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東方屍姫伝  作者: 芥
二章 その歌姫は幻想に歌う
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四度目

ーー私は、自分が最強だなんて思ったことはない。

はっきりいって今の天魔(ちい)で居られるのは、鬼子母神である鬼の大将である斬乂とかつて妖殺しと恐れられた"屍の姫"雪と友好的な関係を築いており、この二人が天狗社会の脅威にならぬよう抑止力として据え置かれているものだ。

でなければ、私なんかが天魔(さいきょう)の地位に置かれ続けるわけがない。


一般の天狗よりかは自分の方が優っていると思う。

しかしそれは同族同士では、の話である。

剣の腕であれば冥界の庭師のジジイの方がよっぽど腕が立つ。

身体能力であるならば斬乂の方が格上だ。

能力に関しては八雲 紫の方がチートである。

私は所詮、天狗の中ではある程度の剣が扱え、ある程度の体術の心得があり、能力に関しては部下の方が自分より有用なものを持っていると自覚している。

ましてや、今はスペルカードルールなんていう弱者でも強者に勝てるという決闘が主流の時代だ。

単純な力だけでモノを言う時代はもう終わりに近づいているのだ。


だけど、かつて私は努力で天狗社会を上り詰めてきた。

今も昔も絶対的な才能(ギフト)の前には敵うとは思っていない。

自分に出来ることといえば自分が持ちうる努力(ギフト)で戦うことだけ。

それ故に斬乂に、私がかつて想ってきた相手に長年と均衡し続けられた所以だ。


あの時、努力を続けなければどうなっていたんだろう?

今頃、斬乂に敗れて性奴隷にされていたか、またもや使い捨てられて心身共に廃れ自害していたか。

それとも、白鷺 雪の様に結ばれ、婚約を結んでいたか。

まあ、どう考えても関の山で都合のいい愛人であろう。

私には白鷺 雪の様に素直になれるような感性は持ち合わせていないのだから。


ああ、そうそう。

私は結局は白鷺 雪には結局一度も勝てなかった。

一度目は、最初に出会った時。

結局は斬乂に助けられたが、あのままだったらきっと私は殺されていただろう。

二度目は、斬乂を盗られた時。

気づいたら、私が本来いた場所にあの子は居て、大切なものを奪っていかれた精神的な敗北。

三度目は、(あなた)が消えた時。

あれはただ、あの子を傷つけたら斬乂が悲しむと思ったから。

一度目と二度目はただの油断、三度目はただ情が湧いて、油断した。

つまりほとんどどころか全部が油断。


あの()に対しては、はっきりいって剣術も体術も自身の方が優っていると思う。

能力に関してはあっちの方が上だけど、最初から油断なく一対一の勝負では私の方が勝つと思っている。

だが、今のところは一度も勝てたことがない。


もう一度言う。

私は所詮は努力だけ。

産まれながらの才能もないただの天狗。

あとは、ほんの些細な繋がりで今の天魔(ちい)にいる凡人だ。

周りが何と言おうが、少なくとも自分はそう思っている。


そんな私だけど。

私はもう二度と屍の姫(あいつ)にだけは負けたくないーー。



✳︎✳︎✳︎



霊夢は巨大な骸骨を飛び回り、ひたすらに弾幕を打ち込んでいく。

しかし、ほとんどの弾幕は弾かれ、さらに近づこうにも巨大骸骨が虫を払うかのように腕を振り回し近づくことも叶わない。

封印しようにもこんなに暴れ回られたら、詠唱どころか近づいて封印具を取り付ける事もままならない。


「れ、霊夢さん、あんなのどうしろっていうんですか!?」


態勢を立て直すために一旦距離を取り、どうするかを思考する霊夢に対し、息切れを起こしながら必死に逃げ回っていた様子が見られる早苗が霊夢に近づく。

そんな早苗の様子を見ながら、霊夢はため息をつく。


「知らないわよ? 私が聞きたいくらいだわ」


「というか幻想郷にあんなバケモノみたいな妖怪がいるなんて……」


霊夢の答えに絶望的な表情をする早苗。

霊夢自身も今までの巫女人生で、図体だけならばこれだけの巨体は初めて出会ったくらいのバケモノだ。

しかしーー、


「それなんだけど……、おそらくあれは妖怪の類じゃないわ」


「え?」


「私も文献で読んだ程度だけど本当の"屍の姫"は自分でも操りきれないほどの禍々しい妖気を放っているらしいわ。だけど、屍の姫(あれ)は禍々しさどころか妖気を一欠片も感じないしーー」


「隠しているとかではないんですか?」


「あんな理性もなく暴れまわっているやつがそんな芸当を持ち合わせてると思う?」


霊夢の説明に早苗はなるほどと納得する。

そして、霊夢自身も巨大骸骨を見て、今ほど自分が言った言葉について深く考えた。


あの骸骨からは妖気どころか霊力、神力、気など生きるものならば大抵のモノが持っているであろう"力"の気配なるものを全く感じ取ることができない。

早苗の言う通り中には自分の力をコントロールすることが出来るモノもいるが、あれはそんなことが出来る生物には見えない。

というより、生物というより巨像。

暴れまわっているもその場から一歩も動くことはなく腕を振り回すだけで、生命という気配はその巨大骸骨からは感じることができない。

まるで命なき動く巨像である。

それっぽく言えば自立稼働人形(ゴーレム)である。

しかし、そうなると今度はそのゴーレムを動かす術者を探さなければならないし、仮に術者が居たとしてもこんなにも巨大な巨像を動かす燃料はどうしているのか?

たとえ何とかなっても多少は巨大骸骨から妖気や魔力の類を感じらはずだが……。


「ぁあ! 頭痛くなってきたわ!!」


「うぇ!? いきなり叫んでどうしたんですか?」


「あんたと違って頭つかってたのよ!! あんたもなにか案ぐらいーー」


能天気な早苗に向かって霊夢は怒鳴り散らそうとしたが、視界に一人の鴉天狗の姿が目に移る。

その鴉天狗は雄叫びとともに黒い翼を羽ばたかせ、手に持つ刀を抜き身に、巨大骸骨に向け刃先を向ける。

まるで、剣一本で自身の何千倍も巨大な骸骨に立ち向かおうとーー。


「んな、無茶なーー」


霊夢がそんな冗談でも見るかのようにその鴉天狗、黒羽について呟こうとすると同時に、黒羽は巨大骸骨の二の腕の辺りを一刀両断し、巨大骸骨の腕を一本斬り落とす。

そして、巨大骸骨が残ったもう片方の腕で突如現れた黒羽に掴みかかろうとするも黒羽はすかさずそれを避け、つけ込むように胸元まで潜り込みもう片方の腕を切り落とす。

そして巨大骸骨は両腕があっという間になくなり、今まで乱雑に振り回して居た両腕は地に落ちた。


「すごいですね! あっという間に無力化をーー」


「ーーまだよ!!」


霊夢の叫びとともに巨大骸骨は上半身を振り回し、巨大な図体を生かして面積の広い胴体と頭蓋骨を使い、飛び回る黒羽目掛けて振り回す。

しかし、黒羽はすかさずそれを避け続けながら今度はむき出しになる所々の骨に切り掛かり、そして再生しかける斬り口に再び刀を通して再生の速度を遅れさせる。


巨大骸骨は図体に比べ決して遅くなく、その見た目によらない速度からの強烈な張り手の一発でも喰らえば、誰であろうとタダでは済まないであろう。

遠目から見れば、巨大骸骨に比べ黒羽はハエである。

しかし、黒羽はその骸骨の速度を上回り、さらに頑丈な筈の肉体(ほね)を刀一本で両断してみせている。


そんな勇敢に飛び回る黒羽を見て霊夢は自嘲する。


「はっ、私が頭を回すなんてらしくなかったわ!!」


いつだって最後はゴリ押しで自分の(ギフト)を信じて前に進んできたのだからーー。

霊夢はそう思いながら、懐から一枚のカードを取り出した。


✳︎✳︎✳︎


いつ振りだろうか?

こんなに全力で空を掛けるのはーー。


怪物の腕を両断し、達磨状態になった相手を私は全速力で斬り続ける。

再生を防ぐために再生しかけるところを再び斬りつけるが思ったよりも再生速度が遅く、見たところ傷口から再生する仕組みなようなので、肩から斬り落とせば、暴れ回していて邪魔臭い腕も当分使い物にならなくなる。


しかし、近づいて改めて思う。

このデカブツは図体の割に素早く、その分、一撃が重そうであり喰らえば一発でお陀仏であろう。


であれば私がすることは一つしかない。

ひたすら避けて、斬りかかる。

とても簡単な作業だ。

私はそれ故に余裕ができて、昔を思い出す。


全速力で飛ぶのはおそらく天魔になってから一度もなかったと思う。

下っ端時代の訓練中も私は他の訓練に体力を残したいために全速力で飛ぶ事はほとんどなかった。

私が思う存分に翼を広げたのは、おそらくあの斬乂(ばか)に貞操を狙われ逃げ続けていた時くらいだ。

唯一と私が誰にも負けないと自慢できる事は逃げ足の速いこと。

これも日々、あの斬乂(ばか)から逃げるに徹した努力の賜物だと思う。

まあ、ここ最近だと部下の射命丸 文にそろそろ自慢の速さすらも負けそうであるが、まだ大丈夫だと思いたい。


「ーーっ!」


間抜けな事を考えていると手の平に痛みを感じた。

私は流し目で刀を握る手元を見ると、手は真っ赤に腫れており、爪が割れたのか出血も見られる。

おそらくはただでさえ頑丈な骸骨の骨を無理やりに斬りつけて一刀両断したことの代償であろう。

別に私は剣豪ではないし、多少は普通の鬼どもよりかは腕っ節はあると自負はするが、"あれ"が相手であると私の身体ではそう簡単に無傷で勝てるわけはなく、尋常な硬さではないようだ。

しかしーー、


「まあ、"屍の姫(あなた)"を倒せるなら安い代償よね?」


私はそう呟きながら空虚な巨大骸骨の目を見る。

そして上半身を支える背骨すらも今まで少しづつ与えてきた斬撃が功を成し、上半身と下半身を両断し完全に巨大骸骨の顔を地につけた。

これでしばらくしたら再生はするだろうが、巨大骸骨の動きは完璧に封じた事となる。


私は上空から地に伏せる巨大骸骨を眺めながら、余韻に浸った。


最初からわかってはいた。

こんな骸骨が"(あいつ)"ではない事は。

あの子ならいつもはもっと禍々しい妖気を垂れ流していた。

まあ、今は前回の異変以降で内に潜む怨霊がいなくなったからか、あの子から妖気をほとんど感じなくなったが、それでもあの子がそんな姿になる時はきっとあの頃のようにこの世を恨むような妖気を垂れ流すのだろう。

だからなにも感じず、空虚な"屍の姫(あなた)"が雪であるとは一度も思っていない。

けどーー、


「ねぇ、知ってる"屍の姫"。私は貴女に三度負けているの」


一度目は、最初に出会った時。

二度目は、斬乂を盗られた時。

三度目は、(あのこ)が消えた時。


どれも敗因は、油断。

そして"白鷺 雪"に負けて、"屍の姫"に負けた。

一人の兵士として破れ、一人の女として負けた。


わかっている。

いま、私の目の前にいる屍の姫(あれ)(あのこ)ではないことは。

だけど、私の自己満足で、自己完結でいいから言わしてもらいたい。


「ーーやっと、」




ーー神羅「覇王・第六天魔王」




その宣言とともに、私の背後には無数の陣が浮かび上がった。

この技は、唯一私が放てる絶対的破壊砲。

過去一度、私が斬乂にライバルと認められる前に追い込まれ、無理やり放って斬乂とともに共倒れになった一撃必殺。

それを、地に伏した達磨状態の骸骨に向け撃ち放つ。

そして私は"それ"に向かって、最後に微笑んだ。


「やっと、"屍の姫(あなた)"に勝てたわーー」



ーーさよなら"屍の姫"。



無数の火柱に呑まれ、地に伏した骸骨は灰燼とともに消えさった。

無理やり終わらせた\(^o^)/

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