恥じらい。
初投稿です。矢丼と申します。よろしくお願いします。
プロローグ
自分は無感情。
感情が無い。
いつからかは分からないが、物心ついたときから無感情だったのだろう。
別に直そうとも思わないまま、15年過ぎた。
中学最終学年となった今も直す気はない。
直す利点も無いし、直し方も分からない。
この自分、影忌日夢の感情は、何処にもない。
恥じらい。
確か小5の頃か。
自分に感情が無いのをはっきりと自覚したのは。
当時クラスの男子の間で「一番早くクラスの女子全員の胸を触った奴優勝」という大会が開かれていたらしい。
どうやら胸の小さい順に触っていくルールだったそうだ。
だが、自分には誰もそれを知らせなかった。
自分は別に嫌われてなど無かったはずなのだが。
ともかく、自分は帰るために校門へ歩いていたときに胸を背後から触られた。
自分は特に何とも思わずそのまま進んだのだが、それがおかしかったらしい。
「影忌さん、胸揉まれてたよね?触られるだけじゃなくてさ。」
翌日、委員長の夕夏さんに訊かれた。
「そうだったか?」
「いや、確実に手動かしてたし。てか、影忌さん何も思わなかったの?」
「自分は早く家に帰りたかった。」
「何なのあんた?女子っしょ?恥じらいっていうもんがないの?ビッチなの?」
「いやビッチでは…」
「じゃあ何?鈍いの?感情が無いの?…まあいいや、とにかく男子に全女子に詫びさせるわ。あんたが最後でしょうし。」
「…」
当時クラスの中でも一番発言力があった夕夏さん強めにに言われたので、自分は考えてしまった。
憎しみ。
影忌?ああ、あのね。
小学校から一緒だけども…あいつはよく分からない。
いつも何考えているのか。
というか恐らく何も考えていない。
別に悪事を働いているわけでもなく、かといって活躍しているわけでもない。
成績はいい方らしいが。
ともかく私が気にするような人間でもないのだが、何か気に食わない。
モヤモヤしていて気分が悪いので、一晩この感情の原因を考えてみようと思う。
まずは私があいつに抱く感情を分析しよう。
嫌悪…とはまた違う。
あいつのことは嫌いではないし、嫌う理由も無いだろう。
恨み…も違うだろう。
あいつとは恨みを持つほどの関係は無い。
となると何だ…憎しみか。
しかし私があいつに憎しみを抱く理由など…
あった。
私があいつを憎む理由。
胸だ。
私のこのまな板のような胸だ。
元々私は自分の体型など気にすることは無かった。
あの時までは。
小学校5年の時だ。
「一番早くクラスの女子全員の胸を揉んだ奴優勝」という馬鹿げた大会が男子の間で開催されていた。
私はそれの第一の被害者だった。
背後から胸を触られた時、私は咄嗟に振り向き怒鳴ろうとした。
だが、それより先にその男子はこう言った。
「うわ、揉めねー」
その発言は今まで何のコンプレックスも無かった私の精神に直撃した。
きゅうしょにあたった!
更に彼は容赦なく畳みかけて来た。
「あー、早く影忌のFカップ揉みてえ。」
その時の私には「小5で!?」とか「何で知ってんの?」とかいう感想は全く芽生えて来なかった。
私に芽生えたのは、巨乳への憎しみだった。
その後私は、影忌以外の全ての女子に委員長権限で影忌に男子の計画について知らせないよう言った。
それ以来巨乳は全てビッチと考えているし、巨乳の欠点を見つけては頭の中で哀れんでいる。
巨乳より貧乳…いや、スレンダーな体型の方が便利だ。
巨乳は動く度ブルブル跳ねて気持ち悪い。
水泳で邪魔になる。
肩凝りする。
巨乳は不利でしかない。
だが…
羨ましい。
【自主規制】。
「なあ、影忌って【自主規制】するときどんな感じ何だろうな。」
僕らの妄想は、この薙田君の発言から始まった。
「そりゃ喘…いや、分からないですね。」
春江君も早速それに乗る。
二人とも女子へのデリカシーに欠けているんだよ。
「陸奥、お前はどう思う?」
「ん?影忌さんおっぱいの揺れは凄いエロそうだけどね。喘ぎとなると…」
え?お前も同類?何のことかな?
「だよなー。あいつどう見ても感情無いしな。」
「無感情…そもそも誰かを好きになることすら無いと思うんですよね。」
「俺は恋愛の話をしてるんじゃねえ。【自主規制】の話をしているんだ。」
「申し訳御座いませんでした。所詮童t…」
「黙れ氏ね」
「本当に申し訳御座いませんでした以後気をつけます」
「まあ二人とも…おっぱいの話をして落ち着こう。」
「そうだな。下乳上乳どちらが良いかと言うと…じゃなくて。」
「僕は下乳派だな。」
「私は上乳ですね。」
「だから違うっつーの。俺は下乳派だが。さて、影忌はどんな【自主規制】をするかだが。」
「やはり【自主規制】の快感には流石の無感情でも喘いでしまうのでは。」
「僕もそう思う。人間の本能だし。」
「そうだな。俺も同意見だ。だが、あくまでこれは推測に過ぎない。」
「でもどうしようも…」
「いや、本人に聞けばいいだろ。」
「何言ってんの?」
「何言ってんですか?」
ハモった。男とはあんまり気分良くない。
「だってそうしなきゃ分からんだろ。何てことはない。一人でして興奮したことあるか訊くだけだ。陸奥、行ってこい。」
「嫌だよ。春江君、行きなよ。」
「いや…私あの方とは話したことありませんし。やはりここは薙田君が行くべきでは。」
「そうだよ。言い出しっぺ。」
「俺影忌には嫌われたくねぇよ。」
「影忌さんには感情がないから大丈夫だよ!」
「そうですよ。さあ、行きなさい。」
「嫌だって…」
こんなやりとりをダラダラやってたから悪かったのだろう。
終わりは突然訪れる。
「じゃあ私が訊いてきてあげるよ。」
僕ら三人は完全に硬直した。
その声は明らかにクラス委員長、夕夏さんだった。
「あんたらのこと、全部影忌に言っとくから。しかし男子ってやつは。クズね。」
僕らの世界が終わった音がした。
その後、影忌さんが僕ら三人のところに来た。
彼女曰く、
「保健体育の勉強の為に一度やってみたが、よく分からない感覚だけが残った。」
そうだ。
彼女はいつもの無表情で言って、去っていった。