不安
どんどんガヤガヤ。
右からは喧騒が、左からは下手な歌声が、目前にはチラホラと酒を煽るように呑む輩が見える。
空は時刻が夜中で暗く、黒い空からは白い雪がパラパラと降ってきている。
そんな中でも私の視界に映るものらはそんな事を気にせずにと、どんどんガヤガヤと騒ぎ続ける。
そしてそんな騒がしい中で私は、というとーー
「ねー、雪ぃ。あんたも飲みなさいよぉ」
「そうだぞお嬢ぅ! 今夜はめでたいんだから飲まなきゃ損だ!」
「お姉さんお姉さん!! フランと遊ぼうよー、弾幕ごっこしよー!!」
右に幽香がグイグイと酒瓶を押し付けてきて、左に勇儀が私の肩に手を回して大きな赤い盃を渡してくる。
そして膝にフランドール……という名の幼女が、胡座をかく私の足の隙間に入り込むように座り、駄々をこねている。
他にも私の目の前には慧音先生や妹紅、さとりと魔理沙とか言う魔女っ子が私を囲むように酒らしきものを飲んでいる。
今は今回の異変解決の祝勝会?みたいなものをここ博麗神社で行っている。
私的には昨日のさとりのとこが起こした、怨霊が地上に溢れ出す異変解決宴会の次の日にまた別の宴会をするんかい的な事を言いたいが、二日続けて狙って異変を起こした私の身としては口に出しては言えない。
というか起こした本人がその解決を祝う宴会に参加していいのだろうかという疑問もある。
何も言われないということは、居てもいいんだろうけど……。
しかし、これだけは言わせてもらいたい。
「……うるさい」
そんな喧騒たる中で、私は呆れながらにボソリと呟いた。
❇︎❇︎❇︎
私の起こした異変ーー。
骸鬼異変、なんていつの間にか発行されていた某新聞では呼ばれてはいるが、その異変が終結したのは今日の事……、いや既に日は変わって昨日の事だろうか。
異変の終わりとしては私から溢れ出た怨霊は博麗の巫女と妖怪の賢者により、片付けられたとか。
妖怪の賢者は八雲 紫という事は昔から既に知っているが、博麗の巫女とは私の事を気絶させたあの野蛮巫女の事らしい。
よりにもよって私の大嫌いなあの二人に私の尻拭いをされるとか屈辱の極みでしかない……と言いたいが、実際に私が怨霊共をどうにかするには再び自分の中に戻す事しかできない。
なので、もし再び私の中に怨霊を戻す事になっていたら、遠からず私は過去のように精神が再び狂っていたかもしれない。
そう考えれば二人の行いにはありがたさはある、が素直にお礼はいいにくい。
まあ、その二人には遠回しに少しずつ借りを返していこう、不本意だが。
それで、此度の異変解決により幻想郷に再び平和が戻ったとさチャンチャン。
と、いうわけにはいかず私には何処か釈然としない気持ちはある。
私に今回の異変を起こさせた元凶と言えるあの"狐"。
異変が終わってからは一度も私はあの"狐"に会ってはいない。
このまま放置、というわけには個人的にも良しとはしないが……。
「……まあ今は、そんなことはどうでもいいか」
私は自身の目に映る騒がしい光景を見つめながら、そうポツリと呟いた。
見た事のない奴ら……てか女の人が多いが、どんちゃん騒いであちらこちらで楽しそうに騒いでいるその光景。
中には五百年前に見知った顔も何人か居り、私は懐かしむようにそれらを見つめる。
そして、ふと思った。
私は、五百年前は斬乂さえいればいいと思っていた。
斬乂さえいれば私は幸せになると思っていた。
しかし、私の欲しかったものはこんなに近くにあって、こんなに当たり前のようにあって……、自分が"それ"から目を逸らして斬乂しか見てなかったことが、今ではよくわかる。
桜井 命が望んだ"平和"も、白鷺 雪が欲した"温もり"も、斬乂への依存をやめただけでこんなにも簡単に見つけることができた。
私は物思いに老けながら、視線の先にいる私に大事な事を気付かせてくれた一人である彼女の方を見た。
「……な、なんだよ、見つめてきて」
両サイドと膝元からの絡みを無視しながら私は彼女の方に目を向けた。
しかし彼女は私の視線に気づくも、顔を歪め気色悪いと言ってきなさる。
まあ、そんな喧嘩腰な態度でも今日くらいは許してやろう、私はそう思いながら彼女に向け口を開いた。
「いや、お前は何百年経っても目付きが悪いなぁと思ってな」
「お前も人の事言えないからな?」
誤魔化すように鼻で笑う私に、何を言っているのだと言いたげな顔をする彼女……、妹紅は呆れたように首を傾げそう言う。
私はかつて中途半端な別れ方をした妹紅と再び再会することが出来て嬉しいと内心ほくそ笑んでいると、私の周りで騒がしくしている一人の内の彼女が私の頭を鷲掴み、激しく揺らしながら声をかけてきた。
「ちょっとー、いま私が話しかけてんでしょう? 私の酒が飲めないっていうのー?」
酒瓶を片手に顔を少し赤くして私に絡んでくる美少女。
その美少女こと風見 幽香は最初会った時はなぜ黙って地底に行ったと私に文句、あるいは恐喝をしてきたが今としてはこうやって私に笑いかけながら接してきてくれている。
まあ、五百年前に地底に黙って行ったのは申し訳ないとは思っているが、幽香の場合は私が地底に行くことによりストーカーのごとく追って、または私が地底に行かないようにと監禁されそうな気がしたので黙っていた方がいいと個人的に判断したのだ。
……実際は、斬乂のことであの頃は頭がいっぱいで忘れていただけだが。
「早く飲みなさいよ、酔い潰れるまで飲んでくれないと持ち帰れないのだけど?」
「サラリととんでもないこと言ったな!?」
「別にいいじゃない、あの鬼がいない今がチャンスなんだし」
私の肩に手を回し、舌をペロリと出しながら私を色っぽく見つめる幽香。
そんな幽香の態度を見て、私は貞操の危機を感じた。
が、そんな私のピンチな様子を見て、傍らにいる女が立ち上がった。
「おいおい、花妖怪さんよぉ。お嬢に無理やり酒のますまでは許せるが、お嬢の品格を落とすようなことはよせやい」
幽香の反対側に座る一本角の鬼、勇儀が立ち上がり私に引っ付く幽香を睨みつけるように見下ろす。
しかし、そんな勇儀の凄みに臆することなく幽香は笑いながら答えた。
「あら、私は今夜の泊まる家のない彼女に場所を提供してあげようと思っただけよ。…………まあ宿代は身体で払ってもらうけど」
「わたしゃあ母さんにお嬢の事を頼まれてんだ、お嬢には手出しはさせねぇよ」
勇儀の言う母さん。
もちろんそれは私の伴侶で旦那? の千樹 斬乂のことである。
本当は、今日の宴会にその斬乂は来る予定だった。
先ほど勇儀が一度地底に戻った時、一緒に斬乂も来るはずだったが、何か用事があると今日は来れなくなったとか。
まさかの浮気……と涙目にそう思ったが、さとりにそれは大丈夫と諭された。
心の読めるさとりにそう言われたら納得するしかないが、斬乂と離れてから五百年も会っておらず乗り換えられたとしてもおかしくはないとは思っている。
……ほんとだよ?
斬乂以外は地底の顔見知りはほとんど来てくれたし、私をお嬢と慕う鬼らだって結構な数がわざわざ地底から来てくれている。
他にもヤマメとかパルスィも来てくれてたし、そんな関わったことないけど。
だが、斬乂だけは来てくれていない。
「未練たらたらですね」
「黙れさとり」
ナイーブな私の心を覗いたのか、私の正面に座るさとりがドンピシャな言葉をかけてくる。
「仕方がないだろう、仮にも夫婦だったんだ」
「知ってます、その夫婦の惚気具合を私は毎日見せびらかされていて砂糖吐きまくりでしたよ」
「……まあ、あの頃は若かったから」
「あの頃と言っても当時は既に雪さんはたいして若くなかったでしょうに」
ため息をつきコップに入った酒をちょびちょびとさとりは飲みながら、呆れるように言ってきた。
私はさとりのその言葉にそういえばあの頃は私はいくつくらいだったのだろうかと、いつぞや数え忘れていた自身の年齢について考えようとすると、さとりと私のやり取りを見ていた慧音先生がクスリと笑い、話しかけてきた。
「ふふ、あんなにやんちゃだった妹分が、こんなに恥じらいを持てる女の子に育っていたとはな。時代は変わるものだ」
「け、慧音先生……」
「今度、その斬乂って人に合わせてくれよ」
慧音先生のその言葉に私は少し恥ずかしさを覚えるも、小さくこくりと頷いた。
かつての彼女は自分にとっては姉貴分で、私が茜と婚約を結んだ時も、誰よりも祝福してくれた人だ。
女同士なんて事にも偏見を持たずに、いつでも優しく見守ってくれて……。
「へ、私もこんな大雑把な女を娶るなんて奴の顔を見てみたいぜ」
「黙れ妹紅」
人がせっかく昔を懐かしみ、思い出に浸っているところを邪魔しやがって。
それに大雑把とは失礼な。
これでも一丁前に主婦をやっていたんだ。
炊事とか掃除とか専業主婦レベルだぞ。
実際にも専業主婦だったが。
妹紅の言葉に呆れていると、妹紅に便乗するように手を挙げ発言する魔女っ子がいた。
「私も見てみたいぜ! その相手ってのは鬼の大将なんだろ?」
興味津々に手を挙げ、私にグイグイとくる魔女っ子魔理沙。
なぜこいつが私の近くで飲んでいるのかという野暮なことは言わないが、なぜ自然に会話に入ってくるのだろうか。
しかもこいつはいちいち馴れ馴れしくて、ちょくちょく話しかけてくるも絡みがウザい。
てか、こいつ人間じゃね?
こんな妖怪だらけのところにいていいの?
「やっと見つけたわよっ魔理沙あ!!」
「ん、アリス? それにパチュリーも」
私が異色なものを見るように人間であろう彼女を見ていると、魔理沙の後方から叫び声を上げこちらに走ってやってくる金髪少女と、ぜーはぜーはと息切れを起こしながらノロノロとやってくる紫髪の少女が目にはいってきた。
そしてこっちに来たと思ったらすぐさま魔理沙の胸元を掴みとり、息切れを起こしながらアリスという金髪の女が魔理沙を睨みつけてきた。
「はぁはぁ、やっと見つけたぁ!」
「ど、どうしたんだよアリス……」
「どうしたも……なにも……ずっと探してて、膝枕してもらおうと」
金髪の少女のその唐突な恥じらいが見える言葉に魔理沙は、「は?」と首をかしげるが、後から来た紫髪のパチュリーと言う少女が金髪の少女よりもひどい息切れを起こしながら同じく意味のわからない事を言い始めた。
「ま、待ちなさいよ……アリス……わ、私の方が……いっぱい……化け物を……消したわよ……」
「はあ!? 私の方が多かったし!!」
「私の方が……多かったわ、むきゅ」
咳き込みながらも答える紫髪の少女。
しかし、そんな紫髪の少女の態度を見て、話にならないと言いたげな金髪の彼女はため息をつき、挑発めいた態度で顎をどこかにさすように動かし、紫髪の少女を睨みつけた。
金髪の少女のその動きに、何かを理解したのか紫髪の彼女は頷き、同じく金髪の少女を睨みつけた。
「むきゅ……上等……」
「……行くわよ」
「お、おい!? どこに連れてくんだよ!!」
二人が何やら勝手に同意をすると、金髪の少女が魔理沙の手首を掴みとりどこかに向かって歩き出す。
いきなりの二人の行動に魔理沙は動揺をしているも、私はその三人の様子を見て、その様子を止めることなく思った事を口に出した。
「……修羅場?」
「……いつか背後から刺されないといいがな」
私の呟きに呆れるように慧音先生が答えた。
私はあの三人は殺傷沙汰のようなことが起きる関係なのかと若干恐怖を覚えながらも、魔理沙を連れて行く二人の背中を見る。
あの二人は人間という感じはしないが、妖怪という感じもしない。
なんというかグレーなイメージがあった。
「あれは魔法使い、という種族ですよ」
私の心の疑問に答えるようさとりがそう言った。
そして補足するように続けて言葉にする。
「今の幻想郷には妖怪だけでなく、ああいうのもいるってことですよ」
「……ふーん」
私のいない五百年の間に幻想郷もずいぶんと変わったものだ。
妖怪が人間と仲良くしているし、その他の意味のわからない種族も増えた。
それによく見たらこの場には幽香とか鬼とかいうめっちゃ強い存在もいれば、妖精みたいな雑魚もいる。
それらが同じ席を囲んで、飲んでは食ってはで一緒に騒いでいる。
はたから見ればま素晴らしいが、見慣れない私にとってはその光景がなんというかーー
「気持ち悪い、ですか」
「どうでもいいことまで心を読むな……」
私の思っていることを読むさとりに対し、私はため息をついた。
「ま、それが今の幻想郷っていうものですよ」
「……八雲 紫の求めていた人妖の共存ってのはいつの間にか出来てたわけねえ」
昔は人里と妖怪の住処を隔離するだけで精一杯だったのにな、と私が思っているとさとりがその考えを正すように答えた。
「その辺は昔と変わりがありませんが……、大体的に変わったことといえば、人が我々に対して少し友好的になった、ということでしょうか」
「友好的、ね。飼い殺されてるの間違いじゃない」
人と妖怪は別物だ。
それに幻想郷なんていう妖怪の集まる場所で、人里がポツリとあれば自然と妖怪と仲良くするしかないし、長い年月をかけて人里の人間どもを洗脳していけば多少は妖怪に気を許すだろう。
いつ裏切られ殺されると知らずに。
それを飼い殺されていると言わずなんと言えばいい。
結局はみんな八雲 紫の手の上で踊らされているだけで……
「いたっ!?」
「また思考がマイナスになっていますよ」
さとりの言葉を私なりに解釈していると、さとりが私の額にデコピンをかましてきた。
私はさとりのたいして痛みのないその理不尽な一撃に、気にくわないと睨みつけるが無視をされ、ため息をつきながらトンチンカンなことを言い出した。
「貴女のその言い分は、八雲 紫が気に入らないだけでしょう」
「い、いや別にそんな、ことは……」
「はぁ……、八雲 紫もずいぶんと嫌われているものですね」
だから違う、そう言い返そうとするとさとりはしょうもないものを見るような目で私を見つめてきた。
そして、さとりはやれやれと言いながら息を吐き言葉を続ける。
「それに、雪さんは優しい人ですから、ほんのちょっと人里に顔を出したって誰も貴女を否定しませんよ」
「ち、違うし……、別に人里に行ってみたいとか……」
「大丈夫さ、私が説明すれば受け入れてもらえるよ」
「だから、そんなんじゃ……」
今まで私とさとりの二人の様子を見守るように見ていた慧音先生が、私に諭すように言ってきた。
慧音先生もなぜかは知らないが、今は半分は妖怪らしい。
なのに人里に住み込んでそこで教師をやっていると言っていた。
ならば人里はそこまで妖怪に対して敵対はしてないのでは、と思えるが私は人間に対して拒絶され続けてきていたので良い思い出があまり無い。
私が妖怪であるということで石を投げ、唾を吐き、時には悪い芽を摘むように鎌で腹を突き刺されたことがあった。
それらの事を思い出すと、もしかしたらまた拒絶されるのでは。
そう思ってしまうと中々人に対して友好的には……。
「またマイナス思考です」
「デジャブっ!?」
私が深く考え込んでいるとさとりが再びデコピンをかましてきた。
しかも今度はさっきよりも強めで額が少しヒリヒリしており、ちょっとだけ痛い。
だが、さとりはそんな涙目の私に気にすることがなく口を開いた。
「次、マイナスな事を考えるようなら……、あることないこと言いふらしますからね」
「それだけはやめてください!!」
さとりの言葉に文句を言おうとした私は勢いよく頭を下げ謝った。
さとりの言うあることないこととは、嘘なんて一つもなくて、すべて真実で語りそうだから怖い……と、頭を下げながら思っているとふと膝下が目に入り、フランドールがいつの間にか眠りこけ私の膝を枕にして寝ていることに気がついた。
ちなみに私の両端にいた勇儀と幽香はいつの間にか私の背後で飲み比べをしており、顔を真っ赤にしながら何かを張り合っていた。
……どおりでしばらく静かだと思った。
「えーと……、この子の保護者は……」
私がよく知らぬ幼女が膝で寝ている事に困惑していると、妹紅が答えてくれた。
「あぁ、吸血鬼の妹の方のか。いつの間にか寝てたのか」
「……吸血鬼?」
私は妹紅の言う吸血鬼という言葉に首を傾げた。
が、なんとなく心当たりがあった。
おそらくその吸血鬼とは私が異変の時に相対した奴のことだろう、この金髪幼女もその時にいたし……、というかこれも吸血鬼だったんだ。
「ま、そのうちメイドが迎えに来るだろ」
「冥土?」
「ほら、あそこでさっきから探し回ってるやつ」
妹紅の言葉に突拍子のないことを思い浮かべながらまた首を傾げていると、遠くの方からいもうとさまー、と何かを探しながら呼びかける声が聞こえてきた。
その声の主に目を向けると、ここから少し離れたところにいる銀髪でロングスカートで、エプロンを羽織っている少女を私は見つけた。
そして、私がそちらに目を向けているとたまたま視線があい、何かを見つけたようにこちらにやってきた。
「やっと、見つけました」
彼女はフランドールに視線を向けながら安堵を見せてそう言った。
どうやらフランドールの保護者のようで、見つけるなり私の方に会釈をして、私の膝元で眠るフランドールを抱きかかえ、小さな体の彼女をそのまま背中に背負う。
そして、私の方に視線を向け、何かに気付いたように話しかけてきた。
「貴女は確か、今回の異変の……」
「…………あ」
銀髪の彼女に話しかけられた事により、彼女が吸血鬼の姉と戦っていた時にそばにいた少女であるということを思い出す。
そして、私は少し気まずそうな感じでなんとなく彼女に名乗った。
「えーと……、白鷺 雪です」
「……十六夜 咲夜よ。紅魔館という所でメイドをやらせてもらっているわ」
とりあえず私は名乗ったが、意味深な視線を彼女から向けられ、少しの間を空けられてから名乗られた。
なんだろうか。
なんか少し彼女から警戒されている気がする。
確かに私は今回の異変の首謀者で、目の前で目をギラギラさせ、戦ってはいたが……。
もしかして私が妖怪だからだろうか。
よく見たら彼女も雰囲気的に人間っぽいし、それで避けられていても……。
「……某日の夜中、雪さんは斬乂さんにいつも好き勝手やられているからと主導権を握るため、夜這いをかけようとしましたが、逆に手玉に取られ……」
「うにゃぁぁぁぁぁ!!!!」
突然と人の昔の秘事を語りだすさとりに、私は奇声を発しながらデコを狙いピンをした、が心を読まれ難なく避けられてしまった。
私はデコピンを避けられるも、急に何を、と言いたげな視線を彼女に向けるも、彼女はやれやれという風に語り出した。
「今度、マイナス思考になったらあることないこと言うって言いましたよね?」
「ほ、本当に言う奴があるか!?」
「ちなみにオチは……」
「いちいち言うなっ!?」
私が恥ずかしさで顔を真っ赤にした状態で再びデコピンをかまそうとするも避けられた。
そして、私は不意に視線をチラリと妹紅らの方に向けるが、微妙な反応をされ、私の方をじっと見つめていた。
「……なんだよ妹紅」
「いや……、ほどほどに、な?」
「だ、黙れ妹紅!!」
「まあ……、そういうとこがかわいいよ雪は」
「……け、慧音先生までぇ」
みんなして馬鹿にしやがって……。
語り出したさとりは満足そうに笑みを浮かべてるし、もう嫌……。
そう私が悲壮感を溢れ出していると、銀髪の少女が私らのそんなくだらないやり取りを見てなのか、小さく笑った。
「ふふ、面白い方ですね」
「だろー? こいつこんなんでも人妻なんだぜ?」
「妹紅、余計なことをいうな……」
クスクスと笑う銀髪の少女。
そして先ほどとは変わり柔らかくなった表情で彼女は私に話しかけてきた。
「異変のときに名乗られた時は別の名前で名乗られたので少し疑問になってたけど、貴女達の様子を見てれば、名前は白鷺 雪の方であってるのね」
「…………あ」
そう言えば最初に彼女に名乗った時には"桜井 命"と名乗っていたっけか。
……そりゃあ、次に会った時に違う名で名乗られれば少し不信にもなって、態度がよそよそしくなるわな。
「あ、あれは昔の名前だ。今は白鷺 雪だ」
「そう……、雪ね」
彼女、咲夜は私の名前を確認するように繰り返し呼び、一度微笑んでから私に言う。
「ウチのお嬢様が先ほど貴女を探していたのだけど、疲れたのか寝ちゃってね。よかったら今度暇な時に紅魔館に遊びに来てくれないかしら」
咲夜の言うお嬢様……、おそらくあの青髪の幼女の事だろう。
そう言えば異変中に別れた時に決着がまだ付いてなくて駄々をこねていた気がするが。
「ま、まあ……、暇があったらな」
「なら楽しみにしておくわ」
咲夜がそう言うと私と私の周りに軽く頭を下げ、フランドールを背にし歩き出した。
そして、私は微笑みながら私に話しかけてきた彼女の後ろ姿を眺めながら惚けていると、さとりが私の服の裾を引っ張って、話しかけてきた。
「貴女に会うのが楽しみだそうですよ?」
「……ただの社交辞令だろう」
「ふふ、屁理屈を。よかったですね、貴女を待っている"人"がさっそく一人増えましたよ」
「……うるさい」
ニマニマと笑い、人という言葉を嫌に強調して言ってくるさとり。
こいつは私の心を読めるようになってからは昔よりからかいがひどくなった気がするのだが。
しかし、そんな呆れる私に目も向けず、さとりはクスリと笑い話し続けてきた。
「案外、幻想郷の人間は我々に関して寛大ですよ」
「……な、なんのことだ」
「いえ、まだ妖怪である身が、人に拒絶される事を怖がっているようだったので」
「別に……」
怖くないし。
そう言おうとしたが、視線に妹紅と慧音先生が入り、口を噤んだ。
そして、弱々しく口を開いた。
「……こんな、私でも大丈夫だと……思うか?」
「ま、それはお前次第だろ」
私の弱気に妹紅が鼻で笑い答える。
「お前が、ペタンコな胸張って、ヘラヘラ笑って、無害そうに歩いてりゃあ、人里の奴らも敵意なんて向けないさ」
「ふ、目つき悪くして感じ悪そうに歩き回っている奴がよく言うよ」
「ぁあ? それが藤原くおりてぃーってやつだよ」
揚げ足をとるように笑う慧音先生に、彼女を睨みつける妹紅。
私はそんな二人を見て、いつぞや妹紅と別れなければ、私も自然にこの二人の中にもっと前からいれたのではないか、と思いながらもクスリと笑った。
慧音先生が言った妹紅の態度に笑ったのに対してもそうだが、その口ぶりからして妹紅でも受け入れられているようならば私でも大丈夫ではないだろうか、そんな気がして悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。
「私はーー、慧音先生の授業が受けてみたい、かな」
ポツリと、かつて幼い頃の、人間だった頃の自分を思い出しながらそう呟いた。
私のその呟きに慧音先生は首を縦に振り、いつでも来るといいと微笑みながら言う。
私の呟きの返しに、その笑みを浮かべる慧音先生を見て、私は思った。
どうやら私の考えすぎだったようだ、と。
私のその"答え"に自信はないが、なんとなくそう考えることができた。
❇︎❇︎❇︎
「ふふ、なかなか楽しんでもらっているみたいで光栄だわ」
宴会中、私がさとりらと話している時に突然にその声は響いた。
妖艶とした金髪の女。
不気味な空間の裂け目から身を這い出し、怪しい笑みを浮かべながら、口元を紫色の扇子で隠して話す"それ"は私が数百年ぶりの大事な人らとの会談に横槍をさすように現れた。
そいつは、私がこの世で一番油断の出来ない相手で、嫌いな奴だ。
「……八雲、紫」
「はーい、雪。さっきぶりね」
私は睨みつけるようにそいつを見るが、八雲 紫はその視線を無視するように、お気楽に私に手を振った。
そんなお気楽に話しかける彼女を見て、私は顔を歪めたが、私のそんな様子を気になったのかさとりが声をかけてきた。
「……本当に貴女は八雲 紫が嫌いなんですね」
「嫌いもなにも……、こいつには何度……」
「別にいいじゃない。貴女は可愛いからからかい甲斐があるもの」
「き、きさまぁ……」
カラカラと笑いながら八雲 紫はそう言った。
私はそんな調子の彼女を見てイラつき、過去のことを思い出す。
斬乂といい雰囲気になった時にこいつは空気を読まずに現れるし、人の情事は盗み見るし、小娘と呼び私を馬鹿にしてくるし、しまいには私が一人でいる時に暇さえあればでてきて私をからかいに来る奴だ。
それらの行いで何度、私がこいつに殺意を抱いたことか……
「……しょうもないことばかりですね」
さとりはそんな私の心を読み呆れを見せる。
確かに私も大したことではないとは思うが、毎日毎日とちょっかいをかけられるとこっちはたまったもんじゃない。
一時はありとあらゆることが不信になって、視線を感じたら八雲 紫かも、と思う日々が続いていたりしていたのだ。
「ま、昔のことだからいいじゃない」
「……お前の場合は今昔関係なく私につきまとうだろう」
「もちろん、貴女をからかうのは私の生き甲斐の一つですもの」
私の批判に八雲 紫は笑顔を浮かべながら答える。
そんな彼女を見て私はイラつくが、彼女は話題を変えるようにそうそう、と言いながら口を開いた。
「今あなたに会いに来たのは他でもないわ、あなたに会わせたい人がいるの」
「会わせたい人っーー!?」
八雲 紫の言葉に私は耳を傾けようとすると、急に足元の感覚がなくなり、妙な浮遊感を感じた。
そして、景色は一転。
先程までいた賑やかしい神社の境内ではなく、私の視界には薄暗い森が写り込む。
空から雪が降り続けていることは変わらないが、私は視界の変化に驚きつつも声を上げた。
「八雲 紫っ!! どういうつもりだ!?」
「そう怒鳴らないでくれないかしら?」
私の叫びに答えるように八雲 紫は宙に浮くスキマの中から現れた。
おそらくは八雲 紫がスキマを使って神社からこの森に移動させられたのだと私は勘繰るが、その行動の意図がわからない。
だから私はその意図を説明してくれるであろう八雲 紫に視線を向けたが……。
「貴女、鬼神とはお逢いになられたの?」
「……は?」
思いもしない言葉に、私は呆れを見せた。
そして八雲 紫がそんな呆ける私を見て、首を傾げた。
「私の言葉、聞こえなかったかしら?」
「い、いや聞こえてる。まだ会ってはない」
「……そう、まだなのね」
八雲 紫は私の返答に少し苦々しい顔を浮かべはするも、すぐに表情を変えた。
そして、悪戯っぽく口を開けた。
「別の女に乗り換えられてないといいわね」
「ふん、もししてたらぶん殴ってやるさ」
「……その様子だと、鬼神とは寄りを戻すみたいね」
「なんだよ、もしかして私を封印した事を気にしてんのか?」
私の答えに安堵の様子を見せた八雲 紫に、私はなんとなくそう尋ねた。
しかし、八雲 紫は一瞬息をつまらせるような態度をとるも、なにもなかったかの様に話し出した。
「まあ、どっち道に貴女たち二人は再会したとしても昔の様にずっと一緒にいるということは難しいけどね」
私は八雲 紫の言葉をつまらせる様子を見て、もしかしてこいつは私の事をめちゃくちゃ気にかけてんじゃね、と思うも八雲 紫の言葉に答えた。
「別にいいさ、ずっと会えないわけじゃないんだろ?」
「そうねー、ぶっちゃけ今の鬼神の仕事といえば下っ端の鬼どもを纏めてるだけだし、地底の鬼どもを今まで通り纏めながら幻想郷のパワーバランスを崩さない程度になら地上にいてもいいんじゃないかしら?」
「それって……」
その言い方だと、斬乂が役割さえこなし地上で大人しくしていれば地上にいてもいいという風に聞こえるのだが、つまりはそういうことなのだろうか。
もしそうなら……、と私は期待に笑みを浮かべた、がーー。
「ま、鬼神がお姫様に飽きてなければの話だけれど」
「……さっきもそんなこと言ってたけど、なに? なんかマジであいつが私から乗り換えた様に聞こえるんだけど?」
「……まあ、貴女がいない五百年間は欲求不満だったとは教えておくわ」
「なあ、本当に大丈夫なのかっ!? なんか、いろいろとその言葉には安心できないのだが!!」
今日の宴会も用事があって来れないと言っていたし、まじで別の女ができて今ごろ乳繰り合ってるとかないよね?
なんか物凄い不安になるんだけど。
「ふふ、なら安心なさい。鬼神は貴女"も"一応は忘れず愛してたから」
「え、ガチなの?」
「ーーさて、どうかしらね」
八雲 紫は不安そうな私に悪戯っぽく舌を出し、ケラケラと笑いながら答えた。
そんな様子に私はイラっとし、ぶん殴ってしまいそうだった。
しかし、八雲 紫はそうなる前に空中にスキマを作り出し、その中に入っていった。
そして別れの言葉を言うために私の方に振り返る。
「じゃ、私はもう行くわ」
「い、いや、ちょっと待てって! なんでお前は私をここに……」
連れてきたのか。
そう訪ねようとした時に、スキマは閉じられ八雲 紫は言葉通り消えてしまう。
そして釈然としない気持ちのまま私は取り残されてしまった。
「……なんだよ、あいつ」
私はなに一つここに連れてきて、なに一つ情報もなく置いていった八雲 紫に文句の言葉を呟いた。
しかし、このままこの場で突っ立っていても埒があかないので、とりあえずの現状確認で私は周りを見渡す。
足元の傾斜からすると私の今いる場はどこかの山で、その場から見える景色は木と降り積もる雪のみ。
そして私はさらに詳しく現場を知るために背中に黒い翼を生やし翼を広げ、宙に向かって飛び出した。
真夜中で見えるものは全くないが、一応は夜目が効くので少しの大雑把な景色くらいは見通せた。
それで遠くの方に今だに宴会中でどんちゃん騒ぎをする明かりのつけられた博麗神社がぼんやりと見え、その神社の位置から今の位置を逆算すると、自分の今いる場が"妖怪の山"ということがなんとなくでわかった。
なぜ私は博麗神社から妖怪の山に、と疑問を持ったが、私は八雲 紫が私をここに連れてくる時の前の言葉を思い出した。
私に会わせたい人がいる。
確かそう言っていた。
いや、確かにそう言っていた。
「……もしかして、会わせたい人って」
黒い翼を広げ宙に浮きながら私はポツリと呟き、八雲 紫の言葉の真意を考えた。
否、考えたというより自身の中ですでに結論はでていた。
そしてーー、それと同時に後ろに気配を感じた。
「ーーざん、っ!?」
その気配を感じて、私は後ろを振り向いた。
きっとその人物は、八雲 紫が会わせたい人といった人物で、私の愛しい"彼女"であると思っていた。
しかし……、その期待はいま私に相対する人物が、私の目の前にいることに打ち砕かれた。
その人物は腰に刀をぶら下げた黒髪の女性。
そして、特徴的なのはその背中の黒い羽。
その、女性は言った。
宙に飛ぶ雪と同じ様に黒い翼を広げ、呟く。
「久しぶりねーー、雪」
"魔王"が、そこにいた。




