そのスペルダスト 『ニュートライズド』 10
『ミソギどうしたの? 昼休み離れてたけど』
女子学生寮の一室。携帯端末にそんな同僚からのメッセージが送られていた。
風呂上がりで濡れた髪。湿った黒髪をタオルで束ねて水原ミソギは端末を手に取る。
(昼休み? ああ、あのヒョロガリの……)
脳裏に浮かび上がるのは昼の校舎。如何にもおどおどとしていて自信の無さそうな、まるで次の日死んでいたとしても誰も悲しむことの無さそうな空気そのものの体現。情けなくて弱い人種。脳裏でそう格付けされていたことを再確認する。
そして、そんな情けない男の一時の感情で潰されたギルド。
「マヤ……ッ!」
今ひとつパッとしなかった中学時代。そんな自分にも手を伸ばしてくれて、ゲームの世界と言われようがそこに自分の居場所を作ってくれた同級生の名前が水原には浮かんでいた。
ミストヴァイト旧オーナー。だが、今はもう連絡がつかないのだ。
別の進路、別の高校、別の住居……引っ越しまでしてしまった友人との連絡手段は携帯端末の記録と、ゲームの世界しか無いのに”あの日”以来──旧ミストヴァイトが解体されてからは連絡一つつかないのだ。
(仇は取った。私の中で曇る何かを晴らそうと、あの男をゲームの世界でも、現実世界でもズタズタにしてやった。なのに、どうしてこんなに曇ったままなの……!)
あんな情けない男にムキになっていた自分に、少し苛立ちを水原は覚える。まるで、あんなのと同じ水準の人間だと証明しているみたいだと──
『何でもないよ。気分悪そうにしてたから保健室へ連れて行っただけ』
端的にそう返せば、メッセージの送り主は『えろーい』と返す。何がエロいだ。
『まぁ、ポイントも稼げるし、私一応推薦狙ってるからさ』
『勉強してるの?』
『してない笑』
『じゃあ、今日も早く放課後出ていって、もしかして彼氏?』
『居ないよ』
『ホント? アンタだけ一人で抜け駆けしてたら許さないからね?』
『してないしてない笑』
胸の前まで掲げ上げ端末の操作をしていたが、一段落した所で水原はため息を漏らしてテーブルに視線を落とす。端末の充電器に手に握る小型の機器を連結させ、その少し横でヒョロヒョロと伸びる配線を見る。
「マヤ……いつでもいい。帰ってきて。私が──私がミストヴァイトを保ってみせるッ……!」
蟀谷や首筋、それらに配線を回し先端部分の電極を付ける。瞼を閉じて、一呼吸した後に脳裏で映し出されるのは美しい大自然。空に浮かぶのは岩石と、城。時たま空挺が飛び、それを追うドラゴンを砲弾で迎撃している形式があった。
「ここが、私とマヤの居場所だから」
そこにいるのは虹色の薄羽を背中から輝かす、銀髪のフェアリーPC。腰部に携えた短剣を握り、乾いた地面を踏みしめ街へと向かう。
紛れもなく、スピラ。ニュートライズドを使い、かつての帝王を討った邪帝殺しの妖精だ。