傾聴
ーー夢を見た。
その夢はどこにでもある必然。
それは死。
望まぬ死が溢れてる。
自殺にあらず。
不慮の事故、病、寿命、運命により定められた人生の終着点。
今日も死ねば、明日もどこかで顔も知らぬ人が死ぬ。
もしかしたら自分の身近な人を失う事も、誰しもが通る道である。
それは親であり、友であり、恋人かもしれない。
自分が拒絶しても周りが否定しても、それは変わらず訪れるもの。
ーーあぁ、なぜこの人が死なねば。
それは人類共通の定めである。
ーーあぁ、死にたくない。
それでも死はいずれか訪れ、己を連れ去っていく。
ーーあぁ、なぜ人は死ぬのか?
それは神のみぞ知る事だ。
人はいつか死ぬ。
今日か明日かもしれないいつか死ぬ。
それは、生を望む者にとってひどく残酷なこと。
今このときでも誰かが世界中のどこかで死んでいる。
今日も"私"には何処かの誰かの命が途切れる音が【聞こえる】。
ーーあぁ、また死んだ。
"私"はそう夢の中で呟いた。
✳︎✳︎✳︎
ーーとある人里の守護者は語る
『雪か? 雪は幼い頃はヤンチャで男の子みたいなやつでな。それでよく姉妹同然の茜という子を連れて遊びまわっていたものさ。そして、私はその二人に文字などを教えたりしてな。私はあの子らにとって母親の代わりだったのだ。それがいつの間にか妖怪となっていたのは驚きだったし、ましてや婚約して幸せそうに今を暮らしている。知ってるか? 雪の料理は上手いんだ。頑張ったのだろうな』
ーーとある不老不死者は語る。
『あ? 雪か? 雪は……なんて言ったらいいんだかわかんないが、まあ親友かな。長い間旅をしていたのもあったが、同じ死ぬ事がない身だからな。長いこと仲良くしたいし、もし今の周りの奴らがみんなおっ死んじまったら、私と雪と、あとはあの竹林の奴らが残るんだろうな。だからさ、私は雪とはいつまでもダチでいたいと思ってるさ』
ーーとある白黒の魔法使いは語る。
『私はここ最近関わりを持ったばっかりだからよく知らんが……、まあ素直なやつだと思うぜ。それにあいつの飯はウメェからたまに食いに行くぜ! ま、まあ……時間が悪かったらその……気まずいものを見ることがある、がな……』
ーーとある吸血鬼のメイドは語る。
『雪? 彼女は私の主人であるお嬢様とその妹様がよくお世話になっているわ。最初はただ弾幕ごっこをやりにいったはずだったのに、いつの間にか餌付けされ……懐いちゃってね、彼女の屋敷にはお嬢様たちに付いてよくお茶に行くわ。えーと、桜井 命だったかしら? 貴女も良ければ紅魔館に来てちょうだい。雪に似てる貴女にお嬢様は興味をお持ちなの。我が主人は大変喜ぶわ』
ーーとある半霊は語る。
『白鷺 雪といえば……、屍の姫のことですか? 私は直接言葉を交わした事がないですが、祖父が若かりし頃に一度会った事があるらしく、ひどく美しく白い髪が透き通った肌によく映えたといっていましたね。あと、白い全身に返り血を浴びた様子はまるで地獄から来た純白の死神のようで危うく殺されかけた事があるともおっしゃっていました。私も一度は斬り合いたいものです』
ーーとある花好きの妖怪は語る。
『私の可愛いお人形よ。あのクールぶってる顔をぐちゃぐちゃにしてやりたいと思ってるわ。あの鬼神さえいなければ今頃は私の性奴隷ね。え? そんな事を聞いてるのではない? というか、貴女よく見てみれば雪にすごいそっくりね人間。ちょっと私の家に……って走って逃げちゃったわ、残念ね』
ーーとある天狗は語る。
『し、屍の姫ですか? ありゃー、バケモノですよ。私の上司が言ってましたね。その昔に何百の天狗を殺しまわって、今の伴侶である鬼神とも互角に戦った事があると。それにかなりの外道で、私も昔に羽を毟られて、火のかかった鍋に全裸で入れられて茹でられた時は本当に死ぬかと……』
ーーとある現人神は語る。
『あぁ、雪さんのことですか? ときどき人里で買い物をしてる時に会いますねー。最近じゃあ、雑談もよくしますね。知ってます? あの人って結構料理好きで、旦那様に毎日手作りを作っているそうなんですよー。いいですよねー、お嫁さんですよお嫁さん! 少し憧れますねー!』
ーーとある正体不明は語る。
『あー、白鷺 雪ってあの鬼神の伴侶でしょ? 地底にいた頃に一度だけ見たことあるけど、なんと言うか……、ずっと鬼神にべったりしてる感じだったかなー? まあ、何百年前に見たきりだからよく覚えてないけど?』
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桜井 命が神社の境内に現れ三日が経ち、慧音宅に居候を始めてから二日目の昼ごろ。
人里の道中、そこで二人の少女が目的もなく、歩き続ける。
「んー、だいぶ聞き歩いたな。結構人里にも白鷺 雪の知り合いはいるものだ」
慧音に用意してもらった杖をコツコツと鳴らす盲目の少女はそう呟きながら、隣を歩く魔理沙に語る。
そんな呟きに魔理沙は首を傾げながら尋ねた。
「なー、人里を案内してほしいって言うのはわかるが……、なんでそんなに雪の事を聴き歩くんだ?」
命が人里の中を杖を鳴らしながら歩く道中、魔理沙と挨拶を交わして行く人や命を雪と勘違いしたりして話しかける人や新聞を見て件のそっくり者と気づく者、様々な人に命は【白鷺 雪】について尋ねまわっていた。
雪に似ていると毒牙にしようとした花妖怪がいて命が全速力で逃げ出しだ後も、呆れずに聴き続けている様子を見た時は懲りないなと魔理沙は思ったほどだ。
命はそんな呆れている魔理沙の気持ちに気づく事なく、魔理沙の問いに答える。
「うーんなんでかって言われたら……、自分に似ている人の事は知りたくならないか? もしかしたら中身も自分と一緒かもしれないしな」
「んー?そんなもんなのか?」
「生まれつき目が見えないぶん、好奇心が旺盛なのさ」
微笑を浮かべる命を片目に、魔理沙はそんなものかと納得し、次に案内する場所を考える。
目ぼしい場所も思いつかないし、次は人里の外に連れて行こうかと考えるも、どこに連れて行くか迷う。
幻想郷はけっこう広い。
東西南北、天から地へと幅広く、案内するにも1日では回りきれない。
なら近場のどこかでも……。
魔理沙がそう考えていると目の前に小さな妖力を感じた。
その妖力は霧状のものとして視認され、それが固まっていきそれは魔理沙らの目の前に姿を現した。
「やぁー、魔理沙ぁ」
「お、萃香じゃないか」
目の前に現れたのは左右から捩れた角を生やした茶髪の小鬼。
見た目は幼女で中身は酒豪の伊吹 萃香が現れた。
こいつが人里で珍しいなと魔理沙は思いながら、初対面であろう命に萃香のことを紹介する。
そして、命自身も自己の紹介をしようと手を伸ばした。
「初めまして、桜井 命だ。盲目で視力が悪いが、よろしく」
「おう、よろしくー。で? 私にも"白鷺 雪"について尋ねるのかあ?」
「お、よくわかったな」
萃香が伸ばされた手を握り、握手で答える。
そして、先ほど萃香自身が霧状となり観察していた雪の事を聞き回っていた雪似の人物に対して、率直に答えた。
「言っておくが白鷺 雪は……、お嬢は私ら鬼にとっては妹みたいなもんなんだ。もしお嬢の身に何かあれば自身の危機のように返り討ちにしてやるし、悲しませるような事があればーー、全力で潰すぞ人間?」
珍しく見る萃香の真面目な顔。
魔理沙のみならず、周辺の歩き去る人々も萃香の気迫に押され、恐怖に襲われる。
しかし、そんな中で命だけは変わらず口を開いた。
「それは、忠告として受け取れば?」
「いやぁ、変に嗅ぎ回っているように見えたから誤解されないように気をつけろってことさ」
「ふふ、そうか。なら気をつけるよ」
萃香の言葉にクスリと笑う。
そして、萃香はそれだけさぁ、と言い残して再び霧状となり消えていった。
そして消えていった萃香を見送った命は何事も無かったかのように魔理沙に話しかける。
「さ、次は噂の地底でも行こうかな。あそこは白鷺 雪の知り合いが多いそうだからいい話が聞けそうだ」
「おいおい……、いま言われたばかりだろうが。これ以上、普通の人間が妖怪の事に踏み込むのはやめておきな」
次は噂の激ヤバなバケモノの鬼神本人がでてきそうだ、魔理沙はそう思いながら変にこだわる命を止める。
命自身は魔理沙の言葉に、なら仕方がないと呟き諦めの様子を見せた。
そして、代わりに思いついたように口を開く。
「なら、次は幻想郷で起こるっていう可笑しな事件……"異変"ってものを聞きたいかな?」
「お、それなら私が教えてやるぜ!! 実は私も異変解決を生業にしてるからな!!」
「おっとそれは楽しみだ。ならどこかで落ち着いてよく聞かせてくれ」
「ああ、任せな!!」
魔理沙は胸にドンと拳を当て、命の手を引っ張りながら近くの甘味処へと行く。
そして店の前に広がるベンチに腰を下ろして、店主にお茶と適当な甘味を注文する。
「で、話を聞いてもいいか?」
「あぁ、いいぜ! なにから話したものかな……」
と、魔理沙は顎に手を添えながら思い出し、自身の経験してきた異変について語り出す。
最初は、幻想郷を紅く覆った霧の話。
そして、春が奪われ冬が終わらぬ話。
それは、三日ごとに行われる百鬼夜行の話。
あれは、月が沈まず終わらぬ夜の話。
それからも、あらゆる花が咲き乱れる話、奇妙な異常気象の発生する話、温泉と悪霊が湧き出てくる話。
そして最後は幻想郷の空に宝船が現れた話。
他にも異変という訳ではないが、野良の妖怪をやっつけた話や月に行った話、外からやってきた神様の話などを魔理沙は語る。
命はその魔理沙の話に耳を傾け、静かに傾聴をする。
時にすると約一時間ほど。
すでに出されたお茶は空であり、皿の上に乗るみたらし団子もすでに串だけとなっていた。
しかし魔理沙は自分の武勇伝を語り続け、命も驚く事なくただ平然と耳を傾け続けた。
そして、魔理沙はここ最近の異変の詳細を語り、話を締めくくろうとしたが、最後にもう一つだけ語っていない異変について思い出す。
「ああー、あと"あれ"もあったな……」
「お、次はどんな異変を語ってくれるんだ?」
「"骸鬼異変"っていう異変があったんだが……」
命の期待の声に魔理沙は唸りながら迷う。
魔理沙としてはこの異変の首謀者は雪となっており、雪に変にこだわる彼女に話してもいいものかと考える。
先ほども萃香に釘を刺されたばかりだし、これ以上雪の話をし、飛び火をして私まで面倒を受けることになるのはごめんこうむる。
そう思い魔理沙は言葉を適当に濁して説明した。
「まあ、そんなに多く語る異変ではないさ。ただ、幻想郷に骸となって現れた怨霊が溢れかえるだけの異変ってだけだったぜ」
「それはいつ頃の話で?」
「んー、いつだったか……確かあれは去年の年末あたりだったかーー」
魔理沙がそう答えると、今まで魔理沙がどんなに盛り上がりそうな話題を振っても一定の表情を浮かべていた命がこの時初めて、表情を崩した。
「そうか。それは異変続きで大変なことで」
「はは、それは違いない! あの時は二日続きで霊夢もカンカンだったぜ!」
「ああ、博麗の巫女には本当に同情するよーー」
魔理沙はケラケラと笑うも、命が最期に呟いた言葉を聞くことはできなかった。
魔理沙は、命のその呟いた言葉の意味に、浮かべた笑みに気づくことは、できなかったーー。




