骸ノ塚
昔々、あるところに一人のお姫様がいました
そのお姫様には好きな人がおりました
しかしその好きな人は死に、お姫様は世界にゼツボウしました。
そして、化け物になりました
ーーパラパラ
化け物になったお姫様は新たに恋に目覚め旅に出ました
そして、長い月日が経ちそのお姫様の恋は叶いました
ーー
お姫様は幸せになりました
化け物となってたくさんたくさん殺してきたお姫様は、結婚して幸せになりました
ーーパラパラ
結婚してから月日が経ち、お姫様の王子様は遠くの国に行く事になりました
その王子様の行く先は、辛く過酷な土地でした
ーー
お姫様は王子様とともに新天地に向かいました
そしてお姫様はその新天地で王子様と幸せに暮らそうとしました
ーー
しかし、その幸せはすぐに壊れました
ーー
お姫様にはその新天地での辛く過酷な暮らしに耐え切れなかったのです
王子様はやむをえなく、お姫様を元の土地に戻しました
ーー
お姫様は引き離された後も、その事に反対し続けました
王子様のもとから離れたくないというお姫様は、いっしょうけんめいに王子様のいる新天地に行こうとしました
しかし、お姫様はその新天地に行けませんでした
ーー
そしてお姫様は再びゼツボウしました
ーー
お姫様はまた化け物になってしまいました
理性を無くし、自分を見失ってしまったお姫様の化け物は暴れに暴れすべてを壊そうとしました
ーー
そんな暴れまわるお姫様の化け物に、一人の賢者が立ち向かいました
ーー
そして、暴れる化け物はその賢者によって封印されました
ーーパラパラパラ
王子様はいつかお姫様にふたたび出会う事を楽しみにしていました
しかし、お姫様はもう……パタン
❇︎❇︎❇︎
「屍の姫……か」
霊夢は神社の中でちゃぶ台の上に広げる一冊の絵本を閉じ、感慨深く呟いた。
その霊夢の読んでいた本の表紙は『白いお姫様』と書かれているだけの絵本で、所々に破れた部分が見られ年季を感じるものだった。
霊夢はその絵本を閉じると背伸びをしながら畳の上に倒れるように寝頃がる。
そして、天井を見上げて思い出す。
まだ自分が幼い日によく読んでいた『白いお姫様』という名前の絵本。
内容は王子様がお姫様と結ばれるというよくある話だが、結末はひどく悲しく子ども心には悲しい物語であった。
しかし、この絵本を先代の博麗の巫女に買ってもらった時に、その絵本を読んだ霊夢はひどく喜んでいた事を覚えている。
五歳になる前といえど、やはり物語というものは心躍るものであったし、恋愛ものは心打たせるものがある。
今となってもその絵本にトキメキはしないが、チラリと見て昔の自分を思い出す事があるくらいだ。
だが、ある時からだろうか。
あれは霊夢が十を過ぎる頃、ちょうど霊夢が博麗の巫女を継いだ時に先代の巫女に話されたことであった。
この『白いお姫様』という話は実話であると聞かされた。
色々と脚色はされてはいるが、"屍の姫"という妖怪と地底の鬼の頭との物語を語っているものだ、と話された。
その話をされた時には霊夢にも博麗の巫女としての自覚が出始め、少女の心が無くなりかけていた霊夢にとっては所詮は絵本の物語がノンフィクションだったんだなあ、くらいにしか思わなかった。
そして、その事を話されその屍の姫が封印されている場所を教えられ、博麗の巫女の仕事の一つとして管理するよう命じられた時にはひどく萎えたものだった。
幼い時、絵本の結末を読み救われて欲しいと思っていたお姫様を、自分が管理し封印が解けないように監視し続ける。
幼かかったとは言え、ひどく滑稽だったなと霊夢は博麗の巫女として自分自身を心の中で嘲笑ったものだ。
「……この絵本だと、私は二人の中を引き裂く悪い魔女ってところね」
霊夢がそう呟き、天井を眺め続けていると廊下から足音が聞こえた。
「おーい、霊夢はいるか?」
その足跡は女の声で、霊夢を探すように歩き回っていた。
霊夢はその声が聞こえると、ちゃぶ台の上に置いてある絵本を押し入れにしまい声の主がいる廊下に顔を覗かせた。
「慧音じゃない?」
顔を覗かせると銀髪の女性がそこにいた。
慧音は霊夢の存在に気づくと、声を上げて近づく。
「そこにいたか」
「なんかよう?」
「いや、明日は早いからもう帰ろうかとね」
霊夢は慧音のその言葉に、寺子屋の仕事かと想像し熱心なものだと感心する。
「そう。ていうかもうすぐで夜明けだからもう明日じゃないわよ」
「はは、そうだな」
「酒が残ってんじゃないの?」
霊夢はそんなんで寺子屋の仕事などできるのかと思う。
しかし、慧音は大丈夫だと言いながら去っていった。
「そういやあ……、もう夜明けか」
霊夢は慧音の去っていく背中を見て、チラリと明るくなってきた外を見る。
そして、外で今だに騒いでいる奴らをそろそろ神社から追い出さなければと思い、慧音の背中を追うように外に向かった。
❇︎❇︎❇︎
「いやぁ、やめません? 本当にやめません? 今ならまだ引き返せますよ? てか、引き返してくださいお願いします……」
射命丸 文。
彼女は地底からやってきた鬼の星熊 勇儀に首根っこを掴まれ、引きずられるように連れられている。
先刻ーー、魔理沙とさとりは霊夢に言われた様に"屍の姫"という妖怪の事を知りたければ天狗に聞けと言われたので、その天狗である文に聞こうとした。
しかし文とは顔見知りだったのか今回の異変解決の宴会に来ていた勇儀に文は絡まれていた。
文は酒を馬鹿みたいに飲まされ死にかけていたのだが、魔理沙らが来たことにより助かったと思っていた。
だが、助けられたというより魔理沙らに面倒事を持ってこられたと言った方が正しかった。
さとりが"屍の姫"の居場所はどこ? と文に尋ねると勇儀も目の色が変わり文の首根っこを掴み、その場所へと案内しろと脅されたのである。
そうして今の現状は妖怪の山の中の中腹辺りを歩き、無造作に生える草木をかき分けながら進むさとりを先頭に魔理沙、勇儀、勇儀に首根っこを掴まれ引きずられる文、という図である。
「というか文、なんでそんな嫌がんだよ? 屍の姫ってのはそんなやべえぇ奴なのか?」
魔理沙のその言葉に文は唾を飛ばしながら反論する。
「やばいもなにも、その妖怪って"妖殺し"や"純白の死神"、"鬼神のつがい"って言われてるアレのことですよね!?」
「おいおい天狗ぅ……まさかお前、お嬢の事を悪くいってんじゃないだろうな?」
「めめめめめっめそうもないです勇儀さん!!」
文の言葉に過剰に反応し睨みつける勇儀に手をブンブンと振りながら文はごめんなさいごめんなさい、と手を擦り合わせながら謝る。
そんな様子を気にしずにさとりは口を開く。
「えぇ、その屍の姫……白鷺 雪の居場所を私は聞いているのです」
「ば、馬鹿じゃないですかっ!? あの屍の姫の所に行くなんて正気の沙汰じゃないですよ!!」
「どんなけ拒否るんだよ……」
魔理沙のその呆れた言葉に文はギロリと魔理沙を睨みつけた。
「魔理沙さんみたいな長生きしていない人にはわからないですけどねえ、相当ヤバイんですよその屍の姫ってのは!!」
「ほぉー、そんなにやばいのか」
「そうなんですよー、だから今からでも遅くありません! 早く戻りましょうよ!!」
魔理沙は普段のお気楽な文の様子からは考えられない焦りが見られ、少し不安に思えてきた。
そして、チラリとさとりの方に目を向けた。
「……戻りませんよ。文さんは道案内に必要なのでダメですが、魔理沙さんは別に戻られても構いませんが」
さとりは魔理沙に不安そうな目を向けられたので、魔理沙の本心を答える様にそういった。
しかし、魔理沙はビビってなんかない、と見栄を張り前を向いて歩き続ける。
さとりはそんな様子を見て、強がりをと思いながら勇儀に視線を向ける。
「勇儀さんも、別についてくる必要はないんですよ?」
「なにいってんだい覚妖怪! お嬢の居場所がわかるかもしれないってんだ。お嬢を見つけ次第、地底にいる母さんの前に突き出してやるさ」
「……この事を斬乂さんに知られては、困るのですが」
さとりは勇儀のやる気を見て、聞こえないくらいの声でそう呟いた。
そして、文に視線を移す。
「文さん、本当にこのまま真っ直ぐ進めば辿りつけるんですよね?」
「……そうです、だからもう私を解放してくださいよー。この事がバレれば大天狗どころか、天魔様に怒られてしまいますよお」
文はさとりに心を読まれている事がわかりながらも言葉にして言うが、魔理沙はその文の言葉に反応する。
「なんでその屍の姫ってとこに行くのにお前が怒られんだ?」
「今から行くところは妖怪の山の中では、ぜえったいに立ち寄ってはならないところなんですよお! なのに、そんな所に私が足を踏み入れるどころか余所者まで連れて行ったのがバレれば減俸か、下手したら妖怪の山を追放ですよ!?」
「おい、私は余所者ってか?」
「ゆ、勇儀さん以外です、よ……」
勇儀の睨みに自信なく答える文。
その言葉をさとりは聞き、自分もかつては妖怪の山に居たのだがと思いながら口を開く。
「大丈夫ですよ、貴女は脅されてやって来たとでも言っておけば」
「そ、それでも私はあんな所に行きたくありませんっ! だから離してくださいよぉ!」
文はジタバタと手足を動かしながら、首根っこを掴み今だに引きずる勇儀に視線を向ける。
勇儀はそんなに取り乱す文の様子を不信に思い、尋ねることにした。
「なぁ、お嬢は……今どうなってんだ?」
勇儀のその言葉に文は暴れるのを止め、勇儀の顔を見る。
文の見た顔は心底心配している勇儀で、その曇った顔を見て文は察し、頭をボリボリとかきながら口を開く。
「勇儀さんは、屍の姫の末路を知らないんですか……」
「末路って、なんだよ……」
文の言葉に勇儀は目を見開きながら文に視線を向ける。
文はそんな勇儀の顔を見て、やっぱりと思いながらさとりに視線を移す。
さとりはその文の視線になにを求めているのかを理解し、勇儀に言う。
「勇儀さん……今から話す事と見た物は、他の方……特に斬乂さんには内緒にしていてください」
「覚妖怪……それはどういう……」
勇儀が文の首根っこを掴む手を放し、さとりの肩を掴んで言葉の真意を聞こうとするが、さとりは無造作に生えていた草木の中から小さな広場にかき出て、着きましたと言い急に立ち止まった。
そして、その草むらから出て目に入ったものを見て勇儀は目を見開いた。
「おい……覚妖怪、これは……なんなんだよ……」
勇儀はその立ち止まった林の中にある小さな広場の中心に建てられたものを見て、目を見開く。
その勇儀の見た物は、一本の木で打ちつけられた杭。
高さ三メートル、直径一メートルほどの長細い木の杭で、『髑髏塚』という文字が彫られ、注連縄に縛られた杭が地面に刺さっていた。
そして、勇儀が目を見開いて見た物はその杭の前に刺さる木でできた一つの立て看板の様なものであった。
『屍ノ姫ヲ此処二封ズ』
勇儀はそれを見てフラフラと歩きながら、その言葉が書かれた立て看板に触れようとするがさとりによってそれに近づく事を止められた。
「勇儀さん……、近づかない方がいいです。変に近づくと雪さんの放つ怨霊に蝕まれるかもしれません」
勇儀はその言葉にピタリと素直に止まるが、さとりの方に顔を向けどういう事かを聞きたそうに見つめた。
「おい……これって……」
「雪さんは、ここに眠っています」
さとりの戸惑いのないその言葉に勇儀は冗談だろ、と呟きながら頭をかく。
そんな勇儀の不安そうな顔を見て、魔理沙は首をかしげる。
そんな魔理沙の様子を見て、さとりは口を開いた。
「屍の姫は……、斬乂さんの、鬼の頭領の伴侶なのですよ」
「……なら、ここに封印されてるのって勇儀の母ちゃんってことなのか?」
なら勇儀の取り乱し様もわかる、と魔理沙は納得するが、勇儀は否定の言葉をかける。
「いや……私らは母さんとお嬢のガキじゃないが、お嬢は……」
魔理沙は噤む勇儀を見て、首を傾げた。
母さんとお嬢って意味的には両方とも女だよな? と口に出しはしないが心の中でつっこんだ。
そんなくだらない事を考える魔理沙の傍ら、文はため息をつく。
「……さとりさん、地底の……鬼の方々は屍の姫の事をご存知なかったのですか?」
「えぇ……ちなみに私もこうなっているなんて、今日初めて知りました」
文はその言葉にあちゃー、と呟いた。
「マジですか……。私はてっきり鬼神様の承知の上で、屍の姫が眠っているのかと」
「斬乂さんからは、雪さんが地底では生きられない故に地上で暮らすと伺っていたのですが……」
だから、雪は地底から出て行ったとばかりさとりは思っていたが、今の雪の状態を見てさとりは納得した。
こんな状態では、会えるわけないと。
「まさか、封印されていたとは」
「おい……、母さんはこの事を……」
「雪さんが地上に行った後、八雲 紫に雪さんと合わせるわけにはいかないと言われたらしく、地上との情報も断絶されていたおかげで何一つ知らないはずです。というか知っているなら私が読んでいます」
さとりのその言葉に勇儀はマジかよ、と深刻な顔を浮かべ呟く。
さとり自身も無表情を装ってはいるが、内心ではどうするかを迷っている。
封印を解くと言っても解き方はわからないし、たとえ解けたとしても雪は暴れた故にこうなったと文の心から知ったので解いた途端に再び暴れられても困る。
というか文の心曰く、下手に雪の封印されている杭に近づけば、雪とともに封じられている怨霊に祟られるかもしれないと言っていた。
妖怪だとしても怨霊に憑かれることは良いことではない。
故にここは妖怪の山の中でも特に立ち入り禁止になっている。
だから、無理に封印を解こうとしても、下手に近づくことも出来ない。
さとりはそう思考を巡らせ、ため息をつく。
そして、今現在に考えたことを踏まえ、行動に移そうと来た道を戻ろうとした。
さとりが歩き出す様子を見て、みんなの視線がそちらに向く。
そして魔理沙がさとりがどこに行くか尋ねようとすると、さとりが魔理沙の言葉を先立つ様に答えようとした。
「ええ、取り敢えず八雲 紫に詳しい話を聞くので、一度、博麗神社の方に……」
魔理沙の疑問にさとりは振り返り、魔理沙らの方を向くが、目を見開いて言葉を遮った。
驚くモノを見て瞠目させるさとりを見て、魔理沙らはその視線の先を見るために、振り向いた。
そして、魔理沙らもそのいきなり現れた人物に目を見開き、驚愕した。
その人物とは綺麗な緑髪を生やす大人びた女性。
そして、その女性は雪の封印される木の杭の上に立ち尽くしてニタニタと笑いながら魔理沙らの方を見下ろし口を開いた。
「はぁいーー、お姉さんだよぉ」
鎌鼬、黒桜 刃。
彼女がそこに立ち尽くしていたーー




