鎌鼬
ーー私は人殺しだ
殺した数は、覚えていない。
だが初めに殺した者の顔はしっかりと覚えている。
あれは昔のことーー
私は同性の……、女の子が好きな少女であった。
同じ村のあの子が好き。
隣の家のあの子が大好き。
その様な感情を抱いたのは全員女の子。
そしてそんな同性を愛してやまなかった私は村外れに住む貴族の娘に恋をした。
初恋、とは言えないが心を彼女に奪われた。
あぁ私のモノにしたい、よくそう思った。
家の畑仕事をサボってよくその屋敷のお姫様を私は見に行った。
肌が白く、長く伸びる黒髪を恋しく想いよく屋敷の外から眺めていた。
お近づきになりたい……。
齢15歳くらいにその様な感情をそのお姫様に向けていた。
綺麗な貴女に触りたい。
可憐な貴女に抱きつきたい。
愛してやまない貴女と、一度でもいいから言葉を交わしたい。
心から思った。
どうやったら、貴女は私のモノになるの、と。
そんな事を思いながら毎日、その人の屋敷に通い覗き見をし続けた。
そしてどうやったら自分のモノになるかを考え続けた結果……。
殺した。
殺して自分のモノにした。
鎌で首を引き裂いて血塗れにして殺した。
そして、青く冷たい彼女に愛撫でをし尽くした。
愛してやまないお姫様が私の手に……。
最初はそう思っていた。
だけどーー、すぐにその"女"に飽きた。
殺してまで手に入れようとした彼女を、私はすぐに飽きた。
血塗れにして、殺してしまったら飽きてしまった。
私は飽きた彼女の屍を川に棄てた後にふと思った。
ーー彼女の死に顔は、美しかったなぁ
私は彼女の首に鎌を押し付けた時の事を思い出す。
歪む顔、溢れる涙に、震える声……。
私は彼女のその様な表情に、ときめいた。
最初は、ただ彼女が自分のモノになると興奮していたからだと思っていた。
しかしよくよく考えてみると、私は彼女の死に顔に興奮していた。
そして、彼女の首を搔き斬った時には、酷く股が疼いていた。
私は、彼女の死を得て理解した。
私は女の子が好きなのでなく、女の子の涙が……、美しく散っていく彼女らが好きなだけなのだ、と。
案の定、そうであったーー。
二回目の殺人、私が目をつけた隣の家に住む幼馴染の少女。
彼女を蹂躙し殺す事で、私は"私"を理解できた。
嗚呼、私はこういう人間なのだーー、と。
人を、美しい物を殺す事に快楽を得る人間なのだと理解した。
その事を理解してから、私の糸は切れた。
殺して、殺して殺して殺し続けて……。
村の女子は一通り殺ったので、隣の村に行き、そこも殺り終えたらまた次の村へ……。
殺して、殺して殺して殺し続けて……。
私はいつしか、"人"では無くなっていた。
殺して、殺して殺して殺し続けて……。
そして私は、業を背負う"化け物"となった。
そして、あれは私が"化け物"になってばかりの頃だっただろうかーー?
私が相変わらずに人を殺し続け、"化け物"となって力を手に入れたことにより近頃では容姿の整った妖怪をも殺し始めた時の事。
そんな時にーー、"あいつ"は声を掛けてきた。
「やぁ、捗っているかい"鎌鼬"?」
"あいつ"が、あの"狐面の女"が私と初めて会った時、私はいつも通りに人を殺していた。
そして、私のその行為を労うかの様にあの狐面の女が話しかけてきた。
私は先ずは、私の能力の【ありとあらゆるものを斬る程度の能力】でその女の首を切り落とそうとした。
しかし、私の飛ばした不可視の斬撃はその女に、そこに斬撃が飛んでくることがわかっていた様に呆気なく避けられ、更にその女は何事もなかったかの様に話しかけてきた。
「なあ"鎌鼬"、壊れない玩具に興味はない哉?」
私はその女の突然の質問に、意味を理解できなかった。
しかし、その女は私の反応を無視するかの様に言葉を続けた。
「ボクに従ったら、君の欲しい物が手に入るぜ」
私の欲しい物ーー
それはその時の私には全くの心当たりがない物であった。
だが、その狐面の女は私の心を見透かす様に言った。
「壊れる事のない玩具、永遠に殺し続けられる……そんな玩具を、君は欲しているのだろう?」
壊れない玩具。
人は殺したら死ぬ。
殺さなくてもそのうち死ぬ。
そして、人の散り際というものは酷く美しいもの。
それが永遠に、楽しめる。
それは私にとって魅力的なお話。
「ーー話を、聞こうかしらぁ?」
それが、私と"彼女"との初めての会合であった。
❇︎❇︎❇︎
「慧音っ、大丈夫か!?」
急いで駆けつけたおかげで息を切らしながら、妹紅は人里にいる慧音の下に駆けつける。
そんな妹紅の慌てた様子を見て、人里よりほんの少し離れた場所で見回りをしていた慧音は安堵の息を吐いた。
「妹紅、無事だったか」
「無事だったかじゃねぇよ! なんで人里から離れてこんなところに!!」
妹紅のその言葉に慧音は苦笑する。
「心配性だなぁ。別に大丈夫さ、ここらはまだ人里を守る結界内だ。おかげであの骸骨らはいないだろう?」
「だけどさ……」
「それに、人里の方にも腕のいい守護者はいるから安心さ」
そういう事を言っているのではない。
妹紅は口には出さずにそう思った。
だけど実際には慧音の言う通り、この辺りにはあの骸骨らは居ない。
人里も文字通り目の先にあるので何かがあったらすぐに逃げ込める。
そう考えれば、慧音の言葉には納得が行くと妹紅は思う。
しかしーー
「なぁ、慧音。なら人里の中で守ってればいいじゃないか?他の人間どもと同じように、異変が終わるまで人里の中でさ」
守るな、とは言わない。
だけど人里から離れ化け物の蠢く、前線にいる必要は無いではないか。
妹紅は心内にそう秘めながら慧音に言う。
しかし、その言葉の望みは次の慧音の言葉によって黙らされた。
「確かにそうだが……、人里を守る結界は絶対じゃないんだ。もしもの場合にも、多少の事はしておきたいのさ。何もしないまま、護れないのは嫌だからな」
「……馬鹿だねえ」
慧音のその言葉に妹紅は呆れてため息をついく。
それとその言葉になぜか安心感を持った。
此奴はそういう人間だ、と良い意味で改めて思った。
そう思いながら妹紅は慧音を馬鹿と言う。
そして妹紅は慧音のその言葉を聞き、ドカリとその場に座り込んだ。
「はっ、なら私もお前の大事なもんを護るのを手伝ってやるよ」
「ふふ、ありがたいな」
胡座をかぐ妹紅に、鼻で笑いながら慧音は礼を言う。
そして、その礼に恥ずかしそうに鼻をかぐ妹紅を見て、ふと昔を思い出す。
かつてーー、妹の様に思っていた目つきの悪い少女。
彼女は男っぽい口調に態度に、男勝りに荒っぽい性格。
だけど、とても優しく純粋であった彼女。
そして、住んでいた寺を妖の類に襲われ、居なくなってしまった"あの子"の事をーー
(妹紅と同じで、"あの子"も男勝りで優しい子であったなぁ)
慧音は何百年も前の事を懐かしみながら老けていた。
今ごろになって、そんな昔の事を思い出すのだろうか、と慧音は疑問に思いながらも妹紅の方をもう一度見る。
が、妹紅は眉間にシワを寄せており睨みつける様に視線を前に向けていた。
そして、どすの利いた声で見たものに口を開いた。
「……おい、なんであんたがこんなトコに居るんだよ?」
妹紅は睨みつける様に前から向かってくる人物に目を向けていた。
慧音はその妹紅の言葉に釣られ、妹紅の向く先へと視線を向けると一人の女性の存在に気づく。
長髪で翠色の綺麗な髪を持つ妖艶な女性。
それが妹紅らの正面に生えていた木々の間から妹紅らの方に歩いてきていた。
彼女……、黒桜 刃は正面に居た妹紅の睨みに気付き、言葉を発す。
「あらぁ、見た事のある顔だと思ったらぁ……、昔に雪ちゃんと一緒にいた子じゃないぃ」
「……こんな所に、一体なんの用だ」
お気楽に話す刃に、緊迫する妹紅。
かつて、雪と初めて幻想郷に訪れた時に出会った人物。
実に七百年過ぎぶりに出会った二人だが、妹紅は和む様子もなく、刃に警戒の心を向けた。
そんな殺気をビンビンに出す妹紅に、刃は怖い怖いとケタケタ笑う。
そして、何事もない様にサラリと答えた。
「別にぃ、ただぁ人里に血の雨を降らせに来ただけよぉ?」
刃のその言葉に、妹紅はおろか初対面である慧音すら警戒をし始めた。
そして、慧音は尋ねる。
「貴様が、この異変の首謀者か……?」
「……ああ、あの骸骨らの徘徊のことぉ? 首謀者ってほどじゃないけどぉ、一様関係者ねぇ」
その言葉に、妹紅と慧音はより一層警戒心を高める。
しかし、刃は妹紅らのその怪しむ視線に気づき、誤解を解く様に手を横に振った。
「まあ、骸骨云々の芸当は私には出来ないわぁ」
「……なら、なぜ人里を狙うような発言をした」
「んー、命令ってのもあるけどぉ……やっぱり殺したいからぁ?」
刃はにぱりと笑い答えた。
慧音はそんな答えを笑いながら答える彼女を不気味に思った。
無邪気そうに笑う笑顔。
殺すという事をなんとも思わぬ顔でいう彼女に、慧音は心から危険を感じた。
「でもぉ、私的にはぁ人里とかどうでもいいのよぉねぇー。女以外は殺す気にならないしぃ、可愛い娘にしか興味ないのよねぇ」
ーーぞわり
妹紅と慧音は刃の笑みに震える。
先ほどとは違い、無邪気なものではなく、三日月の様に口を吊り上げた不気味な笑み。
その笑みと同じく感じるのは膨大な妖気。
妹紅らは彼女の殺る気に構えた。
「藤原妹紅ぅ……、貴女も"死ねない"のでしょぅ?」
「……だから、どうした」
なぜ知っている、そんな事を聞くより意味深な問いに妹紅は疑問を持った。
刃は、自身に畏れを抱く妹紅の顔を見て、更に下卑た笑みを見せた。
「ーーだってぇ、死なないのならぁ何回でも殺せるでしょぉうぅ?」
刃がそう言うと、妹紅は彼女のその不気味な笑顔を睨みつけた。
そして、それと同時に黒桜 刃は妹紅めがけて走り出したーー
❇︎❇︎❇︎
ーー紅符「不夜城レッド」
レミリアを中心に紅い十字架のオーラが現れ、雪めがけて飛んで行く。
現在ーー、レミリア・スカーレットと白鷺 雪が幻想郷の空で弾幕を打ち合っていた。
レミリアは背中に生える大きな蝙蝠のような羽を羽ばたかせ、雪は黒色の鴉羽を羽ばたかせ空に舞う。
といっても先ほどから攻撃をしているのはレミリアばかりで雪はひたすら避けるだけ。
そんな雪の態度にイラついてか、レミリアは終わらせようとスペルカードを出したが、それも今現在に雪は楽々と避けた。
そして、レミリアが宣言したスペルカードを雪はサラリと避けると同時にそれは地上の方からやって来た。
「お姉様ばかり楽しそうでズルいっ! フランも混ざるうー!!」
ーー禁忌「クランベリートラップ」
背中に宝石の様な翼を生やしたフランが、背後に幾つかの魔方陣を出現させ、そこから弾幕を打ち出しながら雪に近づく。
レミリアはなぜフランが、と思いながら誰にも邪魔させない様に頼んだ従者の咲夜のいる地上に目を向けた。
レミリアに視線を向けられた咲夜は流石にフラン相手を止めるのは無理、という様に頭の上でバツを作り首を振っていた。
その咲夜のジェスチャーを見て、ため息をするも雪めがけ弾幕を打つフランに目を向ける。
「フランっ、こんな相手は私一人で十分よ! 貴女は下の骸骨の相手でもしてなさい!」
「いやっ! 私だってこのお姉さんと遊びたいもん!」
レミリアの言葉に駄々をこねるフラン。
そんな様子を見てかレミリアは更にため息をついた。
そして雪はそんな二人を見て若干イラつき、ムッとなった。
「お前ら、余裕そうだな」
ーー雷獣「雷ノ槍」
雪が一枚の札を掲げ言うと、手元に雷を帯びた棒状のものが現れる。
そして、それをフランめがけて撃ち込んだ。
「効かないよっ!」
ーー禁忌「レーヴァテイン」
フランは背中に出していた魔方陣を消し、新たにスペル宣言をする。
そして、手元に出現させた紅い剣を振るい、雪に投げられた槍を弾こうとした。
しかしーー。
「弾けろーー」
雪の呟きとともに、雪の投擲した槍は爆散し、槍の形状を失って四方八方に雷を打ち込む様に弾けた。
その弾けた雷は雷槍を防いだフランの元に飛び散った。
しかし、フランは紙一重に弾けた電流を避ける。
「ねぇ、お姉さんっ! 今のすごいね!!」
「フランっ、もういいでしょ!? 私が相手してたのよ、元の持ち場に戻りなさいっ!!」
「いやだもーん、私だって遊びたいもーん」
フランの駄々にレミリアは舌を打った。
そして、そう言うことならとレミリアは宣言す。
ーー紅符「スカーレットシュート」
レミリアの周りに紅い大玉が幾つも現れ、小弾と中弾を混ぜながら雪めがけ撃ち込んだ。
「なら私が先にあいつを落とさせてもらうわ!」
「ははっ、勝負だねお姉様!!」
高らかに笑う二人の吸血鬼。
そして、レミリアの張った弾幕を避けながら、雪はそんな二人を見て舌を打ち叫ぶ。
「ほんっとうに余裕そうだなあ、ガキどもがっ!!」
ーー髑髏「骨ノ手」
雪はヘラヘラと笑う二人にイラつく。
そして宣言をすると、雪の背中から十本の骨の腕が生えてきて、その手から黒色の弾幕が打ち出された。
レミリアとフランは打ち出された弾幕を楽しそうに笑い、避ける。
そんな遊んでいる様な彼女らを見て、更に雪のイラつきは上がった。
「ーーあぁっ! めんどくさくなってきたあ!!」
雪はそう怒気を上げると、先ほど出したばかりの背中から生える骨の腕をしまい、弾幕を強制的に消す。
そして勢いよくレミリアらの方に黒い翼を羽ばたかせ突撃する。
「あら、そんな真っ直ぐ突っ込んできていいのかしら?」
レミリアはそう言うと、先ほど宣言したスペルを一直線に突っ込んでくる雪にめがけ打ち込む。
しかし、雪の特攻の勢いは止まることなくレミリアらめがけて飛んでくる。
真っ直ぐレミリアらの方に突っ込んできているので、レミリアの弾幕は身体に当たる。
だが、それらの弾幕はまるで雪の身体をすり抜ける様に過ぎ去った。
それはまるで、雪が"煙"になった様に通り過ぎる。
ーー煙羅「煙ノ檻〜隠〜」
レミリアが自身の弾幕が雪の身体をすり抜ける事に驚いていると、雪が札を掲げ新たなスペルを呼び出した。
それは白々とした白い檻ーー
レミリアとフランを囲む様に白い煙状のものが現れ、二人を閉じ込める様に煙は立ち塞がった。
「な、霧!?」
「いや……煙だよ。昔に喰らった煙々羅っていう妖怪の、ね」
レミリアの驚嘆の声に雪はクスリと笑い答えた。
それも視界の悪い煙の先からレミリアの前に顔を覗かせてだ。
「く……目眩しか!」
「そうだよ」
突然、煙の先から現れた雪にレミリアは怯みながら叫ぶ。
雪はヤられたと思っているレミリアの顔を見てほくそ笑み、レミリアの隣に飛んでいたフランの首をガシリと掴んだ。
そして、フランの口に雪は口付けをした。
「ーーっき、きさま!?」
レミリアは実妹に不埒を行う雪を見て、眉間に筋を浮かべ殴りかかった。
しかし、その拳はフランの口から雪の唇を離し距離を取る事により避けられた。
そして、キスをされたフランは眠そうに目を擦りながら唸る。
「うにゅ……う……お姉……さま……」
「フラン!?」
雪にキスをされたフランは目をうつらうつらとさせ、地上へと落ちていく。
レミリアはその意識を失った様に落ちていったフランを追う様に羽を羽ばたかせ下降し、フランの身を宙で抱きしめた。
そして、フランの身に起きた異変を探る様に全体を観察するが……。
「すぅ……」
「……寝てる?」
スヤスヤと息をたて眠るフランの様子に、レミリアは慌ててフランを追いかけた事により荒れてしまった息を整えながら首を傾げ呟いた。
雪はそんな二人の事を消え行く煙の中から満足げに言う。
「ふん、これでそいつは戦闘不可能だ」
「……フランに何したの?」
「【眠に誘う程度の能力】で眠らせた」
「それが貴女の能力……」
「いや、私の能力の一つだ」
ちなみにこの煙は【自身を煙に変える程度の能力】だ、と消え行く煙に触れながら自慢気に言う雪。
その雪の言葉に、ただの妖怪ではないとレミリアは警戒し、先ほどまで持っていた遊び心を捨て雪を睨みつけた。
「さぁ、異分子は居なくなった。来いよ吸血鬼、お前が幻想郷でも強い方にいる事は今の攻防で十分に分かった」
「あら、そう言われると光栄ね」
雪の挑発にレミリアは苦笑いを浮かべた。
そして、腕の中で眠るフランに目を向け彼女の身柄をどうするか迷う。
このまま眠るフランを抱きかかえながら闘うのは無理だし、一度地上に下ろそうにも背後から攻撃されるかもしれない。
ならこの場で起こす、といっても熟睡しており起きそうもない。
ならば、ここは一度地上にいる咲夜を呼びつけて……、とレミリアが考えると同時に、フランはパチリと目を開けた。
レミリアはフランの目覚めに嬉しそうに声を上げる。
「フランっ! 起きたのね!!」
「なにっ!?」
フランの目覚めに雪はあり得ないという様に驚愕する。
レミリアは驚く雪を傍らにフランの目覚めに喜ぶが、目をじっと開けたまま固まるフランを見て首を傾げた。
「ーーフラン?」
「…………んー、邪魔ですぅー」
レミリアが名を呼び惚けるフランの肩をゆすろうとすると、フランは無表情な顔から急に二ヘラと笑い、いつもとは違う口調で口を開いた。
そして、フランは抱きしめるレミリアの腕を払いのけ、雪の方めがけ飛んで行く。
突然のフランの奇行にレミリアは戸惑った。
雪も、眠らせたはずのフランが目を覚まし、自分の方に近寄るフランに警戒の眼差しを向けるがーー
「"桜井 命"ー、お姐さまからの伝言ですぅー」
マヌケた話し方。
そして、名前を呼ばれる事に雪は眉をひそめ気づく。
「お前……、"憑"か」
「はいー、憑ですぅー」
"フラン"の見た目をしたモノ……、憑は二ヘラと笑いながら首を縦に振った。
そして、言葉を続けた。
「お姐さまが"目標"の出現場所を予言されましたぁー。博麗神社に"真っ直ぐ"向かえだそうですぅ」
「……了解」
フランの見た目をした憑は"狐面の少女"に言われた事を思い出しながら雪に伝える。
そして、雪は憑の言葉を聞き首を振りレミリアの方に視線を向けた。
「……ふん、命拾いしたな吸血鬼」
「ちょっ!? どういうことよ!!」
いきなり自分の妹が敵であった女と仲良く話しているところを見て混乱していたレミリアが、雪の言葉に反応し声を上げる。
しかし、雪はレミリアのその言葉に耳傾ける事なく背中を向け、黒い翼を羽ばたかせその場を後にしようとしていた。
レミリアは逃すまいと、背を向ける雪を追おうとするがフランの姿をした憑に行く手を阻まれた。
「私の役目はぁ、"桜井 命"の手助けですぅー。なのでここは通しませーん」
「フランっ、何を言って!?」
「あにゃぁ、私はフランではなく憑ですよぉ〜」
レミリアの怒鳴りに気にせず、憑は甘えた声を出し再び名乗った。
憑のその言葉にレミリアは相手がフランで無いことを知り、怒気を上げる。
「フランに何したの!?」
「ちょーと、私の【意思なきモノに憑依する程度の能力】で身体を借りてるだけですよぉ」
近くに意識を失っている人がいて助かったです、とフランに憑依した憑が二ヘラと笑った。
「でも、安心してくださいー。この身体が目を覚ましたら私は出て行きますよぉ」
「……その言葉を、私が信じると思う?」
「んー、信じてくれないんですかぁ?」
「ふん、当たり前でしょ!」
レミリアの答えに憑はため息をつく。
そして、仕方が無いと首を振る。
「まあ、レミリア・スカーレットが反抗するって事はお姐さまの"予言"でわかってたんですけどぉー、いざ闘うとなると怖いですねぇ」
「あら、私とやろうというの?」
「"桜井 命"の後を追われるのは困るのでぇ、この身体を借りてぇ、阻ませてもらいますぅー」
故にこの身体に憑依した、と言う憑。
憑がそう言うと手元に杖の様な形状をする炎の剣、レーヴァテインを召喚する。
そして、レーヴァテインを頭上に掲げた。
「戦闘は苦手ですがぁ……、お姐さまの為なら頑張りますよぉー」
二ヘラと笑う憑はレーヴァテインを振りかぶる。
対してレミリアはやる気な妹の身体を乗っ取る敵を見て、ため息をつきフランの姿をした敵を睨み、口を開いた。
「……さっきの真っ白け女とはまだ決着がついてないのだからーー、フランの身体を返してもらったら嫌がらせついでにあの女を追いかけてやるわ。だから……」
ーーとっとと逝ねろ、雑魚。
レミリアがそう言うと手元に赤い槍、グングニルを出現させフランの姿をしたモノにめがけ翼を広げた。




