再幕
「あー!! つっかれたー!!」
黒羽は息を深く吐き、落下するように地上に落ちた後に大の字に広がり、空を見上げた。
時刻はまだ夜中、だいたい日が変わってから二時間ほど程度。
鳴り響いていた轟は巨大骸骨の消滅とともに消え去り、空にはちょうど月が浮かび、夜はこれからだという様に物静かな有様であった。
「さすが天狗最強様ね。結局はあなた一人でやっちゃったじゃない」
全身を脱力状態にして地に寝転がる黒羽を見下ろしながら霊夢と早苗は空から降りてきた。
そんな皮肉の言葉に、黒羽は小さく笑ってから答えた。
「別に、思ったよりも弱かっただけよ……」
「け、けど、すごいですよ!! あんなでっかいのをズバズバ斬って消し飛ばしちゃうなんて!!」
皮肉を言う霊夢に比べ、早苗の純粋な言葉に黒羽は少し恥ずかしさを思いながらも、小さくどうもと呟く。
そして恥ずかしさを隠す様に皮肉いた言い方で返した。
「……ま、消し飛ばしたのはそのデッカいのだけじゃないけど」
黒羽はそう呟きながら自分の周りを見渡した。
確かに黒羽は巨大骸骨の骨の一本も、灰の一欠片も残らず燃やし尽くした。
しかし、それだけではなく黒羽の一撃により、巨大骸骨が暴れまわっていた時よりもさらに荒廃と化した妖怪の山も、また目を当てられない状態になっていた。
黒羽の放った炎自体は巨大骸骨の消滅とともに自然と消えていったが、その炎に焼かれわずかに残っていた木々も緑残る大地も完璧に燃え尽きた。
巨大骸骨の手により、元より悲惨な状態であったのもあるが完全に妖怪の山を元の状態に戻すのは百年はかかるであろう。
いざとなったら全て巨大骸骨の所為にすれば良い、と黒羽は思うが、その巨大骸骨の件で私に対しどれだけの責任が来るのだろうかと考え身震いを起こした。
「……この際、このまま隠居して嫁入りも悪くないかしら」
「いきなりなによ、落下した時に変な所でもぶつけたのかしら?」
「……ただの独り言よ」
霊夢の呆れた顔を見て、黒羽は口に出てたかと呟いた。
そしてそうは言ったものの自分に嫁入りする相手がいない事を思い出し、いまごろ何処ぞやでイチャついているであろう某百合夫婦のことを妬みながら、唾とともに言葉を吐く。
「それより私は久しぶりに全力を出したから疲れたわ……。後は、任せたわよ博麗の巫女」
「ふん、わかってるわよ」
黒羽の言葉に霊夢は頷く。
しかし、早苗はその二人のやりとりの意味がわからず首を傾げた様子で霊夢になんのことか尋ねた。
「えーと、なにを任されたのですか?」
「……あのデカイのを裏で操っていた黒幕探しよ」
「え? 黒幕がいるんですか?」
早苗の言葉に、霊夢は呆れた。
あんな理性のかけらもない巨大生物が、なんの前触れもなくいきなり現れ暴れまわるなど誰かの導きがない限り早々ありえない。
そう伝えようと、霊夢が口を開けかけた時であった。
「ーーそう。この"事件"には黒幕がいる」
声が聞こえた。
霊夢でも、早苗でも、黒羽でもない。
この場にいない第三者の声が聞こえた。
コツコツと杖を鳴らしながら、軽快なステップとともに何処からともなく現れ、まるでその場に最初からいたかの様に言葉を放った少女。
そして、突然と現れた少女はおちゃらけた様子で言い放つ。
「ーーそう、私とかね?」
「……命」
桜井 命。
彼女の登場に、霊夢は息を飲んだ。
慧音曰く、いつの間にか家からいなくなったという盲目少女。
そんな彼女と初対面な黒羽は目を見開き、早苗は首を傾げて声をかけた。
「命さん……ですよね? なんでこんなところに……」
「ん、この声は早苗さんかな? いや、すまないね。思ったよりも"骸骨"は乱暴者だったようで、君のところの神社まで消し飛ばしてしまったよ」
「……その言い方だと貴女が私の屋敷を吹き飛ばした犯人で間違いなさそうね」
黒羽の呟きに、命は微笑んで首を縦に振った。
そして、地面に倒れはしながらも睨みつけた。
「あなた……こんなことしてタダで済むと思っているの?」
「こんなこと、とは?」
「私の! 私らの住処をこんな滅茶苦茶にしてよ!!」
黒羽の叫び声に命はああ、と手を打ち、周りを見渡した。
そして、すまないねと呟く。
「その様子だと思ったよりも被害が甚大なようだ。なにぶん目が良い方ではないので、その辺りは"骸骨"に任せきりだったからね」
「はっ、おかげで元の景色を見る影もないわ……」
「はは、それは悪かった。責任を取ってキチンと元に"戻して"おくよ」
「……は?」
その呟きに、黒羽はマヌケな声をだした。
しかし、命は気にした様子を見せず、目を瞑った様子で指を構えーー、
「【屍の姫】、これにて閉幕ーー」
その言葉とともに指を鳴らす。
そして、その言葉と同時に周りの景色が変わった。
荒廃した大地には緑が戻り、吹き飛んだ筈の木々は再び生い茂る。
まるで時が戻ったかのように。
ーー否、最初から何もなかったかのように。
霊夢は、その異風な状態に瞠目させ、声を震わせた。
「……こ、これはなによ?」
「如何だったかな、 五百年前の悲劇の"再現"は?」
「あんた、何者よ?」
「ん? 私かい? 私は"神様"ってところかな?」
ーー全知全能、なんでもありの理不尽さ。
その言葉に、霊夢は自暴自棄に笑った。
神力の欠片も感じない、だけど今起きた"奇跡"に対してどう説明すれば良いのだろうか。
まるで最初から何もなかったかのように、あの災害の様な爪痕を最初からなかったかの様にした"奇跡"。
それはまるで本当にーー、
「突っ立ってないで! とっとと動きなさい馬鹿!!」
「おっと!」
命の言葉に対し、驚愕の様子を見せていた霊夢が呆ける間。
黒羽はすかさず刀を抜き取り、命に向かって振り下ろすも、命はその刀を避け、距離を取った。
黒羽は不意打ちの太刀筋を避けられたことに舌を打ちながら霊夢に対して叫んだ。
「なに突っ立ってんのよ!! 妖怪退治はアンタの領分でしょ!!」
「いや、妖怪ではなく、神様って……」
「アンタに話しかけたんじゃないわよ! それに何処にアンタみたいなこんな弱そうな神がいんのよ!!」
再び刀を振り回し、命に斬りかかる黒羽。
彼女は先程まで全身脱力で力を使い果たしている様子を見せていたのに、今となっては最初からなにもなかったかの様に動いている。
硬い骨を断ち続け血だらけ腫れだらけだった手も、見たところ外傷はなく健康そのものであった。
それはまるで本当に"時"を戻したかの様に。
原理はおそらく能力だろうが、何の能力かは……。
そこまで考えるも、霊夢は考えるだけではキリがないと余計なものを頭から払うかのように首を横に振った。
「ふん、そこの天魔の言う通りだわ! どこにそんなモヤシみたいな神様がいるって言うのよ!!」
「れ、霊夢さん! 本当に神様だったらーー」
「知らないわ! 神様だとしても私の安眠を妨害しただけで万死に値するわ!!」
そんな言葉とともに霊夢は懐から一枚の札を取り出す。
巨大骸骨戦では晴らせなかった鬱憤をいま晴らすと言いたげに笑った。
そんな交戦する気満々の霊夢は見て、黒羽は頷いて早苗の方に目を向ける。
「そこの守矢の巫女!!」
「は、はい!!」
「うちの天狗らにそのまま待機って伝えときなさい!! ここは私と博麗の巫女で十分よ!!」
「え、で、でも私も……」
「ついでにアンタんとこの神さんと神社の安否でも確認してきなさい!!」
「は、はい!!」
遠回しにアンタ邪魔だから早くどこか行け、と言う言葉と黒羽の気迫に押され早苗は、流されるままに頷き、飛び去っていく。
「おや、良いのかい行かせて?」
「ちんちくりん相手にコンビネーションもクソもない相手と共闘しても邪魔なだけ、よ!」
と、言いながら黒羽は刀を首めがけて振り落とすも命はクルリと避けた。
「ち……、ホントすばしっこいわね」
「どうだい?かつて "屍の姫"にこの山を迫られた時もこんな感じだっただろう?」
「そんなことないわよ! あん時は一発であいつの首を落とし……ってなんでアンタがそんなこと知ってーー」
ーー夢符「封魔陣」
黒羽の疑問とともに、黒羽諸共狙う様に投げられた札の弾幕。
その弾幕が来ると同時に命と黒羽は距離を取り、黒羽に至ってはその弾幕を打ち込んだ本人に睨みを効かせた。
「あんたバカ!? 一緒に私も巻き込まれそうだったのだけど!!」
「は? 一緒に狙ったに決まってんじゃない? アンタが負傷して退場しても私一人で十分なのよ」
「な……っ今代の博麗の巫女ってバカなの!? 一応は私は天狗最強の天魔よ!!」
「なら私は、妖怪退治のスペシャリストの博麗の巫女、よっ!!」
怒鳴り声をあげる黒羽に対し、霊夢が知らぬ顔をして今度は命に向かって突っ込む。
札をばら撒き、針を投げつけ、怒涛の攻撃を喰らわせる中……、命は涼しげな顔で避け続けた。
「ふふ、どれだけ繰り返そうと私には攻撃が届かないよ。だって"私"は神様なんだから」
「神だろうと神で無かろうと関係ないわよ! 私はアナタをぶっ飛ばすだけなんだから!!」
「それは、"異変"の黒幕として?」
「はん!! デカイ化け物が出ただけで幻想郷では異変なんて言わないわよ!!」
そんな化け物とコチとら日常的にかは変わってきてるのだから。
そう呟く霊夢に対して、命は笑った。
そして、怒涛の攻撃を喰らわせる霊夢から一旦距離を置き、ニヤリと笑う。
「そうか! あの程度では"異変"と受け取ってもらえないのか!!」
「当たり前でしょう? 一匹一匹の妖怪相手に異変なんて呼んでたら幻想郷ではキリがないわ」
「だから、私は妖怪では……」
命がそう言いかけようとするも諦めた様子で息を吐き、まあその辺はこだわらなくて良いかと頭を掻く。
そして、再び霊夢に目を向け、クスリと笑った。
「では、幻想郷でいう"異変"とはどの程度を言うんだ?」
「はん! 少なくともでっかい骸骨が出て来る程度は異変なんて言わないわよ!」
「……うちの所は危うくその骸骨のせいで崩壊しかけたけどね」
霊夢の言葉に、黒羽は一応は戻ったが妖怪の山が荒廃していた数分前の事を思い出し、呆れたように笑っていた。
そんな呆れる黒羽の様子を見て、命は首をかしげる。
「と、申しているが?」
「別に今となっては戻ったから良いのよ!」
「はは、なら直さなければよかったかな?」
命は笑いながら霊夢に言葉を返すが、ならどうするかと顎に手を置きながら考える。
霊夢はそんな思考に耽る命を見て、疑問に思った。
「というか、アンタはなにがしたいのよ? 幻想入り数日後に異変を起こそうだなんて前代未聞よ?」
「んー、私の"目的"のためかな?」
「それが異変を起こすのと何が関係あるのよ?」
「それは、終わってからのお楽しみさ!!」
少女は杖を振り回し、着飾る制服のスカートの裾を掴む。
そして、"道化"のように開幕の挨拶を始める。
「では、始めようか! ここからが本番だ!!」
ーー幻想に一人、歌おう。
「ではでは、物語第二幕!!」
ーーそれは、紅い霧
「巨大骸骨が異変でないのなら!!」
ーーそれは、終わらない冬
「かつての異変を呼び起そう!!」
ーーそれは、月が沈まぬ永夜
「題目は!!」
ーー『幻想曲・幻想ノ記憶』
「今宵はまだまだ終わらないよ?」
終わらない夜が始まるーー。
私は何を書いているのだろうか?




