宴会
幻想郷。
それは忘れられたモノらの集まる土地。
あるものは人外
あるものは妖精
あるものは妖怪
あるものは神様
他にも多種多様な人ならざるモノが暮らす。
しかし、決して幻想郷の外ではそれらの存在を知覚どころか、知る由もない。
何故なら忘れられてるから、忘れてるから。
本来、存在しないモノ。
それがそこ、幻想郷であるーー
❇︎❇︎❇︎
本日は雪
空は曇天で、雲は黒い
白く積もるそれは幻想郷を覆っていた
ここ博麗神社でも雪は積もり、人々の息を白くする。
しかし、そんな雪の中でも神社ではガヤガヤと賑わっており、雪がぱらぱらと降る中でも気にせず、ビニール製の敷物の上に座り、料理を食べ酒を煽る。
そして、そこでは相容れない人と妖怪が囲み、笑いあっている。
今日はここ博麗神社で、宴会である。
この宴会は先日起きた地上での怨霊騒動の解決を祝しての席である。
その怨霊騒動……、異変とは先日に湧き出た間欠泉と共に、地底の怨霊らが地上に湧き出てきたという事件の事である。
原因は地獄の鴉やら地上の神様のせいだったのだが、ここではそこらの説明は省かせてもらおう。
それで、つい先日にその異変と幻想郷で呼ばれる事件は解決され、その解決祝いとしてここ博麗神社でその宴会が行われているのだ。
この宴会では、祝勝以外にも異変の首謀者と迷惑をかけられた人らが仲直りをしましょう、という意で開かれるのは幻想郷での暗黙の了解である、のだが……。
「緑ぃっ! 待ちなさいコラァァァ!!」
脇の開いた巫女服を着る少女。
博麗神社の巫女で幻想郷の結界を管理し、妖怪退治を生業とする少女。
名は博麗 霊夢。
冬にもかかわらず脇の開いた巫女服を着る少女が、鬼の様な形相を浮かべ同じ様な巫女服を着る緑髪の少女を追いかけていた。
「ひぃぃぃ!!! だ、だから、私は何にも悪くないんですってー!!」
霊夢と同じ様な脇開きの巫女服を着る緑髪の少女。
名前は東風谷 早苗といい、妖怪の山に近年引っ越してきた守矢神社の風祝である。
ちなみに、なぜ追われているのかというと今回起きた異変の原因の二人、というか二柱が半分を占めるほどの元凶であり、異変解決を義務化させられている霊夢が余計に仕事を増やされたとキレ、その二柱の巫女と言える早苗にトバッチリが来ているのである。
さらに付け加えるとその二柱は現在、神社の境内の端っこで仲良く酒を飲んでいる。
そして、その二柱は異変の事を何一つ知らなかった早苗が、謂れのない罪で追われていることに気づかず酒を煽っていた。
「あっはは、頑張れ早苗ー。捕まったら喰われるぞー」
追いかけっこを続ける二人を酒の肴にし、ゲラゲラと笑っている金髪の少女。
彼女は霧雨 魔理沙といい、現在は友人のパチュリー・ノーレッジとアリス・マーガトロイドと同席し、盃を傾けている。
「た、他人事だと思っ……」
「しゃっあ!捕まえたあっ!!」
「きゃー!? 助けて神奈子さまー、諏訪子さまー!!」
早苗は背中から霊夢に飛びつかれ、押し倒される。
そして、背中に馬乗りにされた状態で手足をバタバタとして助けを求めるが肝心の二柱は今だに気づかず酒を煽る。
故に早苗に助けは来ない。
なので、早苗は霊夢に下敷きにされボコスカと殴られ悲鳴をあげ始めた。
そんな様子を見て、魔理沙は笑っていると服の裾をくいっと引っ張られ名前を呼ばれる。
「ん、なんだパチュリー?」
「魔理沙……、眠くなってきたから膝枕してちょうだい……」
頰を少し染めながら、魔理沙から目をそらして言うパチュリー。
魔理沙はその頼みごとに特に断る理由はなかったので受諾しようとしたのだが、傍にいるアリスが声をかけて制止してきた。
「パチュリー……、抜け駆けはいけないんじゃないかしら?」
「知らないわ、早い者勝ちよ。貴女がチキってたのが悪いわ」
「……やるの?」
「やってやるわ」
アリスの言葉に立ち上がるパチュリー。
互いにニコニコとはしているが、オーラというかなんというのかが黒く、近寄りがたくて魔理沙は少し引いていた。
そしてアリスが神社の裏の方を顎で指し、パチュリーは首を縦にふり二人並んで魔理沙のそばから離れていく。
魔理沙は今から戦場に赴く戦士の様な二人の後ろ姿を見て、仲良いなーと思いながらも盃を傾けていた。
「あら、パチュリー様は?」
魔理沙が消えた二人の向かった方を見つめていると、急に背後から声が聞こえる。
魔理沙は声の聞こえた方を向くと見知った顔であった。
その声の主は銀髪のメイド服を纏う少女こと十六夜 咲夜である。
「お、咲夜じゃないか?」
「魔理沙、パチュリー様を知らない? 薬を持ってきたのだけど……」
「あー、パチュリーならあっちの方に行ったぞ、アリスとな」
魔理沙はそう言いながら先ほど二人の向かった神社の裏の方に指を指す。
その魔理沙の言葉に察したのか、咲夜はため息をつく。
「貴女も、罪な女ね」
「おいおい、そりゃあどういうことだよ?」
「私から言うことじゃないわ」
薬はここに置いておくわ、と咲夜は言いクスリと笑って魔理沙の元から去っていく。
魔理沙は意味深な咲夜の言葉に首を傾げるも、まあ良いやと思い、気にしない事にした。
魔理沙は咲夜の去っていく背中をボケーと見つめていると、とある人物が咲夜とすれ違ってこちらの方に、向かってくる事に気づく。
その人物に気づくと魔理沙は大きく手を振ってその人物の名前を呼ぶ。
「おーい! 何やってんださとり?」
常にうす目の少女で今回の異変の首謀者の関係者、古明地 さとりが何かを探す様に歩いているところを見つけ魔理沙は声をかけた。
声をかけられたさとりは呼ばれた事に気づくと、魔理沙の方に近寄ってくる。
「魔理沙……さんでしたっけ?」
「あぁ、霧雨 魔理沙だぜ」
魔理沙はさとりの疑問形に答える様に名乗る。
さとりは魔理沙の姿を見ると今回の異変解決の一端を担っていた事を思い出し、頭を下げた。
「魔理沙さん、今回はご迷惑かけてすみませんでした。ウチのペットが……」
「良いって良いって、それより誰か探してたのか?」
「ええ、霊夢さんに改めて謝罪をと……」
「それはやめといた方がいいぜ……。今、アレだから……」
魔理沙は呆れた顔をしながら親指を早苗に乗りかかる霊夢の方に向ける。
さとりはチラリとそちらの方を見て納得した様にその様ですね、と納得し魔理沙の方を向く。
そして、魔理沙の方をジッと見つめ首を傾げる。
「貴女、私のことをなんとも思わないんですね?」
「は? なんのことだよ」
いきなりの言葉に魔理沙は首を傾げる。
さとりは魔理沙のその反応を見て、口を開く。
「いえ、知らないならいいです」
さとりのその言葉に魔理沙は変な奴と、答える。
そして、さとりは霊夢が暴れ終わるまでその場で待とうとし、魔理沙の隣でその喧噪をジッと見つめ始める。
魔理沙は無口なさとりが隣に突っ立ち、気まずくてしょうがなく、チラチラとさとりの方を見た。
そんな魔理沙の視線と気まずいという心の声を聞いたさとりは、ふと思いつく様に口を開いた。
「魔理沙さんは……白鷺 雪という方を、ご存知ですか?」
さとりは魔理沙の方に目を向けずにポツリと尋ねた。
突然と口を開いたさとりに魔理沙は一瞬きょどるも、思考を巡らせる。
自分の人間関係にその様な人物は居ないどころか、名前すら聞いたことがないと思う。
魔理沙はその旨を伝えようとすると、唐突に早苗が魔理沙の膝の上に泣きついてきた。
「びえぇぇー、魔理沙さーん! 霊夢さんがすんごい殴ってくるんですよー!」
「なに言ってんのよ。あんたらの所為で私の貴重な時間が無くなったのよ、殴るだけじゃ足りないわ」
魔理沙に縋り付くように泣きつくボロボロの早苗と、スッキリとした顔でそれを見る霊夢。
しかし、早苗の反省していない様子を見て眉間にしわを寄せるが、視界の端に映るさとりを捕らえ、霊夢は早苗から視線を移し、さとりを見る。
「で、あんたは何でこんな所にいるの?」
「霊夢さんに、今回の件の正式な謝罪をと」
さとりはそう言い頭を下げるが、霊夢は律儀ね、と呟きながら手を振る。
「そんなの良いわよ、今回のは殆どコレが悪いんだから」
と、霊夢は魔理沙の膝に泣きつく早苗の背中を蹴る。
背中を蹴られた早苗はその事に文句を言うが、霊夢の一睨みですぐに子犬のように大人しくなった。
さとりは霊夢の心を読み、本当に怒ってないことを察しホッとする。
ボロボロになっている早苗を見て、自分も……と思っていたがその心配は杞憂だったと安心して、霊夢の言葉にさとりはもう一度頭を下げた。
そして、申し訳無さそうに口を開く。
「あの、急にこんな事を聞くのもなんですが、尋ねたいことが……」
さとりが改めてそう言うと、霊夢はぶっきらぼうになによ、と言い放つ。
さとりは霊夢の心を読み、聞かれる事に面倒はあるが嫌がっていない事を確認してから口を開く。
「白鷺 雪という人物を、ご存知ではないでしょうか……?」
魔理沙にした質問と同じ事をさとりは霊夢に尋ねる。
それも、先ほど魔理沙に聞いた様な適当な口調でなく、心底心配する様に霊夢にそう聞く。
霊夢はさとりからの尋ねに首を傾げる。
霊夢も魔理沙と同じくその名前には聞き憶えがない。
まあ、自分が名前を憶えていないだけかもしれないので特徴さえ言って貰えば、と霊夢は思う。
さとりはそんな霊夢の心を読み取り、口に出す。
「とにかく白い人なんです、髪も着てる服も、肌も白くて……それで右腕に包帯を巻いていて、首に鉄の首輪をしている人なんですが……」
霊夢は心を読まれた様に答えたさとりを見て少し戸惑うが、そう言えばさとりはそういう妖怪だったと思い出す。
そして、その事に若干のやり辛さを感じながらも、さとりの言う特徴と言うのを思い出す。
しかし、いくら考えても心当たりはないので、霊夢は残念ながらと伝える様に首を横に振った。
「てか、なんでお前はその……白鷺なんちゃらって奴を探してんだ?」
というかそいつは地上のやつか? と思いながらも魔理沙は、顔を曇らせその名前の人物の消息を心配する様にしているさとりを見て尋ねる。
「その……友人が長い事その人物に会っていないと心配していたので、私も心配に。地上の何処かに居るのは分かるのですが……」
普段は無愛想だと聞く地底の主の不安そうにする顔を霊夢は見て、彼女の心配する心内を理解する。
しかし所詮は他人、深く立ち入る必要はないと思い、特に口は挟むつもりはなかった。
だが、魔理沙が興味深そうに顔を上げて口を開く。
「なんつー妖怪なんだ?」
幻想郷では名前よりも種族名や二つ名で知られている事が多い。
天魔しかり妖怪の賢者しかりと本名よりも二つ名の方が有名な人物が居るので、魔理沙はまさかと思いながらもさとりに尋ねた。
さとりは魔理沙の心を読み、質問の真意を理解する。
そして、さとりはかつて"彼女"がなんと呼ばれていたのかを思い出して、その名を言った。
「屍の姫、と呼ばれて……」
「……っ!」
さとりの言葉に霊夢は眉をひそめ、霊夢のその僅かな動きにさとりは気づいた。
そして、その二つ名を聞いた瞬間の霊夢の心を読んでしまった。
「れ、霊夢さん、その話は本当に……」
さとりは霊夢の心を読むと、目を見開き尋ねた。
霊夢は面倒な事を知られたと頭をかき、ため息をつく。
そして面倒ながらもさとりに言う。
「……今、聞いた通りよ。詳しい事が知りたいなら、紫か天狗にでも聞きなさい」
霊夢はそう言いながら、さとりに背を向け逃げる様に歩き出す。
さとりがもう少し話を、と追いかけようとするも、さとりは追うことはなくその場に立ち尽くした。
さとりの今の顔は真っ青であり、魔理沙はそんなさとりの顔を見て心配そうに声をかけた。
そして、さとりが心を読める事を知らない魔理沙は、心配する様にさとりの背中を摩る。
「いえ、大丈夫です……それより、八雲 紫か天狗……というより妖怪の山の関係者の方は何処に……?」
「紫は知らないが……、天狗ならあそこに……」
魔理沙はそう言いながら、神社の境内の中心部分で一人の鬼に絡まれている射命丸 文に指差す。
さとりは魔理沙の指差す方を見ると、迷いなくそちらに歩いて行った。




