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東方屍姫伝  作者: 芥
一章 その彼岸は彼女に咲く
4/72

人形

私がこの時代に来てから一週間ほど経った。

元の時代に帰る手立ては全くなく、私のいま置かれている状況以外は何もわかっていない。

まずこの時代にどうやってきたのかもわからずじまいなのに、どうやって帰るのかとかはわかるはずもない。

過去に飛んで自分のそっくりさんに憑依とかどこの中二設定だとツッコンでやりたい。

ていうかいま置かれている状況がファンタジーすぎて私の思考範囲外だ。

おかげで帰る方法のかの字も見つからない。マジでやばい。

このままこの時代でトルゥーエンドとかになったら洒落にならない、てかバッドエンドだ。



「雪ちゃん雪ちゃん、なに溜息ついて歩いてるの? 日が暮れちゃうよー!」



私が今後の心配をしていると私の先を歩く白鷺 茜が、後ろを振り返りながら大きく手を振っている。

私は現在、寺の周りにある森の中で白鷺 茜と日課の薪拾い中だ。

この時代ではものを燃やすのには薪が重要視されているらしい。

なのでうちの寺では集落にいって食べ物と交換しているだとか。まあ、薪なんて森に行けば簡単に見つかるからなのかそんな大層なものと交換はできないみたいだが。

だから、薪拾いついでに食べられそうな山菜などを探す。ていうか、むしろ山菜探しがメインで薪拾いがついでと言っていい。



「山菜って苦いからあんま食べたくないんだよな……」



私はそう呟きながら白鷺 茜の背中を追いかける。

実際、この時代に来てからは一日二食で玄米と山菜で時々大豆の様なものがついてくるくらいで、現代っ子な私にとっては中々、ハングリーな生活をしている。

この時代の人がなぜガリガリなのか頷ける食事内容だ。

しかも、山菜は茹でただけで苦味があまり取れてないし、玄米なんかはほとんど味がしない。

本当にママンの手料理が懐かしいものだ。



「あ、雪ちゃん綺麗な花が咲いてるよ!」



私の前を歩く白鷺 茜が急に立ち止まり足元に咲く花を凝視している。

私も立ち止まる白鷺 茜に追いつき、足元に咲く花を見る。

そこには見覚えのある赤い花が、十数くらいの数ほどそこに咲いていた。



「彼岸花だな」



私は足元に咲く花を眺めながらそう呟く。

確かこの花は九月くらいに咲く花だから、いまの暦は大体それくらいなのだろう。

私のいた時代は確か夏だったから少し変な気分だ。



「へぇ、ひがんばなって言うんだねこの花。美味しいのかな?」



この女はなんて物騒な事を。

確か彼岸花って麻痺とか起こす毒が含まれていると聞いたことがある。

そんな恐ろしいものを食べて死ぬとか本当にバッドエンドにしかならない。

過去の時代で毒死とか笑い物にもならない。



「……毒があるから食べられないよ」


「へぇー、雪ちゃん物知りだね」



あ、いけね。

私は記憶なし子ちゃんの設定だったんだ。

それにこの時代に彼岸花の生態に詳しい人がいるかも怪しい。

無駄な事を言うんじゃなかった。

白鷺 茜に変に疑われたら面倒だ。

とりあえず今はそれっぽい事を言って誤魔化すしかない。



「えぇ、本当に詳しいのねお嬢さん」



私がいま頭の中ででっち上げた言い訳を使おうとしていたところ、背後からその様な甲高い声が聞こえた。

私は声が聞こえた方を振り向くと、そこには赤色のこ綺麗な着物を着て、緑色の髪で瞳が紅い女の人が立っていた。

髪の色と瞳の色を見るに日本人には見えないが、顔つきは外国の人っていう感じはしない。

この時代の人は緑色の髪と紅色の目をした人とかもいたのだろうか?

いや、そんなわけはないか。



「……どなたですか?」



私がいきなり声をかけてきた女性に警戒をしていると、私と同じ様に彼女を警戒していた白鷺 茜が少し引き気味にそう尋ねた。


白鷺 茜が知らないのならこの辺の人ではないのだろう。

この時代の人にとっての人間関係はほぼ集落内だけで完結している。それ以外の見ず知らずの人は、余所者でしかないのだろう。

でなければ普段ほんわかしている白鷺 茜がこれほど警戒するはずはない。



「あぁ、怪しい者ではないわ。私はただの旅人よ」



女性は微笑みながら答え、私達の方に近寄り、私達の足元に咲く彼岸花の前で着物のシワを直しながらしゃがみ込んだ。

そして咲く花の前に座り込むと、彼岸花の赤い花弁を撫で始め口を開いた。



「綺麗に咲いてるわね」


「は、はぁ……」



私は女性の突然の言葉に拍子抜けした。

現代でも見たことない緑髪と赤眼を見て少し警戒していたが、花を慈しむところを見るとそんなに悪い人ではなさそうだ。



「あなた花は好き?」



女性は私の方に視線を向けながらそう尋ねてきた。



「えぇ、まぁ、ほとぼとに……ですかね……」



私がそう言うと女性はクスリと鼻で笑う。

何かおかしいことでも行ったのだろうか?



「花の名前だけでなく、その特性まで知っていてほどほど……ね」


「はぁ……何かおかしかったですかね?」


「ふふ……」



女性はそう言いなにやら意味あり気な微笑みを浮かべて立ち上がる。

もしかしてこの時代では特に教養のないはずの農民が、無駄な知識を持っていた事に疑問でも持ったのだろうか?

もしそうなら誰かに教わったとでも言えばいいが、近くに白鷺 茜がいるのだ。

記憶喪失なのに誰かに教わったのを覚えてるのはおかしい。


さて、どう誤魔化すか……。



「……雪ちゃん、そろそろ暗くなるし帰らないと」



私が彼女への言い訳を考えていると、隣に立つ白鷺 茜が私の着物の裾をつまみながらそう言ってきた。


私はそう言われて空を見る。

確かに既に日は西に半分ほど沈み始めている。

これ以上、暗くなってしまったら、如何に知っている森の中でも灯りのないこの時代では命取りだ。

下手したら森の中で遭難なんてこともありえる。



「あー、そうだね」


「あら、もう帰るの?」



私が白鷺 茜の言葉に肯定すると、女性は少し残念そうに言った。



「貴女とはもう少し話したかったのだけれども」


「すいません、食事の用意もしないといけないので」



まあ嘘だが。

今日の食事当番は私と白鷺 茜の次に寺の中で最年長であり、私がこの世界で目覚めた時に私の看護をしていた少年の小太郎だ。

だが、ここで少しでも帰る理由があるのならこの女性も無理に私達を引き止めようとはしないはず。

これはいわゆる必要な吐いていい嘘なのだ。



「あら、そう。それなら残念ね」


「本当にすみません」


私はそう一言いい白鷺 茜の手を引きその場を離れた。



日が暮れる前に森から出るためにーー。




❇︎❇︎❇︎




私と白鷺 茜は急いで歩き続ける。

既に日は沈み、空はぼんやりと明るみがあるだけだ。あと数分もしないうちに前が見えなくなるほど暗くなるのだろう。

幸いな事に森の切り目はもう目の前で、遠目だがあのボロ寺も見えてきた。



「すっかり遅くなっちゃったね」



私の手を未だに握る白鷺 茜は二ヘラと私に笑いかけながらそう言う。

確かに夕暮れ前には帰ってくるつもりだったが少し時間がかかりすぎた様だ。

まあ理由は白鷺 茜が私と逢いびきだー、とか言いながら薪拾いや山菜集めをついでにして歩き回っていたからだが。



「小太郎くんはちゃんとご飯作ってくれてるかな」


「あの子なら大丈夫だろ」



まだこの時代に来てから一週間ほどしか経ってないが、小太郎はしっかり者の長男って感じだろうか。

あの寺の持ち主であった和尚さんが亡くなってからは、実質的に白鷺 茜があの寺では最年長で家事を仕切ったり幼い子供の世話をしたりとしているが、白鷺 茜のいない時は小太郎が先頭に立って頑張っていたし。

ちなみに私は家事や幼い子の世話はあまりせず、白鷺 茜の側をついて回り雑用などをしていた。白鷺 茜曰く、なんでも記憶喪失な私を独りきりにさせるのは不安らしい。

余計なお世話だ。



「そうだね、みんなのお兄ちゃんだもんね」



白鷺 茜は安心した表情でそう答える。

その表情は息子の成長を感じる母親の様であり、とても誇らしげな笑みを浮かべていた。


白鷺 茜にとって白鷺 雪が親友というのなら、それ以外のあの寺の子達は心配事の多い弟や妹という感じなのだろう。

だが、和尚さん亡きいま、ほとんどあの寺のことを一人で切り盛りしていた様だし、本当に十七歳とは思えんな。

なんというか家庭を支える大黒柱の様な感じだ。


そう考えると本来の私は……白鷺 雪はあの寺にとってはなんだったのだろうか……?




「あ、いい匂いがするし、ちゃんと作ってくれてたみたいだね」



白鷺 茜が鼻をヒクヒクとさせながら呟く。

話しているうちに森を抜け、目の前には子供達のいる寺が見えてくる。

空は既に暗くなり、もう少し遅ければ目の前は真っ暗になり森の中を彷徨う事になっていだだろう。



私達は森を抜けたら寺の裏口に回り山菜と薪が入っている籠を背中から下ろし、寺の裏口の横に置く。

そして、引き戸の取っ手に手をかける。


ここを開ければすぐ台所であり、かまどには既に炊き上がった玄米がいつでも食べられる様になっているのだろう。

そして、寺に住む十数人の子供たちがワイワイと騒ぎながら茶碗などを並べたりしているのだろう。

食事は質素かもしれないが、大勢で食べるご飯が美味しいことはこの一週間でよくわかっている。

現代人な私にとって食事の献立はあまり満足できないものだが、幼い子供に囲まれながら食べる食事は本当に美味しい。

もし元の時代に戻ることができるのなら保育園の先生とかを目指すのもいいかもしれない。

昼のお弁当を小さな子供に囲まれながら一緒に食べる、それは私にとってはとてもいい光景かもしれないーー



私はそう思いながら引き戸の取っ手を横に引き、戸を開けた。



ただいま。

戸を開けると同時に私はその言葉を言ようとしていた。

だが、開いた戸の先には私の想像していた子供たちが誰一人居なかった。



夕飯を手伝っているはずの、

騒ぎ立てているはずの、

走り回っているはずの、

笑いあっているはずの。

そんな彼ら彼女らの姿はそこにはなかった。




あるのは、"人形"。

人の形をしたもの。

いな、人の形をした"部品"だ。



あるものは"頭"

あるものは"腕"

あるものは"胴体"

あるものは"足"



それは本来一つのものであっただろうが、それぞれの"部品"が足らずバラバラに転がり落ちている。

大小様々。

頭の形や腕や足の長さ、胴体の大きさがそれぞれ違う。


唯一、共通点を上げるとするのならどれも赤い"斑点"がついていることだろうか。

"斑点"だけではない。

どの部品も赤い"水溜り"に沈んでいる。







私の見たモノ。

それはおびただしい量の"死"であった。











「うえぇ……かはっ……」



私は"それ"を見た途端に目を背け、吐いた。


目の前に広がる光景は惨たらしくバラバラにされた死体であった。

中には手足が取れた胴体が転がっており、腹が喰い破られた様に裂け、腸などの赤いものが出ているものもある。


それが一つや二つではない。

部屋全体に転がり落ちている人の形をしていたもの。

それも全て幼い子供であろうもの。

子供特有の短い手足が、子供っぽい顔立ちをした頭が所々に転がっている。



「……え、なんで……」


私の後ろに立っている白鷺 茜は口元を押さえ、あまりの事にその場で立ち尽くしていた。



今日の昼ごろに笑顔ではしゃぎ、記憶喪失の私に不安を思いながらも"雪お姉ちゃん"と呼んでいた子供たちが。

今ではバラバラになって血の海に沈んでいる。

あの可愛らしい笑顔はもうどこにも無い。



遅れて気づいた血の匂い、それも子供達の死を連想させ、吐き気が収まらなかった。

私はその場に膝をつき、再び吐く。



「だれが……こんなことを……」



私は口元についている唾液を袖で拭いながら、地面に転がる死体を見ない様に部屋の中に視線を動かす。


しかし、死体から目を逸らしたところ、壁にまで血が飛び散っており、どうしても"死"を連想させてしまう。



「あ……あやかし……」



私が部屋中に視線を向けていると、突然後ろにいる白鷺 茜が震えた声でそう呟いた。

それは見てはいけないものを見てしまったことへの拒絶の言葉に聞こえた。

私は白鷺 茜が視線を向けていた先に目を向ける。


視線を向けた先は部屋の隅であり、そこには壁に背を向けて這いつくばりながらヒトであったモノに顔を埋める何かがいた。

いや、ただ這いつくばっているのではなく倒れている子供の腹を喰い破り、それを食べているヒトの形をした何かであった。

"それ"は右目の目玉が垂れる様に飛び出ており、顔は火傷をしたかの様に皮膚がただれていた。

そして腕は薔薇の花の茎の様に所々が尖っており丸太のように太い。腕の指の爪はそれぞれが鋭く尖っており、ひっ掻くだけで簡単に物を切り裂くことができそうなものだ。

身体は強靭な腕とは段違いでヒョロヒョロとしており、肋骨が浮き出るほどのガリガリ体型であった。


化け物。

私の第一印象はそれであった。


私がそちらの方を凝視していると、その化け物が死体に埋めていた顔を上げ、こちらを、私の目を見つめてきた。

私は咄嗟に目があったことに驚いて視線を逸らしてしまった。




だが、私が視線を逸らした途端を狙ったかの様に、化け物はこちらに突進し、鋭く尖った爪が生えた手で私の腹を突き刺した。





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