プロローグ ~結婚を厭う娘~
※この作品は、魔法大国の花嫁様!?の続編です。
ルビィリア・コーラルは没訳貴族の娘で、元はかなりの身分であっ
たけれど、今は奴隷同前の扱いを受けていた。
くるくると自然に巻いてしまう、長い黒い巻き髪とチョコレート色
の肌を持つ彼女はとても魅力的である。
しかし、彼女の顔には憂いがあり、黒々とした瞳がうるると何も
していない時も潤んでしまうのだった。
ルビィリア――ルビィが落ち込んでいる理由は、結婚を控えている
からだ。
ルビィは彼の事が大嫌いだった。
親しくもないのに人を勝手に「俺のルビィ」と呼ぶ自分勝手さ、人を
馴れ馴れしく触れるその態度が嫌だった。
でも、ルビィは彼の家に仕えているような物で、彼の所有物とも
いえる存在だったから、ノーなんて言える訳がない。
嫌でも彼が欲しいと言ったら、イエスと言う他ないのだ。
ルビィは逃げたかった。ここではない、どこか遠くへ行ってしまいた
かった。
でも、そんな事が出来る訳がない。
母を置いて逃げたりしたら、母が犠牲になってしまう。
ルビィはそんな事をしたくなかった。
大好きな母を、見捨てて逃げ出したくなかった。
「まだ、結婚なんてしたくないのに……」
ぽつりと呟いた声は、誰にも聞こえずに風に紛れて消えてしまっ
た――。
今、ルビィがいるのは村から少し離れた所にある川の近くだった。
あんまり流れが早くないので、足を浸したりするのにちょうどいい。
ルビィはここに来る事が好きだった。
他に来る人は誰もいないし、安心出来る。
ルビィがこれから結婚しなければならない、彼もここに来る事は
ほとんどない。
母に辛く当たる彼が嫌だった。自分を特別扱いし、着飾らせてお
人形のように扱う彼が嫌だった。
でも、ルビィはそんな人の所へ嫁がなければならない。
きっと、ここに来る事ももう出来なくなってしまうだろう。
ここは危ないといつも優しげに言われていたのだから。
「何で……私なの?」
ルビィは小さく声を漏らした。
どうして、ルビィでなければならなかったのだろう。
もっと綺麗な人はたくさんいるはずなのに。
そう思ってしまい、いけない別の人を自分は犠牲にしようとし
ていると慌てて首を振る。
「そろそろ、帰ろう……」
ルビィはぱっ、と立ち上がった。が、足が滑ってしまい慌て
て手を伸ばすもその手は空を切ってしまう。
「きゃああっ……!?」
小さく悲鳴を上げたその時、ルビィは眩い光に包まれるのを
感じた――。
嫌う相手に嫁ぐ事になり、ためらいつつも従うしかない
ルビィ。でも、ふいに足を滑らせた事によって運命が変わ
ってしまい――!?
異国の少女と武骨な騎士団長との恋愛物語です。