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東方屍姫伝  作者: 芥
終幕
57/72

その花は、咲いていた

月日は流れた。

私の封印が解かれ、私の起こした異変から早半年ほどが経ち、幻想郷ではいつの間にか初夏に見舞われていた。

ここ半年ほどで幻想郷に起こったことといえば、地底からなんかでっかい船が現れたとか、幻想郷になんかでっかい人影が現れたとかの騒ぎがあり、こんな事が今の幻想郷では起こるのだなー、と呆れる毎日であった私である。


まあ、私とは言えば特に変わり……はないとはいえないが、不幸なく暮らせていた。

いえ……、とっても幸せです。



「なにニヤニヤ笑ってんのよ?」


私が一人ナレーション? している中、私の目の前に太々しく座り、暑いからか机に項垂れる黒髪の女性が話しかけてきた。


「……いや、幸せだなーって」


「はん、でしょーね。毎日、しっぽりときめこんでしょうねー。いやだわー」


「おっさん臭いぞ、黒羽」


黒髪の女性、夜鴉 黒羽がかったるそうに口を開き、私にジト目を向けてきた。


今、私は妖怪の山の頂上にある黒羽の仕事場兼自宅にお邪魔してもらっており、世間話という体で会いに来ているのである。

が、来て早々、私の幸せそうな笑みを見て気にくわないのか鼻で笑い嫌味を吐くように口を開いた。


「いいわねえ、あんたは。めんどい仕事も押し付けられず家庭に入ってのんびり専業主婦……。私もなりたいわあ」


「……うん、黒羽も早く見つけるといい」


嫌味たっぷりに言ってくる黒羽に対し、私は左の薬指にはめられた銀色に光る"指輪"に触れながらそう言った。



半年前……。

私は、あの狐の仮面をかぶった少女と別れてから、彼女の……斬乂のもとに向かった。

彼女の待っていた場所は、五百年前に私と斬乂がまだ地上で暮らしていた時の家。

そして、私が斬乂にプロポーズされた思い出の詰まった場所。


そこで、私は斬乂と五百年ぶりに再会した。


屋敷の前で、降り積もる雪にまみれながら、斬乂は私のことを待ってくれていた。

最初はなんて話をはじめようか戸惑った。

愛してる、大好き、積もり積もった言葉はあった。


だけど、私は最初に謝った。

ごめんと言って、頭を下げた。


いきなり謝られて、斬乂は驚いていたが、私の頭を優しく撫でてくれて、抱きしめてくれた。

そして、その後に今でも私の指にハマっている……、指輪をはめてくれた。

なんでもすぐに地上に来れなかったのは地底で、ずっとこの指輪を探していたかららしい。


斬乂曰く、私が五百年封印されている間は、私が斬乂に愛想を尽かし何処かに行ってしまったと勘違いしていたらしい。

私は八雲 紫がなんと私がいなくなった事を説明したのだろうかと呆れてはいたが、彼女は私が地上にいると聞きつけて急いでその指輪を見繕ってきたとか。

それで、私を抱きしめてーー、


『もう一度、私とやり直してはくれませんか?』


その指輪を渡して、私にそう言った。


傑作だった。

思わず私は笑ってしまった。

捨てられたと五百年前にわめいていた自分に笑え、愛想を尽かされたと勘違いしていた斬乂に笑った。


笑って笑って笑って……、涙を流しながら私は斬乂のその言葉に頷いた。


そして、私は泣きながら差し出された指輪を受け取り、少し会話を交わした後、少しいい雰囲気になって、その気になった斬乂に、私と斬乂が昔住んでいた屋敷の中に連れられ……まあ、そのあとは……想像に任せる……、すごかったとは言っておくが。


で、それからの半年間はずっと斬乂と一緒である……とは言えない。

いや、毎日は一緒にいれる、制限付きでだが。


その制限とは一日の半分、日が出ているうちは斬乂は地底にいなければいけない、これが八雲 紫が私に出した条件である。

以外にもまともな条件で私はびっくりしたのは過去の話だ。

他にも、妖怪の山から出てはいけないなどの制限もあるが、私は斬乂とは毎日顔をあわせる事ができる。

なので私と斬乂は今は妖怪の山の、昔住んでいた屋敷にそのまま住んでいる事になる。


まあ、条件により昼間は斬乂が鬼神としての仕事で地底に戻ってしまうが、夕方には帰ってきてくれるし、ちゃんと私の作った夕飯も食べてくれる。

あとは……まあ、夜はイロイロと相手をしてもらえるので文句はない。

問題があるとすれば、日の出前に斬乂が家を出て地底に行ってしまうので、見送りのために早起きなのが大変。


ま、斬乂が仕事に行っている間は主婦業に勤しんだり、こうして暇潰しに黒羽などの知り合いのところに出向いたりしている。




「けっ、嫌味ね」


嫌味なく言ったつもりだが、どうやら黒羽には嫌味に聞こえたらしい。

まあ確かに黒羽曰く、昔は斬乂が好きで、私が斬乂を寝取ったようなことも言っていたので嫌味に聞こえるかもしれないが……。


「ま、まあ……もしもの場合は、斬乂を分けてやってもいいけど……」


「はぁん、余裕ね」


「お、お前になら少しぐらい斬乂を取られてもいいと思ってるんだよ……」


私の好意を鼻で笑う黒羽。

というか、今の言葉は斬乂の二股を許可しているのではと言い終わってから気づくが、きっと斬乂なら私も愛してくれるから大丈夫だと変な信用をしながら私は自己解釈をする。


「そ、それに……責任取ってもらうって言ってもらったから……大丈夫……」


「ふーん、責任ね。オメデタでもしたの?」


ケラケラと笑いながら冗談半分に言う黒羽に、私は自分のお腹をさすりながら顔を染め……頷いた。





「…………………………………………………はあ?」





黒羽は一瞬遅れて、声を上げた。


























東方屍姫伝
















終幕

〜その花は、咲いていた〜































「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」


「う、うるさいぞ二人とも……」


場所は変わり人里のとある甘味屋。

外に置かれたベンチに座りながら、私の両端に座る妹紅と慧音先生が驚愕の声を上げる中、私は顔を少し染め、肩をすぼめ、先ほど訪れた黒羽と同じような反応をする二人に恥ずかしさを見せながらも呟いた。


もちろん、二人の驚く内容は私が今でもさするこのお腹にいる彼か彼女かわからない、"小さな命"にだ。

つまり……、私は今……。


「ちょ、お、お前っ!! そ、それってそのお前の腹ん中に……」


羅列のまともでない妹紅の言葉に私は首肯した。


「うん、私の"子"だ。永琳さんが三ヶ月だって……」


「あ、相手はだれだ!?」


私の呟きに、慧音先生が私の肩を揺さぶり、私がさするお腹を見つめる。

その、お腹の中にいるであろう"子"に目を向けながら、慧音先生は目を回しながら叫んでいた。


私は慌てる慧音先生をなだめながらも、その質問に答えた。


「もちろん……斬乂に決まっているだろ?」


「い、いや雪!? それ以前にどうやってガキを!!」


「も、妹紅……それはその……太くてたくましい斬乂をこう……私に……」


「顔を紅らめながらキモいこと言うな!? 私が聞いてんのは女同士でどうやっててってことだよ!!」


顔を赤くし、斬乂との夜の営みを思い出しながら答えようとすると、妹紅は私の頭を思いっきり叩く。

そして、質問の意図を理解した私はさらに顔を紅くしてうつむいて答えた。


「……永琳さんに、女同士でもできるお薬を……」


恥ずかしいからこの先は言えなかった。

"アレ"が生える薬を妹紅経由で知り合った薬師の永琳さんにちょっとイロイロと話したついでに何錠か貰ったので斬乂に盛ったとは決して口に出せる内容ではなかった。

ちなみに最初に服用させた後も斬乂に服用させる機会が多いからか消費が激しいので、ちょくちょくと追加をもらいに行っていることも内緒だ。


「はぁあ!? お前さっき三ヶ月って言ったよな!! 私がお前を永遠亭に連れてったのも……」


「毎日してれば……嫌でもできる……」


「……慧音、ダチの性事情を聞かされるってこんなキモい気分なんだな」


「……言ってやるな」


キモい気分とは失礼な。

そして慧音先生も妹紅の意見に同意するような反応はするなよ。

別に好きな人の子供を孕めることは幸せだろなことだろう?

それにそういう行為も愛を確かめ合うものにもなるし、別に気持ち悪いものではないではないか。


「はあ……お前から色んな惚気は聞いていたが、まさかガキが出来たとは……」


「ゆ、雪! ちゃんと認知はされているのだろうな!?」


「うん……責任取ってくれるって」


まあ、出来た当初は斬乂も顔真っ青で、私自身もマジで出来るのか永琳さんパネェ……とは思っていたし、出来てしまって堕ろしましょうなんて事を斬乂に言われたら私とて離婚を考えたものだ。

だけど、ちゃんと責任は取るって言ってくれたし……


「それに……、あと千人は産んでもらうつもりって……斬乂はりきっちゃって……」


「それだとお前は年中妊婦だぞ?」


「いや、妹紅よ。つっこむとこはそこじゃないぞ?」


「わ、私も……その分エッチできなくなるから控えようって言ったけど……産んだらその分頑張るって言って……私も、頑張ってみようかと……。だから、今は禁欲中で……」


「雪!? 足をそんな風に揺するな! 人里だぞここは!?」


「大丈夫……家までは我慢できる……」


「禁欲はどうなった!?」


一人でするのはまだセーフ。

私はそう思いながら、妹紅と慧音先生にお別れを言ったあと、妖怪の山の方に帰って行った。




❇︎❇︎❇︎



「で、雪さん。今から果たしてどこに行くんですか?」


私が妖怪の山の山道を歩く中、後ろの方からさとりの声が聞こえた。


人里から帰り、私が妖怪の山にある自宅に戻り、イロイロと発散しようと寝室に向かったらそこには先客でさとりがいて、なんか勝手に人の布団のでグースカと寝ていたので私は唖然とした。

確かこいつも地底では権力者の一人で決して暇ではないはずなのにどうして……、と私は人ん家で眠る幼女の事を思いながら仕方なく、と厠に行ってスッキリした後にさとりを起こしてやった。

まあ、さとりには私が直前まで隠れてやっていた行為はバレバレだったのが赤面ものだったが、さとりになら仕方がないと変に納得する私がいた。

で、終わったら良かったが……、無理やり起こされたのが気に触れたのか、散々いじられて私は涙目でした、はい……。


と、私は数分前の事を思い出しながら山道を歩き、さとりの質問に答えた。


「……べつに、ただの墓参りだ」


「へえ、誰の?」


「……心を読んで分かってるくせに」


皮肉であろうさとりの言葉にため息を吐きつつも、私は目的に到着し、ここだとさとりに呟いた。


そこは今まで通ってきた草木が生い茂る場所とは違い、随分と開けた場所で、ちょうど幻想郷全体を見渡せるような山崖の様なところである。

そして、その幻想郷を見渡せるような場所に、ポツリと小さな墓石が置かれており、そこには『白鷺 茜』と書かれている。


そう。

ここはかつて私が婚約していて、幼馴染であった彼女の……茜の眠る墓である。


「ふーん、これが雪さんの元サヤの……」


「……元サヤ言うな」


さとりの言葉に私は呆れながらも、私は持ってきた花束と線香を置き、茜に向かって手を添えた。


かつて、私が茜を生き返らせようと残しておいた死体。

いつぞや斬乂の事を愛してから燃やした彼女の亡骸。

そして……ここ最近までずっと私の『影ノ中』に収納していた茜の灰。


私はその茜の灰を、ようやくどこか落ち着いた場所に埋葬することができたのは半年前の話。

斬乂に目ばかりがいって、すっかり彼女の事を忘れており、周りに目を向けるようになってからようやく彼女の亡骸を思い出し、ここに埋めた。


慧音先生にも何度か手を合わせに来てもらっていて、私以外にも彼女の事を覚えている人がいて、確かに茜は昔に生きていたことが実感できた。


斬乂に手を合わしてもらったときや、私のお腹に赤ちゃんがいるという報告をした時は、茜を裏切った気持ちにはなるが、笑って許してくれたら、良好だと常日頃から思っている。


「雪さんは……アナタの元サヤは今では、鬼に孕まされて毎日幸せそうにアヘッているので心配ないです」


「人聞きの悪いこと言うな……」


私と同じように拝みながらとんでもない事を言うさとりの頭を叩いて、私はその場を立つ。


一通りすることが終わったので帰るぞ、さとりにそう言って立ち去ろうとした時に、その茜の墓の隅にポツンと咲く一つの花が目に入る。



ーーそれは赤い花で、今は初夏のはずなのにひどく季節外れに咲いていた。

一つ、寂しく咲くその赤い花は、沈んでいく太陽の日に当たり、綺麗な"茜色"に染まっていた。




その花の花言葉はーー、"思うはあなた一人"。




何かを言うように。

その茜色の花は、咲いていた。

一つ寂しく、咲いていたーー。




「……愛してたよ、"茜"」




かつて誓ったその花に、私は一言呟いた。




「……また、来るから」




その咲いた花を背に、私は歩き出した。

愛しい、彼女のところへと……。

東方屍姫伝ー完ー

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