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東方屍姫伝  作者: 芥
五章 その屍は幻想を這う
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骸兵

ーー髑髏塚異変

それは今の暦から約五世紀前に、白鷺 雪が起こした幻想郷を破滅に追いこみかけた異変だったと言われている。

地は割れ、天は轟、巨大な骸が幻想郷を覆い、その骸が宿す怨霊らで地上を覆い尽くしたと記述には書かれた。


そんな白鷺 雪が暴れるのを抑えるために封印したのが妖怪の賢者と呼ばれる、八雲 紫であった。

その異変は八雲 紫の手により封印するという形で決着がつき、白鷺 雪は妖怪の山でも特にひと気の無いところに神聖な木の杭を媒体とし、封印された。

そしてその封印した木の杭につけた"髑髏塚"という名に因んで、『髑髏塚異変』とそれは呼ばれた。



しかし、その異変は無事解決したがその白鷺 雪が封印された髑髏塚には、封じてもそれでも抑えきれない怨霊らの瘴気で周囲を溢れさせた。

故に誰も近づけず、近づく事を禁止した。

妖怪の山の天狗らも特にそこは危険区域として指定されたほどだった。


そして、封印を解いても再び暴れないという保障がないので今の今まで髑髏塚の封印は解かれることがなかったのだがーー



「紫ーー、もう一度言ってくれるかしら?」


霊夢は突然現れた紫の言葉に耳を疑った。

その霊夢の質問に紫は一度息を吐き、落ち着いて先ほどの言葉を繰り返す。


「屍の姫が、目覚めたわ」


その言葉を再び聞き、霊夢はため息を吐いた。

もしかして、魔理沙らが?

さとりと勇儀は屍の姫とは顔見知りなのでありえないことはない、と思いながら口を開く。


「……簡単に解ける封印じゃないんじゃないの?」


「そうなんだけど、私にもわからないわ……。気づいたら解けてて……髑髏塚の周囲の瘴気の発生具合を考えみるに、ここ数日に解けたものとは思えないのだけど……」


つまり、ずいぶん前から解けていた、と言いたいのだろう。

なんでそんな状態だったのにすぐに気づかなかったと聞きたいが、封印の管理は博麗の巫女である自分にも責任があるので追求することができないと思い、霊夢は口を噤んだ。


「で、お嬢は今どこにいるんだ?」


沈黙した空気の中で、萃香がそう尋ねた。

その質問に紫は頭を横に振るう。


「……わからないわ」


「ーーそ、なら私はお嬢を探してくる」


萃香は紫の答えに真剣な目つきでそう答え、煙の様に消えていった。


そして、霊夢は萃香が立ち去ってすぐに、現状確認のため口を開いた。


「被害は?」


「人里と博麗神社ここは結界で護られているからいいけど……、それ以外の場所では人の亡骸の様なものが徘徊して、近くにいる者を手当たり次第に攻撃しているわ」


「人の亡骸とは?」


「ええ、人の骸骨が影から這い出てきたと報告を受けているわね」


紫の報告に霊夢はなるほどと思い、淡々と質問を繰り返し続ける。


「……その死体が歩き回るってのは、屍の姫の仕業で間違いないのよね?」


「十中八九……そうでしょうね。こんな事は彼女くらいにしか出来ないし」


「ーー敵と見なせばいいのかしら?」


霊夢のその言葉に紫は首を縦に振った。

紫のその肯定を霊夢は見ると、縁側から立ち上がった。



「おーけー、つまり"異変"ね!」



霊夢は口角を吊り上げ笑う。


その笑顔は異変解決が楽しいから浮かべるものではなかった。

ただ、自分の平穏を邪魔する輩をぶっ潰すのが楽しみで仕方がないという笑顔であったーー




❇︎❇︎❇︎


「ちょっ!? 何だよこれ、気持ちワルッ!!」


迷いの竹林にて妹紅が、先ほど突然と影から出てきたゾンビの様に動く骸骨に向け弾幕を放つ。

そして来るな来るなと後退りをし、周りに視線を向けた。


「もこー、がんばりなさーい」


「お前も手伝え、馬輝夜っ!?」


竹に背中を預け、近くに弓を構えた従者の八意 永琳を侍らせる永遠亭の主、蓬莱山 輝夜が覇気のない声で妹紅を応援する。

妹紅はその輝夜の舐めた態度にイラつきながらも迫り来る骸骨に弾幕をぶつけ続ける。


「な、なんでこんなトコに落とし穴なんてあんの!?」


「あ、鈴仙ごめーん。それ私の仕掛けたやつだ」


「このクソてゐっ!!」


妹紅の傍でも、落とし穴にハマる鈴仙とそれを嘲笑うてゐが騒ぎながらも、歩み寄る骸骨に弾幕をぶつけていた。



「ち……、こいつらなんだよ!」


輝夜に向け舌打ちをするも、妹紅は周りに視線を動かしながら文句を言う。


影から這い出た悪鬼。

脂肪がなく、余計なモノを何一つ纏っていない骨の状態で動く骸。

それがここ、迷いの竹林でも湧き出ていた。

レミリアらと同じく、妹紅らも宴会帰りの道中に突然と影から出てきた骸骨に襲われたのだ。


数は数十ほどで、倒しても倒してもくたばる事は無く、剥き出しになった骨がバラバラになっても少ししたら再び接合し歩き出す。

倒してもキリがない、妹紅はそう思いながら尽きる事のない相手に攻撃を続ける。


新手の異変か?

前の異変から一週間も経ってないぞ、と思いながらも顔を歪ませ、ある事を思い出す。


「……慧音が、心配だな」


妹紅はそう呟きながら数少ない友人の事を思い出す。

昨夜から行っていた異変解決の宴会も慧音は自分より早く帰宅していたので、おそらくはすでに人里にいるのだろう。

もし人里にもこの様な骸骨が現れていたら?

人里には戦える人間が少ないから、おそらく慧音一人でその防犯に勤めているのだろう。

あぁ、心配だ。


妹紅はその様な事を思いながら一枚のカードを構えた。



ーー不滅「フェニックスの尾」



妹紅はそうスペルカード宣言をし、赤い炎弾を大量に出現させ、周りの骸骨めがけ打ち込んだ。

そして、今の攻撃で開いた骸骨の包囲網を素早く見つけ出し、そちらの方に足を向け走り出す。


だが、妹紅がこの場から離脱しようとすると輝夜から声をかけられた。


「妹紅っ!!」


「わりぃな輝夜! 人里が心配だからちょっくらそっちに行ってくるわ」


妹紅はあばよ、と軽く輝夜の方に手を振り、素早く去っていった。


しかし、輝夜は妹紅のその言葉にそういう意味じゃなくて、と叫んだ。



「あんたの弾幕、当たったんだけど!?」



輝夜は永琳とともに、着物に燃え移った火を消火して、去っていく妹紅に向け大声でそう叫んだ。




❇︎❇︎❇︎




「うひゃぁ、おっにさーんこぉーちらぁ」


刃は緑色の髪に掠らせるように飛んでくる弾幕を交わし、鼻歌を交わしながら木々の間を飛び回る。


「ち……全然、当たらないぜ!」


魔理沙はそう言いながら弾幕を打ち込み、猿のように動き回る刃に向け舌を打つ。

苦戦しているのは魔理沙だけでなく、文も魔理沙に応戦する様に弾幕をはるが、同様に全く当たらない。


狙いが悪いなどではなく、刃がとにかく身軽なだけである。

ひょいひょいと木の枝を渡り、魔理沙らの周りを飛び回っている。


「あー、うぜーぜ!」



ーー魔符「ミルキーウェイ」



魔理沙はイラつきながらカードを掲げ宣言する。

そして、刃にミニ八卦炉を構え星型の魔弾を繰り出すが。


「うぇーいw」


刃はケタケタと笑いながら魔理沙の弾幕を避け、木から木へと飛び移る。

そして、魔理沙の正面に降り立った。


「あなたはぁ、七十点くらいねぇ〜」


ーーペロリ


刃は魔理沙の前に降り立つと、そう言いながら魔理沙の頰を舐めた。

魔理沙は刃によって頰を舐められた事により、ゾワリと肩を震わせた。


そして、身を抱きしめ刃から距離を取ろうとすると、目の前にいる刃が腕を上げて笑っていた。


「でもぉそのお肌をぉ、真っ赤に染めたらぁ、百点にぃなるかしらあぁ?」


「ま、魔理沙さん!」


刃がニタリと笑い、右腕を上げ魔理沙に向け手刀を振るおうとすると、文が風の如く魔理沙を抱きかかえ刃の前から魔理沙を遠ざけた。


「あらぁ、避けられちゃったぁ?」


刃は避けた魔理沙の方に視線を向けた。

魔理沙は刃に視線を向ける、というより刃の足元、正確には自分が先ほどまでいたところを凝視した。

その先ほどまで自分がいたところの地面はパックリと割れており、刃物で切られた様に一線切られた跡が残っている。


なにかで切られたのか? と魔理沙はもし文が助けてくれなければと考え、少し顔を青くして文に一言お礼を言った。

文はその魔理沙の礼に軽く答え、後方にいる足を抑える勇儀とその介護をするさとりの方をチラリと見る。


勇儀の足はおそらく刃の攻撃であろうものに切られ、今だに血が流れていた。

結構深くやられたのか、立って歩くこともキツそうで今だに勇儀は足を抑える。

応急処置、と言ってもただ文がたまたま持っていた包帯を足に巻きつけているだけで、すでにその包帯には血が滲んでいた。


せめて勇儀がこの戦いに参加してくれればもう少し楽に、と文は思う。


「すまないねぇ天狗。血が止まったら参加するわ」


文の縋り付くような視線に気づいたのか、足の痛みでキツそうに顔を歪ませながら勇儀はいう。

文はそんな勇儀の苦痛の顔を見て、怪我人に何を頼っているのだと自分に言い聞かせた。


「大丈夫です。私たちでなんとかします」


と勇儀に言うものどうするか。

文はそう思いながら刃の方を向いた。



「うふふぅ……、今度は私のターンですかねぇ」



ニヤリと笑う刃。

それと同時に先ほどまで刃が飛び回っていた周りに生える十数の木がドサリと倒れた。


魔理沙はその光景に唾を飲み込む。

いきなり周りの木が切り倒されたように倒れた事に。


周りの木々は全てへし折れたと言うより、髑髏塚の杭や勇儀の足、魔理沙を切ろうとした跡と同じく、鋭いもので切られたという感じがあった。



「うひ……紅蓮に染め、乙女を咲っかせましよぉ♪」


刃はヘラヘラと笑いながら魔理沙らに近づいた。

なんかヤバイ、そう思いながら魔理沙と文は後退った。


一歩、また一歩と刃は近づいてくる。


これ以上、近づかれるとと思い魔理沙と文がスペルカードを構えた。

そして、宣言をしようとした時であったーー



「ありゃぁ、たいむおーばーかしらぁ?」


刃が周りに目を向け首を傾げた。


刃の目に写ったものは影から這い出る骸たち。

それらが墓場から這い出る様に地上に這い出てきた。


「な、なんだよこれ!?」


魔理沙は突然と出てきたものに目を見開く。

本来動くはずのない人骨が影から這い出てくるのを見て、魔理沙は新手の妖怪かと警戒した。


もちろん、文にも後方に座り込む勇儀とさとりにもそれらは見えており、勇儀が緊張した様子で口を開く。


「おい覚妖怪、これって……」


「えぇ、怨霊ですーー」


勇儀のその言葉にさとりは冷や汗を流しながら答えた。

さとりはその動く屍の怨霊を見てある一つの答えにたどり着いた。


しかし、それと同時に天から声が聞こえた。



「あんたらっ!? そんな所で何してんの!!」


その声が聞こえてくると同時に文は肩をビクつかせた。


聞いた事がある声。

しかも、今一番聞きたくない……髑髏塚ここに自分がいる事がバレてはいけない人物の声だ。


文は空を見上げて、恐る恐る口を開いた。



「て、天魔さま……」



そこには眉間にシワを寄せ、魔理沙たちの上空にて背中から生える黒い羽を羽ばたかせる天狗。


夜鴉 黒羽が魔理沙らを見下ろす様に羽ばたいていた。

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