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東方屍姫伝  作者: 芥
六章 その狐はなにを願ったか
53/72

「じゃあ、私は他の奴らに異変が終わったことを伝えてくるぜ!」


「わ、私も同伴します!!」


「なら、わたしゃあ地底に行って彼奴らに教えに行くさ」


金髪の魔女っ子が溌剌と持っていた箒に跨がり空へかけるとそれを追うように、逃げる様に私を見て怯えていた射命丸 文が翼を広げ、宙に飛び出す。

そして、その魔理沙らの行動に便乗する様に勇儀は私の背中を勢いよく叩き、ニカリと笑ったあとに博麗神社に続く階段を駆け下りていく。


私はその三者がそれぞれ離れていく背中を見つめ、いきなり増えた人数がまたすぐに少なくなったことに寂しさを覚えるも、あの金髪の魔女っ子っぽい女の名前を聞き忘れた事に思い出す。

勇儀は昔からの付き合いでわかるし、射命丸 文は昔にちょっと色々と関わったことがある、なので二人は知り合いと言えるがあの魔女っ子の事は知らない。

なんか馴れ馴れしく、「おっす! 私、魔理沙! よろしくな!」と背中をバシバシと叩かれ、すぐに何かを思い出した様に空に駆けて行ったが……、って魔理沙があれの名前か、一応名乗ってたわ。

風のような奴だったから呆気にとられてた。


「なにをマヌケ面しているのですか」


空に駆けていき既に背が見えなくなった魔理沙の背中をぼんやりと眺めていると、私の隣に立つ小さな少女、古明地 さとりが呆れた声を出しため息をついていた。


「……えーと」


「ま、どうせエロい事でも考えていたんでしょう」


「考えてないからね!?」


言葉をつまらせる私にもう一度ため息をつき、さとりは戯言を言った。

そしてさとりは私の返しにクスリと笑い、微笑み口を開いた。


「なら、なんですか?」


「そ、それはえーと……」


さとりの言葉に、私は口を噤んだ。

理由は五百年ぶりに再会した友との、さとりとの関わり方がわからない。

だから、先ほどからさとりとは目を合わせず、言葉を交わしていなかったが、あの三人が居なくなり二人っきりになったことにより、無視を決め込むことは無理そうだ。


というかさとりはどこまで知っているのだろうか。

私が地底から追放されたこと。

私が地底に戻りたいがために暴れたこと。

私が封印されていたこと。

私が今回の異変を起こしたこと。


これらについてさとりは全部既知なのだろうか。

さとりは果たして、どこまで知っているのだろうか。

そして、それらのことにさとりは、私の友はどう思うのだろうか。


「ーー失望は、してません」


さとりから目をそらし、出すべき言葉を探していると彼女は私の考えを読む様に……、かつて私の心に巣食う怨霊が気持ち悪く、貴女の心は読めないと言った少女が、そう答えた。

そして、舌を出して悪戯する子供の様に口を開く。


「呆れはしてますがね」


「お前、私の心を……」


私の言葉にさとりは期待通りの反応だという様に笑った。


「そうです、読んでいます」


「読めなかったのでは、ないのか」


「ふふ、ちゃんと貴女と向き合えたということでしょうか」


とぼけた顔でさとりは答えるが私はどこか釈然としない。

そんな簡単なことで読める様になるのだろうか。

私はさとりの能力の【心を読む程度の能力】がどこまで有能なのかは詳しくは知らないが、過去にさとりは言った。

貴女の心だけは読めないといった。

それも私の心に巣食う怨霊の理不尽な量に、それらの声が自分の脳内に響き、私自身の声が見えないと言っていた。


だから、彼女は過去に私と関わる時もろくに目を合わせずに過ごしていた。

だが今は、彼女は私の目をしっかりと見つめ、微笑んでくれている。


確かに私と彼女の関係には五百年の空欄があったが、だからといってなにかが変わるわけでは……。


「本当は、貴女の心から怨霊の気配が全く感じなくなったからですけどね」


「……え」


その言葉に私は気付いた。

確かに、私の頭はひどくスッキリしていると。

五百年ぶりに封印から目覚め、何気なくこれまで行動していて気付かなかったことがおかしいほど私の頭は鮮明で、かつて蠢いていた怨霊らの呻きが最初からなかったかの様に、私の頭は落ち着いていた。


「なんで……」


「おそらく、今回の異変で悪いものが全部出て行ったからじゃないですか?」


私の疑念にさとりは答える。

そんな簡単なものなのだろうか。

私が長年苦しんでいたものが、あの私を呪い殺す様に鳴り響く雑音がこんな簡単に消えてしまって良いものなのか。


「そ、そうだ! まだ怨霊共を回収してない!」


私は思い出した様に声を出す。

今回の異変で召喚した、あの骸骨らを幻想郷内に徘徊させたまま、私はついさっきまで意識を失っていたのだ。

あの怨霊らは私が倒されたから消える様なものではない。

私の中にいる怨霊らを外に出しただけで、ほぼ自立して動いている様なものだ。

今もこうしている内に、私の知らぬところでその骸兵らがなにも力を持たない一般人の誰かに危害を加えていると考えると……。


「その辺は大丈夫です」


「いやそんな呑気なことではなくてーー」


「大丈夫です」


私は慌てるも、さとりのその根拠のない言葉に口を噤む。

なぜそこまで断定できるのだ、と私が口を開こうとするが、さとりは私の疑問を先読みしたのかため息をついて答えた。


「その辺の対策は既にしてありますよ」


「しかし、彼奴らに指一本でも触れたら乗っ取られて……」


「ぐだぐだうるさいですね……、幻想郷にいる人たちはそんなヤワじゃ無いですよ」


「え、い、いやでも私の問題だし……」


「はあ……、貴女はああ言えばこう言いますね」


そういうところが昔から変わらないと呆れながらにモノを言うさとり。

その言葉に失礼なと思うものの、さとりのその謎の自信はなんなのだろうか。

対策云々は本当かもしれないが、こうして呑気にしている時にも、どこかの誰かが被害にあってたら……。


「相変わらずのマイナス思考ですね……。もっと前向きに考えれないのですか」


「もしもの場合があったら大変だろ!? てか、急に心を読まれながら会話するとかむず痒いな!」


今までは私はさとりに心を読まれる事はなかったが、急に読まれ始めるとなにか恥ずかしい。

心を読まれるとはこんな気持ちなのか……。


「なに今頃恥ずかしがってのるのですか。貴女の場合は斬乂さんの心を読ましてもらって散々と見せてもらっているので、この程度ならそこまで恥ずかしく無いはずです」


「え……、斬乂の心の、なにを見てそれは言って……」


「もちろん、えっちなことです」


「言葉にするな!! 余計に恥ずかしくなるだろう!?」


「なら夜伽……」


「い、言いかえればいい問題じゃ無いからな!」


「なら貝合わ……」


「余計に生々しいわ!?」


無表情にボケるさとりに私は顔を真っ赤にさせ大声を上げる。


さとりの場合は心が読め、下手に発言を誤魔化せないのでタチが悪い。

というかこいつ、どこまで知っているのだ。

斬乂経由で知っているということはもしかして私の黒歴史も……。


「その辺りは…………………、ノーコメントで」


「どこまでだ!! どこまで貴様は知っている!?」


「今日はいい天気ですねー」


「今日は朝から雪だよ!!」


下手にボケ続けるさとりに私は声を上げる。

というかなぜ今日はこんなに斬乂関係で弄られるんだ。

鏡もそうだったが、私はまだ封印から解かれて一度も斬乂と会ってないのだぞ。

なのに何故かこんなにも斬乂のことで弄られる、しかも性事情中心にだ。


確かに昔は色々とシていたが、あれは既に五百年前のことだ。

あの頃はまだ私は若かったのだから、ちょっとの火遊びは仕方が無いのだ。


「よく言いますね、どうせこの後に斬乂さんに会ったら、すぐに抱かれにいくくせに」


「な、なわけないだろ!」


「プロポーズされてすぐに抱かれた女は誰なのやら……」


「そ、そんな事まで知って……」


「ふむふむ、雪さんはその頃には既に顎下とヘソあたりを撫でられるのが性感帯と」


「よ、余計な事を読むな!?」


そう言えば怨霊云々の話をしていたのにいつの間にこんな話に変わってしまったのだ。

というかさとりが無駄な事を言うからなんか急に斬乂が恋しくなって……。


「発情してきたのですか?」


「そ、そんなんじゃないわい!!」


どんだけ引っ張るのだ。

もしやこいつは私で遊んでいるのではないだろうか。

今まで心の読めなかった私で遊んでいるだろ絶対に。


「くす、今頃気づいたんですか」


「タチ悪!?」


「ふふ、貴女の心が読めるのは新鮮ですからね」


鼻で嘲笑うさとりを側に私はため息を吐いた。

そして、さとりは私のそんな呆れるような態度を見て、もう一度クスリと笑う。


「冗談です、昔から私は貴女の心なんて読めてました」


「ーーは?」


「能力で読まなくても、貴女は素直ですからなにを考えているのかくらいは見て分かりますよ」


私のマヌケた声を気にせず、さとりは言った。

私がさとりのその言葉の真意を理解せずいると、さとりは補足をするように口を開いた。


「いま心を読んで思いました」


「ーー」


「貴女は心通り素直で、純粋な人だって」


さとりは私の目を見てそう微笑んだ。


違う。

自分はそんな言葉で表せる様な綺麗な女ではない。

私はそんな言葉で訂正しようとしたら、さとりはわかっているという様に私の口に人差し指を当てた。



「ーー貴女は、私の思った通り素直な人でしたよ」



私がそう断定する理由はわかりますよね?

そう呟き、さとりは私の胸を撫で微笑んだ。


昔の私ならここで食い下がらず、違うと言い続けただろう。

血に汚れ醜い存在だと言い、その言葉を否定しただろう。

だけど、いまの私はーー



「……ありがと、な」



もう、自分を卑下する必要はない。

だって妹紅にも慧音先生にもーー、さとりにも認められているのだから。


「ふふ、やっぱり貴女は顔に出る人です」


さとりは私の顔を見て、笑ってそう答えた。

私がどんな顔をしていたかは自分ではわからない。

だが、だらしない顔をしていたのだろうとは、なんとなく想像はついていた。




❇︎❇︎❇︎




「なに、まだあんた居たの?」


私とさとりのくだらないやり取りから数十分後。

しばらくさとりと雑談を交わしているとその声の主は突然と空から舞い降りる様に現れた。


腋のあいた紅白の巫女服を着る少女。

そして、私に先ほど私に不意打ちを咬ましてきた女。

そいつが神社の縁側に腰を下ろす私とさとりを睨みつけるように近づいてきた。


めんどくさそうなものを見て、ため息を吐く少女。

そんな彼女に対しまず最初にやる事は一つであった。



ーー雪女「氷ノ弾」



やられたらやり返す。

それが私のモットーである。

今こそ先ほどの不意打ちの仕返しをするとき……


「いきなり危ないわね!」


「きゃふん!?」


私の放った幾つかの氷の弾丸をすべて避け、私の顔に拳を入れてきた。

しかもパーではなくグーで、顔面にだ。

女がやる行為でも女にやる行為でもない。


殴られた私はそのまま後ろに倒れ、背をつけ顔を押さえて呻いて言う。


「お、お前! いたいけな少女の顔をグーで殴るか普通!?」


「誰がいたいけな少女よ妖怪。イタい女の間違いじゃない?」


誰がイタい女だ。

お前と私はそんなに関わりがないくせによくそんな決めつけて言えるな。

むしろ今のこいつの行いで私の中で巫女イコール野蛮という方程式が出来上がったぞ。


私がいまだに殴られ赤くなった鼻を押さえながら、文句ありげに巫女を睨みつけているが、巫女はそんな恨み辛みのある私の視線に気づく様子もなく、口を開いた。


「ま、ちょうどいいわ」


巫女がそう言い、ここに来る時から手元にぶら下げていた何かが入った袋の様な物を渡してくる。

私はその手渡されたものを受け取り中を見る。

そこには大根や秋刀魚といった食材が入っていた。


私はその渡された袋の中を確認し、なぜこの様なものをわたされた、と首を傾げていると巫女が私とは逆側のさとりの隣に腰を下ろし、猫の様に背を伸ばしながら私の疑問に答えた。


「昼、食べてないのよねー」


「作れと!?」


「お腹減ったから頼んだわ」


「自分勝手な!?」


「あ、雪さん。私はお茶でいいです」


「お前もか!?」


太々しく飯と茶を催促する二人に対し、私は文句を言おうと口を開こうとするが……。


「あ、そう言えば昔に斬乂さんを読んで知ったのですが……」


「すぐ作ってきますっ!!」


思い出す様に語り出そうとするさとりを背に、私は神社の中に入り、急いで台所に向かう。


そしてそれと同時に私は気付く。

さとりには、逆らってはいけないと……。




❇︎❇︎❇︎




「で、首尾の方は上手くいったのですか?」


台所に走り向かった雪が居なくなるのを見計らった様に口を開くさとり。

そんなさとりの言葉に縁側に大の字で寝転がる霊夢は気怠げな雰囲気を醸し出しながら答えた。


「えぇ……、けど精神的に疲れたわ。私も流石に半日だけで千越えの除霊なんてしたことないし」


「お疲れ様です」


あー、と疲れた呻き声を出し、横になったまま虚ろに天井を見つめる霊夢。

そして上半身を起こし、今日何度目かのため息をはいた。


「あんたも他人事じゃないわよ……。今回の異変の後始末として残った怨霊らの半分は私が除霊したけど、もう半分は紫が地底に送り返したから」


「そのことに関して忙しいのはお燐とお空なんで私は関係ありません。まあ、大変になるというなら疲れた二人を慰める程度のことですね」


「……あっそ」


「あ、エロい意味で慰めるわけではなく普通に慰めるだけなんでその辺はあしからず」


「なにがあしからずよ、なんでそっち方面にもっていった……」


霊夢はその言葉に呆れを見せる。

さとりは先ほど雪と話していたテンションがまだ残っていたと失念しながらも、クスリと笑い霊夢の言葉を濁すことにした。


そんな誤魔化す態度をするさとりを見て、霊夢はまあいいわ、と首を振りため息をついた。


「それより、"屍の姫"って言うのは想像よりも凄いのね。幻想郷中にあれだけの、千や二千の怨霊を召喚するなんて」


おかげでコッチは後処理が大変だったわ、と呟く。

そして、その霊夢の言葉を訂正する様にさとりは答えた。


「いえ、正確には自身に巣食っていた怨霊を外に解放しただけですね」


「へー、ならあの女は何千もの怨霊を自分の体内に飼ってたんだ」


「加えると今回の異変に現れた骸骨一体で怨霊十人分の力が宿っていたので合計で万は超えますね。まあ、例外を除けば怨霊なんてものは基本的に一つ一つの力はそう対したことはないので」


「けど、怨霊の真骨頂は精神的なもの。怨念が強ければ強いほど生ける者の心を蝕んでいく。普通の霊よりタチの悪い事には違いないわよね」


「だから、彼女は五百年前にああなった」


あの時、自分がいち早く彼女の異常事態に気付けていれば、彼女と向き合い彼女の内に増えていく怨霊らに自分が気付けていたら……。


それは今でも思う後悔。

さとりはそう思いながら顔を少し歪ませる。

雪の心に向き合い、怨霊らの変化に自分が気づき、少しでも早く彼女を地上に戻せていたら……。

そうしたら彼女は正常な思考で、彼女と、斬乂と離れることができたのではないか。


それが、さとりの後悔。

此度、地上に出て知った真実に対する自分への呆れである。


そして、思った。

もし今後、今回の事で雪がなにかを引きずり生きていく事になったら。

異変を起こした後悔、過去に暴走した責任。

それらを持って、引きずって生きていく事になり自分は斬乂の隣に立つ資格はないと言い出したら……。



「しかし、今となっては杞憂ですね」


実際に彼女に向き合い、心を読んで思った。

彼女はもう大丈夫だ。


理由はわかる。

その理由の人物にはまだ会ったことはない、だけど彼女らが雪の心の支えだという事は雪の心を見て、なんとなくわかった。


雪と同じくらい真っ白な少女と、銀髪の女性。

彼女らが斬乂に匹敵するほどの心の寄り所となったのだろう。

そう考えると、その寄り所に自分がまだなっていないのは悔しい、とさとりは思いながらもクスリと笑った。


これからは、自分も彼女の"それ"になればいい。

彼女と向き合い、受け入れ、受け止めればいい。

少し遅すぎたかもしれないが、今からでも遅くはないだろう。

だって彼女の心はあんなに純粋で、綺麗なのだから。




ーーああ、やっと私は彼女と向き合えた




否、まだスタートラインに立ったばかりだろうか。

ならばこれからはしっかりと彼女と、"白鷺 雪"とちゃんと向き合おう。


心を読むだけではない。

彼女の目を見て、心を知っていこう。

"白鷺 雪"という一人の友人をしっかりと理解していこう、まずはそこから。


古明地 さとりは目を閉じ、背後で炊事をする少女の事を想い、そう微笑んだ。




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