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東方屍姫伝  作者: 芥
二章 その骸は魂を狩り続ける
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虐殺

しばらくは第三者視点です

そして前話からおよそ百年後の物語

その山は魔境であった。


近くには大きな村がある。

だが、そこの村の人は決してその山には入るどころか近づこうとはしなかった。


入り込んでしまって帰ってきた人などいなかったからだ。


村の人は言う。

あの山には恐ろしい妖が出る、と。

天狗や河童、恐ろしい鬼なんかも出るらしい。


都の陰陽師も近寄ろうとはしない魔境。

そして人はこう呼んだ。


妖怪の山、とーー




❇︎❇︎❇︎




とある昼下がり。

妖怪の山のとある場所に二人の青年がいた。


その青年達に共通していることは白髪であり、もふもふの白い尻尾と頭の上に二つの犬耳をつけている。

背中には身長と同じ程の剣を背負い、今日も今日とて彼らは山の治安を守る為、いつも通り見回りをしている。



「あぁ……、あの鬼どもめ。また俺の隠していた酒を盗りやがって……」


「文句があるなら力尽くで取り返しな」


「そんなのムリムリ。殺されるのがオチだね」



青年ら二人は世間話に花を咲かせながら歩くも、周りに視線を向け歩き続ける。

空には黒い羽で羽ばたく烏天狗らがおり、彼らは空からみえない立ち並ぶ木の下を重点的に見ている。


といってもここ数年、侵入者などおらず、出ても力の無い頭の悪い下級妖怪くらいだ。

下級妖怪でも何の力の無い人が襲われたら死ぬのは確実だが彼らは天狗……それも白狼天狗だ。

いくら烏天狗の下と言ってもバリバリの武闘派妖怪だ。

それに幼い頃から訓練を積んだ哨戒天狗だ。

下級妖怪くらいならイチコロだ。

まあどれだけ強くても、白狼天狗では素早い烏天狗には勝てないが……。



「てか、烏天狗どもも奴らにヘラヘラと……」



片方の青年が何かを見つけたのか背中に背負う大剣に手をかける。



「どうした?」


「侵入者だ!」



片方の青年がそう言いもう片方の青年も同じ方に視線を向ける。


青年らが視線を向けた先には絹のように美しい、白い髪をした少女が立っていた。

三白眼で幼げな顔、そして右手にはぐるぐると腕全体を巻く様に白い包帯で巻いている。

その少女は白い着物を着ており、頭に三角巾でもつければ完璧に化けて出た少女にしか見えない。

だが、たとえそれが幽霊でも侵入者は侵入者だ。

少女と青年らの視線が合うと少女はニヤリと笑いながら見つめる。


青年の一人が少女が笑いかけてくると同時に首にかけている木の笛を思いっきり吹き、山中に甲高い音を響かせた。

侵入者が出た時に仲間の哨戒天狗を呼ぶための笛だ、じきに応援が来るだろう。



「誰だ貴様は!?」



笛を吹いていない方の青年が背中の大剣を抜き、少女の方に向けながら大声で問う。

それでも少女はヘラヘラと笑いながらこちらを見続けている、が……。



「血の気が多いね、お兄さん」



突然、目の前にいたはずの少女が、いつの間にか青年らの背後に回っていた。

青年らは突然目の前から消えた少女の声が後ろから聞こえたので慌てて振り返った。



「な、お、お前いつのま……がはっ!」



笛を吹いた方の青年が叫びながら背中の大剣を抜いたところ、剣を構える前に包帯が巻かれた少女の右手によって心臓が貫かれた。



「……犬コロが十匹目」



少女はそう言いながら青年の胸から手を抜く。

包帯の巻かれた少女の右手は真っ赤に汚れており、その右手には白狼天狗の青年の心臓であろうものが握られていた。


どさり。

青年の胸から手が抜かれると青年はその場に倒れこむ。

青年の身体は倒れ痙攣していた。

心臓を取られても即死をしないところは流石は妖怪というところだろう。

だが、すぐにその青年は息絶えて動かなくなった。



「貴様、よくもっ!?」



残った方の青年が構えていた剣を突き、少女の腹に突き刺す。

少女は呆気なく刺され、刺された腹からは血がドバドバと流れ、白い着物を赤に染める。

青年は殺ったと思いはは、と虚しく笑う。


殺された青年は幼い頃から仲のよかった友だった。

仇は打った、そう思い興奮したまま剣を少女の腹から抜く。

少女の腹からは血が未だに出ており、白い着物の下部分は既に白いところが見当たらない。

これだけやられれば普通の妖怪でも逆転は難しい。


ここまでやれば自分一人でも殺れるし、もう少しで来る応援らも加わればこの少女の命は確実に殺れる。

ぶっ倒れた少女を痛ぶるのは趣味では無いが、侵入者だ。

それに仲間を……友をやられたのだ。

個人的には死よりも恐ろしい目に合わしてやりたい。

なのにーー



「やっぱ妖怪の肉ってまっず……」



だが、少女は倒れなかった。

刺された腹からは未だに血が出ているが、少女はそれが何とも無いように先ほど殺した青年の、抜き取った心臓を果実を齧るように食べていた。


青年はその様子を見てゾッとした。

血をだらだらと流しながらも顔色を変えず、それどころか仲間の心の臓を普通に食べていることに。



「あっ……ああぁぁぁぁっ!!!!!」



青年は剣を振り上げながら不気味な少女に立ち向かう。

今度は頭を狙って、この大剣で潰すつもりで……。



「うっさい……」



だが青年の剣は少女に届かなかった。

青年はその場に倒れる。

青年は何をやられたのかわからず、痛みがある部分を見つめる。

その痛みは足元からであった。


膝から下の部分がスッパリと切られており、皮一枚で辛うじて切られた部分が繋がっているほどだ。

血もだらだらと出ており、もう立って歩くことができないほどの重症であった。


だが、青年はそれとは別のモノに驚いていた。

怪我ではなく自分を切ったものに……。



「なんで……お前が……」



青年は自分を見下ろす存在に目を向けながらそう呻く。

青年の視線の先には先ほど少女に殺られたはずの青年……、その青年が虚ろな目を浮かべふらふらと立ち尽くしていた。

その死んだはずの青年の手には自分のであろう血がベットリとついた剣が握られており、胸元には絶命したはずの証明である、ポッカリと空いた赤い穴が開きっぱなしであった。



「十一匹目と……」


「がっ……!」



少女はそう言いながら倒れた青年の心臓部に背中から右手を突き刺し、先ほどの青年と同じ様に心臓を引っこ抜いた。

もちろん倒れていた方の青年は心臓を抜かれ、短い悲鳴をあげ絶命した。

最初に殺されたはずの青年も、今ほど殺された青年が死ぬと同時に力無くその場に倒れこみ再び動かぬ死体へと戻った。


少女はその死をなんとも思わず歩き出す。

少女は引っこ抜いた心臓を先ほど殺した青年の心臓と同じ様に果物の様に齧り、咀嚼する。

そしてその心臓を一口齧ると足元に投げ捨てた。



「こんな雑魚、食べてもどうしようも無いか」



少女はそう言うと一口かじった心臓を足で踏み潰した。

踏み潰された心臓は潰れ、ざくろの実が潰れた様になる。



「いち、にー、さーん、しー……全部で十匹くらいか」



少女がそう言いながら周りを見渡すと、ガサガサと草むらをかき分け、四方八方から先ほどの青年らと同じ様な姿をした……白狼天狗らが大勢やってきて少女の周りを囲んだ。

数は十人ほど。

それらは全てが先ほどの笛の音を聞きつけ、駆け寄ってきた者らだ。

そしてその全てが先ほどの青年らと同じ様に大きな剣を武装している。

先ほどと違う点を上げるなら、女の白狼天狗が三人いることだろうか。


彼ら彼女らは少女の足元に転がる仲間であったモノを見て、顔を歪める。

そして同時に思う。


目の前にいる女は敵だ、と。



「手を上げろっ! 無駄な抵抗はするな!!」


「……へーい」


白狼天狗の一人がそう言うと、血まみれた少女はヘラヘラと笑いながら両手を真上に上げた。

そのふざけた態度に忠告をした白狼天狗は怒る。



「っか……かかれえぇ!!!」



白狼天狗の一人が剣を少女の方に掲げ号令をかける。

その号令が出た途端、四人ほどの白狼天狗が少女の方に駆け寄り、剣を振り下ろした。

少女の背中、胸、足元、首に目掛けてそれらの剣は振り下ろされた。


しかし……



「十五匹目っと……」



少女がそう言うと切り掛かった四人はその場に血を吐きながら倒れこむ。


突然の事に周囲の白狼天狗は呆然とする。

彼らは手を上げた、無抵抗なはずの少女に切り掛かったはずだ……。

なのになんで……



「ひっ……」



生き残っている白狼天狗の中の一人が短い悲鳴をあげて後退りをした。

その白狼天狗は仲間の死を見て怯んだのではない。

彼は目の前に立ち尽くす"異形"なモノを見て悲鳴をあげたのだ。


それは未だに手を上にあげている少女である。

その少女は律儀にも未だ両手を上にあげている。


しかし決してその少女は無防備、ということではなかった。

その少女の背中には四本の白いモノが生えている。

その生えた白いモノは白い手……いな、白骨化している手だ。

それが少女の背中から生えており、その白骨化している手には倒れた彼らのモノであろう赤く染まる心臓が握られている。



「ほら手を上げて私は無防備だよ?」



目の前の少女はそう言いながら頭の上で手を振り、ニヤニヤと笑いながらこちらを見つめる。

少女は足元に倒れる死体に目も向けずこちらを見る。



「見てくれ。私のお腹からこんなにも血がドバドバと出ていて今にも死にそうだ、ほら」



少女はニヤニヤと笑いながら、先ほどの青年に刺された腹の傷口を、両手を上げっぱなしにしたまま背中から生えてる手の一本が、持っていた心臓を投げ捨て、傷口に突っ込みえぐっている。

その腹の傷口からはさらに血が流れ、いつ出血多量で死んでもおかしくないほどだ。

しかし、少女はニヤニヤと笑いながら傷跡をえぐり、周りの白狼天狗たちを挑発する。

その姿を見て、周りの白狼天狗たちは舐められていることに怒らず、少女の奇行に狂気を感じていた。



「……なんだ、誰も来ないのか。なら……」



少女はそう言うと溜息を吐きながら、上げていた両手を下ろす。

そして、包帯の巻かれた血塗れの右手を正面に伸ばす。


しかし、少女が何かをしでかす前に周りにいる白狼天狗たちが雄叫びを上げながら剣を振り上げ、少女に向かって駆け出した。



「もう遅いよ、さよなら……」



少女はそう言いながら指を鳴らす。

少女が指を鳴らすと同時に白狼天狗たちはその場に立ち止まり動けなくなる。

そして動けなくなると同時に身体が地面に沈み始め、膝から腰へ、腰から首へとどんどんと地面に沈んでいく。

彼ら彼女らは必死に悲鳴をあげながら足掻くが、足掻いても足掻いても身体は変わらず沈んでいく。


そしてしばらくすると悲鳴は聞こえなくなり、生き残っていた白狼天狗らは地に沈んでしまいあっという間に消えてしまった。


その場に残ったのは六体の白狼天狗の死体と、一人の少女だけだった。



「……噂の妖怪の山も所詮はこんなものか」



少女はそう呆れながら切られて血が流れているはずの腹を撫でる。

その腹の傷口は既に塞がっており、切られた後は残っていない。

残っているのは切られた時に傷口から流れ出て白い着物に付着した、既に乾いている赤い血の跡だけだった。




「さて、今日は何匹殺せるかな」




少女はそう呟くと妖怪の山の更に奥へ……山の頂上に向かって歩き出した。

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