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東方屍姫伝  作者: 芥
五章 その屍は幻想を這う
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本心

ーー私は、"依存"して生きてきた。



私はかつては人だった。

だけど私は一度死に愛してやまないモノを忘れない為に妖になった。

そして、その愛してやまないモノの仇にと、妖怪を憎み続け、殺され続けた。


人でも妖怪でもない中途半端な、私。

人に否定され、妖怪に殺され続けた私は力を手に入れた。

そして殺し続けた。

愛してやまないモノの復讐の為に、と殺し続けた。

途中からは復讐から蘇生の為にと目的を変えたが、私はとにかく殺し続けた。

そして、私はすでにその頃から、何かに"依存"してしか生きられないようになっていた。

私は愛してやまない彼女に、"依存"しながら生きてきた。



だけど私はいつしかーー、別の恋をした



手を差し伸べられ、一緒にいてあげると言われ私は舞い上がっていた。

ぶっちゃけ私は、愛してやまない彼女を……白鷺 茜をこの頃は既にどうでもいいと思っていた。

自分の孤独を埋められればなんでもいい。

妖怪になって否定され続けた私を肯定してくれる人なら誰でもいいと思っていた。

そんな気持ちで、私は彼女から乗り換えた。

早く彼女に、斬乂に会いたい。

そう思いながら数百年も過ごした。


白鷺 茜の事はすぐに開き直れた。

だって、もう彼女の事はどうでも良かったから。

だけど斬乂にすぐに会いに行くことは出来なかった。

もし、こんな私を受け入れてくれなかったらどうしようと不安に思ったから。


だが斬乂は、醜い私を、血に汚れ憎しみに澱んだ私を受け入れてくれた。

抱きしめてくれた、抱いてくれた、愛してくれて、愛してると言われた。

だから私は、斬乂に堕ちた。


私にはもう彼女しかいない。

彼女に棄てられたらこんな醜い女を誰が拾ってくれる?

復讐のために汚れた私を、簡単に茜の事を忘れ、愛されるというだけで簡単に股を開くだらしない私を誰が……。


だから、私は何でもしてきた。

斬乂が女が好きということをいい事に、どれだけでも身体を許して肌を重ねてきた。

彼女に求められると必要とされていると思って、どれだけでも股を開いてきた。

依存ではなく、彼女を愛していると思いたかったから私は彼女に愛を囁き続けた。


ーー羞恥。

そんなものはなかった。

斬乂に頼まれれば私は情事の最中にみっともないことも言った。


ーー自尊心。

それもなかった。

私を一人にしないでほしいからどんなに恥ずかしいこともした。


ーー愛。

そんなもの口だけだった。

棄てられたくないから、否定されたくなかったから……。


とにかく私を捨てないで。

それが私の本心で、本性。

愛なんて二の次であった。

否定しないで、認めて、私を孤独にしないで。

そう思い、私は彼女に"依存"した。




しかし、私は"一人"になった。

故に私はおかしくなった。

否定された、棄てられたと思って頭の中がグチャグチャになった。

そして私は意識を失い、気づいたら封印されていた。



札の貼られた鎖に何本も縛られ、私はあの杭に閉じ込められる中、ずっと空虚な時間を過ごした。

それも五百年もそこで過ごした。


だから、私は正気に戻った。

自分をしっかりと見つめ、頭が冷め冷静に考えた。

どうしてこうなったか、を。


結果、全てを"白鷺 雪"のせいにした。

お前に転生しないでいたら、あの時、白鷺 茜が死んだ時に彼女に固執していなければ私はこんな事にならずに済んだのに、と。


戻りたい。

あの制服を纏って学校に通っていた、"桜井 命"に戻りたい。

平和に過ごしていたあの頃へ戻りたい。

そして、全てをやり直したい。


そしたら。

そうしたらーー



























ーー結局はそれも、"依存"であった。
























私は弱い存在だ。

私は逃げたのだ。


辛い現実から、苦しい真実から逃げるために私は自分すらも否定した。

現実よりも、それっぽい幻想を求めた。

幸せな夢を見るより、そこそこの幸せがある現実を望んだ。


不幸になりたくない。

辛く苦しいのはもう懲り懲りだ。

だから、私は緩い幸せに甘んじようとした。

それっぽい"現実"に依存したのだ。

再び、失うかもしれない幸せが怖いから。

幻想のような幸せが怖いから私は逃げた。


故に私は平穏な人生を望んだ。

無難な人生を送れそうな"人"になりたかった。

無難な人生を送っていた"人"になりたかった。

それが、私の望むものだと思われた……。




だけど、それも違った。

私が本当に欲しかったもの、それはーー







❇︎❇︎❇︎



「ーー雪っ!!」


私が灰色の彼女に指差された方を見るとその先には忘れもしない、かつての友がいた。

白い長い髪、服装が同じで頭につけたリボンさえ取れば私に背姿が似ている彼女。



「……妹紅」


藤原妹紅。

かつての私の、友達が息をあげながら博麗神社に連なる石階段を登りやってきた。

どうやら私の後を追いかけてきたようだ。


「もこ……」


私は彼女に手を伸ばそうとした。

久々に正面から出会った彼女に声をかけようとした。

しかし、私はすぐに手を引っ込めた。

どう声をかければいいのかわからなかったから、昔の事をどう謝るかに迷い、その手を伸ばす事に躊躇われた。

だがーー



「雪っ!!」



私は抱きしめられた。

妹紅ではなく、妹紅と一緒に私の下まで来たらしい銀髪の女性。

その女性に私は力強く抱きしめられ、頭を彼女の胸元に押さえつけられた。


私はいきなりの抱擁に頭をさらに混乱させた。

いきなり見覚えのない女の人に名前を呼ばれ、感極まる状態で抱きしめられる事に私は身覚えがなかった。

しかし、その女性は私の名をひたすら繰り返しながら呼び、嗚咽をもらしている。

私は胸元に押さえつけられた顔をそろりと上げ、涙を流す彼女を見た。


何処かで見たことがある。

そう、何処かで見た覚えがある。

銀髪の知り合いなど居ないはずなのに、彼女の顔を見て、優しそうな声を聞いて懐かしさを覚えた。


「私だ! わかるか!? 上白沢 慧音だ!!」


「……慧音」


その名に、私は妙な引っ掛かりが生まれた。

昔に、本当に大昔に呼び慣れていた名前。

白鷺 茜と同じ時を過ごしていた時に何時でも私達を見守っていた"彼女"の名前。

しかし、彼女はこんな綺麗な銀髪でなく黒髪で、人間だった。

あれから千年は既に時が経っているのに、彼女が生きているわけがない。


だけど……だけど私は、彼女の名前を呼びざるをえなかった。


「慧音……先生……?」


私のその呼びかけに彼女は、慧音先生は目に涙を浮かべながらに目を見開いて頷いた。

そうだ私だ、と呟き私の身体を力強く抱きしめた。


私は、慧音先生に色々と聞きたいことがあった。

何故、生きているのか?

何故、髪が銀髪なのか?

今までどうしてたのか?

聞きたいことは山ほどある。


けど、そんな混乱する私を傍らに慧音先生は私にとって思いもよらぬことを口走った。



「ーー君が生きてて、よかった」



その言葉と同時に私の頭の中が、真っ白になった気がした。


私という妖怪が生まれてから、初めて言われた言葉。

私がこんな姿になりたての時には妖怪に無抵抗に殺され、異形な私は人に死ねと言われ続けた。

力を得た後も基本は、私を怨み憎みながらに殺された奴らは死んでいった。

斬乂には、好きだ愛してるとは言ってもらっていたが、心の何処かで身体だけにしか興味がないのではと不信に思っていた。


だから、私は今。

初めて私という個を、存在を本当に認めてもらった気がした。

そして、それと同時に私が本当に望んでいたものがなにかを理解した。


それは、平和な暮らしや幸せよりも大切で、私が本当に欲しかったもの。

心から望んでいたもの、求めていたもの。

本当に、私が言って欲しかった言葉。


そうだ、私は……




















ーー誰かに、肯定されたかっただけなんだ























私は涙をほろりと流し、彼女の背中に手を回し抱きついた。


「慧音先生……、わたしはいきててよかったの?」


「あぁ、当たり前だ……」


彼女は私を抱きしめ嗚咽をもらす。

そんな、彼女を見て私はさらに口を開けた。


「わたし、醜い女だよ?」


「そんなことはない、君は綺麗だよ」


慧音先生は私の白い髪を撫でそう言ってくれた。


「わたし、酷い女だよ?」


「いいや、君は優しい子だ」


慧音先生は私の頭を撫でてくれた。


「わたし……愛してるって言ったのに、茜の事を忘れて生きてきたんだよ?」


「……つらい思いを、してきたんだろう」


仕方がないさ、といい慧音先生は私の頭を撫でてくれた。

そして、私はその撫でられた手の温もりを感じながら目を閉じた。


懐かしい。

この彼女に撫でられる手の温もりが、優しさが私には懐かしすぎる。

全てが懐かしい。

隣に茜がいて、笑いあって生きてきたあの頃が懐かしくて堪らない。




ーーねぇ、お姉さんはだれ?



ふと……、そのような声が聞こえた。

その場には既にいない灰色の少女の声が、私の耳に届いた。

いつの間にか居なくなっていた私の……友達の"妹"のその問いかけが聞こえた。

しかし、私は彼女の存在が消えていたことには疑問に思わなかった。

代わりに別のことを考える。


私は茜のために生きようと決めた、と。

だから私は"桜井 命"の記憶を持ちながらも、"白鷺 雪"の名前を名乗り続けた。

いつしか、彼女のために生きることはできなくなっていたが私は確かに"白鷺 雪"として生きてきた。


だから私は息を吐くようにその灰色の少女の問いに、解を出した。



ーー私は、"白鷺 雪"だよ



私は、慧音先生に聞こえないくらいの声でポツリと答えた。

それは聞こえてきた彼女に向けて答えた言葉だった。


返事は来ない。

だけど、灰色の少女があの質問に何を込め、何を伝えたいのかは私には、わかっていたーー

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