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東方屍姫伝  作者: 芥
五章 その屍は幻想を這う
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再会

妹紅は息を止め、木の陰に隠れる。

自身の気配を消し、どこにいるかわからない"敵"に耳を澄まして気配を探る。

響くのは風の音だけで、それ以外は何も聞こえない。


妹紅は周囲に目を向けた。

林の中だからか周りには木ばかりで視界が悪く、近くに開けている場所があるがそこは人里の目の前で、あの恐ろしい"モノ"を人里の方に連れていってはいけないと咽喉を鳴らした。


なら、空へと飛び上がり空中戦は……となればそれも無謀である。

"ヤツ"は……黒桜 刃は不可視の攻撃を繰り出してくる。

妹紅はそれをわかり、開けた場所と言うより盾となるものが多い林を選びここで刃との闘いにのぞむ。

ーー否、コレはもう闘いに非ず。



「みぃつけたぁ!」


「ーーっ!!」


不気味な笑い声と共に、妹紅が隠れていた木が真っ二つになると同時に木の陰に隠れていた妹紅の首が物理的に吹っ飛ぶ。

首と胴体が離れ妹紅はパタリと倒れるがすぐに身体から炎を発生させ、再生させた。


そして、再生するとすぐに立ち上がり妹紅が後ろを振り向いた。


「うふぅ……、すごいぃすごいわぁ! どんなに殺しても死なないなんてすごいわぁ!!」


倒れた木の向こうでケタケタと笑う刃。

妹紅はそんな高笑う刃を見て、また殺られたと苦々しい表情をする。


妹紅と慧音が刃と戦い始め十数分ほど経つが、その短い間の中で妹紅は既に十を超えるほど殺された。

ある時はじっくり傷つけられて、ある時は今の様に瞬殺である。

死ぬのに慣れている妹紅であったがこうも一方的に殺られたのはここ久しくはなかった。



「妹紅っ、大丈夫か!?」


「出てくんな慧音っ!!」


同じく妹紅と同じ様に木の陰に隠れていた慧音が妹紅を心配する。

そんな慧音が妹紅の手助けをしようと動き出そうとすると、妹紅は怒鳴り声をあげた。


本当は今すぐ逃げて欲しい、と妹紅は思った。

だが、逃げる最中に刃から背後をとられたら、と考えてしまう。

目の前にいる刃は普通に息をする様に人を殺す妖怪である。

いや、誰よりも妖怪らしい妖怪であり、それが本来ある妖怪らの姿である。

即ち、コレは殺し合い……というより一方的な虐殺であった。


故に妹紅は恐れる。

今は不死の自分が狙われているから良いが、いつ慧音の方に矛先が向くか、と。

妹紅はそう考えると身震いをする。

自分は不死だからまだ良い。

しかし、慧音は殺されたら死んでしまうのだ。

半妖だと言っても、殺されれば死んでしまうのだ。



「ち……やっぱりやるしかないのか」


妹紅は慧音の事を考え、もう隠れる事を止めにした。

今の今までは見えない攻撃の返り討ちにあうから隠れながら反撃していたがラチがあかない。

そう考え、妹紅は隠れることなく目の前にたたずむ刃を睨みつけた。


「あらぁ、かくれんぼはお終いぃ?」


「あぁ、正面からやってやるよ。そしてーー、何度でも殺られてやるよっ!!」




ー不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」




妹紅の宣言と共に鳥を象った炎弾を刃に向け放った。


しかし、刃はその弾幕の間をすり抜ける様に避ける。

そして妹紅の方に指を鳴らして、不可視の攻撃……【ありとあらゆるものを斬る程度の能力】による斬撃を喰らわせようとした。


「げっ……やべぇ!?」


妹紅は刃が指ぱっちんをする行為を見て、それが見えない攻撃だとわかると、すぐさまに横に飛びついて避ける。


妹紅が横に飛びついた刹那、妹紅の後方にあった大木が何かに斬られたような切り口を残し、幾本と倒れ行く。

妹紅はそんな木々を見て、あと少ししたら自分も……と冷や汗をかき緊張を走らせた。


「まだぁ、終わってないわよぉ〜」


「……え、」


妹紅が唾を飲み、倒れた木々から刃の方へ目を向けようとすると、刃の言葉と共に自身の体が地面へと倒れこむ。

いや、倒れこむのではなく落ちた。

ヘソのあたりから身体が斬られ、断面から鮮血を噴出しながら上半身が下半身から滑り落ちるように地面に落ちる。


上半身と下半身が真っ二つになった妹紅は、薄らと目を開けながら息絶えた。

しかし、すぐに身体が炎に包まれ再び蘇る。



そして、妹紅は倒れた身体を飛び起こし、あたりを見回す。

これで何回目の死だと考えながら憎々しく自分を殺す敵へと目を向けた。


その敵は妹紅が死から目を覚ますたびにニヤニヤと笑っており、妹紅はその不気味さに鳥肌を立てた。

そして妹紅はそんな君悪い刃を見て純粋に尋ねる。


「……私を殺して、何が楽しいんだよ」


「なんで楽しいって……? だって楽しいでしょお、血がブワーって出るのだからさぁ!」


妹紅の問いに刃は迷う様子もなく答え、花畑の中心で舞う様に両手をあげクルクルと回る。

そんな刃の無邪気な笑顔を見て、妹紅は君悪さを通り越し、なんだか笑えてきた。


「はは……、あんた本当に螺子がふっとんでんだな」


「ふっとんでないわよぉ。美しいものを自分の手で終わらせられるのは一種の快感じゃなぁい?」


刃は妹紅の方を見てニタリと笑った。

そして、妹紅の全体を舐める様に目を見張らせ口を開いた。


「それにぃ、顔の造形は良いしぃ肌のハリも申し分ないわぁ……。性格は難ありかもしれないけどぉ、その辺りはぁ調教次第だわぁ」


「は……?」


突然の刃の意味のわからない言葉に妹紅は惚けた。

そんな呆然とする妹紅を見て、刃は笑った。


「私ぃ、貴女のことが気に入っちゃったわぁ。全体的には雪ちゃんには劣るけどぉ、自分好みに調教するのも悪くないわねぇ」


刃のその言葉に、妹紅はさらに身の危険を感じる。

特に貞操の危機を……。


「安心してちょうだぁいぃ。痛い思いだけじゃなくてぇ気持ちい快感も味あわせてあげるわぁ、……性的にだけどぉ」


「きもっ! お前マジでキモ……って"雪"?」


妹紅は刃の言葉を思い出し、間抜けな声を出した。


懐かしい名前。

かつて嫁に行くと別れた友。

別れた後は一度も会ってはいなかったが、きっと幸せに暮らせているのだろうと思い、邪魔してはいけないと会いに行けなかった友達。

最近ではほとんどその名は聞かないが、数百年ほど前に妖怪の山にいる鬼神の番という事でこの辺りでは雪の名前をよく聞いていた。

今では鬼が地底に行き、雪もそれについて行ってしまったと風の噂で聞いていた。

だから雪は今は地底に居るはず、なのに何故、正面にいる女からその名前が、と妹紅は首を傾げた。


「あらぁ、貴女知らないのぉ? その辺を彷徨っている骸骨らは、みぃんな雪ちゃんが召喚した奴らよぉ?」


刃はニヤニヤと笑い、ワザとらしく妹紅を煽る様にいった。

一方妹紅はどういうことだ、と思いながら言葉を噤み刃を見つめた。


そして、妹紅は頭の中で状況の整理をして言葉を震わせやっとの事で口を開いた。



「……雪って、白鷺 雪のことか?」


「ええ。屍の姫とも呼ばれてたわねぇ」


刃はそう肯定して、ウフフと笑い自慢げに話し出した。


「ほんとあの子は身体も性格も完璧よぉ。弱々しくて悲劇のお姫様でーすって考えが素敵よぉ。オマケに全身真っ白だから紅い血がよく目立つわぁ」


けどぉ、あの子は"あいつ"のだからぁなぁ、と刃は呆れながらため息をついた。

しかし、妹紅はそんな刃の言葉に聞き耳を持たず、顔つきを変え口を開いた。


「……なぁ、変態」


「んー、なぁにぃ?」


変態と言われることを気にせずに刃は首を傾げた。

そして、妹紅はそんな余裕ぶる刃を見つめながら怒気のこもった声で言った。


「……雪は、いま何処にいんだよ」


「さぁ? 私は作戦ってのをよく知らないしねぇ」


「なら雪はなんで、異変を……あんな奴らを幻想郷中にばら撒いたんだ」


「それも知らないわぁ。でも、復讐でもしてるのじゃなぁい、五百年も封印されていたのだしぃねぇ」


「……五百年?」


「知らないのぉ? 五百年前に妖怪の山を覆うほどのでぇっかい骸骨が現れたって異変。アレが雪ちゃんでぇ、つい最近まで封印されていたのよぉ?」


妹紅は刃のその言葉にそう言えばそんな事件があったなぁ、と思うと同時に眉間にシワを寄せた。

ということは、雪はあの異変があった日からここ最近までずっと封印されていたのか、と妹紅は思うと自分の不甲斐なさに、舌を打った。


そして……同時に妹紅の背後が光った。



ーー光符「アマテラス」



幾つもの短小な光のレーザーの様なものが妹紅の背後から刃めがけ飛んでいく。

妹紅はおろか刃もいきなりの強襲に驚愕しながらも身体に掠らせ紙一重で避けるが、避けきれなく何本か被弾する。


そして、妹紅はまるで自分を避け飛んでくるレーザーに見覚えがあり、背後からそれを打ち出している人物……、慧音の方に目を向けた。



「な、なんで隠れてないんだ!」


「馬鹿かっ! お前が傷ついているのにヌケヌケと隠れて怯えてられるか!!」


慧音のその言葉に妹紅は顔を歪ませた。

しかし、慧音はそんな妹紅のことも気にせずに口を開いた。


「それに……、聞き覚えのある名が聞こえたんでな、余計に大人しくなんて出来るわけない!」



ーー包符「昭和の雨」



慧音が今ほど打ち出していたスペルカードが終わると、すぐに次の符を取り出し掲げる。

次の弾幕は先ほどのレーザーよりさらに短いもので、それに光弾が混ぜられ打ち出された。


妹紅は必死に歯を食い縛る慧音の顔を見て、どうやら単なるお節介などではないと理解する。

そして、妹紅は仕方がないと息を吐き呆れながらにいった。


「慧音、死ぬなよ!!」


「そんな簡単に死なんさ!!」



砂煙が晴れる。

慧音の打ち込んだ弾幕によっておこった砂煙が一つの影を生み、その人物はケタケタと笑っていた。


「おーけー、今度は二対一ねぇ」


刃は身体に幾つかの傷を作りながらそこにいた。

無傷とは言わないが、それなりの攻撃を受けても倒れる事のない刃を見て二人は唾を飲み込んだ。


一方、妹紅らが有利に見える状況だが相手はいつでも見えない斬撃のようなものを喰らわせることが出来るし、人を殺すことにも躊躇がない。

自分は不死で死んでも蘇るからいいが、慧音は……、と妹紅は考える。

しかし、なるようになるかとヤケクソな考えで刃に向かおうとした時であった。



「ーー妹紅おぉぉぉぉ!!!」



天から声が聞こえたーー

それは空から、ちょうど自分らの頭上から舞い降りてくる声。


妹紅はその自分の名が聞こえた方へと視線を移すと、そこには見覚えのある彼女が居た。

彼女は黒い翼を羽ばたかせ、一枚の札を掲げそこにいた。



ーー雷獣「千ノ雷」



その彼女の、雪の宣言とともに雪の背後に小さな黒雲が生まれそこから、刃めがけ幾つもの雷が落ちた。



「え……、ちょ……雪ちゃ、ぎゃ!!」


落ちる落雷は刃にのみめがけ打ち出され、その落雷に当たった刃はいきなりの奇襲に対応できず難なく当たった。

そして、雪の打ち出した雷がほぼ全て当たり、刃は肌を焦がし身体を震わせながら意識を無くし倒れた。



「……雪?」


妹紅は倒れた刃に目を向けるより空に浮かぶ、現れた雪の方へ目を向けた。

目を見開き、妹紅は雪の方へ見た。


しかし、雪はしまったというように顔を歪ませ、すぐに東の方に飛んで行ってしまった。

妹紅は待て、と叫ぼうとしたら慧音が震えながら妹紅の服の裾を掴んだ。


「ーー妹紅、追うぞ」


慧音は妹紅の隣で、ポツリとそう呟いた。

妹紅は今の慧音の尋常ではないほどの焦る顔を見て、どういうことかと思う。

しかし、自分も雪に色々と聞きたい事があるために彼女を追わなければならない。


「慧音、雪のことを知っているのか?」


「本人かはわからないが、もしかしたら……」


あの時の娘かも、慧音はそう思う。

そして、慧音は答えを待たずに妹紅の腕を掴んで走り出したーー




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