再来
それはーー、かつての天変地異の再来であった。
己の身から発する黒煙とは相反する白い巨体。
隣の山の頂を掴むほどの大きな白骨の手を持ち、妖怪の山を覆うほどの巨大な一体の骸骨。
それが現れるとともに天には黒雲が現れ轟が、地は妖怪の山を中心に地割れが起こる。
「まるで、五百年前の"髑髏塚異変"の再来ね」
今にも世界が滅びそうな景色を見て、八雲 紫は妖怪の山に現れた骸骨のさらに上空から見下ろすようにポツリと呟いた。
「霊夢。私は五百年に"アレ"を封印することしかできなかったけど……、貴女ははたしてどうするのかしら?」
八雲 紫は過去の苦渋を思い出しながらも微笑む。
そして、突如現れた巨大骸骨に慌てふためく妖怪の山の面々を見つめた。
✳︎✳︎✳︎
「ああああああもおおおおおおおぉ!!!!!! こんどはなによおおおおおおお!!!!!」
妖怪の山より少し離れた山の中。
その声の主は頭を抱えながら叫び声をあげる。
役職天狗の長、通称は天魔、名前は夜鴉 黒羽。
そんな天狗の長は大勢の部下の目の前でなぜ発狂をしているのか。
それは今から三十分前ほど時間を遡る。
なんの前触れもなく、いつぞやこの山に白鷺 雪が暴走して現れた巨大な骸骨。
それが三十分前ほどに出現し、問答無用に暴れまわり、木々を破壊する。
止めに入ろうとした哨戒天狗も、初っ端から引っ張り出した大天狗も、妖怪の山三回りほど大きい巨大生物には手も足も出ず、数十分たった今では既に妖怪の山は半壊どころか全壊であり、大損害である。
唯一救われた点といえばその巨大生物はその場から移動をする様子は見えず、ただ我武者羅に白骨の腕を振り回すだけ。
しかし、いきなり現れた巨大骸骨の出現点が近かった天魔である黒羽自身の屋敷を初め、下っ端天狗の住処すら一掃され、その巨大骸骨は多くのものを吹き飛ばして行った。
はっきりと言ってその場から動かないことが救いと言ってもそれは幻想郷全体の事を考えればの話であり、妖怪の山に住んでいる天狗らにとっては早くどっかに行ってくれである。
そして現在の天狗らは、天魔を中心として重傷者を除く行動可能な部下を集め、妖怪の山よりほんの少し離れた山の中にて天狗らの作戦会議中である、はずだったのだが。
「あやや、天魔様は狂乱してらっしゃいますね」
集まる天狗の中の一人、射命丸 文は苦笑いを浮かべながら黒羽を見て呆れる。
そんな呆れる文を片目に、隣で立つ白狼天狗の犬走 椛は苦笑をしながらも、己の長である黒羽をかばう様に口を開いた。
「仕方がないですよ文さん……。話に聞く限り、天魔様が就任してから"屍の姫"に襲撃を受けるのはこれで三度目らしいですから」
「ま、今の所は屍の姫(仮)ですがね」
巨大骸骨の襲来から三十分ほど経ったが、もちろん天魔である黒羽は何もしていないわけではない。
部下に命令をして妖怪の山に住む妖怪の避難誘導や、巨大骸骨に対する情報収集などを行ってきた。
そしてその情報収集のうちの一つに白鷺 雪の屋敷に行き、白鷺 雪の存在の有無の確認を黒羽は命じた。
しかし結果は白鷺 雪どころかこの時間帯ならば屋敷に既に帰ってきているであろう鬼の大将である千樹 斬乂の姿も見当たらなかった。
鬼の大将は地底からまだ帰ってきていないとし、確信的な結果ではないにしろあの巨大な骸骨を仮ではあるが白鷺 雪と黒羽は体裁上そう判断した。
また、五百年前の髑髏塚異変よりも活動が活発的なことから脅威を五百年前のそれよりも高く見ている。
そして、現在の課題はあの巨大骸骨をどうするかであり、どのように討伐するかである。
しかし、その指揮を取るべく肝心の天魔は現在は頭を抱えながらトンチンカンなことを呟いていた。
妖怪の山の長として弱き妖怪らを守りながら避難を誘導したり、下手に戦闘をするのではなく一度退避をして状態を立て直し、情報収集を行ってから迎え撃つよう指示を出すところまではよかった。
冷静そのものに部下を動かし、その姿はまるで歴戦の将そのものであった。
しかし、現在は一時緊迫した状態から離れたからなのか、先ほどの凛々しさはかけらも見えず、頭を抱え発狂し半泣き状態。
そんな一組織の長の慌てっぷりを見て、古参の大天狗らはやれやれと眉間にしわを寄せ呆れ、大天狗らと同じく黒羽の素を見慣れた天狗らは苦笑を浮かべる。
「あぁ……秘蔵の酒が……。私が婚儀を結んだ時に開けようとした酒がぁ……」
「ごほん……、大将殿? 冗談を言われるのはそれまでにしてはいかがか?」
「うぅ……それは私が死ぬまで結婚できないって意味かああああ!!!」
痺れを切らし指示を出しては、と遠回しに言ったつもりの一人の大天狗に当たり散らすように、腰にかけた日本刀を投げつけてその大天狗の頰をかすめた。
周りはそんな理不尽な八つ当たりを見て、冷や汗を流した。
もうそろそろ誰か止めてやれよ、そう思った矢先に天狗らにとってその茶番を終わらせる救世主が現れた。
「巨大な骸骨が現れたから何事かと慧音の頼みを放ってわざわざこっちの方に来たけど……、この状況はなんなのかしら?」
「……博麗の巫女か?」
この混沌とした空気を壊すが如く空から現れた霊夢。
そして霊夢が現れると同時に、今まで慌てふためいていた黒羽がピタリと身体を落ち着かせ、今までの様子が嘘だったかのようにいつもの凛々しい雰囲気に戻った。
「貴女が来るのをずっと待っていたわよ? 各隊、避難は済ませたかしら?」
「妖怪の山の下々の者の避難終わりました!!」
「避難誘導、殿共に撤退済みです!!」
「守矢神社の二柱が自身の神社が倒壊したことにより卒倒して気絶しています! 現在は守矢神社の風祝が担いで共に避難中です!!」
「なら手を貸すなりして借りを作って来なさい!」
黒羽に命令され忙しく動き出す天狗ら。
そして、霊夢は近くにいる白狼天狗に話しかける。
「で? 状況は?」
「数十分前に屍の姫(仮)が妖怪の山の上空に出現して、ものの数分で妖怪の山を全壊。並の攻撃では硬すぎて無傷、攻撃が通ってもすぐに再生。故に一時撤退を」
「屍の姫? ならあれは雪なの?」
「今のところはそう判断を」
「はっ! そう判断を出したけど、あんなのが雪なわけないじゃない!!」
霊夢の問いに業務的に答える白狼天狗に割り込み、黒羽が鼻で笑いながら霊夢に近づいて言葉をかけた。
「確かに"あれ"は数百年前に現れた巨大骸骨の再来ね。天は轟、地は割れる。黒煙と共に現れる屍の姫そのものよ」
「じゃあ、雪じゃないという根拠は?」
「いま幸せに生きてる"あいつ"が! あんな姿になるわけがないわ!!」
根拠はそれだけ。
黒羽は思い出す。
五百年前に現れた"あれ"は雪の抱える怨霊が暴走して、雪の絶望の表情と共に現れた。
黒羽は知っている。
雪は、今は幸せに生きていることを。
ただ、根拠はそれだけのことで、それ以外はなにもない。
霊夢はそんな不確かな根拠にただただ呆れた。
「なら、雪の存在は確認できてるの?」
「部下があいつの家に行ったけど居なかったらしいわ。けど、あの斬乂もいなかったらしいから、どうせ今頃どこか人気のない場所でイチャついてるんでしょうよ!!」
それでもあんなバカでかいのが現れればすぐに気づくでしょうに、と霊夢はさらに呆れるが、口には出さず心の内に飲み込む。
どっちにしろあれは幻想郷の敵で、最終的にはぶっ飛ばす予定の相手だ。
雪であろうが誰だろうが、自分の安眠を邪魔したやつを気晴らしにボコるだけなのだ。
しかし、あんなデカイのをどうボコボコにするか、霊夢がそう考え始めていると黒羽が自身の呼び名を呼びあげた。
「博麗の巫女! 」
「なによ?」
「命令よ! 私と共にあれを討ちなさい!!」
そのために何十分も貴女を待っていたのだから。
突然の申し出に霊夢は一瞬だけ惚けるも鼻で笑って答えた。
「はん、天狗様は上からなことで……」
黒羽の上から目線の言葉に霊夢はため息をつき、やれやれと言いながらも払い棒を肩に担ぎ頷く。
その返しに満足そうに黒羽は頷き、気合を入れた。
「遅くなったけどーー、反撃開始よ!!」
"屍の姫"討伐戦ーー、開陣。




