喧嘩
ーー今回の結末、というか経緯。
五百年前も昔にされた私こと白鷺 雪の封印が解かれ、本来私が宿していた怨霊と先日の異変で地底から溢れ出た怨霊らを従わせ幻想郷を混乱に陥れようとした。
そして幻想郷の危機として現れた幻想郷の賢者、八雲 紫を私が殺し力を奪うことにより計画は完遂するはずだった。
しかし、異変の内容としてはかつてなくショボいものだったらしい。
八雲 紫には今までで一番被害のない異変だと言われた。
触れれば発狂するという怨霊らが人里に現れれば多少の混乱はあったかもしれないとも言われたが、とにかく今回の異変は今までのよりもかつてなくショボいものだということだ。
それで、その緩いもの故に今回の異変では人間以外にはちょっとしたお祭りっぽいものだったらしい。
移動が遅く、触れなければたいした危害がないということでちょっとしたシューティング大会だったとか。
つまり、私の起こした異変は騒ぎになったと言えばなったが、それはお祭り気分のものだったらしい。
それを八雲 紫から聞いた途端、私はなぜかやるせない気分になった……。
……話を戻す。
今回の異変の結末としては、"失敗"。
私が、自分を"白鷺 雪"であるという事を認め、他人から肯定されることにより今回の異変の全てがどうでもよくなった。
が、それで私は良かったと思っている。
今頃はどこにいるのか、あの狐の企みはいまだにわからないままだが私自身はこの結果に満足できている。
出来ているの、だが。
一つだけ、腑に落ちないことがある。
それはあの紅白の巫女のことでだ。
私があの頭のおかしい巫女からの弾幕に目を覚ましたのは数十分後のことであった。
気づいたら私は慧音先生の膝の上で倒れており、全身がボロボロだった。
そして、あの巫女はどこかに消え去っており報復も何もできなかった。
故に……
「ど・畜・生っ!!」
私の鬱憤は溜まりまくり。
故に私は現在は戻ってきたら仕返しのためにと博麗神社に残っている。
他の人はと言えば慧音先生と妹紅は人里が心配だから一度戻るといい、八雲 紫は私が目を覚ましたら今回の異変の事で少し話をした後に何処かに消えていった。
そして、この場に残されたのは……
『わたしもふまん!』
博麗神社の賽銭箱を背にして座る私の隣で、同じくちょこんと座る紫髪のおさげの少女、鏡がスケッチブックに鉛筆で書かれた汚い字でそう書き記し、一人で文句を言っていた。
といっても鏡の視線はこちらに向いておらず、スケッチブックだけをこちらに見せてきているので表情はうまく伺えない。
まあ、頭にきているのは確かなのだろうが。
てか、なんで私はこいつと二人っきりなのだろうか?
「なぜお前はここにいるのだ?」
私はあの巫女の神社であろう博麗神社にてあの巫女の帰りを待ち、さっきの報復をしてやろうとたくらみこうしてここに残ったが、こいつがなぜどこにもいかずここに残っているのかが私は気になった。
鏡をここに連れてきた八雲 紫曰く、私へのプレゼントというわけだが、あいつの事だ。
何か裏があるに決まっている。
いやしかし、本当に連れてきただけって可能性も……。
『まってる』
私の問いに簡潔に答える鏡。
待っている、というのはあの狐をだろう。
この鏡という少女はなぜだかあの狐にベタ惚れている。
口にはしていないが、筆記という手段で愛を伝えている場面をこの一週間で私は何度か目撃してきた。
『あのひとはきっとわたしをむかえにくる』
信用の言葉。
こいつも、私と同じ様にあの狐に上手いこと吹き込まれているのか、それとも心の底から崇拝しているのかどちらかはわからない。
しかし騙されてる云々でもこの子にとっては、あの狐は大切な何かなのだろう。
ならば。
あの狐は私にとってはなんだったのだろうか?
はるか昔に茜の死体と私の前に現れ私の生き方を狂わせ、今回も人になれると八雲 紫の殺害を私にほのめかしてきた。
そう考えると私にとってはあいつは悪だったのかもしれない。
それに私には、あの狐が何をしたかったのかがわからない。
昔の予言も、今回の異変を提案したのもあの狐だ。
というかあの狐は私の封印をどう解いたのだ?
私の封印はあの狐が解いたらしいが、八雲 紫曰くそう簡単に解けるものではないと言っていたが……。
……考えれば考えるほど、あの狐は謎だ。
てか、本名すらもわからん。
「なあ、鏡。あの狐は、何者なんだ?」
『かみさま』
「いや……そういうの良いから」
『しんじてない?』
「当たり前だろ」
神なんてこの世界にいるわけないだろうが。
狐含めこいつも頭にお花畑が咲いているのか?
「というかそろそろ私の目を見て話してくれないか? それに普通に話せるなら筆談なんてしなくても……」
私はずっと目を背けているのとコミニケーションの取り方に嫌気を覚え言わせてもらったが、変える気がないのか再びスケッチブックに文字を書き首を振るった。
『いや』
鏡の拙く読みにくい字で簡潔に返答された。
しかもこちらを見向きもせずに、だ。
私はその態度にイラっとし、鏡の手元から筆談に使われていたスケッチブックを掠め取ってやった。
「……っ!!」
スケッチブックを掠め取られた鏡は私にそれを取られた瞬間、声にもできない驚きからか顔を真っ赤にして私が高く持ち上げていたスケッチブックを取り返そうとピョンピョンと飛び跳ねる。
しかし、私は立ち上がりそれを高くに持ち上げているので身長の低い鏡には手が届かない。
おかげで鏡はモノを取られたいじめられっ子の如く返せ返せと飛び跳ねる。
そんな大人気ないことをして、私は微かに勝ち誇っていると鏡は顔を真っ赤にしたまま、私からスケッチブックを取り返すのを諦めたのか飛び跳ねるのをやめた。
代わりに自身の手元に小さな手鏡を何処からともなく出現させた。
そして、その小さな手鏡に向けぶつぶつと呟き始めると同時に光を発し鏡の身体の姿が変わる。
「や、八雲っ!?」
「ふう、私は鏡だよっと」
変な手鏡が少しの発光を起こすと同時に現れた八雲 紫の姿をしたモノ。
そいつが自身をあのおチビな鏡だと名乗り、私からスケッチブックを奪い取る。
しかし、私の注意はすでにスケッチブックになく、その鏡だと自称する八雲 紫の方を凝視していた。
「そ、それがお前の能力なのか?」
「【鏡を司る程度の能力】、それが私の力だよ。ちなみにこれは鏡に映す如く人物を模倣する力」
と、いいながら小さな手鏡を私に見せびらかせ、八雲 紫の声色で答える鏡。
私はその八雲 紫の姿をする鏡にそう言われるも感心しながらその手鏡と鏡である八雲 紫の外面を見る。
「今回の異変では全く出てこない八雲 紫の代わりにこれで博麗の巫女を翻弄したりしてたの」
まあ、そのおかげで酷い目にあったが……とため息を吐く八雲 紫の姿をした鏡。
八雲 紫と違い子供っぽい話し方をしているそんな鏡を見て私は一つ疑問に思った。
「なぁ、なんでそんなにいきなり話し出したんだ?」
「え……?」
「いや、普段のお前は筆談ばかりで喋らんだろう? だからなんでかなーって」
さっき奪い返したスケッチブックはすでに膝の上に置いているだけで使ってはいない。
それを見て私は彼女の変化に疑問を持った。
私の質問に鏡は目をそらし頰を少し染めブツブツと話し始めた。
「そ、それは……その…………」
「は……?」
重要な部分がごにょごにょとしており聞き取りづらかったが、覚悟を決めたように唾を飲んで彼女は答えた。
「ひ、人に自分の声を聞かれるのが恥ずかしいの!!」
鏡が……というより八雲 紫の見た目をした鏡が顔をひどく紅潮させ大声でそう叫んだ。
私はその鏡の発言を耳にし呆れる様に声を出した。
「はあ!? つまり、筆談で話す理由って……」
「そうだ! 自分の素の声を聞かれるのが恥ずかしいのっ!!」
私の言葉に顔を真っ赤にさせる鏡。
八雲 紫の姿でその様な阿呆な発言をしているので私は新鮮に思いながらも、呆然とした。
ただの筆談キャラだと思っていたら、もっとくだらない理由だったことに口が開きっぱなしであった。
そして、呆れながらに思った事を口にする。
「あんなにあの狐に恥ずかしい事を言っておいてか?」
「そ、それとこれは別なのっ!」
私はここ一週間の間で鏡があの狐にアプローチをかけていた内容を思い出しながらたずねるが、返ってきた言葉はなんとも言えないものであった。
そして、なんかその子供っぽいというか初々しい様子を見てからかう気にも……。
いや、待てよ。
あの八雲 紫のナリで赤面キャラとか笑い物ではないだろうか?
どこか人を食うみたいな感じがあり胡散臭くしかない女が、少女の様に顔を染めるなんて滅多にあることではないのでは……。
「……」
「な、なに……その不愉快な笑顔は……」
「……おい、お前はあの狐とはどこまでいってるんだ?」
「ーーっな、なによいきなり!!」
私の顔を見て顔を引きつらせている鏡に私は悪どい顔をしそう尋ねた。
そして、鏡は私の言葉により想像通りに顔をさらに真っ赤にさせ、慌てていた。
私はその慌てふためく八雲 紫の姿をした鏡の姿を見て、ニヤリと笑う。
これはあの八雲 紫への復讐に持ってこいではないか、と。
「いやいや、そりゃあ他人の色恋沙汰は女としては気になるものだろう? で、どうなんだ?」
「くっ……」
「あんなことまで言うんだ、夜這いくらいはとっくにしてるのだろう?」
「そ、それは……してはいるけど、結局は度胸がなくて……それに私は……襲うよりも襲われたいし……」
「……ぷっ」
両手の人差し指をツンツンとつつきながらも顔を染め言う鏡を見て、私は笑いを堪える。
本人ではないが、あの八雲 紫が乙女のような仕草をし語るところを見るとどうにも笑いが止められない。
「ならキスくらいはしてるんだろう? 寝ているところをぶちゅーって」
「さ、さすがにそんな事するわけないじゃん!? するとしてもせめてほっぺとかに……」
「うわぁ……してんのかよ」
「ーーっむ、むかつくぅ」
真っ赤にした顔を見るなというように手で覆い、足をバタバタとさせる。
その様子を見て、私はさらに腹を抱いたくなるが必死に堪えた。
私は顔をニヤニヤと歪めその羞恥に塗れた八雲 紫の姿をした鏡を見る。
なんとも言えない満足感があった。
昔にひたすら私を馬鹿にしてきた八雲 紫に今ここで私は一矢報いている、と。
本人ではないが、私の心を満たすには偽物だろうと十分な光景であった。
しかし、そんな勝ち誇る私を見て鏡は悔しそうに顔を歪め口を開いた。
「くそぉ……、あんたは良いわよね……。好きな人に嫌でも抱かれてさ……」
「ふふ、負け犬の遠吠えだな」
なんかマジで気分が良い。
あの八雲 紫に食わせている感じがあって心が踊る。
いっそ弄り倒していつもスカしている八雲 紫の顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに濡らしてやりたいくらいだ。
てか、今ならできる。
このまま言葉でせめ続ければ、イケる。
と、思っていた私がいました……。
「……なんで、私より淫乱な女の方が幸せになれるのよお……。私にはエロさが足りないっていうの……」
「……はい?」
勝ち誇る私に悔しそうに言う鏡の言葉に私は呆ける。
私が、淫乱?何処が? と思いながら鏡に目を向けるが、その不思議がる私の反応を見て鏡は口を開いた。
「私には、お前みたいな羞恥心をかなぐり捨てた様な真似はできないし……」
「お、おい、なにを言って……」
「さすがに……、あんな全裸で一日過ごしたり、そのまま鎖をつけられて四つ這いになって外を散歩したり、」
「ーーっち、ちょっと待て!! なんでお前がそんなこと知ってんだよ!?」
なんでこいつは私の黒歴史知ってんの?
というかその言い方は私に露出癖があるみたいではないか。
いや、てかマジでなんで知ってんの……?
それは斬乂以外には絶対に知られたくないランキング上位に入るほどのコトなんだけど……。
私は目を回しながら、その鏡からの言葉に混乱させる。
そして鏡はすっとぼけた顔して、そんな状態である私に構わずに言葉を続けた。
「え? 他にもいろいろ知ってるよ? 食後に自分をデザートとして差し出したり、結婚記念日に自分を包装してプレゼントしたり、なんでもない日に紐で自分を縛って罵らせてアヘッたり……、しまいには鬼神の角で……」
「いうなぁぁぁ!!! 私が悪かったからもうそれ以上はいうなぁぁぁあ!!!!!」
や、やべぇ……。
なんでこいつがそんなことまで知ってんの。
全部事実で否定したくてもなに一つ否定できる要素がない。
先ほどまでは私が優勢だったのに、いつの間にか立場が逆になって言葉でせめられる側になっている。
というかそこまで知られてるのならこいつを殺さなければ……。
でないと私は社会的に……。
「その……あなたは凄いよ。あんなプライドを捨てた様な真似までして、好きな人を魅了させるなんて……。私には、恥ずかしくて真似できないよ」
いや……そんな貴女を尊敬してますみたいな目で私を見るな。
というか八雲 紫の姿でそう言われると逆に皮肉を言われてる感じがするから黙ってほしい。
てか、一応なにか言わないと鏡が私を変態野郎と勘違いしたままになってしまうのでせめて弁解を……。
「な、なぁ……た、確かに私は斬乂と肉体的な関係はあったが……流石にそう言うアブノーマルなプレイは……」
「ほら、この時の夜伽なんて私には絶対無理かな。こ、こんな大胆な真似は私には出来ないし……」
訂正を求めようと鏡に声をかけようとするが、鏡は顔を真っ赤にさせながら夢中で何かを見ていた。
それは小さな手鏡で、その鏡の中には映像の様なものが映し出されていた。
それも全裸の私と斬乂が布団の上で言葉には出せない行為をしている映像であった。
「……なにを見てるんだ?」
「"浄玻璃の鏡"っていう鏡。本来は地獄の閻魔しか持ってないんだけど、昔に弱りかけていた鏡の神様から貰った能力で私には再現可能なの」
「いや、その手鏡のことを聞いてるのでなくそこに映し出されているものを……」
「これ? これは貴女が昔にまだ地上にいた時の鬼神との営みを映し出したもので……」
「っどりゃぁぁぁ!!!!」
私は拳を振り下ろしてその手鏡を割った。
「なんで割るの!?」
「ば、馬鹿かお前は!? なんで、そんなわ、わたしと斬乂のその……そういう動画なんて……」
「動画じゃないよ? これは貴女の過去の記憶で、この"浄玻璃の鏡"で映し出したもの」
「あ、そう……っじゃなくてなんでそんなので私と斬乂の情事を見てんだよ!?」
「そんなの今ごろだからいいじゃん!」
「はあ!? 今ごろってなに!? 前から見ててたってことかよ!!」
だからこいつは私の黒歴史を知っているのか。
それもあんな具体的なものばかりを……。
と考えるなら、他にも斬乂としたあんなことやら……こんなことまで……。
突然の事実に頭を混乱させている私を傍らに、八雲 紫の姿をした鏡は少し顔を赤くして呑気に私の叫びに答えだした。
「それは……いつか"あの人"と、私もそういうことしたいなぁって。だから、女同士ってことで昔から後学のためによく見させてもらってたけど……レベルが高すぎて妄想程度にしか……」
「へ、変態っ!! 人の情事覗き見するとか頭おかしいだろ!!」
「べ、別にいいじゃん! てか、変態はそっちじゃん!! あんなみっともなく顔を緩ませてさ! 股まで緩いんじゃないの!!」
「はあ!? お前こそ私達の情事見て股濡らしてたんじゃないのか? このメルヘン妄想オナ○ニー野郎!!」
「そ、それひどいっ!! た、確かにひ……ひとりではしてたけどあんたらのケダモノみたいなもの見て濡らすわけないじゃんこの淫乱獣!!」
「ふん、恋人との行為なんてみんなあんなもんだ! 処女こじらせて夢追ってんじゃないのか?」
「流石にあんな変態みたいなプレイはしないわよ! あんたが変態過ぎてアブノーマルなやつじゃないと満足できないだけなんじゃないの?」
「ーーやんのか、ガキッ!」
「ーー上等よビッチ!」
八雲 紫の姿をした鏡は顔を真っ赤にした状態で私を睨みつけ、私もそんな鏡の額に自分の額をぶつけるように睨みつける。
そして鏡は私から離れる様に飛び退き、博麗神社の境内の方に移動する。
そして身体から粒子の様なものを落とし、八雲 紫の姿から本来の姿であろう紫髪のおさげの少女へと姿を戻した。
そして、彼女は口を開いた。
「不思議ね、私は恥ずかしがり屋で本来の姿で話すのは生理的なまでに無理なんだけど……、貴女と話す分には恥もなにもないわ」
紫髪の彼女はそう言いながら正面を向き私の方を向く。
そして私の顔をじっと見つめ笑った。
「だって私よりも貴女の方が恥だらけだもの、この売女」
「私の嫌いな八雲 紫から姿を戻したと思ったら……お前の方がなんかムカつくよ、地味娘」
両者のその言葉に、互いに頭にくるものがあったのかほぼ同じタイミングで舌を打つ。
そして、いざ私が目の前の小娘をブン殴ろうと足に力を入れると同時に鏡が手元に手鏡を出現させ、先ほど八雲 紫に化けた時と同じ様に鏡を発光させた。
私はその発光で鏡が見えなくなると、なにか別の姿に変身して襲ってくるのではと考え身体を構えた。
しかし、手鏡からの発光が収まり私の目に映ったのは予想外な人物であった。
それは長い二本の角に赤髪の少女で、私の……。
「……ざ、斬乂っ!?」
私はかつて愛おしく思っていた彼女を見ると目を見開き、声を上げた。
「ふっふーん、どうそっくりでしょう?」
「ひ、卑怯だろ! 斬乂に勝てるわけ……」
「安心して、私は姿を偽ることは出来るけど本質までは偽れないから。だから私自身は非力なままだよ」
見た目だけならどれだけでも加飾できるんだけどね、とため息をつく鏡。
そんな斬乂の姿に変わった鏡の言葉に、ならば……と私は勝機を見出し構えるが、鏡は鼻で笑った。
「あれ? もしかしてガチでバトろうとでも思った?」
「……は?」
鏡のその言葉に、私は呆けながらに声を上げた。
そんなマヌケそうな私を見てか鏡はニヤリと笑い、私に歩み私に触れられるほどの距離にまで近づいてきた。
そして、斬乂の姿の彼女は顔を近づけ私の耳元でぼそりと呟いた。
「……愛してますよ、雪ニャン」
斬乂の声で、鏡は私に向けてそう囁いた。
「ーーっ!?」
私は斬乂の声で耳元でそう囁かれると心臓をドキリとさせ、身をよじる。
彼女が本物ではないということはわかっているのに、なぜかドキリとした。
五百年ぶりの愛しいものの声で、愛を囁かれた。
私はそう思うと顔が熱くなるのを感じ、斬乂の姿をした鏡から急いで距離をとった。
そんな私の慌てふためく様子を見て、鏡はクスリと笑う。
「あんな、変態的な事ばっかりやってるくせに意外に純情な態度を見せるんだね」
「う、うるさいっ! てか、その姿はやっぱり卑怯だ!さっきのちんちくりんに戻れ!!」
「あー、そんなこと言っていいんだあ」
私の言葉に、斬乂の顔でニヤリと意地悪そうに笑う鏡。
そんな彼女の顔を見て、私は嫌な予感しかしなかった。
しかし、鏡はそんな私を気にする間もなく私に再び近づき、後ろに回り込んで背後から抱きついて口を開く。
「雪ニャンは、可愛いですねぇ」
「はぅ……」
耳元でまたも囁かれる甘い言葉。
偽物だとはわかるが、五百年ぶりの彼女の声に私はドキリとしてしまった。
偽物だと、わかっているのに……。
「抵抗しないの?」
「だ、黙れっ!!」
「ぷぷ……」
私の後ろから抱きつく彼女のその小馬鹿にする様な笑みに私はイラつきを感じる。
しかし見た目が斬乂なせいか調子が狂う。
というか、後ろから抱きつく斬乂の胸の感覚も本物と遜色がなく、本当に偽物かと疑問に思うほどであった。
「あれー、もしかして興奮してるのー?」
背後から抱きつく鏡が手を私の身体の前に回し、股の辺りを弄る。
そして、着物の隙間から手を中に入れ軽く触れ、私の股の滑りに気づき滑稽に笑った。
「ちょーっと抱きつかれるだけで湿らすなんて変態じゃん。しかもパンツ履いてないし、露出趣味でもあるの?」
「ちょ……や、やめろって……」
「いーや」
クスクスと笑いながら鏡は手を私の股から口元へと移し、少し湿っている指で私の唇をなぞる様に触ってきた。
私はその行動にさらに動悸を走らせ慌てながらに口を開く。
「ま、マジでやめろよ!!」
「んー? いう言葉が違うんじゃないんですかー?」
私の唇をプニプニと触れながら、鏡は斬乂の口調で言う。
そして、ニヤリと意地悪そうに笑い口を開けた。
「もっとしてください、でしょ?」
意地悪そうに舌を舐め私に触れる斬乂の姿をした鏡。
私はその言葉に、意地悪そうに言う斬乂にドキリとした。
実際は鏡のはずなのに何故か、このまま抱きしめられていたいと思ってしまう。
というか、このままいっそのこと……
「何をしてるのですか、雪さん?」
私が顔を真っ赤にし身をよじり口を開けかけていると、私でも斬乂に化けた鏡でもない第三者の声が少し上の方から聞こえた。
ーーそれは懐かしい声。
五百年ぶりの、彼女の声であった。
「さ、さとり?」
私の呼びかけに彼女、古明地 さとりはどうもと言いながら地上に降り立つ。
そして、空から降りてきたのはさとり一人ではなく金髪の黒い服を着る少女と一本角を生やした鬼、それとその鬼に首根っこを掴まれた鴉天狗がさとりの後ろから続く様に境内に降り立った。
そしてその中の一人の人物が私に駆け寄る。
「お嬢ぅ、久しぶりだなあ!! というかなんで母さんが地上に?」
「ゆ、勇儀!?」
私が突然の来訪者たちに呆然としていると姉御肌と言えるかつての友人、星熊 勇儀が私に抱きつく鏡を見て不審に思いながらも声をあげ私に近づく。
私はなぜ地底に居るはずの彼女らがと疑問に思っていると私に抱きつく鏡が声を震わせながら私から離れた。
そして、何故かさとりの方を見て恐怖に顔を歪ませた。
「な、なんで覚妖怪がここに……」
「あら? さっきぶりですね、ニセモノさん」
酷く怯える鏡を見て、満足そうに微笑むさとり。
私はそんな二人の様子を見て再会に喜ぶ勇儀に抱きつかれながらも、そんな様子を見て首をかしげていた。
何故、さとりが斬乂の姿をしている鏡が偽物だとわかるのかと一瞬疑問に思うが、心を読めるさとりにはそう言うのは杞憂かと納得する。
しかし、なぜ二人は知り合いで鏡がさとりを毛嫌いしているのかが私にはわからなかった。
「ひ、ひいぃぃ!!!」
「というか、もしかしなくてもいま私の友人を誑かせていませんでした? 一応、その人は人妻なんですが」
「し、してないから!? ちょっと悪ふざけしてただけだから!!」
「らしいですが……本当ですか雪さん?」
顔を私の方に向け冷静に訪ねてくるさとり。
そして、斬乂の姿をしている鏡は私の方に目を向け縋るような顔をして見つめてくる。
なぜだかわからないが、鏡にとってさとりは苦手な人物らしい。
そんな二人の顔を見て、私は口を開いた。
「ーー犯されそうになった」
「嘘つけ変態!? 股濡らしてただろうがノーパン野郎!!」
私の言葉に叫ぶ鏡。
そんな鏡を見て私はほくそ笑む。
そしてノーパン野郎は言い過ぎだ、私が封印された時代にパンツなんて上等なものはなかったんだよ、故に私は変態ではないとその悪口を頭の中で正当化させた。
「おや、貴女も相当な変態さんなはずなのによく人にそんなことが言えますね。帰って想い人の前で自慰にでもふけてたらどうですか? それともこの前やって失敗した猫耳のコスプ…」
「こ、心読むなあぁぁぁ!? もういやだあ、お前なんか嫌いだぁぁぁ!!!」
さとりの言葉に斬乂の顔で真っ赤になりながら涙目になり叫ぶ鏡。
そして自身の目の前に一枚の背丈ほどの姿見を出現させ、その中に逃げ込むように入っていく。
私はそんないきなり泣き叫ぶ鏡を見てどういうことだとさとりの方に目を向けると。
「あぁ……なんかゾクゾクしますねぇ……」
鏡が消え去ると、さとりは顔を緩ませながらそのような事を呟いていた。
そんな言葉を吐き満足げな顔をするさとりを見て、私は思った。
なんか私の友達が知らない間におかしくなっている、と。




