切るような鋭く高い金属音が鳴り響く。


 「ある程度、そういった余裕を持たせておいた方がこっちの指針も変えやすいし、メタられにくい。そして、こっちがメタる時にはそういう余裕が活きてくる。例えば、あのスピラを潰すための秘策を抱えようと思えば、グランヴェイルみたいな大型剣は重すぎる……それに、余った重量とか使って補助スペル積んだりもできるかなって」

 「筋は通る話だな。で、次のキングスウィングの大会。そこで勝つためのやり方はあるのか?」

 「やりようはある。だが、それ以前に地力が足りているかがわからないんだ」

 「ずっと高ステータスに胡座かいてきてたからな」


 軽く笑ってから、アルカはポーチから回復剤をリザに向かって放り上げた。残り体力1割りを下回る体力をしているリザは、その回復剤のボトルの蓋を開け一気に碧色の液体を喉に流し込んだ。

 増えるライフバー。その色も濁りっ気の無い緑色に戻っていた。


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